組織再編

組織再編|新設分割-労働契約承継法の手続(協議・通知・異議申出など)

今回は、組織再編ということで、新設分割における労働契約承継の手続について見てみたいと思います。

会社分割につき労働契約承継の特例を定めるものとして、労働契約承継法(「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」)により規定されています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

労働契約承継法とは

最初に、労働契約承継法が何のためにあるのか?という位置づけについて確認してみます。

まず、労働契約の承継には、本来は労働者の個別の承諾が必要です(民法625条1項参照)。

▽民法625条1項

(使用者の権利の譲渡の制限等)
第六百二十五条
 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。

しかし、会社分割は事業単位で権利義務を包括承継するものなので(労働契約もその中に含まれる)、労働者の個別の同意なく、労働契約が当然に承継されてしまいます。つまり、会社の意思のみによって、承継される労働者の範囲を一方的に決めることができてしまうということです。

そこで、労働契約承継法は、労働者を保護するため、労働契約承継の要件・効果について会社法の特例(一定の労働者保護手続)を定めています。

▽承継法1条

(目的)
第一条
 この法律は、会社分割が行われる場合における労働契約の承継等に関し会社法(平成十七年法律第八十六号)の特例等を定めることにより、労働者の保護を図ることを目的とする。

イメージがわきやすいように感覚的にいうと、

  • 甲社に勤めていたが、自分の担当しているX事業が会社分割(新設分割)で乙社にカーブアウトされることになり、「自分は乙社に連れていかれるのかー」という感じになる
  • あるいは、自分は移籍しないことになっており、「えっ!自分は乙社に連れていってもらえないの!?」という感じになる
  • 逆に、X事業だけの担当ではなかったが、自分は必要な人員として乙社に移籍することになっており、「えっ!自分は関係ないと思っていたのに、乙社に連れていかれるの!?」という感じになる

といった場合があるということです

以下、その手続の内容について見てみたいと思います。

本記事は新設分割のケースに焦点を当てており、また、労働組合がある場合や労働協約の承継に関しては基本的に割愛しています

労働契約承継法の手続

承継法による労働者保護手続には、

  • 労働者の理解と協力を得るための手続(7条措置)
  • 労働者との個別協議(附則5条協議)
  • 労働者等への通知(2条通知)
  • 異議申出

があります(※時系列に並べた場合)。

以下、それぞれにつき、誰に(対象労働者)・いつ(時期)・何を(対象事項)の3点を中心に見てみます。

01|労働者の理解と協力を得るための手続(7条措置)

分割会社は、会社分割にあたり、労働者の理解と協力を得るよう努める義務があるとされています(法7条)。

▽承継法7条

(労働者の理解と協力)
第七条
 分割会社は、当該分割に当たり、厚生労働大臣の定めるところにより、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする。

これだけだとよくわかりませんが、”労働者の理解と協力を得る”のもう少し具体的な内容は、規則4条で定められており、協議その他これに準ずる方法とされています。

そのため、通称的には「7条協議」とか「7条措置」とか呼ばれます

▽承継法規則4条

(労働者の理解と協力)
第四条
 分割会社は、当該会社分割に当たり、そのすべての事業場において、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとする。

対象労働者

対象労働者は、上記で「その雇用する労働者」(法7条)とされているように、分割会社の全労働者を指しますが、実際の相手としては

  • 労働組合がある場合 →労働組合
  • 労働組合がない場合 →過半数代表者

が想定されています(規則4条)。

手続の時期

この7条措置は、次に見る附則5条協議の開始までに行われる必要があり、その後も必要に応じて適宜行われることとされています(指針)。

▽承継法指針 第2-4-⑵-ニ

 開始時期等
 法第7条の手続は、遅くとも商法等改正法附則第5条の規定に基づく協議の開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われるものであること。

対象事項

7条措置の対象事項(労働者の理解と協力を得るよう努める事項)としては、

  • 会社分割をする背景と理由
  • 会社分割の効力発生日以後における債務の履行の見込みに関する事項
  • 主従事労働者(承継される事業に主として従事する労働者)に該当するか否かの判断基準
  • 労働協約の承継に関する事項
  • 会社分割にあたり、労働者との間に生じた問題の解決手続
    (ex. 主従事労働者に該当するか否かなどの意見の相違)

