今回は、グループガバナンスと法務ということで、取引先管理と、契約ワークフロー(以下「契約WF」)について見てみたいと思います。
これは特に企業グループにおける管理体制に限った話ではないですが(一社単位でも普通に必要)、グループでの管理体制を考える際にテーマになることもあるかと思いますので、ここで見てみます。また、管理人の個人的見解です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
取引先管理
取引先管理の要点は、
- 法人の実在性の確認
- 与信審査
- 反社チェック
の3点にまとめることができるかと思います。
①法人の実在性の確認
これは文字どおりですが、大前提として、取引しようとしている相手先の法人が実際に存在するかどうかの確認です。
法人は肉体がありません(自然人と違って)。別の言い方をすると、概念上の存在といえます。
ではこの法人の実在性はどうやって確認すればよいのか?というと、登記で確認するということになります。法人は基本的に設立登記によって成立しますので(以下のいくつかの例を参照)、法人の実在をどこで確認できるかというと、登記になるからです。
▽会社法49条、579条
(株式会社の成立)
第四十九条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
(持分会社の成立)
第五百七十九条 持分会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
▽一般社団法人法22条
第二十二条 一般社団法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
まあそんなに深く考えなくても、一種の流れ作業として登記(通常はインターネット登記情報提供サービスでの登記情報)は取得しているわけですが、きちんと意味合いを考えてみると、そういう意味があるわけです。
反対側からいうと、取引先候補が”われわれはこういう会社でこういう事業をやっている者ですが…”ということで、登記で確認してみたら無かった場合、”そんな会社、実在しないやないかい!”とツッコめるということです(そんなこと実際にはほとんどないとは思いますが)
普段は意識しないかもしれませんが、「登記で確認する」という基本フローを踏むことで、大前提としての実在確認ができているということです
諸々の法人情報の確認
もちろん、実際には、法人の実在性の確認のためだけではなく、登記事項として記載されている諸々の法人情報(正式名称、本店所在地、代表者etc)も得るために登記を取得しています。
同一性の確認になっているわけではない
あと、細かい話になりますが、登記を確認して法人の実在性が確認できたとしても、目の前にいる自然人がその法人の関係者かどうかは実はわかりませんので、一応理解しておいた方がよいかと思います。
つまり、登記の確認は、同一性の確認になっているわけではないということです。
例えば、取引先候補が”われわれはホニャララ株式会社で、こういう事業をやっている者ですが…”ということで、登記を確認してみたら該当があったので安心安心…と思っていたら、実は相手にしている担当者はその辺の道を歩いているただのオッサンだったということも理屈上はあり得るわけです(登記は手数料を払えば誰でも閲覧・取得できるものですので)
このように、ホニャララ社が実在すること(法人の実在性)と、目の前の自然人がホニャララ社の人であるかどうか(同一性の確認)は別の事柄です
以下の記事なども参考になります。ちなみに、ここはKYC業務のアウトソーシングを行っている会社です。
②与信審査
これは要するに財務状況のチェックです(取引先の支払能力のチェック)。ざっくりいうと、取引継続中に潰れたりしないか、支払いが滞ったりするおそれがないか、といったことです。
法律的な目線からいうと債権管理・保全といった領域と関係するわけですが、法務が直接所管しているケースはほとんど無いのではないかと思います(与信管理のシステムを法務がいじっているというのは管理人個人は見たことなし)。業務管理部のような、ビジネスプロセスを管理する部署が行っているのが通常ではないかと。
ここではお馴染みの、帝国データバンク、東京商工リサーチやリスクモンスターといった企業情報DBを利用することが多いかと思います。
もし懸念があった場合でも取引をする場合には、デフォルト時のリスクヘッジとして、物的担保といったハードな手段から、例えば保証ファクタリングや信用保険といったややソフトな手段まで、いろいろ検討される場合があるかと思います。
これも、与信判断自体について法務が直接タッチするようなことは通常ないだろうと思います。
