合同会社

合同会社法務|社員持分の譲渡

今回は、合同会社法務ということで、社員持分の譲渡について見てみたいと思います。

合同会社の持分譲渡は、株式会社の株式譲渡と異なる点が多いです。本記事では、持分譲渡の要件、必要書類、譲渡の効果、登記の要否についてまとめてみます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

持分譲渡の要件

要件①:持分譲渡の合意

まずは当然ながら、持分譲渡の合意が必要です。

社員の持分を譲渡するには、譲渡人(=持分を譲渡する社員)と譲受人との間で、持分譲渡契約を締結します。

譲渡契約では、譲渡する持分の範囲や譲渡の対価、支払方法などを定めます。

なお、合意は口頭でも成立するという一般論はありますが、合同会社の持分譲渡に関して、契約書なしというのは実際上ほぼあり得ないと思います

要件②:他の社員の承諾

持分の譲渡には、原則として社員全員の承諾が必要になります(会社法585条1項)。

合同会社は、社員間の人的結合を重視する会社形態であるため、社員全員の同意がなければ持分譲渡の効力が生じないようになっています。

ただし、業務を執行しない社員の持分譲渡に関しては、業務執行社員全員の承諾で足りるとされています(2項)。

つまり、持分譲渡に関する他の社員の同意は、

  • 業務執行社員の持分譲渡 →社員全員の同意が必要
  • 業務執行社員でない社員の持分譲渡 →業務執行社員全員の承諾で足りる

のようになっています。

この同意は、持分譲渡の効力要件と解されています(=会社に対する対抗要件ではない。同意が得られなければ、譲渡の効力自体が発生しない)。

▽会社法585条1項・2項

(持分の譲渡)
第五百八十五条
 社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない
 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる

要件③:定款の変更

定款の記載事項

合同会社では、「社員」と「出資価額」が定款の絶対的記載事項とされています(会社法576条1項4号・6号)。

そのため、持分譲渡に伴い、定款の変更は必ず発生します。

持分の譲渡に伴い、社員が退社または加入する場合には、「社員」が変更になるので、定款の変更が必要となります(4号)。

例えば、持分の譲渡によって新たに社員が加入する場合、定款に譲受人の社員としての記載が加わり、同様に、社員が退社する場合、定款から譲渡人の社員の記載を削除することになります。

また、持分の譲渡に伴う持分の増減に関しても、社員の「出資価額」が変更になるので、定款の変更が必要になります(6号)。

▽会社法576条1項4号~6号(※【 】は管理人注)

(定款の記載又は記録事項)
第五百七十六条
 持分会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
 社員の氏名又は名称及び住所
 社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別【←合同会社は社員全員が有限責任社員】
 社員の出資の目的(有限責任社員にあっては、金銭等に限る。)【←合同会社は社員全員が有限責任社員であるため、必然的に金銭等に限られる】及びその価額又は評価の標準

「退社」の意義

 なお、厳密にいうと、会社法上の「退社」というのは、社員の資格の絶対的消滅を指しています(606条の任意退社と607条の法定退社)。

 持分の全部譲渡の場合は、当該社員が相対的に社員としての資格を喪失するだけなので(=当該持分自体は譲受人によって承継される)、「退社」にはあたりません。

 ただ、説明上(つまり講学上)、広義の退社という意味で、持分の全部譲渡の場合にも"退社"という言葉が使われることはあり、イメージもしやすいので、本記事では”退社”という言葉を使っています。

加入の効力発生時期は、定款変更時と定められています(会社法604条2項)。

なお、譲受人が既存社員である場合の、譲受けによる出資価額の増加に関しても、同様に解されています(譲受人の出資価額の定款変更時に、出資増加の効力が生じる)。

▽会社法604条2項

 持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる。

定款変更の手続

定款変更には、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意が必要です(会社法637条)。

▽会社法637条

(定款の変更)
第六百三十七条
 持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。

ただ、先ほど要件②の「社員全員の承諾」のところで見たように、業務執行社員でない社員の持分譲渡に関しては、例外的に業務執行社員全員の承諾で足りるとしていたのに、この定款変更の部分で総社員の同意が必要としてしまうと、例外を設けた意味がなくなってしまいます。

そこで、この要件③の「定款の変更」についても、平仄を合わせて、業務執行社員でない社員の持分譲渡に関しては、業務執行社員全員の同意で足りるとされています(会社法585条3項)。

▽会社法585条3項

 第六百三十七条の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員の持分の譲渡に伴い定款の変更を生ずるときは、その持分の譲渡による定款の変更は、業務を執行する社員の全員の同意によってすることができる。

つまり、こういうことです。要件②と③を一致させているわけです。

業務執行社員の持分譲渡業務執行社員でない社員の持分譲渡
要件②:他の社員の承諾社員全員の承諾(585条1項)業務執行社員全員の承諾で足る(585条2項)
要件③:定款変更総社員の同意(637条)業務執行社員全員の同意で足る585条3項

