組織再編

組織再編|新設分割-事後備置書類

今回は、組織再編ということで、新設分割手続における事後備置書類について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

事後備置書類とは

新設分割を行った場合、分割当事会社は、設立会社(分割により設立される側)の成立後、一定の書類を本店に備え置く義務があります。

この書類を、事後備置びち書類と呼びます。要するに、事後の情報開示です。

他の手続として「事前備置書類」というのもありますが、何の「事前」「事後」かというと、分割の効力発生日よりも前と後、です

事後備置書類は、主として新設分割無効の訴え(法828条1項10号)の判断に必要な資料を提供するためという意味合いになります。実際に遂行した新設分割の経過を開示させるものです。

▽会社法828条1項10号

(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
第八百二十八条
 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる
 会社の新設分割 新設分割の効力が生じた日から六箇月以内

なお、上記では分割の効力発生日よりも前と後、と書いていますが、新設分割の場合、具体的には設立会社の成立日の前と後、ということになります。

どういうことかというと、新設分割の効力は、設立会社の成立(=設立の登記)によって生じます。

▽会社法764条1項

(株式会社を設立する新設分割の効力の発生等)
第七百六十四条
 新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する

つまり、分割の効力発生日=設立会社の成立日(設立の登記日)と思っておけばよく、新設分割の「事前」「事後」も、具体的には設立会社の成立日よりも「前」と「後」ということになります。

【補足】設立会社の設立の登記

 ちなみに、では設立の登記はいつやるのかというと、新設分割を行った場合、

  1. 分割承認決議の日
  2. 株式買取請求に関する通知・公告の日から20日を経過した日
  3. 新株予約権買取請求に関する通知・公告の日から20日を経過した日
  4. 債権者異議手続が終了した日
  5. 分割会社が定めた日(共同新設分割の場合は分割当事会社が合意により定めた日)

のうちいずれか遅い日から2週間以内に、設立会社の本店所在地において、設立会社の設立の登記をしなければならないとされています(法924条)。

事後備置書類は、分割会社側(分割する側)と設立会社側(分割により設立される側)の、それぞれで必要になります。

以下、分割側→設立側の順に見てみます。

分割会社側の事後備置書類

分割会社には、事後備置書類を設立会社と共同して作成し(法811条1項)、本店に備え置く義務があり(2項)、株主、債権者などの利害関係人は閲覧等を請求することができます(3項)。

事前備置と異なり、「株主」「債権者」のほかに「その他の利害関係人」も閲覧権者に含む書きぶりになっていますが(3項)、これは、会社債権者でなくとも分割により影響を受ける者(ex. 分割会社の従業員、継続的契約の相手方など)も含めるため、とされています

▽会社法811条1項・2項(※【 】は管理人注)

(新設分割又は株式移転に関する書面等の備置き及び閲覧等)
第八百十一条
 新設分割株式会社又は株式移転完全子会社は、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社の成立の日後遅滞なく、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社と共同して、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定めるものを作成しなければならない
 新設分割株式会社 新設分割により新設分割設立会社が承継した新設分割株式会社の権利義務その他の新設分割に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録【=事後備置書類
 (略)
 新設分割株式会社又は株式移転完全子会社は、新設分割設立会社又は株式移転設立完全親会社の成立の日から六箇月間、前項各号の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない

▽同条3項

 新設分割株式会社の株主、債権者その他の利害関係人は、新設分割株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該新設分割株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
 前項の書面の閲覧の請求
 前項の書面の謄本又は抄本の交付の請求
 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
 前項の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって新設分割株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

備置期間

備置期間は、

  • 始期:設立会社の成立日
  • 期間:設立会社の成立日後6か月間

となっています(上記条文の2項の下線部参照)。

必要記載事項(規則209条)

事後備置書類の必要記載事項は、規則に定められており、

  • 新設分割の効力発生日(規則209条1号)
  • 株主保護手続・債権者保護手続等の経過(2号・3号)
    1. 分割差止請求手続
    2. 株主保護手続
    3. 新株予約権者保護手続
    4. 債権者保護手続
  • 分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項(4号)
  • その他新設分割に関する重要事項(5号)