などが挙げられています(指針)。

▽承継法指針 第2-4-⑵-ロ

 対象事項
分割会社がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、次のようなものがあること。
(イ) 会社分割をする背景及び理由
(ロ) 効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
(ハ) 労働者が法第2条第1項第1号に掲げる労働者に該当するか否かの判断基準
(ニ) 法第6条の労働協約の承継に関する事項
(ホ) 会社分割に当たり、分割会社又は承継会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続

02|労働者との個別協議(附則5条協議)

分割会社は、労働者等への通知期限日(承継法2条1項。具体的には株主総会の2週間前の日の前日)までに、労働者と協議をすることが義務づけられています(商法等改正法附則5条1項)。

紛らわしいのですが、これは承継法ではなく、昔の商法等の改正法の附則の中で定められています(しかも、会社法制定の際にこの附則も改正されている)

通称的には「5条協議」などと呼ばれますが、承継法の5条を見ても出てきません。そのため、本記事では「附則5条協議」としています

▽商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号)附則5条

附則
(労働契約の取扱いに関する措置)
第五条
 会社法(平成十七年法律第八十六号)の規定に基づく会社分割に伴う労働契約の承継等に関しては、会社分割をする会社は、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成十二年法律第百三号)第二条第一項の規定による通知をすべき日までに、労働者と協議をするものとする。
 前項に規定するもののほか、同項の労働契約の承継に関連して必要となる労働者の保護に関しては、別に法律で定める。

7条措置と附則5条協議の違い

 先ほど見た7条措置との違いは、7条措置が全体協議であるのに対し(分割会社に勤務する労働者全体の理解・協力を得る)、附則5条協議は個別協議(承継事業に従事する労働者との個別協議)です。

▽承継法指針 第2-4-⑴-ロ(※【 】は管理人注)

 法第7条の労働者の理解と協力を得る努力との関係
 当該協議【=附則5条協議】は、承継される事業に従事する個別労働者の保護のための手続であるのに対し、法第7条の労働者の理解と協力を得る努力は、下記⑵のとおり、会社分割に際し分割会社に勤務する労働者全体の理解と協力を得るためのものであって、実施時期、対象労働者の範囲、対象事項の範囲、手続等に違いがあるものであること。

 また、7条措置が努力義務であるに対し、附則5条協議は法的義務です。協議の成立までは要件となっていないものの、附則5条協議の手続そのものを怠った場合(協議義務に違反した場合)は、分割手続の瑕疵として無効原因となり得ます。

▽承継法指針 第2-4-⑴-へ

 会社分割の無効の原因となる協議義務違反等
 商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合における会社分割については、会社分割の無効の原因となり得るとされていることに留意すべきであること。
 また、最高裁判所の判例において、商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議が全く行われなかった場合又は協議が行われた場合であっても著しく不十分であるため、同条が当該協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、法第2条第1項第1号に掲げる労働者は法第3条に定める労働契約の承継の効力を個別に争うことができるとされていることに留意すべきであること。

対象労働者

上記のように附則5条では単に「労働者」としか定められていませんが、

  • 承継事業に従事する労働者(※主として従事か従として従事かを問わない)のほか、
  • 承継事業に従事していない労働者だが分割計画に労働契約承継の定めがあるもの

が個別協議の対象者と解されています(指針)。

▽承継法指針 第2-4-⑴-イ

 労働者との事前の協議
 商法等改正法附則第5条の規定により、分割会社は、法第2条第1項の規定による通知をすべき日(以下「通知期限日」という。)までに、承継される事業に従事している労働者及び承継される事業に従事していない労働者であって分割契約等にその者が当該分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがあるものと、会社分割に伴う労働契約の承継に関して協議をするものとされていること。

手続の時期

上記のように附則5条では労働者等への通知期限日までとするのみで、いつからか(開始時期)については定められていませんが、指針では、通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始するものとされています。

▽承継法指針 第2-4-⑴-ホ

 協議開始時期
 分割会社は、通知期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始するものとされていること。

