今回は、取適法ということで、適用対象取引のうち情報成果物作成委託について見てみたいと思います。
取適法では、立場の格差から濫用が行われがちな5つの取引類型を適用対象として定めており、その一つに情報成果物作成委託があります。
情報成果物作成委託は、IT、デザイン、放送、アニメーションなど、クリエイティブな業界で最も関係の深い取引類型です。
形のないものを扱うこの取引は、製造委託に比べて範囲がわかりにくい側面があります。どのようなものが情報成果物にあたり、どういうケースが法の適用対象になるのか、しっかり整理しておきましょう。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
情報成果物作成委託とは
取適法における情報成果物作成委託とは、事業者が他の事業者に対し、情報成果物の作成を委託することを指します。
そもそも「情報成果物」とは何か
では、法律が定義する情報成果物とは具体的に何を指すのでしょうか。大きく分けて以下の3つです。
条文も確認してみます。
▽取適法2条7項
7 この法律で「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの
なお、4号で政令により追加されているものは現在のところありません。
これらを作成する作業(コーディング、録音、執筆、デザインなど)を委託する場合が対象となります。
「委託」の判断基準:仕様の指定
情報成果物作成委託における「委託」とは、事業者が他の事業者に対し、給付に係る仕様、内容等を指定して情報成果物の作成を依頼することです。
つまり、事業者が他の事業者に対し、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの仕様、テーマ、コンセプト等を指定して作成を依頼することです
情報成果物作成委託の3つの類型
情報成果物作成委託は、委託事業者(発注側)がその成果物をどうするのかによって、以下の3つの類型に分類されます。
類型1:提供目的情報成果物の作成委託(業として「提供」するものの作成委託)
事業者が、ビジネスとして顧客に提供(販売や使用許諾)している情報成果物の作成を、外部に委託する場合です。
条文の文言でいうと、
「事業者が業として行う提供…の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」
とされています(法2条3項)。
ここでいう「提供」とは、事業者が、他者に対し情報成果物の販売、使用許諾を行うなどの方法により、その情報成果物を他者の用に供することをいいます。
この提供には、情報成果物それ自体を単独で提供する場合のほか、
- 物品等の附属品として提供される場合
例:家電製品の取扱説明書の内容、CDのライナーノーツ - 制御プログラムとして物品に内蔵される場合
例:家電製品の制御プログラム - 商品の形態、容器、包装等に使用するデザインや商品の設計等を商品に化体して提供する場合
例:ペットボトルの形のデザイン、半導体の設計図
も含まれ、物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。
具体例
- ソフトウェアメーカーが、販売するゲームソフトのプログラム作成を別の開発会社や個人プログラマーに委託する
- 家電メーカーが、販売する製品に内蔵する制御プログラムの開発を委託する
- 出版社が、販売する雑誌の記事執筆をライターに委託する
- 家電メーカーが、製品に付属させる取扱説明書の原稿作成を制作会社に委託する
類型2:情報成果物の作成再委託(業として「請け負った」ものの再委託)
事業者が、顧客から作成を請け負った情報成果物の作成を、さらに別の事業者に委託する場合です。いわゆる”下請けに出す”ケースです。
条文の文言でいうと、
「事業者が…業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」
とされています(法2条3項)。
具体例
- 広告代理店が、クライアントから受注したテレビCMの制作を制作会社に委託する
- システムインテグレーター(SIer)が、ユーザーから受託したシステム開発の一部を別のソフト会社に委託する
- 建築設計事務所が、施主から請け負った設計図面の作成を別の設計事務所に委託する
- アニメ制作会社が、製作委員会から請け負ったアニメの原画作成を個人のアニメーターに委託する
類型3:自家使用情報成果物の作成委託
ここが少し特殊です。事業者が、自社で使用する情報成果物の作成を外部に委託する場合です。
ただし、単に自社で使うものなら何でも対象になるわけではなく、その情報成果物の作成を業として行っている場合に限られます。
条文の文言でいうと、
「事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」
とされています(法2条3項)。
具体例
- 対象になる例: ソフトウェア開発会社が、自社内で使う会計ソフトの開発を外部に委託する(普段からソフト開発を業としているため)
- 対象にならない例: 食品メーカーが、自社の会計ソフトの開発を外部に委託する(食品メーカーは普段ソフト開発を業としていないため)
また、自家使用の情報成果物の代表例としては自社ホームページがあるかと思いますが、「一部を自社で作成し残りの部分の作成を外注に出している」というケースを例に、
