下請法

下請法|資本金区分(取引の主体に関する要件)

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今回は、下請法ということで、適用要件のうち取引の主体に関するもの、すなわち資本金区分について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

資本金区分(取引の主体に関する要件)

下請法では、資本金の大小を”優越的地位”の判断基準としていて、資本金の額が、親事業者と下請事業者を画する基準となっています。

ざっくり結論をいうと、画する基準には、

  • 3億円基準(3億円の前後で分ける)
  • 5000万円基準(5000万円の前後で分ける)
  • 1000万円基準(1000万円の前後で分ける)

の3つがあります。

一般的には「3億円基準」と「5000万円基準」の2つの基準があると言われますが、1000万円の前後にも境目があるので、本記事では3つとしています

「親事業者」「下請事業者」の定義(法2条7項・8項)

これらの基準は、下請法2条に定められている「親事業者」と「下請事業者」の定義の中で出てきます。

「親事業者」の定義(下請法2条7項)

 この法律で「親事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
 (略)

「下請事業者」の定義(同条8項

 この法律で「下請事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて、前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
 (略)

このように、下請事業者の定義は、「前項第〇号に規定する親事業者から…委託を受けるもの」という書き方になっており、7項と8項の間で、1号と1号、2号と2号、3号と3号、4号と4号がそれぞれ対になっています。

つまり、以下のようになっています。

「親事業者」(法2条7項「下請事業者」(法2条8項備考
1号(資本金3億円超)1号(資本金3億円以下)←3億円基準
2号(資本金1000万円超~3億円以下)2号(資本金1000万円以下)←1000万円基準
3号(資本金5000万円超)3号(資本金5000万円以下)←5000万円基準
4号(資本金1000万円超~5000万円以下)4号(資本金1000万円以下)←1000万円基準

あれ?なんか重複してない?と一瞬思うかもしれませんが、委託する業務の内容によって、1号・2号のグループと、3号・4号のグループの、大きく2つに分かれているため、重複はしないようになっています。

以下、順に中身を見てみます。

1号・2号のグループ

1号・2号のグループの「親事業者」は、以下のとおりです。

これは、いわゆる「3億円基準」にあたるグループになりますが(3億円の前後で分かれる)、1000万円の前後でも分かれています。

▽下請法2条7項1号・2号(※【 】は管理人注)

 この法律で「親事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
【1号:3億円基準】
 資本金の額又は出資の総額が三億円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十六号)第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者に対し製造委託等情報成果物作成委託及び役務提供委託にあつては、それぞれ政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る。次号並びに次項第一号及び第二号において同じ。)をするもの
【2号:1000万円基準】
 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え三億円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をするもの

ちょっと読みにくいので箇条書きにすると、

【1号】

  • 資本金の額が3億円を超える事業者であって、
  • 資本金の額が3億円以下の事業者に対し、
  • 製造委託等情報成果物作成委託及び役務提供委託政令に定めるものに限る)をするもの

【2号】

  • 資本金の額が1000万円を超え3億円以下の事業者であって、
  • 資本金の額が1000万円以下の事業者に対し、
  • 製造委託等情報成果物作成委託及び役務提供委託政令に定めるものに限る)をするもの

のようになっています。(※「個人」の部分については端折っています)

政令で定めるものというのは、情報成果物についてはプログラム、役務については運送物品の倉庫における保管情報処理のことです(施行令1条)。

▽下請法施行令1条

(法第二条第七項第一号の政令で定める情報成果物及び役務)
第一条
 下請代金支払遅延等防止法(以下「法」という。)第二条第七項第一号の政令で定める情報成果物は、プログラムとする。
 法第二条第七項第一号の政令で定める役務は、次に掲げるものとする。
一 運送
二 物品の倉庫における保管
三 情報処理

対応する「下請事業者」は、以下のとおりです。

▽下請法2条8項1号・2号(※【 】は管理人注)

 この法律で「下請事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
【1号:3億円基準】
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下の法人たる事業者であつて、前項第一号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの
【2号:1000万円基準】
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第二号に規定する親事業者から製造委託等を受けるもの

