取適法の適用対象となるかどうかを判断する入り口(適用要件)には、大きく、取引当事者に関する要件と、取引の内容に関する要件の2つがあります。
本記事は、取引当事者に関する要件つまり事業者の規模に係る要件について解説します。大企業vs中小企業という単純な図式ではなく、取引の内容によって適用のライン(金額・従業員数)が変わる点に注意が必要です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
取引当事者に関する要件
取適法では、資本金および従業員の大小を”優越的地位”の判断基準としていて、資本金の額および従業員数が、委託事業者と中小受託事業者を画する基準となっています。
なお、従業員基準については、資本金基準が適用されない場合に適用されます(判断の順序)。
資本金基準
資本金基準の基本構造:相対的な大きさで決まる
取適法の適用の有無は、単に自社の規模だけで決まるものではありません。発注側(委託事業者)と受注側(中小受託事業者)の資本金の関係によって決まります。
基本的には、資本金が大きい会社から資本金が小さい会社(または個人)への発注が規制の対象となりますが、その線引きには3億円基準と5千万円基準の2つのグループが存在します。
どちらの基準が適用されるかは、委託する業務の内容によって異なります。
パターンA:3億円基準のグループ
以下の業務を委託する場合は、比較的規模の大きな取引が想定されるため、基準が3億円に設定されています。
このグループでは、以下の2つのケースのいずれかに当てはまると、取適法の適用対象となります。
| ケース | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| ① 大規模 | 資本金 3億円超 | 資本金 3億円以下(個人含む) |
| ② 中規模 | 資本金 1千万円超 3億円以下 | 資本金 1千万円以下(個人含む) |
新設された特定運送委託や、システム開発などのプログラム作成はこのグループに入ります
パターンB:5千万円基準のグループ
以下の業務を委託する場合は、小規模な事業者も多いため、基準が5千万円に引き下げられています。
このグループでは、以下の2つのケースが適用対象となります。
| ケース | 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|---|
| ③ 大規模 | 資本金 5千万円超 | 資本金 5千万円以下(個人含む) |
| ④ 中規模 | 資本金 1千万円超 5千万円以下 | 資本金 1千万円以下(個人含む) |
このように、デザイン発注や各種サービス業務系の委託は、発注側の資本金が5千万円を超えれば(相手が5千万円以下なら)対象となります。3億円の基準ではない点に注意が必要です
資本金1千万円以下の事業者は「発注側」として対象外
上記の表からわかるとおり、どのパターンであっても、発注側の資本金が1千万円以下である場合は、資本金基準においては委託事業者には該当しません(資本金基準の対象外)。
ただし、今回の法改正で従業員基準が追加されたため、たとえ資本金が1千万円以下であっても、従業員数が一定以上(パターンAなら300人超、パターンBなら100人超)であれば、委託事業者として取適法の対象となる可能性があります。
従業員基準
旧下請法と異なる令和7年法改正(取適法)の大きなポイントは、資本金だけでなく新たに従業員基準が導入された点にあります。
これにより、「資本金が小さいから対象外」というこれまでの常識は、そのままでは通用しなくなりました(従業員基準だと対象になる可能性がある)。
なぜ従業員基準が追加されたのか
旧下請法では、親事業者の要件は資本金のみで判断されていました。しかし、近年では、減資によって資本金を1千万円以下に抑えている大企業が増加していたり、逆に(適用を逃れるため)受注側に増資を求めるケースが見られました。
こうした事業者は、実質的に大きな事業規模と交渉力を持っていても、形式的に資本金基準を満たさないため、規制の対象外となっていました。この抜け穴を塞ぎ、実態に即した規制を行うために追加されたのが従業員基準です。
従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。 つまり、まずは資本金基準で判定し、そこで対象外となった場合に、従業員基準による判定を行います。
適用ルールは、資本金基準と同様に、取引の内容によって「300人」と「100人」の2つの基準に分かれます。
パターンA:300人基準のグループ
製造委託、修理委託、特定運送委託、プログラム作成(情報成果物作成委託)、運送・倉庫保管・情報処理の役務提供委託です。
| 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|
| 常時使用する従業員 300人超 | 常時使用する従業員 300人以下(個人含む) |
発注側の従業員数が301人以上で、受注側が300人以下であれば、発注側の資本金がいくらであっても(たとえ1千万円以下でも)、法の対象となります。
パターンB:100人基準のグループ
情報成果物作成委託(プログラム以外)、役務提供委託(運送・倉庫保管・情報処理以外)です。
| 委託事業者(発注側) | 中小受託事業者(受注側) |
|---|---|
| 常時使用する従業員 100人超 | 常時使用する従業員 100人以下(個人含む) |
デザイン作成やビル清掃などの委託では、発注側が101人以上、受注側が100人以下であれば対象となります。
そのほか従業員基準については、以下の記事でくわしく解説しています。
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取適法解説|資本金が少額でも油断禁物!「従業員基準」の全貌
続きを見る
適用範囲まとめ
基本的な考え方は以上のとおりですが、正味な話、文字だけだとイマイチ何のことかよくわからない感じが残るところです。
そこで、表にしてみると、以下のようになっています。表の見方は、号ごとに左から右に読んでいく感じです(赤字の部分が従業員基準の追加)。
取適法の適用範囲:資本金基準(従業員基準)×取引の内容
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法2条8·9項 |
資本金基準/従業員基準 | 取引の内容 | |||||||
