契約書の形式 法制執務

法令作成を勉強しよう|定義づけの仕方と略称

2024年5月10日

今回は、法令作成を勉強しようということで、定義づけの仕方と略称を取り上げてみたいと思います。

法令作成には一定の決まった型みたいなものがありますが、当ブログでは、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

定義づけの仕方

定義は、ざっくりいうと、法文や契約書のなかで使用する用語の意味をはっきりさせるために書くものです。

定義づけの仕方としては、

  • 最初の方に定義規定を置く
  • 個々の規定の中で括弧書きにより定める

という、大きく2つのパターンがあります。

実際は、①と②の併用も多いですので、それも含めると、3パターンということになります。

定義規定での定義

定義規定を使うのは、その法律や契約書で使用する代表的な用語をまとめて定義づけしておくときです。

普通、法律や契約書の最初の方に置かれます。法律だと、2条に定義規定を置くという形が多いです(1条に目的規定を置いて、それに続く形)。

ただ、定義規定をわざわざ設けるような契約書は、契約書自体がかなり長いものが多いと思います。

もちろん、短い契約書で使っていけないということはないですが、普通はその必要はない場合が多いんじゃないかと思います。

定義規定の書き方2つ

定義規定の書き方には、法令の場合には、以下の2つの書き方があります。

▽一つ一つ項を重ねて書いていく書き方

(定義)
第〇条
 この法律において「〇〇」とは、ホニャララをいう。
2 この法律において「△△」とは、ヘニャララをいう。
3 この法律において「☆☆」とは、フニャララをいう。
4 …(略)…

▽柱書を書いたあと各号で列記する書き方

(定義)
第〇条
 この法律において、次の各号に定める用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 〇〇 ホニャララをいう。
 二 △△ ヘニャララをいう。
 三 ☆☆ フニャララをいう。
 四 …(略)…

契約書で書くときは、後者の書き方(各号列記)の方が多いように思います。

どこまで定義規定にまとめるか?

では、このようにした場合、定義づけしておきたい用語はすべて定義規定にまとめておくのか?というと、そんなことはないです。

むしろ、あまり使われない用語まで全部書くと煩雑になるので(定義規定が膨れる)、実際は、①と②のパターンが併用されていることがほとんどかと思います。

では、程度問題であるとすると、どこまで定義規定にまとめるか?という点が気になるところですが、これについては、明確な基準はないようです。

概ね、

  • 代表的な用語や、出現頻度の高い用語 →定義規定でまとめて定義する
  • 部分的に出てくるだけで、個々の規定で定めれば足りるような用語 →個々の規定の中で定義する

というのが、振り分けのイメージとして一般的かと思います。

要するに、そこのバランスを踏まえつつ、見やすいものにする、ということを意識しながらやっていけば十分かと思います。

個々の規定での定義

次に、個々の規定での定義ですが、定義規定が置かれるような長大な契約書は、実際のところそんなに多くないです(取引が大きいもの、例えば、M&Aに関する契約書は長いものが多い)。

普通は、定義規定を置くまでもなく、出現頻度が高い用語も含めて、個々の規定での定義づけで済ませている契約書が多いと思います(それで足りる)。

なので、むしろこのやり方をベースに考えておいた方がよいかと思います。

個々の規定では、括弧書きを使って定義しますが、実は、法令ではけっこういろいろパターンがあり、契約書を読み書きするときも参考になるものが多いです。

基本形

基本形は、定義する用語のすぐ後に、括弧書きでその用語の説明を書く、という形です。

つまり、

▽1回だけ使われる場合

…○○(ホニャララをいう。)…

▽以後も複数回使われる場合

…○○(ホニャララをいう。以下同じ。)…

と書きます。

▽民法13条1項10号

十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

逆に、

…ホニャララ(以下「○○」という。)…

のように、内容が先に来て、括弧書きの中で用語を書く形もあります。契約書ではこちらの方が多いかなと思います。

順序にかかわらず、内容的には、専門的な用語の意味を定義することもありますし、一般的にも見かける用語の意味を定義することもあります。

▽犯罪収益移転防止法2条2項40号(一般的にも見かける用語)

四十 それを提示し又は通知して、特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者(役務の提供の事業を営む者をいう。以下この号において同じ。)から有償で役務の提供を受けることができるカードその他の物又は番号、記号その他の符号(以下「クレジットカード等」という。)を…(略)…

一定のものを含んだり、除いたりしたうえで定義する場合

一定のものを含んだり、除いたりしたうえで定義する場合もあります。

この場合、

ホニャララ(~を含む。以下「〇〇」という。)

ホニャララ(~を除く。以下「〇〇」という。)

ホニャララ(~に限る。以下「〇〇」という。)

のように書きます。

また、基本形(用語の後に括弧書きで内容を説明)の形で、

〇〇(~を含む。以下同じ。)

〇〇(~を除く。以下同じ。)

〇〇(~に限る。以下同じ。)

のように書くこともできます。

例えば、

…おやつ(バナナを含む。以下同じ。)は、…
★バナナはおやつに含まれるかどうか疑義があるので、ここではおやつに含むことを明らかにしている

みたいな使い方です。

条項を限定して定義する場合

使用する範囲を限定して定義する場合もあります。

例えば、

▽基本形(用語の後に括弧書きで内容を説明)のとき

〇〇(ホニャララをいう。以下この条において同じ。)

▽逆の順序の形(括弧書きで用語を書く)のとき

ホニャララ(以下この条において「〇〇」という。)

などと書きます(「〇〇」がその条のなかで複数回出てくるときで、その条の中でだけその意味で使うというシチュエーションを想定)。

また、

〇〇(ホニャララをいう。次項において同じ。)

