法制執務

法令用語を勉強しよう|「この限りでない」と「妨げない」

今回は、法令用語を勉強しようということで、「この限りでない」「妨げない」の意味を取り上げてみたいと思います。

法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち契約書を読み書きするときにも役立つものをピックアップします。

「この限りでない」も「妨げない」も、但書の語尾として使われます

「この限りでない」は、例外を表すときに契約書でもよく見かける一方、「妨げない」は、契約書ではあんまり見かけないですが(たまに見かける)、この二つは似たところもあるので一緒に見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

「この限りでない」の意味

本文の適用を一定の場合に排除する

「この限りでない」は、本文で書かれている原則の内容を、一定の場合に排除するときに使われます。

ただし、ナントカについては、この限りでない。

というように、但書とセットで使われます(但書の語尾として使われる)。

本文・但書という形式は、基本的に、原則・例外を表しているので、但書で「この限りでない」と書くと、本文の内容を否定することになるわけです。

正確に書くと、

「『本文・ただし書』の表現形式を用いるのは、原則と例外を対比させて規定する場合である。すなわち、本文で定められた原則的内容を特定の場合について否定し、排除する意味で『この限りでない』が用いられる。」

『最新 法令の読解法(四訂版)-やさしい法令の読み方-』(田島信威)264頁

とされています。

「この限りでない」は、法文でも、契約書でも(あるいは社内規程の類でも)、よく見かけますね。

試しに民法でキーワード検索してみると、約150ヶ所ありました。それだけよく使われるということかなと。

「この限りでない」の定め方の例

実例を見てみると、例えば、民法で一番最初に出てくる「この限りでない」は、

(未成年者の法律行為)
第五条
 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない

ですね(民法5条1項)。

未成年者を保護するために、未成年者は、原則として、単独で確定的に有効な法律行為を行えない(=親権者など法定代理人の同意を得ないといけない。得ていなければ後から取り消せる)ことになっています。

しかし、法律行為のうち、「単に権利を得る法律行為」又は「単に義務を免れる法律行為」については、取り消さなくても未成年者を害しないので、例外として、法定代理人の同意を得なくてもよいことになっています(単独で法律行為が可能)。

このことを、「ただし…この限りでない」という法令用語を用いて表現しています。

積極的な内容を規定したいときには使えない

本文の内容を打ち消すだけなので、「じゃあどうしたいのか?」という内容を積極的に定めたいときには使えません。

その場合は、このようにする、という内容を別途書く必要があります。

「~ない」と言っているだけなので、積極的な内容を規定したいときには適していないということです。

「妨げない」の意味

他の規定の適用に影響を与えないことを示す

「妨げない」は、他の規定の適用に疑義があるときに、影響を与えないことを示すときに使われます。

ただし、ナントカを妨げない。

というように、多くは但書の語尾として使われます(※但書とセットで使われない場合もある。後述)

正確に書くと、

「『妨げない』とか『妨げるものではない』という法令用語は、ある規定が設けられた結果、他の規定や制度との関係がどうなるのか若干の疑問を生じるような場合において、その関係を法令上明確化しようとして用いられる。すなわち、その規定が設けられても、依然として、ある制度なり、ある規定なりが働いていることを表現している。」

『最新 法令の読解法(四訂版)-やさしい法令の読み方-』(田島信威)265頁

とされています。

「妨げない」は、契約書ではそれほど見かけない気がします(管理人の感覚)。

試しに民法でキーワード検索すると、約40ヶ所でした。法令上も、「この限りでない」に比べて使用頻度はそれほどでもないのかなと。

「妨げない」の定め方の例

例えば、地方自治法197条には、以下のような定めがあります。

第百九十七条 監査委員の任期は、識見を有する者のうちから選任される者にあつては四年とし、議員のうちから選任される者にあつては議員の任期による。ただし、後任者が選任されるまでの間は、その職務を行うことを妨げない