対象事項

個別協議の対象事項は、以下のように説明事項と協議事項に分けることができます(指針)。

個別協議の対象事項

  • 説明事項
    • 会社分割の効力発生日以後その労働者が勤務することとなる会社の概要
    • 会社分割の効力発生日以後における債務の履行の見込みに関する事項
    • その労働者が主従事動労者に該当するか否かの考え方等
  • 協議事項
    • その労働者にかかる労働契約の承継の有無
    • 承継するとした場合、または承継しないとした場合のその労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他の就業形態等

▽承継法指針 第2-4-⑴-イ

 分割会社は、当該労働者に対し、当該効力発生日以後当該労働者が勤務することとなる会社の概要、効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項、当該労働者が法第2条第1項第1号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされていること。
 分割会社は、事業を構成するに至らない権利義務の分割の場合において、分割契約等に労働契約の承継の定めのない労働者のうち、当該権利義務の分割が当該労働者の職務の内容等に影響しうるものに対しては、法第7条の労働者の理解と協力を得る努力とは別に、職務の内容等の変更があればその説明を行う等、一定の情報を提供することが望ましいこと。

03|労働者等への通知(2条通知)

分割会社は、通知期限日までに、所定事項を書面により通知しなければならないとされています(法2条1項)。

通知の方法は「書面により」とのみ定められているように、電子媒体(電子メールや社内イントラなど)ではできないようになっています(FAXは可)。その重要性から、確実に通知することに重きが置かれているためです(承継法Q&A【Q61】参照)。

労働者「等」への通知というのは、労働組合との間で労働協約が締結されている場合には、労働組合に対しても通知義務があるからですが(法2条2項)、本記事では割愛しています

▽承継法2条1項

(労働者等への通知)
第二条
 会社(株式会社及び合同会社をいう。以下同じ。)は、会社法第五編第三章及び第五章の規定による分割(吸収分割又は新設分割をいう。以下同じ。)をするときは、次に掲げる労働者に対し、通知期限日までに、当該分割に関し、当該会社が当該労働者との間で締結している労働契約を当該分割に係る承継会社等(吸収分割にあっては同法第七百五十七条に規定する吸収分割承継会社、新設分割にあっては同法第七百六十三条第一項に規定する新設分割設立会社をいう。以下同じ。)が承継する旨の分割契約等(吸収分割にあっては吸収分割契約(同法第七百五十七条の吸収分割契約をいう。以下同じ。)、新設分割にあっては新設分割計画(同法第七百六十二条第一項の新設分割計画をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)における定めの有無、第四条第三項に規定する異議申出期限日その他厚生労働省令で定める事項書面により通知しなければならない
一・二 (略)

対象労働者

通知の対象労働者は、

  • 主従事労働者(承継される事業に主として従事する労働者)(1号)
  • 主従事労働者以外の労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがあるもの(2号)

となっています。

上記①には、承継の対象となる労働者だけでなく、主従事労働者だが承継されない労働者も含む点に注意が必要です。まとめると、以下のようにイメージしておくとよいです。

通知の対象労働者

主従事労働者(1号) 承継される
承継されない
主従事労働者以外の労働者(2号) 承継される

▽承継法2条1項1号・2号(※上記条文の省略部分)

一 当該会社が雇用する労働者であって、承継会社等に承継される事業に主として従事するものとして厚生労働省令で定めるもの
二 当該会社が雇用する労働者(前号に掲げる労働者を除く。)であって、当該分割契約等にその者が当該会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがあるもの

【補足】主従事労働者かどうかの判断時点

 主従事労働者かどうかの判断時点は、分割計画作成日ですが(「分割契約等を…作成する日」規則2条)、具体的には、事前備置書類の備置開始時点と解するのが適当とされています(承継法Q&A【Q26】)。

 ただし、これらの基準によることが適当でない場合もあるため、主従事労働者であっても、分割計画作成日以後に主従事労働者でなくなることが明らかな場合は除かれています(1号の括弧書き参照)。逆に、主従事労働者でなくても、分割計画作成日以後に主従事労働者になることが明らかな場合は含まれます(2号参照)。