などと書くこともできます。

ただ、これらの限定して定義するやり方は、細かい調整ができる反面、同じ用語であるにもかかわらず使用箇所によって意味が違うケースが出てきて、テクニカルでわかりにくい面もあるので、使い過ぎは控えた方がよいとされています。

略称

これに対して、略称は、長い表現を繰り返すのは煩雑なので、簡潔にするために短い呼び方を決めるものです。

例えば、「アンチョビペーパーコーポレーション」(※管理人の考えたでたらめな名詞)と何度もくり返すのは煩雑なので、

…アンチョビペーパーコーポレーション(以下「アンチョコ」という。)…

みたいに略すことです。

例えば、「たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語」というアニメ(ラノベ原作)がありますが、「ラスダン」はいわば略称ですね(通称、愛称か?)。

基本形

略称の基本形は、

…ホニャララ(以下「○○」という。)…

のように、略称しようとするものが先にあり、続いて、括弧書きの中で略称する形になります。

定義の場合と同じように、一定のものを含んだり除いたりしたうえで略称したり、条項を限定して略称したりすることもできます。

例えば、

当校の生徒が遠足に持っていくおやつ(バナナを含む。以下「遠足用おやつ」という。)の額は、合計500円以内とする。
ここではバナナはおやつに含まれることを明らかにしたうえで略称している

みたいな使い方です。

略称を用いる主なパターンとしては、

  • 長い名詞の一部を用いて略称する場合
  • 複数のものをまとめて略称する場合で、最初のものに「等」とつけた略称にしたり、総括的な略称を用いる場合
  • 略称しようとするものの一部を組み合わせた略称を用いる場合
  • 修飾語などがついているときに、それを除いた略称を用いたり、内容を言い表すネーミング的な略称を用いる場合
  • 「特定」「指定」等を付けた略称を用いる場合

などがあるとされています(石毛正純「法制執務詳解《新版Ⅱ》」94~98頁等を参照)。

複数のものをまとめて略称する場合

上記②に関してですが、略称の前に複数のものが並んでいる場合は、どこまでを指して略称しているのかがわかるように注意する必要があります。

例えば、

A又はB(以下「〇〇」という。)

としてしまうと、Bだけを指すのか、AとBの両方を指すのかが一見明らかではないので、

  • Bだけを指す場合 →この部分で定義することは避けて、Bだけが登場する部分で略称する
  • AとBの両方を指す場合 →「A又はB(以下これらを「〇〇」という。)」のように書く

というふうにした方が、書き方としては適切ということです。内容からしてわかる場合もあるかもしれませんが。

また、同様に、

A、B、C及びD(以下「〇〇」という。)

としてしまうと、やはりどこまでを指して略称しているのか一見わからないので、まとめて略称するときは、

A、B、C及びD(以下これらを「〇〇」という。)

A、B、C及びD(以下「〇〇」という。)

A、B、C及びD(以下「〇〇」と総称する。)

A、B、C及びD(以下「」という。)

などとして、まとめて略称していることがわかるようにした方が、書き方としては適切ということになります。

これらのほか、契約書では、「A、B、C及びD(以下まとめて「〇〇」という。)」とか「A、B、C及びD(以下あわせて「〇〇」という。)」といった書き方も見かけます。

「単に」がついている場合

また、略称する括弧書きに

(以下単に「○○」という。)

というふうに、「単に」とついている場合もありますが、これは語感的なわかりやすさの問題でつけているだけで、どういう場合につける・つけないという明確な基準はないようです。

契約書でもたまに見かけたりしますし、自分が作るときにも、書いた方がしっくりくるように思うときがあります。

法令での主なパターンとしては、

  • 複数のものが並んでいるときにその最後の字句を略称にする場合
  • 複数のものが並んでいるときにその最初の字句を略称にする場合
  • 修飾語などがついているときにそれを除いた字句を略称にする場合

などに、(以下単に「〇〇」という。)というふうに略称することがあるとされています(前掲・石毛92~94頁等を参照)。

定義と略称の違い

定義と略称は似ているところもありますが、一応別物です。

定義は、用語の意味に社会通念上幅があったり、多義的な解釈の余地があるときに、どのような意味で使うのかを明らかにするためのものです。なので、本来的には、定義の対象になるのは、社会通念上一定の意味を有する用語です。これに対して、略称は、長い表現のくり返しを避けて簡潔に書くためのものです。

しかし、定義の方も、実際には、専門的なテクニカル用語を定義する必要がある場合も当然ありますし、略称の方も、単に縮めるだけでなく、別のネーミング的な表現などに置き換える場合もあります。こういうふうに、どちらにも膨らみがあるので、その境目は曖昧になってきます。

普段、契約書を読み書きする際も、

…ホニャララ(以下「○○」という。)…

という形が一番多いように思いますが、このときは定義も略語も同じ形になりますので、概念的には、どちらなのかという区別の議論が一応あり得ます。

この場合、社会通念上一定の意味を有する用語、あるいは法令での使用を通じて社会でそのようになることが意図されている用語であれば定義、そうでなければ略称、という区別の仕方があります(前掲石毛・102~104頁等を参照)。

ただ、契約書を書くときに、定義か略称かを概念的に区別する実益はほぼないように思いますので、あまり気にしなくてもよいだろうと思います。

そういう話がある、ということの参考までに一応触れてみました。

結び

今回は、法令作成を勉強しようということで、定義づけの仕方と略称について見てみました。

ちなみに、契約書あるあるですが、

以下「〇〇」という。

と書いているものの、その後2度と出てこないというケースが割とありますので、適度にキーワード検索などを使って、要らないときは使わないようにするのが吉です(あっても、特に実害はないですが)。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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