| 委託事業者 | 中小受託事業者 | ①製造委託 | ②修理委託 | ③情報成果物作成委託 | ④役務提供委託 | ⑤特定運送委託 | |||
| プログラムの作成 | 左記以外 | 運送・物品の倉庫保管・情報処理 | 左記以外 | ||||||
| 1号 | 3億円超 | 3億円以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
| 2号 | 1千万円超〜3億円以下 | 1千万円以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
| 5号 | 300人超 | 300人以下 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
| 3号 | 5千万円超 | 5千万円以下 | 〇 | 〇 | |||||
| 4号 | 1千万円超~5千万円以下 | 1千万円以下 | 〇 | 〇 | |||||
| 6号 | 100人超 | 100人以下 | 〇 | 〇 | |||||
このようにしてみると、
- 1号・2号・5号のグループ(パターンA:3億円基準のグループ)と、3号・4号・6号のグループ(パターンB:5千万円基準のグループ)とで、委託する業務の内容が違っていること
- 適用の境目には、3億円、5千万円、1千万円の3つがあること
が視覚的に見えるかと思います。
トンネル規制
取引当事者に関する要件は以上のとおりですが、考えてみると、「資本金や従業員数の基準を満たさない子会社を通せば、法の規制を受けずに済むのではないか?」という発想も出てきそうなところです。
このとき間に噛ませる子会社のことを「トンネル会社」といいますが、脱法的行為であるため、一定の要件の下で、子会社を親事業者とみなして取適法の適用対象に含めることにしています(みなし委託事業者)。
グループ会社を用いた発注スキームにおいて見落とされがちなこの規制ですが、注意が必要です。
トンネル規制(みなし委託事業者規制)とは何か
通常、取適法の適用有無は、発注者(委託事業者)と受注者(中小受託事業者)の資本金や従業員数の規模の大小関係で決まります。 しかし、大企業が自社で直接発注せず、規模の小さな子会社を経由して(トンネルさせて)中小事業者に再委託する場合、形式的に判断すると、その子会社は委託事業者の規模要件(資本金3億円超など)を満たさず、法の対象外となってしまうケースがあります。
これでは、立場の弱い中小事業者が保護されません。そこで、実質的に親会社が発注しているとみなせる場合、その経由役となった子会社を委託事業者とみなして法の規制を適用するというのが、トンネル規制(法2条10項)です。
▽法2条10項
10 資本金の額若しくは出資の総額が千万円を超える法人又は常時使用する従業員の数が百人を超える法人たる事業者から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者が、その製造委託等に係る製造、修理、作成、提供又は運送の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合(第八項第一号、第二号又は第五号に該当する者がそれぞれ前項第一号、第二号又は第五号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第八項第三号、第四号又は第六号に該当する者がそれぞれ前項第三号、第四号又は第六号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)において、再委託を受ける事業者が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、かつ、製造委託等をする当該事業者から直接製造委託等を受けるものとすれば同項各号のいずれかに該当することとなる事業者であるときは、この法律の適用については、再委託をする事業者は委託事業者と、再委託を受ける事業者は中小受託事業者とみなす。
トンネル会社と認定される要件
ではどのような場合に、子会社がトンネル会社として規制を受けるのでしょうか。上記の条文をまとめつつ分節すると、以下のようになっています。
③は「前提条件」(=直接に委託していれば取適法の適用があること)と呼ばれます。
①②はトンネル会社を親事業者とみなすための「子会社に関する要件」です。要するに、親会社に支配されていることと、全部又は多くの部分を再委託していることです(まさに“トンネル”という感じ)。
「相当部分」の目安:親会社から受けた委託の額または量の50%以上を再委託している場合(複数の事業者に委託している場合はその合計)が該当すると解釈されています
従業員基準への対応
前述のように、今回の法改正で、事業者の規模に関する要件に従業員基準(300人超・100人超)が追加されました。これに伴い、トンネル規制においても従業員基準が考慮されるよう規定が整備されています。
これまでは資本金が小さい子会社がトンネルとして問題視されてきましたが、今後は従業員数が少ない子会社であっても、親会社(従業員300人超など)からの業務を丸投げ(再委託)している場合は、トンネル規制の対象となる可能性があります。
結び
取適法対応の第一歩は、取適法の適用対象かどうか、つまり自社と相手方の資本金or従業員数と取引内容を確認することから始まります。
特に、複数の事業部門を持つ企業では、部門ごとに発注する業務内容が異なり(製造部門はA、広報部門はBなど)、適用される資本金基準・従業員数基準が異なるケースがあります。社内のマニュアルやワークフローのシステム等で、この区分を明確にしておくことなどが求められます。
次の記事は、委託事業者の禁止事項(全11項目)についてです。
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取適法解説|全11項目「委託事業者の禁止事項」を理解~「基本NG」と「不当ならNG」の境界線とは
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
取適法に関するその他の記事(≫Read More)
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
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