今回は、中小受託取引適正化法(取適法)ということで、委託事業者の義務のうち取引記録の作成・保存義務について見てみたいと思います。
発注時の4条明示(旧3条書面)は広く知られていますが、7条記録(旧5条書類)については、発注書等の控えがあればいいのでは?といった誤解も少なくないように思います。本記事では、何を記録し、どのように保存すべきか、法改正による変更点を含めて解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
取引記録の作成・保存義務(法7条)
取引記録の作成・保存義務は、委託事業者が製造委託等取引の内容や経過などを記録した書類を作成・保存することを義務づけるものです。
法7条に定められていることから、「7条記録」とも呼ばれます。
取引の経緯を明確にすることで後日の紛争を防ぐため、と同時に、公正取引委員会等による検査の便宜・迅速さに資するためのものとされています。
▽取適法7条
(書類等の作成及び保存)
第七条 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付、給付の受領(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあつては、中小受託事業者から役務の提供を受けたこと)、製造委託等代金の支払その他の事項について記載し又は記録した書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第十四条第三号において同じ。)を作成し、これを保存しなければならない。
4条明示の書面書面と5条書類の違い
ところで、同じく委託事業者の義務として「4条明示」というのがありましたが、「4条明示」の書面と「7条記録」の書類というのは何が違うのでしょうか。
必要事項も一部重複しているため一瞬よくわからなかったりもしますが、簡単にいうと、
- 「4条明示」は作成し相手に交付するものだが、「7条記録」は作成し自分で持っておく(保存しておく)もの
- 「4条明示」は発注時だが、「7条記録」はその後の取引の経過も含めて必要事項をその都度書き込んでいく
- 誤解を恐れずにいえば、「4条明示」は相手に交付するためのもの、「7条記録」は委託事業者内での記録(”管理簿”や”台帳”)といったイメージ
- 後述のように7条記録は様式を問いませんし、複数に分散していてもよいとされていますので、”管理簿”とか”台帳”というのはあくまでイメージですが、このようにイメージした方が4条明示との違いはわかりやすくなるかと思います
- だから、「4条明示」は交付(電磁的方法なら提供)義務で、「7条記録」は作成・保存義務となっている
といった感じです。
つまり、基本的な性格の違いとしては、4条明示は外向けのもの(=発注書面)であるのに対し、7条記録は内向けのもの(=取引の経緯の記録)といってよいと思います。
記録事項(7条記録規則1条)
記録事項の具体的内容(1項)
では、必要な記録事項の内容について見てみます。
公正取引委員会規則で定めるところによる「中小受託事業者の給付、給付の受領…(略)…、製造委託等代金の支払その他の事項」は、以下のようになっています。
ここでいう公取規則は、7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)になります
規則の条文も確認してみます。
▽7条記録規則1条1項(※【 】は管理人注)
第一条 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(以下「法」という。)第七条の規定により作成する書類又は電磁的記録(以下「書類等」という。)には、次に掲げる事項を明確に記載し又は記録しなければならない。
【1号:当事者】
一 中小受託事業者の商号、名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって中小受託事業者を識別できるもの
【2号:発注日、中小受託事業者の給付に関する事項】
二 製造委託等をした日、中小受託事業者の給付(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、提供される役務。以下同じ。)の内容及びその給付を受領する期日(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受ける期日(期間を定めて提供を委託するものにあっては、当該期間))並びにその受領した給付の内容及びその給付を受領した日(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた日(期間を定めて提供を受けたものにあっては、当該期間))
【3号:検収に関する事項】
三 中小受託事業者の給付の内容について検査をした場合は、その検査を完了した日、その検査の結果及びその検査に合格しなかった給付の取扱い
【4号:変更・やり直しに関する事項】
四 中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又はその給付の受領後(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた後)に給付をやり直させた場合には、その内容及びその理由
【5~9号:代金に関する事項】
五 製造委託等代金の額及び支払期日並びにその額に変更があった場合は増減額及びその理由
六 製造委託等代金の支払について金銭を使用した場合は、その支払額、支払日及び支払方法
七 製造委託等代金の支払について金銭以外の支払手段を使用した場合(次号及び第九号に規定する場合を除く。)は、次に掲げる事項
