取適法

取適法解説|価格転嫁の切り札「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」を詳解

今回は、中小受託取引適正化法(取適法)ということで、委託事業者の禁止事項のうち協議に応じない一方的な代金決定の禁止について見てみたいと思います。

取適法では、立場が弱い中小受託事業者が発注元の都合によって不当な不利益を被ることを防ぐために、委託事業者の11の禁止事項を定めており、その一つにこの協議拒否の禁止があります。

委託事業者の11の禁止事項

(5条1項のグループ)
① 受領拒否の禁止
② 代金の支払遅延の禁止
③ 代金の減額の禁止
④ 返品の禁止
⑤ 買いたたきの禁止
⑥ 購入・利用強制の禁止
⑦ 報復措置の禁止
5条2項のグループ
⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
⑨ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
⑩ 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
協議に応じない一方的な代金決定の禁止

昨今の原材料費やエネルギーコスト、労務費の上昇にもかかわらず、発注側が協議そのものを拒絶し、価格を据え置くといった事態を打開するために新設された規定です。本記事では、どのような行為がこの禁止事項に該当するのか、運用基準等に基づき解説します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

協議に応じない一方的な代金決定の禁止

協議に応じない一方的な代金決定の禁止とは、コスト上昇等が生じた場合に、価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議を拒否したり必要な説明を行わずに、一方的に代金を決定することを禁止するものです。

▽取適法5条2項4号

 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為…(略)…をすることによつて、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。
 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず一方的に製造委託等代金の額を決定すること。

このように本号は、協議拒否一般ではなく、以下のようなプロセスでの協議拒否と一方的な代金決定を禁止しています。

  • 事情の発生
    労務費、原材料価格、エネルギーコストの高騰や、発注内容の変更(納期短縮、数量減少など)により、中小受託事業者の給付に関する費用が変動した場合
  • 価格協議の申入れ
    中小受託事業者が、代金の額に関する協議を求めた場合
  • 協議拒否または説明不足
    委託事業者が、協議に応じない、または協議において必要な説明・情報提供を行わない
  • 一方的な代金決定
    委託事業者が一方的に代金の額を決定する(据え置きを含む)

「事情が生じた場合」(①事情の発生)

ここでいう「事情」とは、中小受託事業者の給付に関し代金の額に影響を及ぼし得る事情を指し、いわゆるコスト上昇を含め、次のような事情が含まれるとされています(取適法運用基準 第4-9-⑵)。

  • 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の高騰による中小受託事業者の給付に要する費用の変動
  • 従来の納期の短縮納入頻度の増加発注数量の減少等による取引条件の変更、需給状況の変化
  • 委託事業者から従前の代金の引き下げを求められた場合 など

「協議を求めた」(②価格協議の申入れ)

中小受託事業者が「協議を求めた」とは、口頭で協議が申し入れられる場合に限りません。

例えば、コスト上昇分を上乗せした見積書を提出するなど、協議を希望する意図が客観的に認められる場合も含まれます(取適法運用基準 第4-9-⑶)。

「協議に応じない」「必要な説明をしない」(③協議拒否または説明不足)

具体的にどのような態度が「協議に応じない」「必要な説明・情報提供をしない」とみなされるかについて、運用基準では以下のように示されています(取適法運用基準 第4-9-⑶⑷)。

協議拒否の範囲

協議拒否は、単に協議しないと明示的に拒絶する場合だけではなく、

  • 無視・放置:協議の求めを無視すること
  • 引き延ばし:協議の実施を繰り返し先延ばしにして、事実上、協議の実施を困難にさせること

も含まれます。

説明不足の範囲

条文上、説明不足にも言及されているように、形だけ協議の場を設けても、実質的な議論を避ける行為は規制対象になります。

  • 委託事業者が提示する価格の根拠について、必要な説明を行わないこと
  • 中小受託事業者が求めた事項について、回答しないこと

ただし、当然ながら、委託事業者の営業秘密(原価構造の深部など)の開示までは義務付けられていません。また、既に説明が尽くされているのに同じ質問が繰り返される場合に回答しないことは問題となりません。

「一方的に代金の額を決定」(④一方的な代金決定)

一方的に代金の額を決定」とは、中小受託事業者の自由な意思による価格交渉を経ずに代金の額を設定することをいい(据え置きを含む)、運用基準では、以下のような態様での一方的決定が本号違反に該当すると例示されています(取適法運用基準 第4-9-⑺)。

