契約の基本事項

契約の基本事項|契約書は何のために作成するのか

今回は、契約の基本事項ということで、契約書は何のために作成するのかについて見てみたいと思います。

ひと言でいうと、「合意を証拠化する」、いわゆるエビデンスというやつですが、一般的にいくつか言われることを振り返ったうえで、実際のところどうなのかという話も考えてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

契約書を作成する目的(一般論)

契約書を作成する目的というと、契約書の基礎研修やセミナーなどでは、最初の方でほぼ必ず触れられるトピックかと思いますが、だいたい、

  • 当事者の意思内容を明確化するため【明確化】
  • 取引に慎重を期するため【慎重化】
  • 合意の内容を証拠化するため【証拠化】
  • 法律の限界を超えるため(法律上の効果の修正・創設)【個別化】

といったあたりが触れられることが多いかと思います。

冒頭でも書いたように、③の証拠化が一番重要で、①や②はある意味その派生みたいな感じですが、以下、背景にある前提知識にも若干触れつつ、ざっと見てみたいと思います。

明確化

まず、当事者の意思内容の明確化です。

契約書の文案(ドラフト)の内容や表現を確認することによって、契約の内容(=つまりは、取引の内容、ビジネスの内容)を確認するような効果がある、ということです。

内容の確認後、特にやり取りなくそのままハンコに至ることもありますが、契約書の締結に向けて、ドラフトを何度か往復しながら内容を詰めていくことも、通常のビジネス風景の一場面かと思います。

例えば、

  • ここはこういう風にしてほしい
  • 話としてはこういう内容で折り合いがついているので、契約書上も明記しておきたい
  • これは受け入れられる、これは受け入れられない、etc…

といったやり取り、修正を経ていくなかで、お互いの意思内容が明確化していく、という意味になります。

もっと簡単にいうと、商品やサービスの内容とその対価を明確にする、やってほしいこと・やってほしくないことは書いておく、守れない約束はしない、といったことです。

想像上のイメージですが、仮に、全部、口頭でこういうことをしようとしても無理だろう、ということです。

ちょっとくだらない想像になりますが、「ん、ちょっと待って、それは無理!」とか、全部に口頭でチェック入れるとか、お互いできっこないですし、仮にやったところで、時間が経ったら「あれどうだったっけ」となるだろうと思います。

慎重化

次に、取引に慎重を期するという点ですが、上記のようなやり取りをするなかで、契約の内容(=つまりは、取引の内容、ビジネスの内容)をよく検討する機会となる、ということです。

これはある意味では、心理的な効果みたいな含みも持っているのかなと思います。

証拠化

結局、これが一番重要ですが、合意を証拠化するということです。

前提知識として、契約というのは、お互いの意思の合致を意味するので、原則として、口頭でも成立します。(例外的に、書面化しないと成立が認められない契約もある)

なので、契約書がなくても、なにか別の手段で合意を立証できれば、契約の成立は認められます。

しかし、例えば、メールとか、メモの断片とか、人の証言とか、状況証拠とか、通常はあまり確かでないものをかき集めて立証をすることになるので、普通は大変です。

よく言われることですが、後日、「前に約束したはずだ」とか、合意の成否レベルで争いになったり、「確かにこういう話はしたけど、こうは言ってない」とか、合意の内容レベルで食い違いが出たりすることは往々にしてあるので、そのときに、契約書がなかったら、言った言わないの関係になる(水掛け論になる)、ということです。

こういったことが、書面化されていれば、苦労しなくて済むでしょう、ということです。

契約書ももちろん万能ではなく、契約書を作成していても、そのなかの内容(契約の解釈)が争いになる場合ももちろんありますが、解決の土台はあるというか、ちゃぶ台自体がないのとあるのとでは、大変さは当然違ってきます。

背景:契約自由の原則

 この部分の背景知識としては、契約自由の原則というのがあります。

 契約自由の原則というのは、通常、

  • 締結の自由(契約を締結するかどうかは自由)
  • 相手方選択の自由(誰と契約するかは自由)
  • 内容の自由(どういう内容の契約をするかは自由)
  • 方式の自由(どういう方式で契約するかは自由)

という4つの内容がある、という風に説明されます。

 契約書にしなくても、口頭でも契約は成立する、というのは上記④の「方式の自由」のことです。(意思の合致があれば契約は成立します、方式は自由です、ということ)

 ちなみに、契約自由の原則というのは、そういうことをはっきり書いた条文が何かの法律にあるというわけではなく、法律の背後にある考え方(かなり抽象度の高いもの)のことです。

 そういう根本的な考え方がそもそも存在する、という前提で法律をつくっているので、以前は、方式の自由について特に定めはなかったですが、現在は、民法改正のときに明文化されています(民法522条2項)。

(契約の成立と方式)
第五百二十二条
 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

個別化

法律の限界を超えるため、というと大げさに聞こえますが、契約に関して法律上発生することになっている効果を修正したり、それ以外の効果を創設したりする、という意味です。