3号・4号のグループ

3号・4号のグループの「親事業者」は、以下のとおりです。

これは、いわゆる「5000万円基準」にあたるグループになりますが(5000万円の前後で分かれる)、1000万円の前後でも分かれています。

▽下請法2条7項3号・4号(※【 】は管理人注)

 この法律で「親事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
【3号:5000万円基準】
 資本金の額又は出資の総額が五千万円を超える法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託(それぞれ第一号の政令で定める情報成果物又は役務に係るものを除く。次号並びに次項第三号及び第四号において同じ。)をするもの
【4号:1000万円基準】
 資本金の額又は出資の総額が千万円を超え五千万円以下の法人たる事業者(政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの

これもちょっと読みにくいので、箇条書きにすると、

【3号】

  • 資本金の額が5000万円を超える事業者であって、
  • 資本金の額が5000万円以下の事業者に対し、
  • 情報成果物作成委託又は役務提供委託政令に定めるものを除く)をするもの

【4号】

  • 資本金の額が1000万円を超え5000万円以下の事業者であって、
  • 資本金の額が1000万円以下の事業者に対し、
  • 情報成果物作成委託又は役務提供委託政令に定めるものを除く)をするもの

のようになっています。(※「個人」の部分については端折っています)

政令で定めるものというのは、先ほど見たものと同じです。

対応する「下請事業者」は、以下のとおりです。

▽下請法2条8項3号・4号(※【 】は管理人注)

 この法律で「下請事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
【3号:5000万円基準】
 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が五千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第三号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの
【4号:1000万円基準】
 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下の法人たる事業者であつて、前項第四号に規定する親事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの

適用範囲まとめ

以上の条文は、原文の確認のために見てみましたが、正味な話、文字だけだとイマイチ何のことかよくわからない感じが残るところです。

そこで、表にしてみると、以下のようになっています。表の見方は、号ごとに左から右に読んでいく感じです。

下請法の適用範囲(資本金区分×取引の内容)

資本金区分 取引の内容
親事業者 下請事業者 ①製造委託 ②修理委託 ③情報成果物作成委託 ④役務提供委託
プログラムの作成 左記以外 運送・物品の倉庫保管・情報処理 左記以外
1号 3億円超 3億円以下    
2号 1000万円超〜3億円以下 1000万円以下    
3号 5000万円超 5000万円以下        
4号 1000万円超〜5000万円以下 1000万円以下        

このようにしてみると、

  • 1号・2号のグループと、3号・4号のグループとで、委託する業務の内容が違っていること
  • 基準には、3億円基準、5000万円基準、1000万円基準の3つがあること

が視覚的に見えるかと思います。

▽公正取引委員会のXアカウント

令和7年法改正-従業員基準の追加

なお、下請法は令和7年改正があり、取引の主体に関する要件につき、上記の資本金区分に加えて、従業員基準(=従業員数の基準)が追加されることとなりました。

施行は令和8年1月1日からです。

参考リンク

改正後の適用範囲を上記の表と同じ要領でまとめてみると、以下のようになっています(赤字の部分が従業員基準の追加)。

中小受託法の適用範囲(資本金区分/従業員基準×取引の内容)

資本金区分/従業員基準 取引の内容
委託事業者 中小受託事業者 ①製造委託 ②修理委託 ③情報成果物作成委託 ④役務提供委託 ⑤特定運送委託
プログラムの作成 左記以外 運送・物品の倉庫保管・情報処理 左記以外
1号 3億円超 3億円以下    
2号 1000万円超〜3億円以下 1000万円以下    
5号 300人超 300人以下    
3号 5000万円超 5000万円以下          
4号 1000万円超~5000万円以下 1000万円以下          
6号 100人超 100人以下          

このように従業員基準で”300人基準”と”100人基準”とでもいうべきものができており、たとえば資本金規模が大きいためこれまで下請事業者と扱っていなかった取引先でも、従業員が300人以下(情報成果物作成委託や役務提供委託をする場合は100人以下のケースも)のときは、新たに適用対象となってくる場合が出てきます。

また逆に、自社の資本金が小さく下請法の適用を気にしなくてよかった事業者も、従業員が300人を超えるときは(情報成果物作成委託や役務提供委託をする場合は100人超のケースも)、新たに委託事業者として適用対象となってくる場合が出てくることになります。

