「法務の仕事ってどんなことをしているのか?」ということは、意外と弁護士でも実はよくわかっていないことがあるのでは、と思うことがあります。
管理人は法律事務所でイソ弁として働いてから、いわゆるインハウスローヤー(企業内弁護士)に転じたんですが、当時は、法務部が具体的にどんなことをしているのか、法務の仕事の全体像はどんなものなのかといったことは、正直なところよくわかっていませんでした(想像出来なかった、というか)。
ざっくりと、契約書見たり、労務管理とか債権管理とかしてんのかなあ、といった漠然としたイメージは持っていましたが(だからこそ、行ってみたいという気もしていた訳ですが)。
さらにもうひとつ言うと、世間では「コンプライアンス」とよく言っていますが、結局この中身は具体的に何なのか?ということも、部外や社外からはよくわからないのではなかろうか、と思うことがあります。
というわけで、法務の仕事はどんなことをしているのか?というのを、管理人の見聞の範囲ではありますが、書いてみたいと思います(多少、実際はそうはなっていないけれどもという「べき論」も含めつつ)。
まず思い浮かべやすいのは「契約書の作成・審査」なので、ここから行ってみます。
契約書の作成・審査
契約書に関する仕事は事前の想像どおりもちろんあるのですが、ただ、ひとくちに「契約書の作成・審査」といっても、仕事の種類は様々になります。
以下、①契約書、②改定・作成、③審査、の順に見てみます。
契約書
「契約書」については、大きいところでいうと、約款の改定に関する仕事もありますし、個別案件(プロジェクト)で相手方や委託先と交わす契約書のチェックもあります。
大きい案件もあるし小さい案件もあります。案件によって飛び交うドラフトの数・量も全く違います。
他方、その会社の日常業務でよく使う(=営業循環のなかにある)書式の整備といったものも、契約書の作成業務の延長線上にあるというか、いわゆるドキュメント全般の整備という仕事もあります。
作成/改定
「作成」に関しては、文案をゼロから作成するという仕事は、それ程多くはないように思います。特に法務部が出来てからある程度の年数が経っている組織だと、文書についても蓄積がありますので、イチからドラフトを作成するという仕事はそんなに無いのではないかと思います。
次に「改定」についても、時代に合わなくなったのでは、という大きめの見直しから、細かい法改正対応のためのマイナーチェンジ(ちょっとした条項の挿入)まで、様々あります。
とはいえ、実際には、大きい組織ほど保守的というか、変えることに関して常に腰が重いところがありますので、時宜に応じて適切に見直しがされているのかという点については、疑問符もなくはないところです。
もちろん、組織運営においては連続性も重要なので、細かい改定がチョコチョコいっぱいあるというのはよろしくなく、現場の総務が大変になるという面もありますし。要はバランスの問題、と言うしかないのですが。
「作成」や「改定」について、法律事務所と違うところは、組織で働くということは、法律関係のチェックが終わればよいというものではないところかなと思います。
つまり、いちいち稟議を切ったり、関係部署があればその前に話を通したりしないといけなかったりもしますので、内心では非常にめんどくさいという面もあります(もちろん仕事なので、やらないという意味ではないですが)。
審査
「審査(チェック)」についても、法律事務所の介在の程度に濃淡があります。
内部のチェックで終わらせることもありますし、そのときは主として前に出ていけますが、外部(=法律事務所)のチェックを通す場合には、法律的な面では副として一歩引き、どちらかというと法律事務所のコメントの消化と会社意見のコメントバックが中心になるようなイメージがあります。
このあたりの按配(あんばい)は人によって異なるとは思いますが、管理人個人はこれが適切なバランス感覚と思って、そのようにしていました。
結び
なお、契約書に限らず、法務機能をどれだけ内製化するかというのは、ひとつの考えどころであると思います。
なかには法律事務所と見まごう程の陣容を揃えているような会社もありますが、管理人の個人的意見では、インハウスローヤーがいても(あるいは大量に雇用したとしても)、完全に内製化するのは不可能であるように思います。仮に突出した能力を持つ人間が内部にいたとしても同じです。
というのはなぜかというと、組織のあり方として、「外部の専門家にちゃんとお金を払って見てもらった」という事実が重要という面が否めないためです。
言ってしまえば、法務機能の外注には「責任分担」の要素もあり、純粋に社内での法律的なチェックが優れていればそれでよいという問題でもないということです。
その他、契約書のチェックについては、もしその条項がなかったらどうなるのかを考えるのが最低限のお約束であることや、意味が一義的に決まるような(二義を許さないような)文言になるよう注意すること、例示列挙と包括条項のセットバランス、相手方とのパワーバランスからどこまでケチをつけられるのかという悩みなど、様々あるのですが、こういったことは他の文献にも書いてあることなので、本記事では割愛したいと思います。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。