商標法

商標法を勉強しよう|商品・役務の概念と区分

著作者:pressfoto/出典:Freepik

今回は、商標法を勉強しようということで、商品・役務の概念と区分について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

商品・役務の概念と区分

商標権は、商標(マーク)と、それを使用する商品・役務との組合せから構成される(▷参考記事はこちら)。

商標権の構成

商標権=「マーク(文字・図形等)」+「使用する商品・役務

そのため、商品・役務をどのように指定するかによって、商標権の権利範囲が決まってくることになる。

そこで、本記事では、この「商品」「役務」とは何か、について見てみる。

商標登録出願の際は、マークを使用する商品・役務を指定して願書に記載する(指定商品・指定役務という)とともに、それらが所属する区分も記載することになっている。

▽法5条1項3号

(商標登録出願)
第五条
 商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
一・二 (略)
 指定商品又は指定役務並びに第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分

区分とは、世の中に無数に存在する個々の商品・役務を一定の基準でカテゴリー分けしたもののことで、「類」とか「クラス」とも呼ばれる。

第1類~第45類までの45区分があり、第1類~第34類までが商品の区分、第35類~第45類までが役務(サービス)の区分となっている。

以下、商品と役務の2つに分けて、概念→区分→具体例、の順に見てみる。

商品について

商品の概念

特許庁の逐条解説によれば、商標法上の「商品」とは、

商取引の目的たりうべき物、特に動産をいう。

とされている(特許庁「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説」(第22版)1531頁)。

これだけだとよくわからないが、概ね、以下のような要素があると整理できる。

  • 原則として有体物であること(※現在は、無体物も一部含まれる)
  • 代替性があること
  • 流通性があること
  • 商取引の対象となり得ること

①有体物

①については、従来から、有体動産であることが基本とされている。

知的財産権や、熱・電気といった、無体物は含まない。

ただ、現在は、無体物でも、電子情報財の一部が商標法上の商品に含まれるようになっている。

例えば、電子書籍は、ダウンロード可能なものは「電子出版物」として第9類の商品に分類され、ダウンロード不可なもの(オンラインで読むもの)は「電子出版物の提供」として第41類の役務に分類されている。

第9類の無体物には、「電子計算機用プログラム」と「電子出版物」があります。電子書籍に限らず、例えば、ダウンロード可能な音楽・画像・動画なども、商標法上の商品に含まれます。

ただし、無体物が無制限に含まれるようになったというわけではなく、流通性を厳格に解釈する必要があるとされています(ダウンロード可能なものは、デバイスに記録し、継続して管理・支配することができるので、電子情報財が流通することができる、という考え方。前掲の逐条解説1535頁参照)。

このように、電子情報財の形態ないし提供方法によって分類が異なってくる点に注意が必要です。

また、一般的に、不動産は含まないと考えられている。不動産関連取引は、第36類の役務に分類されている。

②代替性

②は、同質のものが多数供給される(ある程度量産される)ということである。

例えば、絵画や骨董品などの一品モノは、商標法上の商品ではないとされる(なお、その複製品ならば、多数供給されるので商品となる)。

③流通性

③については、例えば、レストランで提供される飲食物は、その場で消費され市場に流通するものではないので、商標上の商品ではないとされる。「飲食物の提供」として第43類の役務に分類される。

④商取引の対象

④については、例えば、自社製品を記載している単なるカタログは、広告媒体であり商取引の対象となるものではないので、商標法上の商品には含まれない。

有償であること(有償性)が通常であり、無償配布のノベルティなどは、独立して商取引の対象となるものではないとされ、商品に含まれないとされる場合がある。参考として、以下のような裁判例がある。

大阪地判昭和62年8月26日(昭和61年(ワ)7518号)(BOSS商標事件)

「…そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。
 これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシャツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシャツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。…
 そうだとすると、右Tシャツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当である…」

商品の区分(第1類~第34類)

商品の区分を見てみると、概要は以下のとおりである(45区分のうち、第1類~第34類が商品の区分)。

クラス商品の概要
第1類工業用、科学用又は農業用の化学品
第2類塗料、着色料及び腐食の防止用の調製品
第3類洗浄剤及び化粧品
第4類工業用油、工業用油脂、燃料及び光剤
第5類薬剤
第6類卑金属及びその製品
第7類加工機械、原動機(陸上の乗物用のものを除く。)その他の機械
第8類手動工具
第9類科学用、航海用、測量用、写真用、音響用、映像用、計量用、信号用、検査用、救命用、教育用、計算用又は情報処理用の機械器具、光学式の機械器具及び電気の伝導用、電気回路の開閉用、変圧用、蓄電用、電圧調整用又は電気制御用の機械器具
第10類医療用機械器具及び医療用品
第11類照明用、加熱用、蒸気発生用、調理用、冷却用、乾燥用、換気用、給水用又は衛生用の装置
第12類乗物その他移動用の装置
第13類火器及び火工品
第14類貴金属、貴金属製品であって他の類に属しないもの、宝飾品及び時計
第15類楽器
第16類紙、紙製品及び事務用品
第17類電気絶縁用、断熱用又は防音用の材料及び材料用のプラスチック
第18類革及びその模造品、旅行用品並びに馬具
第19類金属製でない建築材料
第20類家具及びプラスチック製品であって他の類に属しないもの
第21類家庭用又は台所用の手動式の器具、化粧用具、ガラス製品及び磁器製品
第22類ロープ製品、帆布製品、詰物用の材料及び織物用の原料繊維
第23類織物用の糸
第24類織物及び家庭用の織物製カバー
第25類被服及び履物
第26類裁縫用品
第27類床敷物及び織物製でない壁掛け
第28類がん具、遊戯用具及び運動用具
第29類動物性の食品及び加工した野菜その他の食用園芸作物
第30類加工した植物性の食品(他の類に属するものを除く。)及び調味料
第31類加工していない陸産物、生きている動植物及び飼料
第32類アルコールを含有しない飲料及びビール
第33類ビールを除くアルコール飲料
第34類たばこ、喫煙用具及びマッチ

