今回は、組織再編ということで、吸収合併手続における事前備置書類について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
事前備置書類とは
吸収合併を行う会社(合併当事会社)は、株主や債権者などの利害関係者に対し判断の資料を提供するため、一定の書類を合併契約承認の株主総会の前などに本店に備え置く義務があります。
この書類を、事前備置書類と呼びます。要するに、事前の情報開示です。
他の手続として「事後備置書類」というのもありますが、何の「事前」「事後」かというと、合併の効力発生日よりも前と後、です
効力発生日の前といっても直前ということではなく、効力発生までには株主総会や株主保護手続(買取請求)、債権者保護手続(異議申述)などのイベントがありますので、そこにおける権利行使に必要な判断資料を提供する、という意味合いです。
事前備置書類は、消滅会社側(吸収される側)と存続会社側(吸収する側)の、それぞれで必要になります。
以下、順に見てます。
消滅会社側(法782条)
消滅会社には事前備置書類を備え置く義務があり(法782条1項)、株主と債権者は閲覧等を請求することができます(同条3項)。
▽会社法782条1項・3項
(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)
第七百八十二条 次の各号に掲げる株式会社(以下この目において「消滅株式会社等」という。)は、吸収合併契約等備置開始日から吸収合併、吸収分割又は株式交換(以下この節において「吸収合併等」という。)がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)後六箇月を経過する日(吸収合併消滅株式会社にあっては、効力発生日)までの間、当該各号に定めるもの(以下この節において「吸収合併契約等」という。)の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
一 吸収合併消滅株式会社 吸収合併契約
二~三 (略)
3 消滅株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社にあっては、株主及び新株予約権者)は、消滅株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該消滅株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。
一 第一項の書面の閲覧の請求
二 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって消滅株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
備置期間
事前備置書類の備置期間は、
- 始期:吸収合併契約の備置開始日
- 終期:吸収合併の効力発生日
となっています(上記条文の下線部参照)。
始期の「備置開始日」というのは、
- 合併承認株主総会の2週間前の日
- 株式買取請求に関する通知・公告の日
- 新株予約権買取請求に関する通知・公告の日
- 債権者の異議に関する公告・催告の日
のいずれか早い日、とされています。各手続(株主総会、株主/新株予約権者保護手続、債権者保護手続)のうち早く開始するものに対応して決まるということです。
終期が効力発生日になっているのは、この日に消滅会社は消えてしまうからです。
条文も確認してみます。
▽会社法782条2項(※【 】は管理人注)
2 前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。
一 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)
二 第七百八十五条第三項の規定による通知を受けるべき株主があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
三 第七百八十七条第三項の規定による通知を受けるべき新株予約権者があるときは、同項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
四 第七百八十九条の規定による手続【=債権者保護手続】をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日
五 前各号に規定する場合以外の場合には、吸収分割契約又は株式交換契約の締結の日から二週間を経過した日
必要記載事項(規則182条)
事前備置書類の必要記載事項は、
- 吸収合併契約の内容(法782条1項)
- 合併対価の相当性(定めがない場合は、定めがないこと)に関する事項(規則182条1項1号)
- 合併対価について参考となるべき事項(2号)
- 新株予約権等の割当てに関する定めの相当性に関する事項(3号)
- 計算書類等に関する事項(4号)
