今回は、取適法・フリーランス法における電磁的方法による明示・予告等をまとめて比較してみたいと思います。
取適法とフリーランス法は内容が似ていて頭が混乱しやすいように思いますが、この点は、現代の働き方に欠かせないメールやチャット(電磁的方法)でのやり取りのルールについても、やはり同じであるように思います。
そこで本記事では、2つの法律における「電磁的方法によるやり取りのルールの比較」をまとめて整理しています。
①前半では、取適法とフリーランス法における電磁的方法による明示の比較(これはほぼ同じ)、②そして後半では、同じフリーランス法の中でも、発注時(=3条通知)と解約時(=中途解除等の事前予告・理由開示)でメール・チャット連絡の厳しさが若干違うことを、それぞれ解説していきます。
発注事業者側も、受託側も、取引の大事な場面で迷うことのないよう、全体像をチェックしていきましょう。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
取適法とフリーランス法における「明示義務」での比較
結論からいうと、取適法(4条明示)とフリーランス法(3条通知)において、取引条件の明示を電磁的方法で行う際の違いはなくなっており、同じルールに統一されています。
旧下請法のときには、両者の間に「事前承諾の有無」や「出力要件の有無」といった違いが存在していました
具体的に、かつて存在した違いがどのように統一されたのか、以下のポイントに分けて解説します。
事前の承諾は両法とも不要に
旧下請法では、書面に代えて電磁的方法で明示を行うには、下請事業者の事前の承諾を得る必要がありました。
しかし、取適法4条1項では、フリーランス法3条1項と同じ条文構造になり、「書面又は電磁的方法…により中小受託事業者に対し明示しなければならない」と規定されました。
これにより、取適法においても事前の承諾は不要となり、発注者(委託事業者)は自らの判断で書面か電磁的方法(メールやSNSのメッセージ等)を選択できるようになっています。
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電磁的方法の出力・保存要件も同一に
出力要件はなくなった
旧下請法では、発注書面の交付を電磁的方法で行う際の要件として、出力要件(つまり書面にプリントアウトできること)がありました。
しかし、取適法の4条明示規則2条2項では、電磁的方法の要件について「中小受託事業者の使用に係る電子計算機の映像面に文字、番号、記号その他の符号で明確に表示されるものでなければならない」とだけ規定されており、法令上「出力することにより書面を作成することができること」といった要件は課されていません。これはフリーランス法の規則と同じ文言です。
ちなみに、2項の「表示されなければならない」というのは、ディスプレイ表示要件、つまり可視性のことです。
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保存は「運用上望ましい」との扱い
また、運用を説明した取適法テキストにおいても、電子メール等で明示を受けた内容はシステム上に記録されるものではないため、「トラブル防止の観点から、その内容を自らの電子計算機に備えられたファイル等に記録し、保存することが望ましい」と推奨されるにとどまっており、フリーランス法の解釈ガイドラインと同じ記載となっています。
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書面交付を求められた場合の対応も同一に
電磁的方法により明示した場合の注意点として、両法ともに「電磁的方法で明示された後に、受注者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければならない」という義務(書面交付請求による交付)が定められています。
また、例外として書面交付を拒めるケース(受注者の保護に支障を生ずることがない場合)についても、以下のとおり両法で基本的に同じ条件が定められています。
- 受注者自らが電磁的方法による提供を希望した場合
- 完全にインターネットのみで完結する取引(定型約款がネットで閲覧できる状態)の場合
- すでに書面を交付している場合
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フリーランス法における「明示義務」と「中途解約時の義務」での比較
しかし、中途解除等の事前予告・理由開示(フリーランス法16条)については話が若干異なります。
実は、同じフリーランス法の中でも、入り口である取引条件の明示(3条通知)と、出口である中途解除の予告等(16条)とでは、電磁的方法を利用する際の「記録・出力に関する厳しさ」に若干の違いがあります。
具体的にどのような違いがあるのか、3つのポイントで比較・解説していきます。
法令上の出力(書面化)要件の有無
一番の違いは、法令の条文上に出力要件(つまり書面にプリントアウトできること)がはっきり書かれているかどうかです。
- 3条通知・取適法4条明示の場合
先ほど見たように、法令上の要件は、パソコンやスマホの「映像面に文字、番号、記号その他の符号で(明確に)表示される方法」であることとされています。法令レベルでの出力要件はありません - 中途解除等の事前予告・理由開示(16条)の場合
厚生労働省の規則により、電子メール等の送信の方法を用いる場合は「特定受託事業者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る」と、出力要件が付けられています。理由開示の場合も同様です
▽フリーランス法16条:厚労規則3条1項(※【 】は管理人注)
(法第十六条第一項の厚生労働省令で定める予告の方法)
第三条 法第十六条第一項の規定による予告は、次のいずれかの方法により行わなければならない。
一 書面を交付する方法
二 ファクシミリを利用してする送信の方法
三 電子メール等の送信の方法(特定受託事業者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。第五条第一項第三号【=理由開示の方法】において同じ。)
「認められない手段」がガイドラインで指定されている
この出力要件があるため、16条(中途解除等)では、使ってはいけないNGな手段がガイドライン等で明示されています。
- 16条(中途解除等)で「認められない」方法
確実に出力(書面化)して記録に残すことができないため、以下のような方法はNG(認められない)とされています- 音声データの送付による方法
- メッセージ消去機能(一定時間で消える機能など)を用いた方法