イ 当該支払手段の種類、名称、価額その他当該支払手段に関する事項
ロ 当該支払手段を使用した日
ハ 中小受託事業者が当該支払手段の引換えによって得ることとなる金銭の額その他その引換えに関する事項
八 製造委託等代金の全部又は一部の支払につき、委託事業者、中小受託事業者及び金融機関の間の約定に基づき、中小受託事業者が債権譲渡担保方式(中小受託事業者が、製造委託等代金の額に相当する額の代金債権を担保として、金融機関から当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭の貸付けを受ける方式をいう。)又はファクタリング方式(中小受託事業者が、製造委託等代金の額に相当する額の代金債権を金融機関に譲渡することにより、当該金融機関から当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭の支払を受ける方式をいう。)若しくは併存的債務引受方式(中小受託事業者が、製造委託等代金の額に相当する額の代金債務を委託事業者と共に負った金融機関から、当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭の支払を受ける方式をいう。)により金融機関から当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭の貸付け又は支払を受けることができることとした場合は、次に掲げる事項
イ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期
ロ 当該代金債権又は当該代金債務の額に相当する額の金銭を当該金融機関に支払った日
ハ その他当該貸付け又は支払に関する事項
九 製造委託等代金の全部又は一部の支払につき、委託事業者及び中小受託事業者が電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権の発生記録又は譲渡記録をした場合は、次に掲げる事項
イ 当該電子記録債権の額
ロ 中小受託事業者が製造委託等代金の支払を受けることができることとした期間の始期
ハ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日
ニ その他当該電子記録債権の使用に関する事項
【10号:原材料等の有償支給に関する事項】
十 製造委託等に関し原材料等を委託事業者から購入させた場合は、その品名、数量、対価及び引渡しの日並びにその代金の決済をした日及びその決済の方法
【11~12号:代金に関する事項②】
十一 製造委託等代金の一部を支払い又は製造委託等代金から原材料等の対価の全部若しくは一部を控除した場合は、その後の製造委託等代金の残額
十二 遅延利息を支払った場合は、その支払った額及び支払った日
【13号:未定事項がある場合の当初明示と補充明示に関する事項】
十三 法第四条第一項ただし書の規定により明示しないこととした事項がある場合には、当該事項の内容が定められなかった理由【=当初明示に関する事項】、当該事項の内容を明示した日及びその内容【=補充明示に関する事項】
4条明示の明示事項との比較
ここでもわかりにくいのはやはり4条明示との違いだと思いますので、7条記録事項で、4条明示事項との違いが特徴的なところを少しだけ取り上げてみます。
〇中小受託事業者の給付に関する事項は、給付内容と納期については4条明示と同内容であるが、7条記録では、さらに、実際に受領した給付の内容や実際の受領日を記載することが義務づけられている(2号)
〇7条記録は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、検収に関する事項は、検収を実際に完了した日、合否の別や不合格の取扱いなどの事項が記載事項となっている(3号)
〇7条記録は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、給付内容の変更・やり直しに関する事項も記録事項となっている(4号)
〇7条記録は、発注時も含めたその後の取引の経過を記録するものなので、製造委託等代金に関する事項は、代金の増減の有無(5号)や、実際に支払った代金の額、実際に支払った日(6号)、代金の一部支払いや相殺をしたときの残代金(11号)、なども記録事項となっている
そのほか、4条明示との関連で、記録事項がやや変則的な内容になる場合を以下2つ見てみます。
代金額につき算定方法による明示をした場合(2項)
4条明示の代金の額は、具体的な金額を明確に記載することが原則ですが、やむを得ない事情がある場合には、算定方法による明示も認められています(4条明示規則1条2項)。
このように4条明示で算定方法により記載した場合、代金の額に関する7条記録での必要記載事項は、
- 算定方法のほか、
- 算定方法により確定した具体的な金額
となります。
また、算定方法に変更があったときは、上記に加えて、
- 変更後の算定方法
- 変更後の算定方法により確定した具体的な金額
- 変更の理由
を記録しなければならないとされています(7条記録規則1条2項)。
▽7条記録規則1条2項(※【 】は管理人注)
2 製造委託等代金の額について具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合においてその算定方法の明示をしたときは、前項第五号の製造委託等代金の額について、当該算定方法及びこれにより定められた具体的な金額並びに当該算定方法に変更があったときは変更後の算定方法、当該変更後の算定方法により定められた具体的な金額及びその理由を明確に記載し又は記録しなければならない。
未定事項があるため当初明示と補充明示によった場合