- 債務の履行の見込みに関する事項(5号)
- 事前備置開始後の変更事項(6号)
となっています。つまり、これらが開示事項になっているというイメージです。
①については先ほど見た会社法782条1項の中に書かれていますが、それ以降の②~⑦については規則に書かれています。
▽会社法施行規則182条1項
(吸収合併消滅株式会社の事前開示事項)
第百八十二条 法第七百八十二条第一項に規定する法務省令で定める事項は、同項に規定する消滅株式会社等が吸収合併消滅株式会社である場合には、次に掲げる事項とする。
一 合併対価の相当性に関する事項
二 合併対価について参考となるべき事項
三 吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項
四 計算書類等に関する事項
五 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務(法第七百八十九条第一項の規定により吸収合併について異議を述べることができる債権者に対して負担する債務に限る。)の履行の見込みに関する事項
六 吸収合併契約等備置開始日(法第七百八十二条第二項に規定する吸収合併契約等備置開始日をいう。以下この章において同じ。)後、前各号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項
以下、それぞれの事項を順に見てみます。
①吸収合併契約の内容(法782条1項)
これは文字どおり吸収合併契約の内容です。
別紙として吸収合併契約書の写しをつけて、引用する形にしている場合が多いかと思います。
②合併対価の相当性に関する事項(規則182条1項1号)
②は、存続会社が消滅会社の株主に合併対価を交付する場合の話で、株主への対価(株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他の財産)に関する事項の相当性です。
合併対価を交付しない場合(無対価での吸収合併)は、無対価であることの相当性となります。
株主への対価に関する事項は、もともと合併契約の記載事項であり、
- 合併対価の種類と数・額(または算定方法)
- 合併対価が株式の場合
→株式の数(または算定方法) - 合併対価が社債の場合
→社債の種類と総額(または算定方法) - 合併対価が新株予約権の場合
→新株予約権の内容と数(または算定方法) - 合併対価が新株予約権付社債の場合
→社債部分につき上記2、新株予約権部分につき上記3 - 合併対価がその他の財産(ex. 金銭、親会社株式など)の場合
→財産の内容と数or額(または算定方法)
- 合併対価が株式の場合
- 割当比率
- (合併対価が存続会社の株式である場合)存続会社の資本金・準備金の額に関する事項
となっています(法749条1項2号・3号)。
つまり、これらの相当性が事前備置書類の必要記載事項となっているということであり、消滅会社側においては、特に
- 合併対価の総数・総額の相当性
- 合併対価としてその種類の財産を選択した理由
- 消滅会社と存続会社が共通支配下関係にあるときは、消滅会社の株主の利益を害さないように留意した事項
が記載事項の例示として明示されています(規則182条3項)。
条文も確認してみます。
▽会社法施行規則182条2項・3項(※【 】は管理人注)
2 この条において「合併対価」とは、吸収合併存続会社が吸収合併に際して吸収合併消滅株式会社の株主に対してその株式に代えて交付する金銭等をいう。
3 第一項第一号に規定する「合併対価の相当性に関する事項」とは、次に掲げる事項その他の法第七百四十九条第一項第二号及び第三号に掲げる事項【=合併条件のうち株主への対価に関する事項】又は法第七百五十一条第一項第二号から第四号までに掲げる事項についての定め(当該定めがない場合にあっては、当該定めがないこと)の相当性に関する事項とする。
一 合併対価の総数又は総額の相当性に関する事項
二 合併対価として当該種類の財産を選択した理由
三 吸収合併存続会社と吸収合併消滅株式会社とが共通支配下関係(会社計算規則第二条第三項第三十六号に規定する共通支配下関係をいう。以下この号及び第百八十四条において同じ。)にあるときは、当該吸収合併消滅株式会社の株主(当該吸収合併消滅株式会社と共通支配下関係にある株主を除く。)の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)
③合併対価について参考となるべき事項(2号)
これは、消滅会社の株主に合併対価が交付される場合で、その対価が株式等であるときの話です。
具体的には、
- 合併対価の全部または一部が存続会社の株式等である場合(以下規則の1号)
- 合併対価の全部または一部が存続会社以外の株式等である場合(2号)
- 合併対価の全部または一部が存続会社の社債・新株予約権・新株予約権付社債である場合(3号)
- 合併対価の全部または一部が存続会社以外の社債・新株予約権・新株予約権付社債等である場合(4号)