▽承継法規則2条

(承継される事業に主として従事する者の範囲)
第二条
 法第二条第一項第一号の厚生労働省令で定める者は、次のとおりとする。
 分割契約等を締結し、又は作成する日において、承継される事業に主として従事する労働者(分割会社が当該労働者に対し当該承継される事業に一時的に主として従事するように命じた場合その他の分割契約等を締結し、又は作成する日において当該日後に当該承継される事業に主として従事しないこととなることが明らかである場合を除く。)
 前号の労働者以外の労働者であって、分割契約等を締結し、又は作成する日以前において分割会社が承継される事業以外の事業(当該分割会社以外の者のなす事業を含む。)に一時的に主として従事するよう命じたもの又は休業を開始したもの(当該労働者が当該承継される事業に主として従事した後、当該承継される事業以外の事業に従事し又は当該休業を開始した場合に限る。)その他の分割契約等を締結し、又は作成する日において承継される事業に主として従事しないもののうち、当該日後に当該承継される事業に主として従事することとなることが明らかであるもの

▽承継法Q&A【Q26】

Q 主従事労働者であるか否かを判断する時点である「分割契約等を締結し、又は作成する日」とは、具体的にいつのことですか。
A 分割会社が作成した分割契約等の記載事項が確定する、分割契約等の本店に備え置く時点と解するのが適当です。

通知期限日

通知期限日は、

  • 分割承認の株主総会が必要な場合
    株主総会日の2週間前の日の前日まで
  • 分割承認の株主総会を要しない場合(ex. 簡易分割)
    →新設分割計画作成日から起算して2週間を経過する日まで

ですが(法2条3項)、指針によると、事前備置書類の備置開始日または総会招集通知を発する日のいずれか早い日に行われることが望ましいとされています(承継法指針 第2-1-⑴)。

ちなみに、上記①は、事前備置書類の備置開始日のうちの「分割承認株主総会の2週間前の日」(▷参考記事:新設分割の事前備置書類)と平仄を合わせたものとされています

▽承継法2条3項

 前二項及び第四条第三項第一号の「通知期限日」とは、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める日をいう。
一 株式会社が分割をする場合であって当該分割に係る分割契約等について株主総会の決議による承認を要するとき 当該株主総会(第四条第三項第一号において「承認株主総会」という。)の日の二週間前の日の前日
二 株式会社が分割をする場合であって当該分割に係る分割契約等について株主総会の決議による承認を要しないとき又は合同会社が分割をする場合 吸収分割契約が締結された日又は新設分割計画が作成された日から起算して、二週間を経過する日

▽承継法Q&A【Q55】

 労働者へ2条通知はいつ行えばよいですか。

 労働者へ行う2条通知は、分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日までにする必要がありますが、分割契約等の本店備置き日又は株主総会等を招集するための通知を発する日のうちいずれか早い日と同じ日に行われることが望ましいです。

通知事項

通知事項は、承継法とその規則で、以下のように定められています(①②は法2条1項、③以下はこれを受けた規則1条)。

通知事項

  • 分割計画におけるその労働者の労働契約が承継される旨の定めの有無(法2条1項)
  • 異議申出期限日(法2条1項)
  • その労働者が「主従事労働者」(法2条1項1号)か「主従事労働者以外の労働者だが分割計画に承継の定めがあるもの」(同項2号)のいずれに該当するかの別(規則1条1号)
  • その労働者と分割会社の間の労働契約で分割計画に承継の定めがあるものは、会社分割の効力発生日に包括承継されるため、労働条件はそのまま維持されるものであること(2号)
  • 承継される事業の概要(3号)
  • 会社分割の効力発生日以後における分割会社および設立会社の商号・住所(設立会社については所在地)・事業内容・雇用することを予定している労働者の数(4号)
  • 会社分割の効力発生日(5号)
  • 効力発生日以後におけるその労働者について予定されている従事する業務の内容、就業場所その他の就業形態(6号)
  • 効力発生日以後における債務の履行の見込みに関する事項(7号)
  • 異議がある場合は異議申出を行うことができる旨および異議申出先(異議申出を受理する部門の名称・住所 or 担当者の氏名・職名・勤務場所)(8号)