改正後の条文も、一応確認してみます。先ほど見た資本金区分と同じように、号と号が対になるようになっています。

▽中小受託法2条8項・9項(それぞれの5号と6号を抜粋)

 この法律で「委託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一~四 (略)
 常時使用する従業員の数が三百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者に対し製造委託等をするもの(第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ次項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合を除く。)
 常時使用する従業員の数が百人を超える法人たる事業者(国及び政府契約の支払遅延防止等に関する法律第十四条に規定する者を除く。)であつて、常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をするもの(第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ次項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)
 この法律で「中小受託事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一~四 (略)
 常時使用する従業員の数が三百人以下の個人又は法人たる事業者であつて、前項第五号に規定する委託事業者から製造委託等を受けるもの
 常時使用する従業員の数が百人以下の個人又は法人たる事業者であつて、前項第六号に規定する委託事業者から情報成果物作成委託又は役務提供委託を受けるもの

★どちらの5号も、「製造委託等」に含まれる情報成果物作成委託又は役務提供委託は、政令で定める情報成果物又は役務に係るものに限られています(8項1号括弧書き参照)
★どちらの6号も、「情報成果物作成委託又は役務提供委託」からは、政令で定める情報成果物又は役務に係るものは除かれています(8項3号括弧書き参照)

改正後は「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)→「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託法or取適法)と名称変更され、用語も「親事業者」→「委託事業者」、「下請事業者」→「中小受託事業者」と変更されます

トンネル会社規制(法2条9項)

親事業者と下請事業者を画する基準は以上のとおりですが、考えてみると、「じゃあ資本金の小さい子会社を間に噛ませれば、下請法の適用はなくて済むのでは?」という発想も出てきそうなところです。

このとき間に噛ませる子会社のことを「トンネル会社」といいますが、脱法的行為であるため、一定の要件の下で、子会社を親事業者とみなして・・・・・・・・・・・・・下請法の適用対象に含めることにしています。

▽下請法2条9項

 資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合(第七項第一号又は第二号に該当する者がそれぞれ前項第一号又は第二号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第七項第三号又は第四号に該当する者がそれぞれ前項第三号又は第四号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)において、再委託を受ける事業者が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、かつ、製造委託等をする当該事業者から直接製造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、この法律の適用については、再委託をする事業者は親事業者と、再委託を受ける事業者は下請事業者とみなす。

まとめつつ分節すると、

  • 資本金が1000万円を超える親会社から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受ける子会社が、親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合において、
  • 親会社が再委託を受ける事業者に対して直接に製造委託等をすれば下請法の適用を受ける事業者であるときには、
  • 子会社を親事業者再委託を受ける事業者を下請事業者とみなして、下請法を適用する

のようになっています。

②は「前提条件」(=直接に委託していれば下請法の適用があること)と呼ばれます。

①はトンネル会社を親事業者とみなすための「子会社に関する要件」です。要するに、親会社に支配されていることと、全部又は多くの部分を再委託していることです(まさに“トンネル”という感じ)。

講習会テキストによる解説は、以下のとおりです。なお、テキストには図も載っています。

▽講習会テキスト 1-(3)-カ

カ トンネル会社の規制(第2条第9項)
⑴ 前提条件
 事業者(親会社)が直接他の事業者に製造委託等をすれば本法の適用を受ける場合であって、かつ、当該親会社の子会社等と当該他の事業者との取引が資本金の区分上、本法の適用を受けない場合において、当該親会社が当該子会社等を通じて他の事業者に委託すること。

⑵ 子会社等の2つの要件
(ア) 親会社から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受けている場合(例えば、親会社の議決権が過半数の場合常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合又は実質的に役員の任免が親会社に支配されている場合)。
(イ) 親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合(例えば、親会社から受けた委託の額又は量の 50%以上を再委託複数の他の事業者に業務を委託している場合は、その総計)している場合)。

結び

今回は、下請法ということで、適用要件のうち資本金区分について見てみました。

次の記事
下請法|取引の内容-製造委託、修理委託

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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参考資料

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※注:「優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析」には第4版があります

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