- その他の場合(5号)
に分けて、参考となるべき事項が定められています。
要するに、合併対価が株式等の場合なので、その株式等の発行体(定款の定めなど)や、換価方法に関する情報等を提供せよということです。
▽会社法施行規則182条4項(※【 】は管理人注)
4 第一項第二号に規定する「合併対価について参考となるべき事項」とは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項その他これに準ずる事項(法第七百八十二条第一項に規定する書面又は電磁的記録にこれらの事項の全部又は一部の記載又は記録をしないことにつき吸収合併消滅株式会社の総株主の同意がある場合にあっては、当該同意があったものを除く。)とする。
【1号:合併対価=存続会社の株式】
一 合併対価の全部又は一部が吸収合併存続会社の株式又は持分である場合 次に掲げる事項
イ 当該吸収合併存続会社の定款の定め
ロ 次に掲げる事項その他の合併対価の換価の方法に関する事項
⑴ 合併対価を取引する市場
⑵ 合併対価の取引の媒介、取次ぎ又は代理を行う者
⑶ 合併対価の譲渡その他の処分に制限があるときは、その内容
ハ 合併対価に市場価格があるときは、その価格に関する事項
ニ 吸収合併存続会社の過去五年間にその末日が到来した各事業年度(次に掲げる事業年度を除く。)に係る貸借対照表の内容
⑴ 最終事業年度
⑵ ある事業年度に係る貸借対照表の内容につき、法令の規定に基づく公告(法第四百四十条第三項の措置に相当するものを含む。)をしている場合における当該事業年度
⑶ ある事業年度に係る貸借対照表の内容につき、金融商品取引法第二十四条第一項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出している場合における当該事業年度
【2号:合併対価=存続会社以外の株式】
二 合併対価の全部又は一部が法人等の株式、持分その他これらに準ずるもの(吸収合併存続会社の株式又は持分を除く。)である場合 次に掲げる事項(当該事項が日本語以外の言語で表示されている場合にあっては、当該事項(氏名又は名称を除く。)を日本語で表示した事項)
イ~ヌ (略)
【3号:合併対価=存続会社の社債etc】
三 合併対価の全部又は一部が吸収合併存続会社の社債、新株予約権又は新株予約権付社債である場合 第一号イからニまでに掲げる事項
【4号:合併対価=存続会社以外の社債etc】
四 合併対価の全部又は一部が法人等の社債、新株予約権、新株予約権付社債その他これらに準ずるもの(吸収合併存続会社の社債、新株予約権又は新株予約権付社債を除く。)である場合 次に掲げる事項(当該事項が日本語以外の言語で表示されている場合にあっては、当該事項(氏名又は名称を除く。)を日本語で表示した事項)
イ 第一号ロ及びハに掲げる事項
ロ 第二号イ及びホからチまでに掲げる事項
【5号:その他の場合】
五 合併対価の全部又は一部が吸収合併存続会社その他の法人等の株式、持分、社債、新株予約権、新株予約権付社債その他これらに準ずるもの及び金銭以外の財産である場合 第一号ロ及びハに掲げる事項
④吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項(3号)
これは、消滅会社が新株予約権を発行している場合の話です。
消滅会社の新株予約権は吸収合併の効力発生日に消滅するため(法750条4項)、存続会社は、その新株予約権者に対して、対価として存続会社の新株予約権等を割り当てます。この対価の相当性が必要記載事項となっています。
消滅会社側では、主として消滅会社の新株予約権者保護の必要性(買取請求権の行使等のため)から事前開示が要請されるものです。
新株予約権者への対価に関する事項は、合併契約の記載事項であり、
- 対価の種類と数・額(または算定方法)
- 対価が新株予約権の場合
→新株予約権の内容と数(または算定方法) - 対価が新株予約権付社債に付された新株予約権の場合
→存続会社が社債に係る債務を承継する旨、並びに、社債の種類と総額(または算定方法) - 対価が金銭の場合
→金額(または算定方法)
- 対価が新株予約権の場合
- 割当比率
となっています(法749条1項4号・5号)。
つまり、これらの相当性が事前備置書類の必要記載事項となっていて、
- 交付する新株予約権や金銭の数・額(または算定方法)の相当性
- 交付する対価としてその種類の対価(新株予約権または金銭)を選択したことについての相当性
- 割当比率(=ex. 消滅会社の新株予約権者が有する新株予約権1個に対し、存続会社が新株予約権を何個交付するか、金銭を交付する場合ならばいくら交付するか)の相当性
を開示せよ、ということです。
▽会社法施行規則182条5項
5 第一項第三号に規定する「吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項」とは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める定めの相当性に関する事項とする。
一 吸収合併存続会社が株式会社である場合 法第七百四十九条第一項第四号及び第五号に掲げる事項【=合併条件のうち新株予約権者への対価に関する事項】についての定め
二 (略)
ちなみに、存続会社側でも、こちらは存続会社株主の保護(持株比率への影響等)という観点から、同じく開示事項になっています。
⑤計算書類等に関する事項(4号)
これは、相手会社つまり存続会社の財務諸表(F/S)のことです。
具体的には、
- 存続会社の最終事業年度に係る計算書類等
- 最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その内容
- 最終事業年度の末日後の日に重要な後発事象が生じたときは、その内容
となっています(以下の条文1号参照)。
なお、存続会社が設立後間もないため最終事業年度が存在しないような場合は、成立の日の貸借対照表が開示事項となっています(以下1号イの括弧書き参照)。
▽会社法施行規則182条6項
6 第一項第四号に規定する「計算書類等に関する事項」とは、次に掲げる事項とする。
一 吸収合併存続会社についての次に掲げる事項
イ 最終事業年度に係る計算書類等(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併存続会社の成立の日における貸借対照表)の内容
ロ 最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併存続会社の成立の日。ハにおいて同じ。)後の日を臨時決算日(二以上の臨時決算日がある場合にあっては、最も遅いもの)とする臨時計算書類等があるときは、当該臨時計算書類等の内容
ハ 最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(吸収合併契約等備置開始日後吸収合併の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
二 吸収合併消滅株式会社(清算株式会社を除く。以下この号において同じ。)についての次に掲げる事項
イ 吸収合併消滅株式会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併消滅株式会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(吸収合併契約等備置開始日後吸収合併の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
ロ 吸収合併消滅株式会社において最終事業年度がないときは、吸収合併消滅株式会社の成立の日における貸借対照表
なお、2号は自社つまり消滅会社について書かれていますが、なぜ「最終事業年度に係る計算書類等」が規定されていないのかというと、自社の財務諸表(F/S)は組織再編手続以外で開示がなされているからです。
なので、2号ロのように、分割会社が設立後間もないため最終事業年度が存在しないような場合に、(通常のサイクルでの開示がまだないので)成立の日の貸借対照表が事前備置での開示事項となっています。
また、消滅会社自身に重要な後発事象が生じたときも、その内容が開示事項になっています(2号イ)。
⑥債務の履行の見込みに関する事項(5号)
これは、債権者保護を目的としたものです(株主は関係ない)。つまり、存続会社の支払能力のことです。
▽会社法施行規則182条1項5号
五 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務(法第七百八十九条第一項の規定により吸収合併について異議を述べることができる債権者に対して負担する債務に限る。)の履行の見込みに関する事項
⑦事前備置開始後の変更事項(6号)
ここまで見た②~⑥について、備置開始後に変更が生じたときは、変更後のその事項です。
▽会社法施行規則182条1項6号
六 吸収合併契約等備置開始日(法第七百八十二条第二項に規定する吸収合併契約等備置開始日をいう。以下この章において同じ。)後、前各号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項
存続会社側(法794条)
存続会社にも事前備置書類を備え置く義務があり(法794条1項)、株主と債権者は閲覧等を請求することができます(同条3項)。
▽会社法794条1項・3項
(吸収合併契約等に関する書面等の備置き及び閲覧等)
第七百九十四条 吸収合併存続株式会社、吸収分割承継株式会社又は株式交換完全親株式会社(以下この目において「存続株式会社等」という。)は、吸収合併契約等備置開始日から効力発生日後六箇月を経過する日までの間、吸収合併契約等の内容その他法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
2 (略)
