今回は、組織再編ということで、吸収合併手続のうち債権者保護手続について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
債権者保護手続とは
吸収合併における債権者保護手続とは、要するに、合併当事会社の債権者が合併に異議を述べる手続です。
合併により会社の財産状況は大きく変動しますので、債権者(取引先や金融機関など)にも影響が及ぶことがあります。特に消滅会社(=吸収される側)の債権者にとっては債務者が変更することになりますし、他方、存続会社(=吸収する側)の債権者にとっても、消滅会社の財産状況の良し悪しにより存続会社の財産状況が影響を受けます。
そこで、会社法では、債権者に異議を述べる機会を与えたうえで、会社に債務の満足や保障(弁済や担保提供等)の対応をとらせることにしています。
以下、この債権者保護手続について、消滅会社→存続会社の順に見てみます。
消滅会社側の債権者保護手続
消滅会社の債権者は、消滅会社に対し、吸収合併について異議を述べることができます(異議申述。法789条1項)。
▽会社法789条1項
(債権者の異議)
第七百八十九条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一 吸収合併をする場合 吸収合併消滅株式会社の債権者
二・三 (略)
異議申述の手続
公告・催告(またはダブル公告)
異議申述の手続は、消滅会社が、所定事項につき、①官報公告及び②債権者に対する個別催告を行う、というものです(2項)。
ただし、定款で公告方法として新聞公告または電子公告を選択している場合は、官報公告に加えてその方法により公告を行うことで、個別の催告を省略することができるとされています(個別催告の省略。3項)。
個別催告を省略するケースは、”官報公告+新聞公告”、または、”官報公告+電子公告”、というふうに、両方を公告で済ますことになるので、通称的にはダブル公告と呼ばれたりもします。
つまり、こういうことです。
異議申述の手続
原則(2項) | ダブル公告(3項) |
---|---|
①官報公告 | ①官報公告 |
②個別催告 | ②新聞公告または電子公告 |
条文も確認してみます。
▽会社法789条2項・3項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、…(略)…。
一~四 (略)
3 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号【=新聞公告】又は第三号【=電子公告】に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(吸収分割をする場合における不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。
会社公告の種類(官報公告/新聞公告/電子公告)については、以下の関連記事に書いています。
-
-
法務の基礎を勉強しよう|会社公告の種類
続きを見る
公告・催告の必要記載事項
これら公告・催告の必要記載事項は、
- 吸収合併をする旨
- 合併の相手会社(=存続会社)の商号及び住所
- 消滅会社及び存続会社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定の期間(1か月以上)内に異議を述べることができる旨
となっています(2項各号)。
条文も確認してみます(※前述の条文で省略した部分)。
▽会社法789条2項各号
一 吸収合併等をする旨
二 存続会社等の商号及び住所
三 消滅株式会社等及び存続会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
上記③の「計算書類に関する事項」の内容は規則で定められており、最終貸借対照表につき決算公告をしているときは、その決算公告の掲載場所の開示でよい等とされています(規則188条1号・2号参照。上場会社など有価証券報告書提出会社については3号参照)。
▽会社法規則188条(※【 】は管理人注)
(計算書類に関する事項)
第百八十八条 法第七百八十九条第二項第三号に規定する法務省令で定めるものは、同項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日における次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき公告対象会社(法第七百八十九条第二項第三号の株式会社をいう。以下この条において同じ。)が法第四百四十条第一項【=決算公告】又は第二項【=要旨による公告】の規定による公告をしている場合 次に掲げるもの
イ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁
ロ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁
ハ 電子公告により公告をしているときは、法第九百十一条第三項第二十八号イに掲げる事項【=公告の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス】
二 最終事業年度に係る貸借対照表につき公告対象会社が法第四百四十条第三項【=電磁的方法による決算開示】に規定する措置をとっている場合 法第九百十一条第三項第二十六号に掲げる事項【=電磁的方法による開示の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス】
三 公告対象会社が法第四百四十条第四項【=有報提出会社に対する決算公告の適用除外】に規定する株式会社である場合において、当該株式会社が金融商品取引法第二十四条第一項の規定により最終事業年度に係る有価証券報告書を提出しているとき その旨
四 公告対象会社が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第二十八条の規定により法第四百四十条の規定が適用されないもの【=特例有限会社】である場合 その旨
五 公告対象会社につき最終事業年度がない場合 その旨
六 公告対象会社が清算株式会社である場合 その旨
七 前各号に掲げる場合以外の場合 会社計算規則第六編第二章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容
決算公告の種類については、以下の関連記事に書いています。
-
-
開示制度|会社法に基づく開示-決算公告
続きを見る
異議申述期間と時期
上記④の”異議を述べることができる一定の期間”というのが、いわゆる異議申述期間で、1か月以上が必要とされています(2項ただし書)。