- 通常、ホームページは自社の宣伝のために使用するものであるので、自家使用の情報成果物にあたり、
- 一部を作成しているのだから、情報成果物作成委託に該当すると考えられるが、
- 外注部分について自社で作成する能力がないような場合は、その部分の作成は業として行っているとはいえないので、情報成果物作成委託に該当しない
とされています。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑶【Q43】
自社ホームページについて、一部を自社で作成し、残りの部分の作成を外注に出しているが、これは本法の対象となるか。
通常、ホームページは自社の宣伝のために使用するものであるので、自家使用する情報成果物に当たり、当該外注部分についてはそもそも自社で作成する能力がないような場合には、当該外注部分の作成を自社で業として行っているとは認められないことから、情報成果物作成委託に該当しない。ただし、ホームページ上で有償提供するコンテンツ(画像等)の作成を他の事業者に委託する場合には、当該コンテンツは業として提供する情報成果物であることから、情報成果物作成委託(類型1)に該当し本法の対象となる。
▽情報サービス・ソフトウェア産業ガイドライン〔令和7年12月版〕2.2.1.3|中小企業庁HP
○自社のホームページや自社用ソフトの作成作業の一部を外注する場合
…(略)…
➢通常、ホームページは自社の宣伝のために使用するものであるので、自ら使用する情報成果物に当たり、一部を自社で作成しているのだから情報成果物作成委託に該当すると考えられるが、当該外注部分について自社で作成する能力がないような場合には、他の事業者に作成を委託しても情報成果物作成委託に該当しない。ただし、ホームページ上で有償で提供するコンテンツ(画像等)の作成を他の事業者に委託する場合には、当該コンテンツは業として提供を行う情報成果物であることから、情報成果物作成委託に該当する。
- 「情報サービス・ソフトウェア産業における中小受託適正取引等の推進のためのガイドライン」〔令和7年12月版〕(経済産業省)18~19頁
よくある疑問:プログラム作成と情報処理の違い
IT業界では、プログラム作成と情報処理の線引きがひとつのポイントになります(作業内容によって取引の区分が変わる)。
- プログラムの作成(情報成果物作成委託):
システムやソフトウェアそのものを作る行為(コーディング等) - 情報処理(役務提供委託):
コンピュータを使って計算や検索、データ入力をする行為(受託計算サービス、システムの運用など)
例えば、システム開発(プログラム作成)の委託は情報成果物作成委託ですが、そのシステムを使った入力代行サービスなどは役務提供委託、という振り分けとなります。
どちらも取適法の対象となり得ますが、適用される類型に違いがあるため、留意が必要です(ex. 情報成果物作成委託だと自家使用成果物の委託を含むが、役務提供委託だと再委託のみで、自家利用役務の委託は含まれない)。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕 1-⑶-オ
(注1)「プログラムの作成(情報成果物の作成)」と「情報処理(役務の提供)」の違いについて
「プログラムの作成」とは、電子計算機を機能させて、一の結果を得ることができるようにこれに対応する指令を組み合わせたものを作成することをいい、情報成果物の作成に該当する。例えば、ソフトウェア等の作成(コーディング作業も含む。)がこれに当たる。
一方、「情報処理」とは、電子計算機を用いて、計算、検索等の作業を行うことで、プログラムの作成に該当しないものをいい、役務の提供に該当する。例えば、受託計算サービス、情報処理システム(電子計算機及びプログラムの集合体であって、情報処理の業務を一体的に行うよう構成されたものをいう。)の運用(データ入出力、移動管理、障害管理、資源管理、セキュリティ管理等)を行うことなどがこれに当たる。
…(略)…。
なお、当該役務が、委託事業者が他者に提供する目的たる役務である場合には、本法第2条第4項の「役務提供委託」に該当するが、当該役務が自ら用いる役務である場合には、当該委託取引は、本法の対象とならない。
結び
クリエイティブな成果物は、仕様の確定が難しく、度重なる修正(リテイク)が発生しやすい分野です。しかし、取適法では、発注時の書面交付等(4条明示)や、やり直し費用の負担などが厳格に定められています。
もし情報成果物作成委託に当てはまる場合は、
- 仕様が未定でも、決まっていることだけ先に書面等で明示する(未定事項は決まり次第補充する)
- 大幅なやり直しが発生したら、その費用負担を協議する
こうしたルールを守り、クリエイターやエンジニアとの適正な取引関係を築くことが求められます。
次の記事は、役務提供委託についてです。
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取適法解説|サービスの再委託が対象「役務提供委託」の定義と自家利用役務
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
- 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
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