▽承継法規則1条

(労働者への通知)
第一条
 会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「法」という。)第二条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
 通知の相手方たる労働者が法第二条第一項各号のいずれに該当するかの別
 通知の相手方たる労働者が法第二条第一項の分割(以下「会社分割」という。)をする同条第二項の会社(以下「分割会社」という。)との間で締結している労働契約であって、同条第一項の分割契約等(以下「分割契約等」という。)に同条第一項の承継会社等(以下「承継会社等」という。)が承継する旨の定めがあるものは、分割契約等に係る会社分割がその効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)以後、分割会社から承継会社等に包括的に承継されるため、その内容である労働条件はそのまま維持されるものであること
 分割会社から承継会社等に承継される事業(以下「承継される事業」という。)の概要
 効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の商号住所(会社法(平成十七年法律第八十六号)第七百六十三条第一項に規定する新設分割設立会社にあっては所在地)、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数
 効力発生日
 効力発生日以後における分割会社又は承継会社等において当該労働者について予定されている従事する業務の内容、就業場所その他の就業形態
 効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
 法第四条第一項又は法第五条第一項の異議がある場合はその申出を行うことができる旨及び異議の申出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び住所又は担当者の氏名、職名及び勤務場所

なお、通知書については、様式例が厚労省HPに掲載されています。

04|異議申出

労働者は、異議を申し出ることにより、その承継を拒絶したり(法5条)、承継されないことを拒絶したり(法4条)することができます。

つまり、会社分割に伴う労働契約の承継は、その労働者が「主従事労働者」であるかその他の労働者かによって、承継の要件と効果が異なっており、

  • 主従事労働者の労働契約
    • 分割計画に承継の定めあり→当然に承継される(法3条)
    • 分割計画に承継の定めなし→異議申出があれば承継される(法4条)
  • 主従事労働者以外の労働者の労働契約
    • 分割計画に承継の定めあり→異議申出があれば承継されない(法5条)

となっています。

これも、異議申出の方法は「書面により」とのみ定められているように、電子媒体(電子メールや社内イントラなど)ではできないようになっています(FAXは可)。その重要性から、確実に異議申出することに重きが置かれているためです(承継法Q&A【Q78】参照)。

▽承継法3条・4条(※【 】は管理人注)

(承継される事業に主として従事する労働者に係る労働契約の承継)
第三条
 前条第一項第一号に掲げる労働者【=主従事労働者】が分割会社との間で締結している労働契約であって、分割契約等に承継会社等が承継する旨の定めがあるものは、当該分割契約等に係る分割の効力が生じた日に、当該承継会社等に承継されるものとする。
第四条 第二条第一項第一号に掲げる労働者【=主従事労働者】であって、分割契約等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがないものは、同項の通知がされた日から異議申出期限日までの間に、当該分割会社に対し、当該労働契約が当該承継会社等に承継されないことについて書面により、異議を申し出ることができる
2・3 (略) 
 第一項に規定する労働者が同項の異議を申し出たときは、会社法第七百五十九条第一項、第七百六十一条第一項、第七百六十四条第一項又は第七百六十六条第一項の規定にかかわらず、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、分割契約等に係る分割の効力が生じた日に、承継会社等に承継されるものとする。

▽承継法5条(※【 】は管理人注)

(その他の労働者に係る労働契約の承継)
第五条
 第二条第一項第二号に掲げる労働者【=主従事労働者以外の労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがあるもの】は、同項の通知がされた日から前条第三項に規定する異議申出期限日までの間に、分割会社に対し、当該労働者が当該分割会社との間で締結している労働契約が承継会社等に承継されることについて書面により、異議を申し出ることができる
 (略)
 第一項に規定する労働者が同項の異議を申し出たときは、会社法第七百五十九条第一項、第七百六十一条第一項、第七百六十四条第一項又は第七百六十六条第一項の規定にかかわらず、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約は、承継会社等に承継されないものとする。

対象労働者

異議申出の権利を持つ労働者は、上記のように、

  • 主従事労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがないもの(法4条1項)
  • 主従事労働者以外の労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがあるもの(法5条1項)