契約は、何も決めごとをしなければ、契約のパターンに応じて、民法を中心とした法律の規定が適用されて、内容が決まってきます。

なので、その枠を超えた内容にしたければ、そういう合意をしておかないといけない(そして、結局、その証拠を残しておくためには書面化しておかないといけない)、ということです。

背景:法律と契約の関係

 ここの部分の背景知識は、法律と契約の関係性になります。

 契約>法律、という関係になっているので、法律に書いていることよりも、原則として、契約の内容の方が優先されます。民法91条に明文があります。

(任意規定と異なる意思表示)
第九十一条
 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない・・・規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う

 もともと、契約は当事者の自由なので(前述の「契約自由の原則」参照)、契約に関する法律のルールは、”内容について決めごとがないとき、普通は、こういう風に考えているだろう”という、ベーシックなラインを想定してつくった補充的なルールになります。

 なので、特定の当事者同士が、”こういう風にしたい”と決めて合意が成立したのなら、当然そちらを優先する、という感じです。

 ただ、当事者が異なる合意をしても、法律の定めの方を優先させる場合もあり、それを強行法規といいます。(上記の条文のうち「公の秩序」はそれを指していると言われている)

 例えば、一般的に立場の弱い当事者(消費者や、建物の借主など)保護のための規定などに、強行法規が多いです。当事者の自由な合意に任せていると、不均衡が是正できない領域であるためです。

会計的な意味(番外編)

以上のような一般論は、それ自体はそのとおりであるものの、現実にどうなっているかは、業界や会社によって様々というのが実際のところだろうと思います。

もちろん、一般論も、現実は様々あるのは前提として、法的な意味、ロジック、べき論として整理しているのだろうと思います。

実際には、そういった教科書的な、あるいは法的なリスク対応の意味合いというより、会計的な意味合いでのみ見ている人の方が多いような気がします。

支払いを行うための書類作成という意味合い

よくあるのは、支払いを行うために契約書を作成しないといけない、という意味合いです。

これは契約書のバックデート問題とも関連しますが、契約書を締結するよりも先に取引が先に走って、走り出したあとに契約書を締結するとか(前後の時間差とかいうレベル感ではないもの)、さらに進んで、大方終わったあとに契約書を締結するなどのケースのことで、稀というほど少なくもない感じですかね。

そういうケースでは、支払いをしないといけない、ということで急きょドラフトを回し始めたり、いついつまでに締結しないといけないんです、といったシチュエーションがよく発生します。

この流れだと、事前に合意を明確化・証拠化するといった意味合いはほぼなくなりますし、大方取引が終わったあとに、きちんと言質をとるべきところをとれるのか(例えば表明保証など、今更わざわざ不利な部分を含むドラフトでハンコついてくれるか)といった問題もあり得ます。

ただ、こういった火種をまいていることと、実際に発火するかどうかは、現実にはまた別問題(要するに運みたいなところもある)なので、あまり気にされない、後回しになっている、というのも実情かなと思います。

売上を計上するための書類作成という意味合い

また、営業ノルマがあるような企業では、売上を達成するために、とにかく月末までに契約をとりつけないといけない、といったパターンもあります。

顧客に、直接、そういう言動をとってしまう人もいるみたいですし。

業界的な分布はどうなっているのか(私見)

支払いをしないといけないから契約書を、というパターンは、オールドカンパニー(いわゆるJTC的な会社)ではそんなにないように思いますが、若い企業やベンチャー業界界隈では珍しくないように思います。(管理人的な感覚)

別の観点として、例えば上場企業だと、株主の手前、そんなことはないだろう、と捉えられていそうな気もしますが、上場企業といっても、伝統企業から新興企業まで様々なので、必ずしもそのあたりが重要視されているというわけでもないと感じます。(もちろん、一般論として、契約とかコンプラは大事ですというスタンス)

真逆でいうと、例えば金融系の業界はガチガチなので、そんなことはないというか、わりと比喩でなく「(契約書が締結できてないなど)あってはならないこと」というのが当然になっています。(方針としてそうなっている。金融庁も鎮座しているので)

結局、よく言われている「契約書作成の目的」は、コンサバな業界では意識・・されており、コンプラがきつい業界では遵守・・されており、若い企業やベンチャー業界界隈では後回し・・・にされており、ノルマがきつい業界・会社ではノルマ・・・(のゴール)になっている、などなどが実情ではないかなと思います。

法的な目的も、会計的な意味合いも、どちらも確かに存在するものですが、契約書は、ひとまず目の前の目的をこなすための事務関門で、専ら支払いを切ったり、売上を立てたりするために必要なものになっていることも珍しくなく、つまりは、会計的な意味合いの方が一般的に意識されやすいように思います。

結び

今回は、契約の基本事項ということで、契約書を作成する目的・意味合いを取り上げてみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

参考文献

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主要法令等

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