今回は、法令用語を勉強しようということで、「ものとする」を取り上げてみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち契約書を読み書きするときにも役立つものをピックアップします。
「ものとする」という文末は、契約書でもよく見かける表現だと思いますし、文末に使うと何となく落ち着きが良く条項作成の際にもついつい多用してしまいますが、いま一度、法令用語としての使い方はどのようなものか見ておきたいと思います。
法令用語としては、「するものとする」で、「する・とする」と一緒に説明されることが多いようなので、一緒に見てみます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
先に、「する」「とする」から見てみます。
「する」の意味
「する」の意味は、法規範の内容を創設的に宣言するときに使われます。
”~する!”ということで、普通の日本語としての語感どおりだと(管理人的には)思います。
法令上そのように取り扱う、ということです。
「する」というより、「●●する」を含めた、動詞の終止形一般の意味合いだと捉えた方がよさそうです。
正確にいうと、
「法規範の内容を創設的に宣言する場合には、次に掲げる例に見られるように、『…する』・『…を行う』といった動詞の終止形が用いられる。」
「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)97頁
とされています。
例えば、
(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。
(未成年被後見人に代わる親権の行使)
第八百六十七条 未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。
など、文末が一般的な動詞の終止形となっているものはいくらでもありますね(民法162条1項、882条、867条1項)。
また、動詞の終止形のことなので、否定形の場合(「●●しない」)もあります。
例えば、
第二百十三条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
(留置権の内容)
第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
など、動詞が否定形で終わるものも、いくらでもありますね(民法213条、295条)。
また、以下のように、ちょうど「●●する」「●●しない」が、ひとつの条文の中で両方出ているものもあります(民法522条)。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
「とする」の意味
「とする」の方は、やや拘束的な意味合いが強い場合に使われるようです。
例えば、
(不動産及び動産)
第八十六条 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
(親族の範囲)
第七百二十五条 次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
第百三十五条 懲罰は、左の通りとする。
一 公開の議場における戒告
二 公開の議場における陳謝
三 一定期間の出席停止
四 除名
第百四十条 普通地方公共団体の長の任期は、4年とする。
などがあります(民法86条、725条、地方自治法135条1項、140条)。
”拘束的な意味合い”というのは、「こうすることにしたので、それに反するものは認めない」(例外が必要な場合にはそれもまたきちんと定める)、というニュアンスです。
正確にいうと、
「法令上創設的であると同時に拘束的な意味を持たせようとする場合には『…とする』という表現が用いられる。この場合には、その規定によって法規範の内容を創設するとともに、それに反してはならないという拘束的な意味もその中に含まれる。」
「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)98頁
とされています。
例えば、
第百九十五条 普通地方公共団体に監査委員を置く。
2 監査委員の定数は、都道府県及び政令で定める市にあつては四人とし、その他の市及び町村にあつては二人とする。ただし、条例でその定数を増加することができる。
のように(地方自治法195条)、例外が必要な場合にはそれもきちんと定める必要があります(下線部の但書)。
「するものとする」の意味
「するものとする」は、日常用語としてはあまり見かけない、法令用語に独特の用語で、以下のように微妙なニュアンスの違いがあるとされています。
これはなかなか、普段、何気なく契約書を書いているだけだと気付かないのではないかと(自戒を含む)。
①一定の行為をややソフトに義務づける場合
「しなければならない」よりも、ややソフトなニュアンスでの義務付けを示します。
「しなければならない」ほど拘束力が強くなく、取扱いの方針や原則を宣言する、というニュアンスです。”~するものとする”ということで、日本語の語感としても何となくわかる気がします。
法令用語の意味としては、行政機関に向けて使われることが多いとされています。
「しなければならない」とまで言わなくても、相手が行政機関の場合は、取り扱いの方針や原則を宣言すればそれに従って行動することが期待されるので、「ものとする」というやんわりとした義務付けの言葉がチョイスされています。
例えば、
(総量削減基本方針)
第四条の二
5 環境大臣は、総量削減基本方針を定め、又は変更したときは、これを関係都道府県知事に通知するものとする。
などがあります(水質汚濁防止法4条の2第5項)。
”ややソフト”というのは、
「場合によっては、合理的な理由があればこれに従わないということもあり得ます。」
「法令読解の基礎知識」(長野秀幸)38頁
とか、
「これらの場合には、『しなければならない』という意味に近いが、そこには若干のゆとりがもたせてあって、断定的に拘束するというよりは、取扱いの原則や方針を宣言するといったニュアンスがこめられている。」
「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)99頁
などとされています。
もっとも、相手が行政機関であっても、はっきりと義務付けしたい場合は、「しなければならない」と明記します。
特に、意図的に使い分けていることが読み取れる場合は、
「意識してこの両者(管理人注:『しなければならない』と『するものとする』)を使い分けているようなときには、『するものとする』には若干の裁量の余地があるということができる。」
「最新 法令用語の基礎知識」(三訂版)(田島信威)99頁
などとされています。
例えば、以下の例を見ると(国民生活安定緊急措置法4条1項、5条1項)、
第四条 主務大臣は、前条第一項の規定による指定があつたときは、その指定された物資(以下「指定物資」という。)のうち取引数量、商慣習その他の取引事情からみて指定物資の取引の標準となるべき品目(以下「標準品目」という。)について、遅滞なく、標準価格を定めなければならない。