コスト上昇の無視・協議拒否

中小受託事業者が、公表資料(最低賃金上昇率や春闘の結果など)に基づき具体的な値上げ額を提示して協議を求めたのに対し、これを拒否・無視したり、回答を引き延ばしたりして、従前の単価を据え置くようなケースです。

過大な資料要求による封殺

中小受託事業者が値上げを求めた際、「そのコスト上昇の根拠を詳細に出せ」と、合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を求め、それを協議に応じる条件とするようなケースです。

例えば「詳細な原価計算書を出せなければ値上げは認めない」といって、算出困難な資料を要求し、協議をあきらめさせるような行為は規制対象となります。

説明なき一方的決定

中小受託事業者が合理的な理由を示して値上げを求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、その要求の一部を拒否したり、従前の代金を提示したりするようなケースです。

不利益の示唆

コストダウン要請に対し、中小受託事業者が理由の説明を求めたところ、「応じなければ取引を減らす」などと不利益な取扱いを示唆した上で、十分な説明なく代金を引き下げるようなケースです。

「不当に害する」

本号は法5条2項のグループであり、中小受託事業者の利益を不当に害する場合にはじめて違法となることになっているので、委託事業者が発生事情に見合う十分な価格決定をするのであれば(中小受託事業者の利益を不当に害さなければ)違法とはならないということです。

例えば、多数の中小受託事業者に対し類似の取引を委託する委託事業者が、個別協議を実施せず一律に、コスト上昇分に十分見合うよう従前の代金からの引上げを決定し、当該中小受託事業者の申し入れた引上げ額を上回る代金の額が定められた場合などは、一方的な代金決定によっても、「利益を不当に害する」とはいえないとされています(取適法運用基準 第4-9-⑹)。

ただ、単に自己判断で”値上げするから協議しなくてもいいだろう”という考えが認められるわけではないことに注意が必要です。

▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑸-サ【Q134】

 中小受託事業者からの協議の求めに応じなくとも、コスト上昇分を踏まえて代金の額を定めれば、協議に応じない一方的な代金決定には該当しないと考えてよいか。

 委託事業者が自ら妥当と判断するコスト上昇分を踏まえて従前の代金を引き上げるものであっても、一方的に当該中小受託事業者の申し入れた引上げ額を下回る代金の額を決定する場合には、通常、その中小受託事業者の自由な意思による価格交渉によって実現される利益が害されるといえ、「中小受託事業者の利益を不当に害」するものに当たり、協議に応じない一方的な代金決定に該当するおそれがあることから、中小受託事業者と協議を行った上で、代金の額を決定する必要がある。

「買いたたき」との違い

従来からある「買いたたき」(法第5条第1項第5号)と、新設された「協議に応じない一方的な代金決定」はどう違うのでしょうか。

  • 買いたたき:決定された代金の額が「通常支払われる対価に比して著しく低い」ことが要件
  • 協議拒否の禁止:代金の額の水準そのものよりも、「協議を行わないプロセス」自体が問題視される

したがって、決定された額が「著しく低い」とまでは言えない場合(例えば、少しだけ値上げした場合)であっても、十分な協議を経ずに一方的に決められたものであれば、本号違反となる可能性があります。

結び

協議に応じない一方的な代金決定の禁止は、中小受託事業者にとっては、価格転嫁を円滑に進めるための心強い手段となり得ます。

「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」のポイント

  • 委託事業者(発注側):
    • 中小受託事業者からの見積り提出や相談を無視せず、誠実に協議のテーブルに着く必要があります
    • また、価格を据え置く場合や希望額を満たせない場合は、その根拠を説明する責任があります
    • 協議の経緯は記録に残すことが推奨されます
  • 中小受託事業者(受注側):
    • コスト増の根拠を示して協議を申し入れることにつき、法的な裏付けを持つことができます

これまでの「頼んでも聞いてもらえない」という状況に対し、法的に一定の歯止めがかかることになります。双方向のコミュニケーションに基づく適正な価格決定が、コンプライアンス上求められます。

次の記事は、違反行為に対する措置等についてです。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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主要法令等

  • 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
  • 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
  • 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
  • 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
  • 遅延損害金率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
  • 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)

参考資料

  • 取適法ガイドブック(「中小受託取引適正化法ガイドブック 下請法は取適法へ」(公正取引委員会・中小企業庁))
  • 取適法テキスト(「中小受託取引適正化法テキスト」〔令和7年11月版〕(公正取引委員会・中小企業庁))

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