今回は、取適法ということで、適用対象取引のうち役務提供委託について見てみたいと思います。
取適法では、立場の格差から濫用が行われがちな5つの取引類型を適用対象として定めており、その一つに役務提供委託があります。
製造委託や情報成果物作成委託と違い、この役務提供委託には自社で使うため(自家利用)のサービスは対象外という特徴があります。ここを誤解していると、対象になると勘違いしたり、逆に対象なのに見落としたりするおそれがあります。
本記事では、どのような取引が役務提供委託に当たるのか、その定義と境界線をクリアにします。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
役務提供委託とは
取適法における役務提供委託とは、運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することを指します。
要するに、顧客に提供することをビジネス(業)として請け負っているサービスを、他の業者に再委託する(いわゆる”下請けに出す”)ことです
役務提供委託の類型
役務提供委託の類型は1つだけ
他の適用対象取引(製造委託など)にはそれぞれ複数の類型がありますが、役務提供委託の類型は1つだけです。
事業者が、他者に対し業として役務を提供する場合に、その役務の全部又は一部を他の事業者に委託する場合です(つまり再委託)。
具体例
- 物流・運送
- 貨物運送:運送会社が、荷主から請け負った運送の一部を、別の運送会社に委託する(いわゆる傭車・下請け輸送)
- 梱包:運送会社が、運送に併せて請け負った梱包作業を、梱包業者に委託する
- メンテナンス・修理関連
- 自動車整備:ディーラーが、顧客から請け負った車検・整備の一部を、整備工場に委託する
- ビルメンテ:ビル管理会社が、請け負った設備の保守点検を、専門業者に委託する
- 顧客サービス・IT関連
- サポートセンター:ソフトウェアメーカーが、販売したソフトのユーザーサポート業務(電話対応等)を、コールセンター業者に委託する
- データ入力:データ処理サービス会社が、顧客から預かったアンケートの入力作業を、入力代行業者に委託する
- その他
- イベント:広告代理店が、クライアントから請け負った販促イベントでのサンプリング(配布)業務を、イベント会社に委託する
条文の文言でいうと、
「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」
とされています(法2条4項)。
自家利用役務は対象外
製造委託や情報成果物作成委託では、条件によっては、自社で使うもの(=自家使用)の発注も法の適用対象になります。しかし、役務提供委託においては、自社で利用するため(=自家利用)のサービスの委託は、原則として対象外となります。
この違いを、具体的な清掃の例で見てみましょう。
具体例
- 対象になる例(再委託): ビル管理会社が、オーナーから請け負ったビルの清掃業務を、清掃業者に委託する
→顧客に提供するサービスを委託しているため、対象となります
- 対象にならない例(自家利用): 工場を持つメーカーが、自社工場の清掃を、清掃業者に委託する
→自社が使うためのサービスであり、他者に提供するものではないため、対象外です
- 同様に、ホテルがリネンサプライ業者にベッドメイキングを委託したり、カルチャースクールが講師に講義を委託したりする場合も、「自ら用いる役務」として対象外となるケースが一般的です
また、委託する役務が顧客に提供するサービスの一部なのか自家利用なのか、必ずしも明確でないことがありますが、例えば、運送業者が梱包を他の事業者に委託する場合は、荷主から梱包も請け負っていれば荷主へのサービスの一部であり役務提供委託に該当しますが、請け負っていなければ自家利用であり該当しないことになります(契約や取引慣行に基づき判断される)。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑶-オ 役務提供委託
「(業として行う)提供の目的たる役務」とは、事業者が他者に提供する役務のことであり、事業者が自ら用いる役務は含まれない(自ら用いる役務について他の事業者に委託することは、本法上の「役務提供委託」には該当しない。)。他の事業者に役務の提供を委託する場合に、その役務が他者に提供する役務の全部又は一部であるか、又は自ら用いる役務であるかは、取引当事者間の契約や取引慣行に基づき判断する。
注意点:建設工事の除外
建設業者が請け負う建設工事の再委託(下請負)については、建設業法で別途規制されているため、取適法の役務提供委託からは除外されます。
条文で確認してみます。
▽法2条4項括弧書き
4 この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑶-オ 役務提供委託
なお、本法では、建設業法に規定される建設業を営む者が業として請け負う建設工事は対象とならない。
これは、建設工事の下請負については、建設業法において本法と類似の規定が置かれており、中小受託事業者の保護が別途図られているためである。
ただし、建設業者であっても、工事現場の警備を警備会社に委託する場合や、工事後の清掃を委託する場合などは、建設工事そのものではないため、役務提供委託に該当します。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑶-オ 役務提供委託
(役務提供委託に該当する例)
○ 元請建設工事業者が、発注者から請け負う建設工事一式に含まれる警備業務を警備会社に委託すること
よくある疑問:情報処理とプログラム作成の違い
IT業界では、プログラム作成と情報処理の線引きがひとつのポイントになります(作業内容によって取引の区分が変わる)。
- プログラムの作成(情報成果物作成委託):
システムやソフトウェアそのものを作る行為(コーディング等) - 情報処理(役務提供委託):
コンピュータを使って計算や検索、データ入力をする行為(受託計算サービス、システムの運用など)
例えば、システム開発(プログラム作成)の委託は情報成果物作成委託ですが、そのシステムを使った入力代行サービスなどは役務提供委託、という振り分けとなります。
どちらも取適法の対象となり得ますが、適用される類型に違いがあるため、留意が必要です(ex. 情報成果物作成委託だと自家使用成果物の委託を含むが、役務提供委託だと再委託のみで、自家利用役務の委託は含まれない)。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕 1-⑶-オ
(注1)「プログラムの作成(情報成果物の作成)」と「情報処理(役務の提供)」の違いについて
「プログラムの作成」とは、電子計算機を機能させて、一の結果を得ることができるようにこれに対応する指令を組み合わせたものを作成することをいい、情報成果物の作成に該当する。例えば、ソフトウェア等の作成(コーディング作業も含む。)がこれに当たる。
一方、「情報処理」とは、電子計算機を用いて、計算、検索等の作業を行うことで、プログラムの作成に該当しないものをいい、役務の提供に該当する。例えば、受託計算サービス、情報処理システム(電子計算機及びプログラムの集合体であって、情報処理の業務を一体的に行うよう構成されたものをいう。)の運用(データ入出力、移動管理、障害管理、資源管理、セキュリティ管理等)を行うことなどがこれに当たる。
…(略)…。
なお、当該役務が、委託事業者が他者に提供する目的たる役務である場合には、本法第2条第4項の「役務提供委託」に該当するが、当該役務が自ら用いる役務である場合には、当該委託取引は、本法の対象とならない。
結び
役務提供委託のキーワードは、再委託(自社がビジネスとして提供しているサービスを他の事業者に委託)です。
- 自社で利用するサービス(自社が客としてサービスを受ける)なら対象外
- 自社が客から請け負った仕事を誰かにやらせるなら対象
これは経費で払う自社で利用するためのサービスか?それともお客様に売るためのサービスか?という視点でチェックすると、判断しやすくなるかもしれません。
次の記事は、特定運送委託についてです。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
- 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
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