4条明示で、発注時に内容が定められないことにつき正当な理由がある場合は、例外的な交付方法(未定事項以外について当初明示をした後に、未定事項につき補充明示をするという方法)が認められています(法4条1項ただし書)。
この場合、7条記録には、
- 未定事項の内容が定められない理由
- 補充明示をした日
- 補充明示の内容
を記載する必要があるとされています(※7条記録規則1条1項の13号に規定されています)。
記録の作成方法(7条記録規則2条)
共通(1項)
記録の作成方法は、7条記録規則2条に定められており、7条記録は、取引の経過に応じその都度速やかに行わなければならないとされています(1項)。
▽7条記録規則2条1項
第二条 前条第一項及び第二項に規定する事項の記載又は記録は、それぞれその事項に係る事実が生じ、又は明らかになったときに、速やかに当該事項について行わなければならない。
また、7条記録は、管理簿や台帳のように一つの書類にまとめていなくても、別々になっていても構いません(例えば、普段使っている伝票や帳簿等であっても記録事項が満たされていれば新たに帳簿を作成する必要はないし、また、発注部門と経理部門に分けて作成・保存しておくなども可)。
ただ、別々にする場合には、その相互の関係を明らかにしなければならないとされています。
▽7条記録規則1条3項(※【 】は管理人注)
3 第一項及び第二項に規定する事項は、その相互の関係を明らかにして、それぞれ別の書類等に記載又は記録をすることができる。
相互の関係を明らかにする方法としては、例えば、発注ごとの整理番号を別々の書類全てに共通して記載しておくことなどが考えられます。
4条明示の写しを7条記録の一部とする方法
4条明示の写しを7条記録の一部とすることは可能ですが、4条明示は発注時の事項を明示したものであるのに対し、7条記録は発注してから取引が完了するまでの一連の経緯を記録するものであるため、4条明示の写しだけで7条記録の必要記載事項の全てをカバーすることはできません。
なので、適宜、4条明示の写しに7条記録の記録事項を追記していくなどの形で対応する必要があります。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑷-ウ
4条明示した内容の写しを7条記録とすることは問題ないか。
発注内容、単価、納期等を4条明示した内容の写しを7条記録の一部とすることは可能である。しかし、7条記録は受託取引の経緯に係る記録なので、取引開始時に定めた事項のみが明示されている4条明示した内容の写しを保存するだけでは、記録規則の記録事項を全て満たすことはできないため書類等の作成・保存義務に違反することとなる。
なお、なぜこういう質問が出てくるかというと、4条明示事項と7条記録事項が一部重複しているからです。
書類による場合(2項)
7条記録の書類は、中小受託事業者別に作成しなければならない(=業者別に整理せよ、ということ)とされています(2項)。
▽7条記録規則2条2項
2 前条第一項及び第二項に規定する事項を書類に記載する場合には、中小受託事業者別に記載しなければならない。
電磁的記録による場合(3項)
電磁的記録による場合については、
- 訂正・削除の履歴:訂正や削除の有無・内容を確認できること(つまり、改ざんの有無・内容を確認できるようになっていること)
- 可視性・出力性:記録事項をディスプレイに表示したりプリントアウトできること
- 検索機能:中小受託事業者や発注日の期間を指定して検索できること
という要件が課されており(7条記録規則2条3項)、これらの機能を備えたシステムにする必要があります。
▽7条記録規則2条3項(※【 】は管理人注)
3 前条第一項及び第二項に規定する事項を電磁的記録に記録する場合には、次に掲げる要件を満たさなければならない。
一 前条第一項及び第二項に規定する事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
二 必要に応じ、電磁的記録に記録された事項を電子計算機の映像面に表示し、及び当該事項を書面に出力することができること。
三 電磁的記録に記録された事項の検索をすることができる機能(次に掲げる要件を満たすものに限る。)を有していること。
イ 前条第一項第一号に掲げる事項【=中小受託事業者の名称等(記号・番号も可)】を検索の条件として設定することができること。
ロ 製造委託等をした日については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
保存期間(7条記録規則3条)
保存期間は、記録事項をすべて記録した日から2年間となっています(7条記録規則3条)。
起算日は発注日ではなく、記録完了日です。
▽7条記録規則3条
第三条 書類等は、その記載又は記録をすべき事項の全部の記載又は記録をした日から二年間、保存しなければならない。
結び
7条記録は、委託事業者自身の社内での業者先管理、取引の経緯を明確にすることによるトラブル防止に資するほか、公正取引委員会等の検査において、事実関係を証明する証拠にもなり得ます。
取適法の施行と合わせ、現在の帳簿システムや購買管理システムが、法律上必要な記録事項(新たな支払規制への対応を含む)を満たしているか、改めて確認することが推奨されます。
次の記事は、支払期日を定める義務および遅延損害金の支払義務についてです。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延損害金率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
参考資料
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