法律上の原則としては以上のようになりますが、実は、要件②③に関しては、定款で別段の定めをすることができます(会社法585条4項、637条)。

別段の定めの内容には特に制限はなく、特定の社員の承認のみを要するとしたり、一切の譲渡を認めないといったことも可能と解されています。

逆に、そもそも他の社員の承認を要しないとすることも可能とされています。

▽会社法585条4項(※【 】は管理人注)

 前三項の規定【=要件②③】は、定款で別段の定めをすることを妨げない。

必要書類

ここまで見てきたような持分譲渡の要件に対応して必要となる書類は、概ね以下のとおりです(※ケースに応じて、他の書類も必要になります)。

  • 持分譲渡契約書
    譲渡する持分や譲渡の対価などを記した契約書
  • 総社員同意書
    持分譲渡に関する社員全員の承諾を証明するための書類
  • 定款変更に関する決定書
    定款変更の内容に関する決定書
  • 印鑑証明書(譲渡人および譲受人のもの):
    契約の際などに必要

持分譲渡の効果

持分譲渡の効果は、譲渡人から譲受人への持分の移転ですが、ケースに応じて、

  • 社員の加入/退社
  • 持分の増加/減少

が生じます。

持分の譲受人

持分の譲受人は、社員でない者か既存の社員かによって効果が異なります。

譲受人が社員でなかった場合、持分を譲り受けた譲受人は、合同会社の社員としての地位を取得します(社員の加入)。

譲受人が既存の社員であった場合、持分を譲り受けた譲受人は、その持分の割合が増加するため(持分の増加)、出資の価額の増加が生じます。

なお、どちらの場合も、持分の譲渡人が、定款で定められた業務執行者であったり、代表社員であっても、譲受人が業務執行権や代表権を承継することはないと解されています。

持分の譲渡人

持分の譲渡人も、一部譲渡か全部譲渡かによって効果が異なります。

持分の一部を譲渡した場合、譲渡人は引き続き、合同会社の社員としての地位を保持します。ただし、譲渡によって持分の割合が減少するため(持分の減少)、出資の価額の減少が生じます。

持分を全て譲渡した場合、譲渡人は合同会社の社員としての地位を失います(社員の退社)。

会社法586条の適用の有無など

ちなみに、会社法586条には、持分を全部譲渡した社員でも、その旨の変更登記を完了するまでに生じた持分会社の債務については、従前の責任の範囲内で弁済する責任を負う旨の定めがあります。

しかし、合同会社の場合は、後述のように社員が登記事項とされていないため、本条の適用はないと考えられています。

▽会社法586条

(持分の全部の譲渡をした社員の責任)
第五百八十六条
 持分の全部を他人に譲渡した社員は、その旨の登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。
 前項の責任は、同項の登記後二年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後二年を経過した時に消滅する。

また、合同会社では、一部譲渡の場合も、減少した出資価額の範囲内で責任を負うと解されています。要するに、合同会社の場合は、持分譲渡により退社したり、持分が減少した分は、素直に責任がなくなるということです。

一方、加入した社員は、当然ですが、加入前から会社が負担する債務についても責任を負います(会社法605条)。

▽会社法605条

(加入した社員の責任)
第六百五条
 持分会社の成立後に加入した社員は、その加入前に生じた持分会社の債務についても、これを弁済する責任を負う。

登記の要否

合同会社においては、原則として持分譲渡に伴う登記は不要です。

これは、合同会社が社員のうち業務執行社員のみを登記事項としているためです(代表社員も同様。会社法914条1項6号・7号)。したがって、業務執行社員でない社員の持分譲渡では、変更登記をする必要はありません。

ただし、持分譲渡によって業務執行社員に変更が生じる場合(①業務執行社員が退社する場合又は②新たに加入した社員が業務執行社員となる場合)には、その旨の変更登記が必要になります(上記6号・7号、915条)。

例えば、譲渡人が業務執行社員であり、持分の全部譲渡によって退社する場合、会社の登記事項に変更が生じるため、変更登記を行う必要があります。

なお、定款で業務執行社員を定めていない場合は、社員全員が業務執行社員となります(会社法590条1項)

▽会社法914条5号~7号、915条1項

(合同会社の設立の登記)
第九百十四条
 合同会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる事項を登記してしなければならない。
 資本金の額
 合同会社の業務を執行する社員の氏名又は名称
 合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所

(変更の登記)
第九百十五条
 会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。

上記のように「資本金の額」も登記事項となっていますが(5号)、持分譲渡の場合は資本金の額に変動はないため(⇔出資による新規加入とは異なる)、この点の変更登記は必要ありません。

細かいことをいうと、持分譲渡に際して追加出資を伴う場合は、資本金の額に変動が生じるので変更登記が必要になりますが、単なる持分譲渡の場合は資本金の額に変動はありません

合同会社の登記事項については、以下の関連記事にくわしく書いています。

結び

今回は、合同会社法務ということで、持分譲渡の要件と効果などについて見てみました。

合同会社の持分譲渡に際しては、基本的に、他の社員の承諾を得たり、定款の変更を行うことが必要になります。また、特に業務執行社員の変更がある場合には、変更登記が必要となるため、留意が必要です。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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