組織再編

組織再編|新設分割-株主保護手続(買取請求)

今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち株主保護手続について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

株主保護手続とは

新設分割における株主保護手続とは、要するに、反対株主の株式買取請求権のことです。

つまり、分割に反対する株主が自己の保有株式の買取りを分割会社に請求できる制度です。

新設分割は、会社の基礎に重大な変更を与えることになるため、これに反対する株主に、投下資本を回収してイグジットする機会を与えるという趣旨になります。

なお、新設分割の場合の買取請求は、分割・・会社(分割する側)のみです。当然ながら、設立・・会社(分割により設立される側)はまだ設立されていないので、買取請求の話はありません。

以下、内容を見てみます。

分割会社側の株主保護手続(法806条)

新設分割に反対する分割会社株主は、分割会社に対して、自らの保有株式を買い取るよう請求することができます(1項)。

ただし、簡易分割の場合は、財産的規模の観点から、分割による影響が軽微として株主総会決議を省略できるとしたものなので、会社の基礎に重大な変更を与えるとはいえないため、買取請求権は認められていません(同項2号)。

▽会社法806条1項(※【 】は管理人注)

(反対株主の株式買取請求)
第八百六条
 新設合併等をする場合(次に掲げる場合を除く。)には、反対株主は、消滅株式会社等に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる
 第八百四条第二項に規定する場合【=新設合併における設立会社が持分会社であり総株主の同意を要する場合】
 第八百五条に規定する場合【=新設分割における簡易分割の場合

※簡易分割については以下の関連記事に書いています

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株主に対する通知または公告

このように反対株主には買取請求権がありますので、分割会社は、分割承認の株主総会決議の日から2週間以内に、

  • 新設分割をする旨
  • 分割会社と設立会社の商号および住所

を株主に通知しなければならないとされていますが(3項)、公告をもって代えることもできます(4項)。

▽会社法806条3項(※【 】は管理人注)

 消滅株式会社等は、第八百四条第一項の株主総会の決議【=新設分割計画承認の株主総会決議】の日から二週間以内に、その株主に対し、新設合併等をする旨並びに他の新設合併消滅会社、新設分割会社又は株式移転完全子会社(以下この節において「消滅会社等」という。)及び設立会社の商号及び住所通知しなければならない。ただし、第一項各号に掲げる場合は、この限りでない。
 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる

買取請求

行使手続

「反対株主」というと、分割計画承認の株主総会で反対した株主が思い浮かぶように思いますが、行使手続としては、株主総会に先立つ反対通知も必要とされています(2項)。

つまり、買取請求をしようとする反対株主は、

  • 株主総会前の反対通知
    かつ
  • 株主総会における反対の議決権行使

をする必要があります(※なお、種類株主の場合については本記事では割愛)。

そうすると、議決権制限株式(経済的便益だけを享受することが想定された株式)の株主は、総会で反対しようにも議決権がないけど、どうなるんだ?という気がしますが、この場合は、当然に「反対株主」となります(2号参照)。

つまり、反対通知・反対の議決権行使をする必要なく、買取請求権を行使することができます(もちろん、実際には反対でないのなら、行使しなければよいだけ)。投下資本回収の機会を与えるという趣旨は議決権制限株式の場合にも妥当するからです。

議決権制限株式だけでなく、相互保有株式や単元未満株式などの場合も同様です。

条文も確認してみます。

▽会社法806条2項(※【 】は管理人注)

 前項に規定する「反対株主」とは、次に掲げる株主をいう。
 第八百四条第一項の株主総会(新設合併等をするために種類株主総会の決議を要する場合にあっては、当該種類株主総会を含む。)に先立って当該新設合併等に反対する旨を当該消滅株式会社等に対し通知し、かつ当該株主総会において当該新設合併等に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
 当該株主総会において議決権を行使することができない株主

行使期間

買取請求権の行使期間は、「株主に対する通知・公告をした日」から「20日以内」とされています(5項)。

また、買取請求の際は、買取請求に係る株式の数を明らかにする必要があります。

▽会社法806条5項(※【 】は管理人注)

 第一項の規定による請求(以下この目において「株式買取請求」という。)は、第三項の規定による通知又は前項の公告をした日から二十日以内に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。

価格決定(法807条)

買取価格の決定は、まず、分割会社と反対株主との間の協議によってなされます(1項)。

しかし、所定期間内に協議が整わなかった場合には、会社または株主は、裁判所に価格決定の申立てをすることができます(2項)。この場合、価格は裁判所が決めることになります。

所定期間は、分割の効力発生日(=設立会社の成立日)から30日以内であり、この期間内に協議が整わなければ、その後30日以内に、価格決定の申立てをすることができます(つまり分割の効力発生日から60日以内)。

▽会社法807条1項・2項

(株式の価格の決定等)
第八百七条
 株式買取請求があった場合において、株式の価格の決定について、株主と消滅株式会社等(新設合併をする場合における新設合併設立会社の成立の日後にあっては、新設合併設立会社。以下この条において同じ。)との間に協議が調ったときは、消滅株式会社等は、設立会社の成立の日から六十日以内にその支払をしなければならない。
 株式の価格の決定について、設立会社の成立の日から三十日以内協議が調わないときは、株主又は消滅株式会社等は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し、価格の決定の申立てをすることができる。

この価格決定の申立てで決定される買取価格には、支払期限(分割の効力発生日から60日)後の法定利息もつきますが(4項)、利息の負担軽減のため、分割会社側としては、自らが公正な価格と考える額を価格決定の前に支払っておくことができます(仮払制度。5項)。

▽同条4項・5項

 消滅株式会社等は、裁判所の決定した価格に対する第一項の期間の満了の日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
 消滅株式会社等は、株式の価格の決定があるまでは、株主に対し、当該消滅株式会社等が公正な価格と認める額を支払うことができる。

買取の効力発生日

買取請求に係る株式の買取りは、分割の効力発生日(=設立会社の成立日)にその効力を生じることとされています(6項)。

▽会社法807条6項

 株式買取請求に係る株式の買取りは、設立会社の成立の日に、その効力を生ずる。

設立会社側:なし

冒頭で見たように、設立会社(分割により設立される側)はまだ設立されていないので、買取請求の話はありません。

結び

今回は、組織再編ということで、新設分割の手続のうち株主保護手続(買取請求)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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