3 存続株式会社等の株主及び債権者(株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合(第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合を除く。)にあっては、株主)は、存続株式会社等に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該存続株式会社等の定めた費用を支払わなければならない。
一 第一項の書面の閲覧の請求
二 第一項の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 第一項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 第一項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって存続株式会社等の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
備置期間
事前備置書類の備置期間は、
- 始期:吸収合併契約の備置開始日
- 終期:吸収合併の効力発生日の後6か月を経過する日
となっています(上記条文の下線部参照)。
始期の「備置開始日」というのは、
- 合併承認株主総会の2週間前の日
- 株式買取請求に関する通知・公告の日
- 債権者の異議に関する公告・催告の日
のいずれか早い日、とされています。各手続(株主総会、株主保護手続、債権者保護手続)のうち早く開始するものに対応して決まるということです。
また、終期を効力発生の後6か月としているのは、事前備置書類も無効の訴えを提起すべきかについての判断資料になり得るので、提訴期間(効力発生から6か月以内)と平仄を合わせたものだとされています。
▽会社法794条2項
2 前項に規定する「吸収合併契約等備置開始日」とは、次に掲げる日のいずれか早い日をいう。
一 吸収合併契約等について株主総会(種類株主総会を含む。)の決議によってその承認を受けなければならないときは、当該株主総会の日の二週間前の日(第三百十九条第一項の場合にあっては、同項の提案があった日)
二 第七百九十七条第三項の規定による通知の日又は同条第四項の公告の日のいずれか早い日
三 第七百九十九条の規定による手続をしなければならないときは、同条第二項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日
必要記載事項(規則191条)
事前備置書類の必要記載事項は、
- 吸収合併契約の内容
- 合併対価の相当性(定めがない場合は、定めがないこと)に関する事項
- 新株予約権等の割当てに関する定めの相当性に関する事項
- 計算書類等に関する事項
- 相手会社つまり消滅会社の財務諸表(F/S)
- 存続会社に重要な後発事象が生じたときは、その内容
※消滅会社や存続会社が設立後間もないため最終事業年度が存在しないような場合は、成立の日の貸借対照表が開示事項となっている
- 債務の履行の見込みに関する事項
- 事前備置開始後の変更事項
となっています。つまり、これらが開示事項になっているというイメージです。
先ほど見た消滅会社の場合を踏まえれば大体把握できますので、詳細は割愛して、以下では条文のみざっと確認してみます。
①吸収合併契約の内容(法794条1項)
これは文字どおり吸収合併契約の内容です。
①については先ほど見た会社法794条1項の中に書かれていますが、②~⑥については規則に書かれています。
▽会社法施行規則191条(※【 】は管理人注)
(吸収合併存続株式会社の事前開示事項)
第百九十一条 法第七百九十四条第一項に規定する法務省令で定める事項は、同項に規定する存続株式会社等が吸収合併存続株式会社である場合には、次に掲げる事項とする。
一~七 (略)
②合併対価の相当性に関する事項(規則191条1号)
存続会社が消滅会社の株主に合併対価を交付する場合の話です。
合併対価を交付しない場合(無対価での吸収合併)は、無対価であることの相当性となります。
▽会社法施行規則191条1号(※【 】は管理人注)
【1号:合併対価の相当性に関する事項】
一 法第七百四十九条第一項第二号及び第三号に掲げる事項【=合併条件のうち株主への対価に関する事項】についての定め(当該定めがない場合にあっては、当該定めがないこと)の相当性に関する事項
③吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項(2号)
消滅会社が新株予約権を発行している場合の話です。
存続会社側では、消滅会社側と違って買取請求という観点はないわけですが、存続会社株主の保護(持株比率への影響等)という観点から、同じく開示事項になっています。
▽会社法施行規則191条2号(※【 】は管理人注)
【2号:新株予約権等の割当てに関する定めの相当性に関する事項】
二 法第七百四十九条第一項第四号及び第五号【=合併条件のうち消滅会社の新株予約権者への対価に関する事項】に掲げる事項を定めたときは、当該事項についての定め(全部の新株予約権の新株予約権者に対して交付する吸収合併存続株式会社の新株予約権の数及び金銭の額を零とする旨の定めを除く。)の相当性に関する事項
④計算書類等に関する事項(3号~5号)
相手会社つまり消滅会社の財務諸表(F/S)で、具体的には、
- 消滅会社の最終事業年度に係る計算書類等
- 最終事業年度の末日後の日を臨時決算日とする臨時計算書類等があるときは、その内容
- 最終事業年度の末日後の日に重要な後発事象が生じたときは、その内容
- 消滅会社が清算会社の場合には、貸借対照表
となっています(3号・4号)。
▽会社法施行規則191条3号~5号(※【 】は管理人注)
【3号~5号:計算書類等に関する事項】
三 吸収合併消滅会社(清算株式会社及び清算持分会社を除く。)についての次に掲げる事項
イ 最終事業年度に係る計算書類等(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併消滅会社の成立の日における貸借対照表)の内容
ロ 最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併消滅会社の成立の日。ハにおいて同じ。)後の日を臨時決算日(二以上の臨時決算日がある場合にあっては、最も遅いもの)とする臨時計算書類等があるときは、当該臨時計算書類等の内容
ハ 最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(吸収合併契約等備置開始日(法第七百九十四条第二項に規定する吸収合併契約等備置開始日をいう。以下この章において同じ。)後吸収合併の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
四 吸収合併消滅会社(清算株式会社又は清算持分会社に限る。)が法第四百九十二条第一項又は第六百五十八条第一項若しくは第六百六十九条第一項若しくは第二項の規定により作成した貸借対照表
五 吸収合併存続株式会社についての次に掲げる事項
イ 吸収合併存続株式会社において最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、吸収合併存続株式会社の成立の日)後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容(吸収合併契約等備置開始日後吸収合併の効力が生ずる日までの間に新たな最終事業年度が存することとなる場合にあっては、当該新たな最終事業年度の末日後に生じた事象の内容に限る。)
ロ 吸収合併存続株式会社において最終事業年度がないときは、吸収合併存続株式会社の成立の日における貸借対照表
5号は自社つまり存続会社について書かれていますが、自社の財務諸表(F/S)は、組織再編手続以外で開示がなされているため必要記載事項にはなっておらず、最終事業年度が存在しない場合の貸借対照表のみが定められています(5号ロ)。また、重要な後発事象については、自社のものも開示する必要があります(同号イ)。
⑤債務の履行の見込みに関する事項(6号)
債権者保護を目的としたものです。
▽会社法施行規則191条6号(※【 】は管理人注)
【6号:債務の履行の見込みに関する事項】
六 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続株式会社の債務(法第七百九十九条第一項の規定により吸収合併について異議を述べることができる債権者に対して負担する債務に限る。)の履行の見込みに関する事項
⑥事前備置開始後の変更事項(7号)
最後は、備置開始後に変更が生じた場合の変更事項です。
▽会社法施行規則191条7号(※【 】は管理人注)
【7号:備置開始後の変更事項】
七 吸収合併契約等備置開始日後吸収合併が効力を生ずる日までの間に、前各号に掲げる事項に変更が生じたときは、変更後の当該事項
結び
吸収合併はいわゆる”吸収型”の組織再編ということで、会社法では吸収分割や株式交換と同じグループで規定されています。
事前備置書類は、インターネットで検索や画像検索をすればいくつか例を見ることもできますので(鵜呑みにはできませんが)、上記のような理屈を押さえつつそれらを参照しながら作ったりチェックしたりするのも一つの方法かと思います。あるいは、会社に以前の事例があればそれらを見ながらやるとか、最初の方や悩ましい場合は外部の法律事務所に相談する、といったことも考えられます。
純粋なグループ内再編(=交渉を伴わないもの)の場合は、ある程度ルーティンワーク的になってきますので、なるだけ定型化していくのが賢いやり方かなと思います。
今回は、組織再編ということで、吸収合併手続における事前備置書類について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令・参考文献等
主要法令等