他方、異議申述の時期としては、合併の効力発生日までに手続が完了していればよく、手続の開始始期について定めはありません。
これらをまとめていうと、異議申述の開始時期については明確な定めはない(効力発生日までに手続が完了していればよい)ものの、異議申述の期間については1か月以上という定めがあるので、遅くとも合併の効力発生日の1か月以上前に開始する必要がある、ということになります
一応条文も確認しておくと、以下の部分です(※前述の条文で省略した部分)。
▽会社法789条2項ただし書(※【 】は管理人注、「…」は管理人が適宜省略)
2 …。ただし、第四号【=債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨】の期間は、一箇月を下ることができない。
異議を述べた債権者への対応
異議を述べた債権者への対応は、
- 弁済
- 担保提供
- 信託
のいずれか、となっています(原則。5項本文)。つまり、債務の満足や保障です。
ただし、吸収合併をしてもその債権者を害するおそれがないときは、これらの対応は必要ありません(例外。5項ただし書)。「債権者を害するおそれがない」かどうかは、債権額や弁済期等を考慮して判断され、例えば、十分な担保が既に提供されている場合や、会社の財産状況からして弁済を受けられることが確実な場合等がこれにあたります。
異議を述べなかった債権者については、吸収合併を承諾したものとみなすとされています(4項)。多数の債権者から個別の承諾を得なければならないとすると、合併手続を遅延なく進めるのが難しくなるためです。
▽会社法789条4項・5項(※【 】は管理人注)
4 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。
5 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
存続会社側の債権者保護手続
存続会社の債権者は、存続会社に対し、吸収合併について異議を述べることができます(異議申述。法799条1項)。
▽会社法799条1項
(債権者の異議)
第七百九十九条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一 吸収合併をする場合 吸収合併存続株式会社の債権者
二・三 (略)
異議申述の手続
異議申述の手続については、先ほど見た消滅会社の場合を踏まえれば大体把握できますので、詳細は割愛して、以下では条文のみざっと確認してみます。
▽会社法799条2項・3項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 吸収合併等をする旨
二 消滅会社等の商号及び住所
三 存続株式会社等及び消滅会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
3 前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号【=新聞公告】又は第三号【=電子広告】に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
上記3号(計算書類に関する事項)の内容は、以下のとおり規則で定められています。
▽会社法規則199条(※【 】は管理人注)
(計算書類に関する事項)
第百九十九条 法第七百九十九条第二項第三号に規定する法務省令で定めるものは、同項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日における次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき公告対象会社(法第七百九十九条第二項第三号の株式会社をいう。以下この条において同じ。)が法第四百四十条第一項【=決算公告】又は第二項【=要旨による公告】の規定による公告をしている場合 次に掲げるもの
イ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁
ロ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁
ハ 電子公告により公告をしているときは、法第九百十一条第三項第二十八号イに掲げる事項【=公告の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス】
二 最終事業年度に係る貸借対照表につき公告対象会社が法第四百四十条第三項【=電磁的方法による決算開示】に規定する措置をとっている場合 法第九百十一条第三項第二十六号に掲げる事項【=電磁的方法による開示の掲載先として登記されたウェブサイトのアドレス】
三 公告対象会社が法第四百四十条第四項【=有報提出会社に対する決算公告の適用除外】に規定する株式会社である場合において、当該株式会社が金融商品取引法第二十四条第一項の規定により最終事業年度に係る有価証券報告書を提出しているとき その旨
四 公告対象会社が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第二十八条の規定により法第四百四十条の規定が適用されないもの【=特例有限会社】である場合 その旨
五 公告対象会社につき最終事業年度がない場合 その旨
六 公告対象会社が清算株式会社である場合 その旨
七 前各号に掲げる場合以外の場合 会社計算規則第六編第二章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容
異議を述べた債権者への対応
異議を述べた債権者への対応などについても同様ですので、条文のみざっと確認してみます。
▽会社法799条4項・5項(※【 】は管理人注)
4 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該吸収合併等について承認をしたものとみなす。
5 債権者が第二項第四号の期間内【=異議申述期間内】に異議を述べたときは、存続株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該吸収合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
結び
今回は、組織再編ということで、吸収合併手続のうち債権者保護手続(異議申述)について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
組織再編に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等
主要法令等
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています