契約一般 法律コラム

【契約トリビア】無理して漢字で書かなくていい契約用語3選

今回は、法務担当者の日々の業務を少しだけ楽にするリーガル・トリビアをお届けしたいと思います。

契約書を作るとき、「とにかく漢字にした方が格好がつく」「重みが出る」と思っていませんか? 実は、無理に漢字を使うことで、かえって誤字のリスクが高まったり、読みづらくなったりすることがあります。また、近年の法令用語の改正(ひらがな化)に伴い、あえて「ひらがな」で書くことが正解、というケースも増えています。

本記事では、そんな無理して漢字で書かなくていい(むしろひらがな推奨な)契約用語を3つ厳選してご紹介します。

「~にかかわらず」(×関わらず/△拘わらず)

これが最もよく見かける、うっかり誤変換の筆頭です。

契約書では「理由の如何にかかわらず解除できる」といったフレーズがよく出てきますよね。 これをパソコンで変換すると、多くの場合は「関わらず」が出てきます。しかし、厳密な言葉の意味でいうと、これは間違いである可能性が高いです。

  • 関わらず:関係する、タッチするという意味(例:プロジェクトに関わる)
  • 拘わらず:こだわらない、関係なく、という意味(例:天候に拘わらず決行)

契約書で言いたいのは、(理由に)左右されずにという意味なので、漢字で書くなら「拘わらず」が正解です。しかし、「拘」という字はやや画数も多く、堅苦しい印象を与えます。 法律の条文などでも、現在は平仮名で「にかかわらず」と書くのが通例です(「法令における漢字使用等について」)。

▽「法令における漢字使用等について」1-⑸-イ

⑸ 常用漢字表にない漢字で表記する言葉及び常用漢字表にない漢字を構成要素として表記する言葉並びに常用漢字表にない音訓を用いる言葉の使用については,次によるものとする。
…(中略)…
イ 次のものは,仮名で表記する。
拘わらず → かかわらず

変換ミスで「関わらず(関係しない)」と書いてしまい、揚げ足を取られるくらいなら、堂々とひらがなで「にかかわらず」と書きましょう。

「おそれ」(×恐れ/△虞)

「違反となるおそれがある」などといった表現もよく使います。 これを「恐れ」と書いていませんか?

  • 恐れ:恐怖心、怖いという感情(例:失敗を恐れる)
  • 虞(おそれ):悪いことが起こる可能性、懸念(例:台風上陸の虞)

法的な文脈で可能性(リスク)を指す場合は、本来は「虞」という漢字を使います(※「恐れ」と書いている昔の法文もあるようですが)。

しかし、この「虞」という字、常用漢字表には入っていますが、読み書きが難しく、今の法律の条文ではひらがなで「おそれ」と書くことと定められています。

▽「法令における漢字使用等について」1-⑷

⑷ 次のものは,常用漢字表にあるものであっても,仮名で表記するものとする。
 虞
     → おそれ
 恐れ

「恐れ」だと”ビビっている”というニュアンスになりかねませんし、「虞」は仰々しすぎます。

「第三者の権利を侵害する恐れ」云々と書くと、なんだか侵害リスクに怯えているように見えてしまいます。スマートに「おそれ」で統一しましょう。

【補足】「虞」の使用例

 といっても、そもそも法文でも「虞」を見ることはあまりないような気がしますが、実は日本国憲法にも使用例があります。

▽日本国憲法82条2項

 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害するがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

 あと代表的なものとしては、少年法における虞犯少年の「虞」があります。犯罪行為をしたわけではないが将来そのおそれのある少年、という意味です。

▽少年法3条1項3号

 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするのある少年
 イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
 ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
 ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
 ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。

「かつ」(×且つ)

「A且つB」という表現も、契約書ではしばしば出てきますよね。 この「且」という字、なんとなく「契約書っぽい!」と思って使っていませんか?

実は、現在の法令において「かつ」はひらがなで書くことが標準とされています。「且」という漢字は常用漢字表にはありますが、法令では「かつ」と書く(ひらがなにする)のがルールです。

▽「法令における漢字使用等について」1-⑷

⑷ 次のものは,常用漢字表にあるものであっても,仮名で表記するものとする。
…(中略)…
且つ → かつ

「且つ」と漢字で書くと、文章全体が黒々としてしまい、読み手に圧迫感を与えます。特に「及び」「並びに」「若しくは」など、どうしても漢字が多くなる接続詞の近くに「且つ」までいると、視認性がさらに下がります。

昔の契約書は「且つ」もしばしば見かけましたが、今の契約書は「かつ」がスマートです。たった一文字ですが、ここをひらがなにするだけでも、契約書全体の風通しが良くなります。

結び:読み手に優しい契約書を

いかがでしたでしょうか。 「にかかわらず」「おそれ」「かつ」。 この3つをひらがなにするだけでも、契約書が少しすっきりと現代的になり、誤字のリスクもなくなります。

契約書は難しく書くことが目的ではなく、誰が読んでも意味が一意に定まることが目的です。無理な漢字変換を避け、ひらがなを活用することは、決して手抜きではなく実用的な知恵と言えますので、無理して漢字で書かず、ひらがなで書いていきましょう!

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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