第五条 主務大臣は、標準品目の物資の標準的な生産費、輸入価格若しくは仕入価格又は需給状況その他の事情に著しい変動が生じた場合において、特に必要があると認めるときは、標準価格を改定するものとする。
となっており、5条1項の方が、「特に必要があると認めるときは…ものとする」ということで、4条1項の「なければならない」に比べると、義務付けが弱くなっていることが見てとれます(『最新 法令用語の基礎知識』(三訂版)(田島信威)100頁参照)。
②解釈上の誤解を避けるために使われる場合(「適用があるものとする」)
2つ目は、解釈上の誤解を避けるために使われる場合です。
これは、
適用があるものとする。
という形で使われます。
「適用がある」と言い切ってしまうと、”本来は適用がないのに、創設的に適用を認めた規定である”と誤解される余地があるので、誤解を避けるために、念のため、「適用があるものとする」という表現が使われる場合です。
例えば、
(目的)
第一条
2 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。
などがあります(労働組合法1条2項)。
刑法35条は、正当業務行為としての違法性阻却について規定していますが、労働争議行為との関係については、
「労働組合法1条2項本文は、『刑法35条の規定は労働組合の団体交渉その他の行為であって前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用がある』ものとすると規定しているが、これは、正当な労働争議行為が憲法28条の保障する権利の行使であることからくる当然の結論を注意的に規定したものに過ぎない(最大判昭52.5.4集31-3-182)」
「条解 刑法」(第2版)(前田雅英ほか 編著)
と解説されています。
つまり、本来的に適用があるわけですね。でも、「適用がある」と言い切ってしまうと、”本来は適用がないのに、創設的に適用を認めた規定である”と誤解される余地がある、ということです。
③法文上の語感から使われている場合
3つ目は、語感からつけられたもので、特に意味はない場合です。
例えば、
(管理)
第五条 海岸保全区域の管理は、当該海岸保全区域の存する地域を統括する都道府県知事が行うものとする。
などがあります(海岸法5条1項)。
こういう場合は、なくても意味に変わりはないことになります。
また、準用規定における読替規定も、この用例だとされています。
読替規定というのは、「読み替えるものとする。」という法文のことで、慣用的に「ものとする」とセットで使われています。意味としては、「読み替える」と言い切ってしまっていいはずですが、法文上、「ものとする」をつける習慣になっているものです。
準用規定の後段で使われることが多く、
この場合において、第●条中「ナントカ」とあるのは「カントカ」と読み替えるものとする。
という形で使われます。
例えば、
(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
第九百三十六条
3 第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第九百二十七条第一項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。
(聴聞に関する手続の準用)
第三十一条 第十五条第三項及び第十六条の規定は、弁明の機会の付与について準用する。この場合において、第十五条第三項中「第一項」とあるのは「第三十条」と、「同項第三号及び第四号」とあるのは「同条第三号」と、第十六条第一項中「前条第一項」とあるのは「第三十条」と、「同条第三項後段」とあるのは「第三十一条において準用する第十五条第三項後段」と読み替えるものとする。
などがあります(民法936条3項、行政手続法31条)。
たしかに、「ものとする」はなくてもよさそうな感じですね(でも、読替規定では付けるのが習慣になっている、ということ)。
契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)
では、契約書などの作成・レビューのときにどう考えればいいか?ということなんですが(以下は管理人の私見です)。
「する・とする」は、何気なく(特に意識せず自然に)契約書などで使っていると思いますが、何気なく使っているときの使い方と、法令用語としての意味との間にあまりギャップがないような気がしますので、法令用語としての意味を改めてさらっと見ておけばそれでよいのかなと。
「する」は、要するに動詞の終止形一般のことなので、そういうルールをつくっている(=法規範の内容を創設している)というのは、言ってしまえば当たり前のことですしね。
「するものとする」は、契約書などでは、義務付けか、単なる語感のどちらかで使用されていることが多いのではないかなと思います(管理人の感覚)。
「しなければならない」ばっかりだと、読んでてキツい感じがするので、「ものとする」でちょっとソフトにしようとして使われていることが多いと感じます。
そこでは基本的に裁量を認める意図はないような気がしますが、法令用語としての意味を参考にすると、「しなければならない」とはっきり書いた方がいい場合もあるかもしれませんね。
あるいは、「しなければならない」とまで書かなくても、「する・とする」の項目で見たように、単に動詞の終止形で止めてしまってもいいと思います。内容が義務を表すものになっていれば、それで規範は創設されている(=合意は形成されている)と考えられますので、「ものとする」がない方が、却って意味に曖昧さがない気がします。
また、単なる語感として使っているところがあまりにも多いときは、「ものとする」は削った方がスッキリする場合も多いように思います(文末が「ものとする」ばっかりになっているような契約書もある)。
例えば、「●●する」のところで見た例を引き合いに出すと、
【仮】 第八百六十七条 未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行うものとする。
などと書いても別にいいわけですが(※下線部は管理人が加筆)、この「ものとする」は別に意味はないわけなので、削った方がスッキリしますよね。
そのあたりを重視してか、逆に、文末の「ものとする」を、意図して徹底的に削っていると思われるような契約書もたまに見かけますね。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、契約書でもよく見かける「ものとする」を取り上げてみました。
本記事のハイライトをまとめます。
- 「する」「しない」という動詞の終止形は、ルールの創設(法規範を創設的に宣言するもの)
- 「とする」は、やや拘束的な意味合いが強い場合に使われる
- 「するものとする」は、法令用語独特の言い回しで、場面によって微妙なニュアンスの違いがある
- 契約書での「するものとする」は、つい多用しがちだが、法令用語としての意味を参考に、「しなければならない」にした方がよいか、削った方がよいかなども考えながら使うべし(私見)
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献