となっています。

▽会社法規則209条

(新設分割株式会社の事後開示事項)
第二百九条
 法第八百十一条第一項第一号に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 (略)

以下、順に見てみます。

①新設分割の効力発生日(1号)

これは冒頭で見たとおり、新設分割の効力発生日、つまり設立会社の設立日です。

具体的には、設立の登記の日になります。

▽会社法規則209条1号

 新設分割が効力を生じた日

②株主保護手続・債権者保護手続等の経過(2号・3号)

これは、分割会社側での、株主保護手続・債権者保護手続等の経過です。具体的には、

  • 分割差止請求手続
  • 株主保護手続
  • 新株予約権者保護手続
  • 債権者保護手続

の経過、となっています。

ここでは、各手続につき、

  1. 分割差止請求手続 →反対株主から差止請求がなされた場合の当該手続
  2. 株主保護手続 →反対株主の株式買取請求手続
  3. 新株予約権者保護手続 →反対新株予約権者の新株予約権買取請求手続
  4. 債権者保護手続 →債権者の異議申述手続

という意味で使っています

条文も確認してみます。

▽会社法規則209条2号・3号(※【 】は管理人注)

 法第八百五条の二の規定による請求に係る手続【=分割差止請求手続】の経過
 法第八百六条【=株主保護手続】及び第八百八条の規定【=新株予約権者保護手続】並びに法第八百十条(法第八百十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定【=債権者保護手続】による手続の経過

④分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項(4号)

これは、新設分割により、設立会社が分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項です。

▽会社法規則209条4号

 新設分割により新設分割設立会社が新設分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項

⑤その他新設分割に関する重要事項(5号)

これは、上記①~④以外の重要な事項です。

▽会社法規則209条5号

 前各号に掲げるもののほか、新設分割に関する重要な事項

設立会社側の事後備置書類

設立会社も、上記の事後備置書類を本店に備え置く義務があり(法815条3項)、株主と債権者と利害関係人は閲覧等を請求することができます(同条3項)。

▽会社法815条3項(※【 】は管理人注)

 次の各号に掲げる設立株式会社は、その成立の日から六箇月間、当該各号に定めるものをその本店に備え置かなければならない
 (略)
 新設分割設立株式会社 前項又は第八百十一条第一項第一号【=分割会社と設立会社が共同して作成した事後備置書類】の書面又は電磁的記録
 (略)

▽同条4項・5項

 新設合併設立株式会社の株主及び債権者は、新設合併設立株式会社に対して、その営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該新設合併設立株式会社の定めた費用を支払わなければならない。
一 前項第一号の書面の閲覧の請求
二 前項第一号の書面の謄本又は抄本の交付の請求
三 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求
四 前項第一号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって新設合併設立株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求
 前項の規定は、新設分割設立株式会社について準用する。この場合において、同項中「株主及び債権者」とあるのは「株主、債権者その他の利害関係人」と、同項各号中「前項第一号」とあるのは「前項第二号」と読み替えるものとする。

備置期間

備置期間は、分割会社と同じで、

  • 始期:設立会社の成立日
  • 期間:設立会社の成立日後6か月間

となっています(上記条文の3項柱書の下線部参照)。

必要記載事項

設立会社の事後備置書類は、先ほど見た、分割会社と設立会社が共同して作成した事後備置書類を指します(上記条文の3項2号の下線部「第八百十一条第一項第一号の書面又は電磁的記録」との部分)。

なので、必要記載事項は、先ほど分割会社のところで見たものと同じになります。

結び

新設分割はいわゆる”新設型”の組織再編ということで、会社法では新設合併や株式移転と同じグループで規定されています。

事後備置書類は、インターネットで検索や画像検索をすればいくつか例を見ることもできますので(鵜呑みにはできませんが)、上記のような理屈を押さえつつそれらを参照しながら作ったりチェックしたりするのも一つの方法かと思います。あるいは、会社に以前の事例があればそれらを見ながらやるとか、最初の方や悩ましい場合は外部の法律事務所に相談する、といったことも考えられます。

純粋なグループ内再編(=交渉を伴わないもの)の場合は、ある程度ルーティンワーク的になってきますので、なるだけ定型化していくのが賢いやり方かなと思います。

今回は、組織再編ということで、新設分割手続における事後備置書類について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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