今回は、商標法を勉強しようということで、商標の類否判断(商標の類似性の判断方法)について見てみたいと思います。
商標法の最大論点のひとつだと思いますが、細かいところまでいっぺんに見るとわかりにくいので、本記事では全体をさらっと概観したいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
商標の類否判断
商標法でいう類似性には「商標の類似」と「商品・役務の類似」の2つがあり、類似性が問題になる場面では、2つとも類似してはじめて類似性肯定となります。
つまり、
「商標の類似」+「商品・役務の類似」=類似性肯定
というイメージです(▷参考記事:類似性の判断について)。
商標の類否判断は、このうち前者(「商標の類似性」の判断方法)の話になります。
判断基準-出所混同のおそれの有無
商標の類似性は、
対比される両商標が同一・類似の商品・役務に利用される場合に、商品・役務の出所について誤認混同を生じるおそれがあるかどうか
によって判断されます。これがいわゆる規範部分です。
ただ、これだけ(最後の着地点だけ)言われても取っ掛かりがなくて困ってしまいますので、判断要素(判断ファクター)が確立されています。
商標審査基準では、以下のように解説されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕(特許庁)4-1-11
1.商標の類否判断方法について
⑴ 類否判断における総合的観察
商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
出所混同のおそれの有無が規範部分で、①外観、②称呼、③観念が、その判断要素とされています。以下、順に見てみます。
判断要素-外観・称呼・観念
出所混同のおそれの有無を判断するときの判断要素は、
- 外観:見た目のこと
- 称呼:呼び方・読み方のこと
- 観念:意味合いのこと
の3つとされています。
もう少しきちんとした表現でいうと、
- 外観とは、商標の外形的形象
- 称呼とは、商標の呼び方、発音
- 観念とは、商標を見たときに需要者が思い浮かべる商標の意味内容
のことになります。
類似する場合は、「外観類似」「称呼類似」「観念類似」といった言い方をし、これらのうちどれか一つでも認められれば、商標の類似性が肯定されるというのが基本的な考え方です。
ただ、あくまでも判断要素であって規範ではないので、どれか一要素が絶対的というわけではありません。ある程度相関的に判断されます。
つまり、どれか一つが類似であっても、他の2つが大きく違っているので、出所の混同のおそれは生じないと判断される場合もあるということです。
新しいタイプの商標ではどうか?
上記の3要素は、従来からあるタイプの商標(文字、記号、図形、立体形状など)についての判断要素になります。
これに対して、いわゆる新しいタイプの商標(色彩商標、音商標、動き商標、ホログラム商標、位置商標)については、また別の判断要素が検討されています(「知的財産権制度入門テキスト」〔2022年度〕(特許庁)86頁参照)。
たとえば、音商標に外観などはそもそもないためですね。
なお、新しいタイプの商標についてはこちらの関連記事に書いています。
取引の実情の考慮
出所混同のおそれの有無の判断にあたっては、指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情も考慮されます。
これは、判断要素として商標自体に関する上記の3要素のほか、取引の実情も判断要素に入れるということです。
商標審査基準では、以下のように解説されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕(特許庁)4-1-11
なお、判断にあたっては指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮するが、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しないものとする。
(一般的・恒常的な取引の実情の例)
指定商品又は指定役務における取引慣行
(特殊的・限定的な取引の実情の例)
① 実際に使用されている商標の具体的態様、方法
② 商標を実際に使用している具体的な商品、役務の相違
判断方法(観察方法)
判断方法(観察方法)というのは、対比される2つの商標の設定の仕方、というような意味合いです。
離隔観察と対比観察
離隔観察か対比観察かという点については、離隔観察によるとされています。
- 離隔観察:時と場所とを異にして両商標を観察する方法
- 対比観察:両商標を並べて対比して観察する方法
対比観察というのは、たとえば商品が店頭に並んでいてそれを見比べているシチュエーションのように、両方を見比べて観察することです。
しかし、実際にそのような対比して観察ができる(対比観察)のは稀なので、時と場所とを異にして観察したとき(離隔観察)のことも想定して出所混同のおそれがあるかどうかを判断しなければ意味がありません。なので、離隔観察によるとされているわけです。
並べて対比して観察したとき、つまり、違いがわかりやすいときだけを想定して出所混同が起こらないと判断してもしょうがない、ということです
商標審査基準では、以下のように解説されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕(特許庁)4-1-11
(イ) 商標の類否は、時と場所を異にする離隔的観察により判断する。
全体観察と要部観察
全体観察か要部観察か、という点については、基本的には全体観察によるとされています。
全体観察:対比される両商標の全体を観察する方法
これは、商標はその構成が一体として商標となっているものであるため、全体観察が基本とされるわけです。
ただ、場合によっては、要部観察によるとされています。
要部観察:ある商標の中で、需要者の注意を引く部分を要部とし、その部分を抽出して観察する方法
これはなぜかというと、商標の中で注意を引く部分とそうでない部分があるときは、需要者がその注意を引く部分によって商標を識別する場合もあるからです。
商標審査基準では、以下のように解説されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕(特許庁)4-1-11
(ア) 商標の類否においては、全体観察のみならず、商標の構成部分の一部を他人の商標と比較して類否を判断する場合がある。
判断力の基準
出所混同のおそれの有無を判断するときの判断力の基準は、指定商品又は指定役務の主たる需要者層が通常有する注意力を基準とします。
特殊な注意力をもってすれば、出所は同じと考えるだろう、あるいは逆に出所が相違するとわかるだろうといった判断の仕方はしない、ということです
商標審査基準では、以下のように解説されています。
▽商標審査基準〔改定第15版〕(特許庁)4-1-11
⑶ 類否判断における注意力の基準
商標の類否は、商標が使用される指定商品又は指定役務の主たる需要者層(例えば、専門的知識を有するか、年齢、性別等の違い)その他指定商品又は指定役務の取引の実情(例えば、日用品と贅沢品、大衆薬と医療用医薬品などの商品の違い)を考慮し、指定商品又は指定役務の需要者が通常有する注意力を基準として判断する。
判例(氷山印事件)
商標の類似の判断についての判例でいわゆるリーディングケースとなっているのは氷山印事件最高裁判決ですので、以下、関連する部分を引用してみます。
なお、商標権侵害事件ではなく、先願登録商標と類似する商標は登録できないという不登録事由が問題になった事例になります。
▽最判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁|裁判所HP(裁判例検索)
「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」
「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」
結び
今回は、商標法を勉強しようということで、商標の類否判断について見てみました。
本記事のハイライトをまとめます。
- 判断基準は、商品・役務の出所について誤認混同のおそれがあるか否か
- 判断要素は、①外観、②称呼(しょうこ)、③観念、の3要素
- 上記3要素のほか、判断要素として、取引の実情も考慮される
- 判断方法(観察方法)は、離隔観察と、全体観察(場合によっては要部観察)
- 判断力の基準は、主たる需要者層が通常有する注意力
- 判例のリーディングケースは氷山印事件最高裁判決
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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