犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|ハイリスク取引とは

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、ハイリスク取引とは何か、ということについて書いてみたいと思います。

 

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

 

メモ

 本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

 

ハイリスク取引とは(法4条2項)

ハイリスク取引というのは、ひとことで言うと、マネー・ロンダリングに利用されるおそれが特に高い取引のことで、

①なりすましの疑いがある取引又は本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引(1号)

②特定国等に居住・所在している顧客等との取引(2号)

③外国PEPs(Politically Exposed Personsの略。重要な公的地位にある者、の意)との取引(3号)

である。

 

ハイリスク取引の説明で管理人的にわかりやすいと思うのは、犯収法のリーフレットに書いている文章である(2枚目の右下の方)。

 

▽ 平成28年10月施行 改正犯罪収益移転防止法リーフレット|掲載ページはこちら(JAFICトップページの下の方)

※ハイリスク取引とは、以下に該当する取引を言います。
・ 過去の契約の際に確認した顧客等または代表者等になりすましている疑いがある取引。
・ 過去の契約時の確認の際に確認事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引。
・イラン・北朝鮮に居住、所在する者との取引。
・ 外国の重要な公的地位にある者等との取引。

 

端的かつ簡潔でわかりやすい。ちなみに、1つめ(=なりすまし取引)と2つめ(=偽り取引)が➀にあたる。3めが②、4つめが③である。

 

ハイリスク取引のときは、厳格な顧客管理が必要とされ、具体的には、

〇取引時確認のうち本人特定事項と実質的支配者の確認をより厳格な方法で行う

〇その取引が200万円を超える財産の移転を伴うものである場合には資産及び収入の状況の確認

をすることになっている。

 

条文を見てみる。

 

▽犯罪収益移転防止法4条2項

(取引時確認等)
第四条 (略)
2 特定事業者は、顧客等との間で、特定業務のうち次の各号のいずれかに該当する取引を行うに際しては、主務省令で定めるところにより、当該顧客等について、前項各号に掲げる事項並びに当該取引がその価額が政令で定める額を超える財産の移転を伴う場合にあっては、資産及び収入の状況(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、前項第一号に掲げる事項)確認を行わなければならない。この場合において、第一号イ又はロに掲げる取引に際して行う同項第一号に掲げる事項の確認は、第一号イ又はロに規定する関連取引時確認を行った際に採った当該事項の確認の方法とは異なる方法により行うものとし、資産及び収入の状況の確認は、第八条第一項の規定による届出を行うべき場合に該当するかどうかの判断に必要な限度において行うものとする。
一~三 (略)

 

以下、個別に見てみる。

 

①なりすまし取引又は偽り取引(1号)

1号は、「なりすまし取引」と「偽り取引」をハイリスク取引として規定している。

 

なりすまし取引(1号イ)とは、冒頭のリーフレットで見たとおり、過去の契約の際に確認した顧客等または代表者等になりすましている疑いがある取引である。

 

▽法4条2項1号

一 次のいずれかに該当する取引として政令で定めるもの
 イ 取引の相手方が、その取引に関連する他の取引の際に行われた前項若しくはこの項(これらの規定を第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)又は第四項の規定による確認(ロにおいて「関連取引時確認」という。)に係る顧客等又は代表者等(第六項に規定する代表者等をいう。ロにおいて同じ。)なりすましている疑いがある場合における当該取引
 ロ (略)

 

誰が何になりすましているのかというと、今やろうとしている取引の相手方が、関連する過去の取引の際に行った取引時確認(=関連取引時確認)のときの相手方になりすましているのではないか、ということである。つまり別人なんじゃないのということである。

 

もうひとつの偽り取引(1号ロ)とは、これも冒頭のリーフレットで見たとおり、過去の契約時の確認の際に確認事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引である。

 

▽法4条2項1号

一 次のいずれかに該当する取引として政令で定めるもの
 イ (略)
 ロ 関連取引時確認が行われた際に当該関連取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等(その代表者等が当該事項を偽っていた疑いがある顧客等を含む。)との取引

 

こちらはシンプルに、今やろうとしている取引の相手方は、関連する過去の取引の際に行った取引時確認(=関連取引時確認)のときに、確認事項を偽っていたのではないか、ということである。つまり前にウソをついていたんじゃないのということである。