③反社チェック
これはいわゆる反社会的勢力該当性のチェックで、もうすっかり一般用語化したような感じもあるところです。風評チェック(※ここでは自社ではなく取引相手の風評)を含むこともあるかと思います。
いわゆる反社チェック自体は取引先に対するものだけに限られず、どの範囲までやるのか(取引先、従業員、株主etcのステークホルダー)、どの程度までやるのか(どの役員までチェックするのか、閉鎖登記簿も掘るのかetc)、内製・外注をどうするのかなど悩ましい部分もいろいろあると思いますが、本記事では細かい部分は割愛します。
ここでは、日経テレコン、G-Search、ダウ・ジョーンズなどといったDBサービスがあるかと思います(他にも、近年いろいろな新しいサービスが出てきているようですが)。これらにネガティブワードをOR検索で掛け合わせて検索をかけるやり方が、オーソドックスだろうと思います。
また、一般的な無料の検索サービスでの検索も併せて行ったり、暴追センター(暴力追放運動推進センター)や特暴連(警視庁管内特殊暴力防止対策連合会)への加入(賛助会員、会員)による諸々の情報取得を利用する、といったこともあるかと思います。
契約WF
本記事でいう契約WFは、契約のいわゆるライフサイクルといったものですが、契約管理のテンプレ事項としては、
- 契約チェック
- 稟議(決裁)システム
- 文書管理システム
の3点が一般的かと思います。最近はこれら全体を一つにまとめたシステムを提供しているサービスもありますね。
言ってみれば当たり前の話にはなりますが、以下簡潔にまとめてみます。
契約チェック
これは、いわゆるドラフトのチェックです。
契約書の作成・審査というやつで、こちらが内容を作成したり・相手が作成した内容をチェックしたりと、双方がドラフトの確認や修正のやり取りをして、内容のFixに至るまでのプロセスです。
システムとしては、契約チェックの段階からシステムに乗せるかどうかは会社のシステムの構築具合によるという感じで、通常はメールやグループウェア(Office365、Google Workspace、Slack諸々)だけで済ませている場合もあれば、稟議(決裁)システムと同じ・あるいは連携できるようなシステムにしている場合もあると思います。
稟議(決裁)システム
これは、内容がFixされた後の、双方社内での稟議決裁です。
社内規程との関係でいうと、システム上の決裁権者に関して、業務分掌規程での決裁権限(一覧表にしておくことが多いかと思います)との平仄を合わせておくことがポイントと思います。もちろん中間承認者も適宜セットされますが、決裁権者(必須)は規程と一致している必要があるということです。
あとは、権限移譲にも対応できるようにしたり、個別のケースに合わせて、任意に追加もできるようにしておくなどですかね。
文書管理システム
これは、契約締結後の文書保管の問題です。
特に何か作業が発生するとは限りませんが、データをどんなシステムで保管しておくのかは大事な決め事だと思います。一方、紙ファイルの保管はどこもだいたい似たり寄ったりの、オーソドックスなやり方が多いだろうと思います。
保管システムで後日の検索の便宜のためいくつかの指標をデータとして抽出しておく場合には、そのための余後の作業が発生することもあります。
取引先管理と契約WFの先後関係
取引先管理と契約WFの先後関係は、取引先管理が先、契約WFはその後、です。
というより、契約チェックは同時並行していてもいいのですが、通常少なくとも法人の実在性確認は先行させると思います。
先後関係で守らないといけないのは、法人の実在性確認・与信審査・反社チェックが終わる前に契約締結まで進んではならない、ということです。
なぜかというと、当然ですが、そのタイミングでネガティブな情報が発覚しても、もう契約が成立してしまっているからです。契約解消の措置や無効主張ももちろん可能ですが、それが通るかはやってみないとわからないところがあります(判断材料やエビデンスの問題もあり得る)。
これに対して、契約締結前であれば、契約を締結しないだけで済みます(契約自由の原則)。
契約チェック(契約審査、ドラフトのやり取り)はしていても構いません。
結び
今回は、グループガバナンスということで、取引先管理と契約WFについて見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
参考文献
- コンプライアンス・内部統制ハンドブック(中村直人 編著)
- 実効的子会社管理のすべて(松山遙、水野信次、野宮拓、西本強、小川尚史)
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