の2者です。

先ほどの通知対象労働者とあわせて見ると、要するに以下のようになっています。

異議申出権者

通知対象労働者 異議申出権
主従事労働者 承継される ×
承継されない
主従事労働者以外の労働者 承継される

この2者に異議申出権を与えた趣旨は、会社の意思のみによってそれまでの業務と切り離される不利益から保護するということです。

▽承継法Q&A【Q69】

 承継会社等への労働契約承継に関して、一定の労働者が異議の申出を行うことができるとした理由は何ですか。

 A68の①、②の場合について、一定の労働者が異議を申し出ることができるものとしたのは、分割会社等の意思のみにより、個々の労働者がこれまで従事していた職務と切り離されるおそれがあるためです。すなわち、A68の①においては、承継会社等への労働契約の承継の対象から特定の労働者が排除されてしまうこと、②においては、承継会社等への労働契約の承継を望まない労働者が承継を強制されてしまうことの不利益が生じるおそれがあり、こうした事態からこれらの労働者を保護する必要があるためです。

異議申出の期限

異議申出の期限は、通知期限日に2種類あったのに応じて、

  • 分割承認の株主総会が必要な場合:
    通知期限日(=株主総会日の2週間前の日の前日まで)の翌日から承認株主総会の日の前日までの期間の範囲内分割会社が定める日
  • 分割承認の株主総会を要しない場合:
    会社分割の効力発生日の前日までの日分割会社が定める日

となっています(3項)。

そして、上記の分割会社が定める異議申出期限日は、通知がなされた日との間に少なくとも13日間を置かなければならないとされています(2項)。

▽承継法4条2項・3項(※【 】は管理人注)

 分割会社は、異議申出期限日を定めるときは、第二条第一項の通知がされた日と異議申出期限日との間に少なくとも十三日間を置かなければならない
 前二項の「異議申出期限日」とは、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める日をいう。
一 第二条第三項第一号に掲げる場合【=分割承認の株主総会が必要な場合】 通知期限日の翌日から承認株主総会の日の前日までの期間の範囲内分割会社が定める日
二 第二条第三項第二号に掲げる場合【=分割承認の株主総会を要しない場合】 同号の吸収分割契約又は新設分割計画に係る分割の効力が生ずる日の前日までの日分割会社が定める日

異議申出の内容

異議申出の内容はシンプルで、

  • 主従事労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがないもの
    1. 自己の氏名
    2. 自己の労働契約が設立会社に承継されないことについて反対である旨
  • 主従事労働者以外の労働者だが、分割計画に労働契約承継の定めがあるもの
    1. 自己の氏名
    2. 自己が2⃣の労働者に該当する旨
    3. 自己の労働契約が設立会社に承継されることについて反対である旨

となっています(指針)。

ちなみに、2⃣の場合に(b)が記載事項になっているのは、2⃣についてはいわゆる主従判断につき労使不一致の場合が起こり得るため(会社としては主従事労働者で承継の定めありの認識だったのに、労働者は主従事労働者でないのに承継の定めがされたと考える)、労働者自身に自己の意見を明記させたものとされています(承継法Q&A【Q75】参照)。

▽承継法指針 第2-2-⑵-イ

 申出の内容等
 法第4条第1項の異議の申出については、当該労働者は、当該労働者の氏名及び当該労働者に係る労働契約が当該承継会社等に承継されないことについて反対である旨を書面に記載して、同条第3項の異議申出期限日までに当該分割会社が指定する異議の申出先に通知すれば足りること。
 法第5条第1項の異議の申出については、当該労働者は、当該労働者の氏名当該労働者が法第2条第1項第2号に掲げる労働者に該当する旨及び当該労働者に係る労働契約が当該承継会社等に承継されることについて反対である旨を書面に記載して、法第5条第1項の異議申出期限日までに当該分割会社が指定する異議の申出先に通知すれば足りること。

なお、異議申出書についても、様式例が厚労省HPに掲載されています。

主従事労働者の判定

以上のように、主従事労働者かどうかというのが、通知の対象労働者の判断や、異議申出の効果に影響しますので、主従事労働者かどうかというのが大事になりますが、判定はかなり困難な場合もあり得ます。

この点についての考え方をくわしく書いたもの(指針での該当部分)は、以下になります。

▽承継法指針 第2-2-⑶

結び

今回は、組織再編ということで、新設分割における労働契約承継法の手続について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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