- 何らかの機能制限によって随時の確認ができない方法
- スクリーンショット等の機能を制限した方法
- 3条通知・取適法4条明示の場合
こうした個別のNG機能についての指定は特になく、クラウドサービス等でメッセージが削除される可能性があっても直ちに違法とはされません
▽フリーランス法Q&A〔令和8年1月1日版〕【問114】
事前予告の方法のうち電子メール等の送信の方法について、「電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるもの」とは、具体的にどのような要件を満たしている必要があるのでしょうか。
「出力することにより書面を作成することができる」とは、電子メール等の本文又は電子メール等に添付されたファイル等が出力できることを指します。
なお、トラブル防止の観点から、記録に残すことができる方法で事前予告を行うことが重要です。このため、本文や添付ファイルが出力できるサービスによる方法が望ましいですが、事業者間の取引実態に鑑み、SMSや自社アプリ等のファイル添付ができないサービスにより事前予告を行う場合は、予告された内容をスクリーンショット等の機能により保存できる方法で伝達する場合も、例外的に要件を満たすものと考えています。
一方、例えば、音声データの送付による方法による予告やメッセージ消去機能を用いた方法による予告、何らかの機能制限によって随時の確認ができない方法による予告、スクリーンショット等の機能を制限した方法による予告など、記録に残すことができない方法による事前予告等は認められません。
「スクリーンショット」の位置づけ
チャットやSNSなどのメッセージをスクリーンショットで保存することに対する位置づけ(法律上の評価)にも温度差があります。
3条通知の場合は、あくまで推奨です。
「メッセージが削除されてしまったり、閲覧が不可能になってしまったりする可能性もあるため、(中略)スクリーンショット機能等を用いた発注内容の保存を行うことが望まれます」とされており、スクショ保存はあくまでトラブル防止のための「推奨」にとどまっています。
▽フリーランス法Q&A〔令和8年1月1日版〕【問41】
3条通知を「電磁的方法による提供」により明示する方法とは、具体的にはどのような方法でしょうか。
3条通知を「電磁的方法による提供」により明示する方法として、次のような方法があります。
① 受信者を特定して電気通信により送信する方法
例えば、電子メール、チャットツール、SMSを用いて送信する方法が該当します。SNS、ウェブサイト、アプリケーション等のメッセージ機能を用いて送信する場合も同様です。
明示事項は、メッセージの本文に記載する方法だけではなく、明示事項の掲載されたウェブページのURLをメッセージ上に記載する方法も認められます。また、受信者を特定して電気通信により送信する方法により明示する場合は、特定受託事業者の使用する通信端末機器等によりメッセージを受信したときに到達したものとみなされ、明示したことになります。ウェブメールサービス、クラウドサービス等の場合は、特定受託事業者が3条通知の内容を確認し得る状態となれば明示したことになります。
なお、特にクラウドサービス等を利用する場合は、メッセージが削除されてしまったり、環境が変わって閲覧が不可能になってしまったりする可能性もあるため、業務委託事業者側・特定受託事業者側双方でスクリーンショット機能等を用いた発注内容の保存を行うことが望まれます。
② 明示事項を記録したファイルを交付する方法
(以下略)
これに対して、16条(中途解除等)の場合は、例外的なクリア条件になっています。
先ほど見たように(問114)、基本的には、本文や添付ファイルが出力(印刷)できるサービスを使うことが望ましいとされています。その上で、SMSや自社アプリなどファイル添付ができないサービスを使う場合には、「予告された内容をスクリーンショット等の機能により保存できる方法で伝達する場合」に限り、例外的に要件を満たすものとされています。
つまり、スクショ等で確実に保存できることが「最低限満たすべき必須条件」となっています。
結び
最後に、本記事はどこを比較したのかを視覚的に整理しておくと、以下の赤アンダーラインの部分になります。
| 取適法 | フリーランス法 | |
|---|---|---|
| 発注事業者の義務 | ① 発注内容等の明示義務(4条明示) ② 取引記録の作成・保存義務(7条記録) ③ 支払期日を定める義務 ④ 遅延利息の支払義務 | 【取引適正化】 ① 取引条件の明示(3条通知) ② 期日における報酬支払義務 【就業環境の整備】 ① 募集情報の的確表示 ② 育児介護等と業務の両立に対する配慮 ③ ハラスメント対策に係る体制整備 ④ 中途解除等の事前予告・理由開示 |
特に法律では”似ているが微妙に違う”ものが一番わかりにくいともいえますので、そのような場合に本記事が何かのお役に立てば幸いです。
取適法全体を知りたい方はこちら
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取適法(新・下請法)のガイドマップ~対象から義務・ペナルティまで総まとめ
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フリーランス法全体を知りたい方はこちら
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【保存版】フリーランス法のガイドマップ~全体像・対象者・ルールを総まとめ
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)|公取委HP
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)|公取委HP(≫掲載ページ)
参考資料
- フリーランス法パンフレット(「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ)
- 説明資料(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ)
参考文献
- フリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課フリーランス取引適正化室、厚生労働省雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室)
- 実務逐条解説 フリーランス・事業者間取引適正化等法(那須勇太、益原大亮 編著)
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