また、一番身近でよく頭に思い浮かぶのは、解除は損害賠償を妨げない、という以下の条文ではないでしょうか(民法545条4項)。重要条文なので、馴染みがありますよね。

(解除の効果)
第五百四十五条
 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない

積極的な内容を規定したいときには使えない

「妨げない」も、「~ない」と言っているだけなので、積極的な内容を規定したいときには適していません

積極的に内容を定めたい場合は、このようにする、という内容を別途書く必要があります。

この点は「この限りでない」と同様ということですね。

但書とセットで使われない場合もある

「妨げない」は、但書としてではなく、ひとつの条文、ひとつの項に普通に使われることもあります。

例えば、振動規制法23条1項には、以下のような定めがあります。

(条例との関係)
第二十三条
 この法律の規定は、地方公共団体が、指定地域内に設置される特定工場等において発生する振動に関し、当該地域の自然的、社会的条件に応じて、この法律とは別の見地から、条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない

また、民事訴訟法55条4項には、以下のような定めがあります。

(訴訟代理権の範囲)
第五十五条
 訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。
2 訴訟代理人は、次に掲げる事項については、特別の委任を受けなければならない。
 一 反訴の提起
 二 訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
 三 控訴、上告若しくは第三百十八条第一項の申立て又はこれらの取下げ
 四 第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
 五 代理人の選任
3 訴訟代理権は、制限することができない。ただし、弁護士でない訴訟代理人については、この限りでない。
4 前三項の規定は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人の権限を妨げない

1項から3項までは訴訟上の任意代理権(普通に弁護士に頼むときの訴訟代理)について書いていますが、これらはいずれも訴訟上の法定代理人(親権者など)の代理権について影響を与えるものではないということを、「妨げない」を使って表現しています。

契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)

では、契約書などの作成・レビューのときにどう考えればいいか?ということなんですが(以下は管理人の私見です)。

「この限りでない」は、同じような内容を長々と書かなくてよくなり(本文と同じような内容を繰り返し書いて、最後に「ない」をつける)、文章が簡略化できます。実際、契約書でもよく見かけますので、スッキリした条項を書くために積極的に利用していいと思います。

例えば、民法5条1項も、

【仮】 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、法定代理人の同意を得ることを要しない

などと書いてもいいわけです。同じような言葉遣いをしている部分として、「認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。」(民法780条)といった表現があります。

が、あまり意味のないくり返しであるように思われますし、同じような関係になる箇所がいくつもあるなら、用法を決めておいて、「この限りでない」で済ませた方が簡潔ですよね。

民法5条1項では、本文ですでに「同意を得なければならない」と書いているので、同意が不要であること(=本文の適用を一定の場合に排除すること)を表すには、「この限りでない」で済ませた方が簡潔なわけです。

こういった用法を押さえて利用すれば、契約書などでも、スッキリした条項を書くのに役立ちます。

ポイント

ただ、本文の内容が非常に長い場合、どのような内容を否定しているのかわかりにくくなる場合があるように思いますので、その辺は気を付けた方がよいのではないかと思います(「この限りでない」って、どの限りでないの?という感じになることがある)。

そのような注意事項を書いているものは見かけないので、管理人の私見ですが。

特に、述語部分が複数ある場合などは、よくわからなくなるように思いますので、別の書き方を考えた方がよい気がします。

法令は、ひとつの条項にはひとつの内容を記述する、というのを基本にしていますが(文章が超大に長いものもありますがw)、契約書などは、必ずしもそれを守って作られているわけではないためです(作り方について法令を見本にしているだけで、従わなければならないというものでもない)。

なので、むやみに多用すればいいというものでもないと思います。

一方、「妨げない」は、契約書で見かけることって、ほとんどない気がします。上記の例で見たのと同じような「解除は損害賠償を妨げない」という内容が、約定解除の条項や、反社排除条項の解除に関連する項などで、チラホラ見られるぐらいの感じですかね。。

もちろん、使った方が読みやすくなると判断したなら、上記のような用法を踏まえたうえで使っていいと思います(使用を躊躇する必要もない)。単に、使いたいと思う場面があまりないのではないかと。

結び

今回は、法令用語を勉強しようということで、「この限りでない」「妨げない」の意味を書いてみました。

本記事のハイライトをまとめます。

  • どちらも、但書の語尾として使われる
  • 「この限りでない」は、本文に書かれた原則的内容を、一定の場合に排除するときに使われる
  • 「妨げない」は、他の規定の適用に影響を与えないことを示すときに使われる
  • どちらも、簡潔でわかりやすい条項を書くために役立つ
  • ただ、「この限りでない」は、本文の内容が長いときなどは、逆にわかりにくくならないか注意が必要

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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