 

なお、この①でいうハイリスク取引、つまり、上記の”今やろうとしている取引”というのは、特定取引に限られていないことに注意が必要である。

 

パブコメでは、それぞれ以下のように解説されている。

 

平成20年1月30日パブリックコメント(26頁)別紙2の1(12)|掲載ページはこちら

質問の概要 「なりすましている疑いがある場合」「偽っていた疑いがある」は、どのように判断するのか。

質問に対する考え方 前者は、取引相手方が、①本人確認済みの顧客等か、②①から取引を依頼される代表者等のいずれでもない場合に①又は②を装って取引をしているときや、①又は②に該当する者が他の①又は②に該当する者を装って取引を行う場合が該当します。
 後者は、顧客等及び代表者等双方の本人特定事項に偽りがないかが判断基準となります 。 この場合、「偽り」とは、告げるべき情報を隠匿することも含まれます。

 

最後に、どちらも「政令で定めるもの」とあるので、施行令(政令)を見てみる。

 

▽施行令12条1項

第十二条 法第四条第二項第一号に規定する政令で定める取引は、その締結が同条第一項に規定する特定取引に該当することとなる契約に基づく取引であって、次の各号のいずれかに該当するものとする。
 一 その取引の相手方が当該契約の締結に際して行われた取引時確認(当該契約の締結が他の取引の際に既に取引時確認を行っている顧客等との間で行う取引であるため法第四条第三項の規定により同条第一項の規定を適用しないこととされる取引に該当する場合にあっては、当該取引時確認。次号において「契約時確認」という。)に係る顧客等又は代表者等になりすましている疑いがある場合における当該取引
 二 契約時確認が行われた際に当該契約時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等(その代表者等が当該事項を偽っていた疑いがある顧客等を含む。)との間で行う取引
2~3 (略)

 

②特定国等に居住・所在している顧客等との取引(2号)

特定国等というのは、マネー・ロンダリング防止に関する制度の整備が十分に行われていないと認められる国または地域のことで、政令でイランと北朝鮮が指定されている。

 

▽法4条2項2号

二 特定取引のうち、犯罪による収益の移転防止に関する制度の整備が十分に行われていないと認められる国又は地域として政令で定めるもの(以下この号において「特定国等」という。)に居住し又は所在する顧客等との間におけるものその他特定国等に居住し又は所在する者に対する財産の移転を伴うもの

 

▽施行令12条2項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引等)
第十二条 (略)
2 法第四条第二項第二号に規定する政令で定める国又は地域は、次に掲げるとおりとする。
一 イラン
二 北朝鮮
3 (略)

 

③外国PEPs(Politically Exposed Persons。重要な公的地位にある者)との取引(3号)

外国PEPsというのは、以下のような人々である。

 

① 外国の元首
② 外国において以下の職にある者
 ・我が国における内閣総理大臣その他の国務大臣及び副大臣に相当する職
 ・我が国における衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長又は参議院副議長に相当する職
 ・我が国における最高裁判所の裁判官に相当する職
 ・我が国における特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表又は全権委員に相当する職
 ・我が国における統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、海上幕僚副長、航空幕僚長又は航空幕僚副長に相当する職
 ・中央銀行の役員
 ・予算について国会の議決を経、又は承認を受けなければならない法人の役員
③ 過去に①または②であった者
④ ①~③の家族
⑤ ①~④が実質的支配者である法人

 

PEPs(政府高官)は、その権限や立場を悪用して、マネーロンダリングの犯罪又はその前提犯罪(贈収賄や業務上横領等)を犯したり、テロに対する資金供与を行うおそれがあるということで、FATFは、PEPsやその家族等(PEPs等)との取引について、強化した顧客管理の対象とすることを求めている、とされている。
(「詳説 犯罪収益移転防止法・外為法」(中崎隆、小堀靖弘)78頁)

 

FATFとは、Financial Action Task Forceの略で、マネーロンダリング対策のための政府間機関のことである。

 

また、こういう解説もある。社会的地位が高いのでマネーロンダリングが判明しにくかったり名義が悪用されやすい、ということのようである。
(参考リンク:改正犯罪収益移転防止法および同政省令のポイントとは?|銀行員.com