商品の具体例

上記は区分のタイトルという感じで、商品の内容はもっと具体的である。

例えば、第1類については、代表的な商品は以下のように記載されている(「各類に属する代表的な商品・役務」(2023年1月1日以降の出願に対応)から抜粋)。

第1類 化学品,工業用のり及び接着剤,植物成長調整剤類,肥料,陶磁器用釉薬,塗装用パテ,高級脂肪酸,非鉄金属,非金属鉱物,写真材料,試験紙(医療用のものを除く。),工業用人工甘味料,工業用粉類,原料プラスチック,パルプ

ただし、上記の記載も、複数の商品をまとめた群の表示であったり、複数の群をまとめた表示(包括表示)であったりするので、実際にどのように商品指定するかは、類似商品・役務審査基準を参照しつつ個々のケースに応じて検討が必要である。

役務について

役務の概念

特許庁の逐条解説によれば、商標法上の「役務」とは、

他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たり得るべきものをいう。

とされている(前掲の逐条解説1531頁)。

これだけだとよくわからないが、概ね、以下のような要素があると整理できる。

  • 労務又は便益であること
  • 他人のために提供すること
  • 商取引の対象となり得ること

役務の区分(第35類~第45類)

役務の区分を見てみると、概要は以下のとおりである(45区分のうち、第35類~第45類が役務の区分)。

クラス役務の概要
第35類広告、事業の管理又は運営、事務処理及び小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供
第36類金融、保険及び不動産の取引
第37類建設、設置工事及び修理
第38類電気通信
第39類輸送、こん包及び保管並びに旅行の手配
第40類物品の加工その他の処理
第41類教育、訓練、娯楽、スポーツ及び文化活動
第42類科学技術又は産業に関する調査研究及び設計並びに電子計算機又はソフトウェアの設計及び開発
第43類飲食物の提供及び宿泊施設の提供
第44類医療、動物の治療、人又は動物に関する衛生及び美容並びに農業、園芸又は林業に係る役務
第45類冠婚葬祭に係る役務その他の個人の需要に応じて提供する役務(他の類に属するものを除く。)、警備及び法律事務

役務の具体例

上記は区分のタイトルという感じで、役務の内容はもっと具体的である。

例えば、第35類については、代表的な役務は以下のように記載されている(「各類に属する代表的な商品・役務」(2023年1月1日以降の出願に対応)から抜粋)。

第35類 広告業,トレーディングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,財務書類の作成又は監査若しくは証明,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,速記,筆耕,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,求人情報の提供,新聞記事情報の提供,…(続く)…

ただし、上記の記載も、複数の役務をまとめた群の表示であったり、複数の群をまとめた表示(包括表示)であったりするので、実際にどのように役務指定するかは、類似商品・役務審査基準を参照しつつ個々のケースに応じて検討が必要である。

第35類や第38類は、インターネット系企業だと特によく見ることがあるだろうと思います。

結び

今回は、商標法を勉強しようということで、商品・役務の概念と区分について書いてみました。

本記事の内容のうち区分に関しては、以下の特許庁HPの解説が参考になります。
商品及び役務の区分解説|特許庁HP

本記事の内容のうち商品・役務の指定に関しては、以下の特許庁HPの解説が参考になります。
商品・役務を指定する際の御注意|特許庁HP
指定商品・指定役務を記載する際のよくある間違い及び商品・役務名のQ&A|特許庁HP

なお、法令上、どこに何が書かれているのかがわかりにくいですが、以下のようになっていますので、最後に参考までに書いておきます。

どこに何が書かれているか?

①商品及び役務の区分は、施行令の別表に定められている。

▽施行令2条

(商品及び役務の区分)
第二条
 商標法第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分は、別表のとおりとし、各区分に属する商品又は役務は、…(略)…ニース協定第一条に規定する国際分類に即して、経済産業省令で定める。


②各区分にどのような商品・役務が所属するかは、施行規則の別表に定められている。

▽施行規則6条

(商品及び役務の区分)
第六条
 商標法施行令(昭和三十五年政令第十九号)第二条の規定による商品及び役務の区分(以下「商品及び役務の区分」という。)に属する商品又は役務は、別表のとおりとする。


③この施行規則の別表を踏まえた、より詳細な商品・役務の記載としては、「類似商品・役務審査基準」を参照することになる。

▽類似商品・役務審査基準|特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/ruiji_kijun/ruiji_kijun12-2023.html

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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参考文献

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