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法令作成を勉強しよう|「あっては」と対句構造

今回は、法令作成を勉強しようということで、条文の文章の対句構造について見てみたいと思います。

法令作成には一定の決まった型みたいなものがありますが、当ブログでは、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

「あっては」と対句構造

法令では、文章を簡潔にするために、対句の構造が用いられている場合が多くあります。

普通に読むだけでも対句になっていることはなんとなく頭に入るようになっていますが、改めて意識しておくと、より読みやすくなることもあるかと思います。

対句のときによく使われるのが、「あっては」という用語です。

▽地方自治法195条2項

② 監査委員の定数は、都道府県及び政令で定める市にあっては四人とし、その他の市及び町村にあっては二人とする。ただし、条例でその定数を増加することができる。

▽犯罪収益移転防止法4条1項1号・3号(※「…」は管理人が省略)

(取引時確認等)
第四条
 特定事業者…は、顧客等との間で、…特定業務…のうち…特定取引…を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。
 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容

このように、対句部分に「あっては」が使われていますので、「あっては」に着目すると対句の構造が読み取りやすくなります。

「あっては」という用語

 ちなみに、「あっては」という用語自体は、対句以外でも普通に使われます(「~においては」の意味で使われていることが多い)。

 上記の説明は、「あっては」が対句でよく・・用いられる、というだけです。

▽民法145条

(時効の援用)
第百四十五条
 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

▽民法489条1項

(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第四百八十九条
 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。

「あっては」以外の対句構造

「あっては」を使わなくても、文章構造そのものから対句になっている場合も多くあります。

準用規定と読替規定

典型的なのは、準用規定と読替規定です。

どちらも型が決まっているので、なんというか、対句を見るのにちょうど良い構文になっています。

準用規定は、

〇〇〇の規定は、◇◇◇について準用する。

というのが基本形ですが、複数書く場合は、

〇〇〇の規定は◇◇◇について、〇〇〇の規定は◇◇◇について、〇〇〇の規定は◇◇◇について準用する。

と書きます。

この場合、「の規定は」「について」の部分が対句構造になっています。

▽民法876条の5第2項

 第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条及び第八百六十三条の規定は保佐の事務について、第八百二十四条ただし書の規定は保佐人が前条第一項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。

読替規定は、準用規定の後段で使われることが多く、

この場合において、第〇条中「〇〇〇」とあるのは、「◇◇◇」と読み替えるものとする。

というのが基本形ですが、複数書く場合は、

この場合において、第〇条中「〇〇〇」とあるのは「◇◇◇」、第〇条中「〇〇〇」とあるのは「◇◇◇」、第〇条中「〇〇〇」とあるのは「◇◇◇」読み替えるものとする。

と書きます。

この場合、「とあるのは」「」の部分が対句構造になっています。

▽会社法144条7項

 前各項の規定は、第百四十二条第一項の規定による通知があった場合について準用する。この場合において、第一項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」、「株式会社」とあるのは「指定買取人」、第二項中「株式会社」とあるのは「指定買取人」、第四項及び第五項中「第百四十条第一項第二号」とあるのは「第百四十二条第一項第二号」、前項中「第百四十一条第二項」とあるのは「第百四十二条第二項」、「第百四十条第一項第二号」とあるのは「同条第一項第二号」、「株式会社」とあるのは「指定買取人」読み替えるものとする。

その他一般の対句構造

もちろん、準用規定や読替規定以外でも、一般に文章構造そのものから対句になっている場合も多くあります。

▽刑事訴訟法202条

第二百二条 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官、司法巡査はこれを司法警察員引致しなければならない。

▽民法237条1項

(境界線付近の掘削の制限)
第二百三十七条
 井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から二メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から一メートル以上の距離を保たなければならない。

対句構造における読点の打ち方

対句構造では、読点(「、」)の打ち方に関して、

  • 対句部分の中では、通常は読点を打つことになっている箇所であっても基本的には読点を打たない
  • 対句の接続のところにだけ読点を打つ

ということになっています。

たとえば、先ほど見たように、準用規定の基本形は

〇〇〇の規定は◇◇◇について準用する。

となっていて、法令における通常の用法どおり、主語の後に読点を打っています。

しかし、複数書く場合は

〇〇〇の規定は◇◇◇について〇〇〇の規定は◇◇◇について〇〇〇の規定は◇◇◇について準用する。

のように、主語の後の読点が省略されて、対句の接続部分だけに読点が打たれています。準用規定だけではなく、対句構造一般で、このような読点の打ち方になっています。

ただ、このようなルールは、対句が見えやすいようにそうしているというだけです。

これを機械的に守ることでかえって読みにくくなる場合などは本末転倒になってしまうので、あくまでも一応の基準であり、必要に応じて適宜別の書き方がなされます。

▽民法247条2項

 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときはその物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。

結び

今回は、法令作成を勉強しようということで、条文の文章の対句構造について見てみました。

契約書を書くときにはあまり使わないような気がしますが(普通はそこまで凝ったことを書かない)、たまに気になることはあるので、使おうと思えば使えるぐらいにしておくのがよいのではと思います。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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