 

条文を見てみる。法律には具体的なところは書かれていない。

 

▽法4条2項3号

三 前二号に掲げるもののほか、犯罪による収益の移転防止のために厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引として政令で定めるもの

 

具体的には、施行令以下で定められている。

 

1号が外国PEPs自身または過去にそうであった者(上記①~③)、2号がその家族(上記④)である。3号を見ると、外国PEPsが実質的支配者になっている法人(上記⑤)との取引についても、ハイリスク取引とされていることがわかる。

 

▽施行令12条3項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引等)
第十二条 (略)
2 (略)
3 法第四条第二項第三号に規定する政令で定める取引は、次に掲げる顧客等との間で行う同条第一項に規定する特定取引とする。
一 外国の元首及び外国の政府、中央銀行その他これらに類する機関において重要な地位を占める者として主務省令で定める者並びにこれらの者であった者
二 前号に掲げる者の家族配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。)
三 法人であって、前二号に掲げる者がその事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者であるもの

 

1号の重要な地位というのは、施行規則15条に書かれている。

 

▽施行規則15条

(外国政府等において重要な地位を占める者)
第十五条 令第十二条第三項第一号に規定する主務省令で定める者は、外国において次の各号に掲げる職にある者とする。
 一 我が国における内閣総理大臣その他の国務大臣及び副大臣に相当する職
 二 我が国における衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長又は参議院副議長に相当する職
 三 我が国における最高裁判所の裁判官に相当する職
 四 我が国における特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表又は全権委員に相当する職
 五 我が国における統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、海上幕僚副長、航空幕僚長又は航空幕僚副長に相当する職
 六 中央銀行の役員
 七 予算について国会の議決を経、又は承認を受けなければならない法人の役員

 

しかし、外国PEPsであるかどうかなんてどうやったらわかるんだ?ということであるが、パブコメでは、有料DB、無料DB、顧客から申告を求める方法などが書かれている。申込用紙にチェック欄を設けて記入を求めることも一つの方法として挙げられている。

 

▽平成27年9月18日パブリックコメント:参考リンク

22 顧客等が外国PEPsであることの確認は、具体的にどのような方法で行えばよいか。

顧客等が外国PEPsであることの確認は、商業用データベースを活用して確認する方法のほか、インターネット等の公刊情報を活用して確認する方法顧客等に申告を求める方法等が考えられ、特定事業者がその事業規模や顧客層を踏まえて、各事業者において合理的と考えられる方法により行われることとなり、確認ができた範囲内において厳格な顧客管理を行うこととなります。

25 顧客等が外国PEPsであることの確認の方法として、顧客等からの申告を受ける方法を用いる場合、例えば、申込用紙にチェック欄(外国PEPsの該当性を確認する項目)を設けて記入を義務づけるなど、積極的に実施する必要はあるか。

顧客等が外国PEPsであることの確認を、顧客等に申告を求めることにより行う場合において、その申告を求める具体的な方法は、各特定事業者が、その事業規模や顧客層を踏まえて合理的と考えられる方法により行われることとなります。申込用紙にチェック欄を設けて記入を求めることも1つの方法として考えられます。

 

また、外国PEPsの「外国」というのは、国籍とか居住地のことではないので、注意が必要である(上記パブコメ)。

26 顧客等が日本人である場合は、外国PEPsであるかどうかの確認は、当該日本人が非居住者である場合に限り、行うこととしてよいか。

日本に居住する日本人が外国PEPsである可能性もあるため、顧客等が日本人である場合であっても、確認の対象を日本に居住していない者に限定することは適切ではありません。

 

なお、じゃあ国内PEPsはどうなの?というと、こちらは条文の文言上もわかるように、ハイリスク取引には入っていない。

 

つまり、我が国におけるPEPsの定義は、外国PEPsに限定されている。

 

「平成26年改正犯罪収益移転防止法及び下位政省令(平成28年10月1日全面施行)に関する資料」4頁目参照|掲載ページはこちら(JAFICホームページ))

我が国におけるPEPsの定義

→外国PEPsに限定

 

結び

犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、ハイリスク取引とは何かということについて書いてみました。

 

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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