物流業界を取り巻く環境は、2024年問題などの労働環境改善の波もあり、これまでにないスピードで変化しています。
その中で、発注者(荷主や元請け)と受注者(物流事業者)の取引を適正化するためのルールとして、従来からあった①取適法(旧下請法)の役務提供委託と②独禁法の物流特殊指定に、③取適法の特定運送委託が新たに加わりました。
似たような言葉が多くて、どれがどの取引に適用されるのかわからないという方のために、本記事では、この3つの規制の全体像、組み合わせ方、そして重複している部分の何が違うのかを解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
そもそも3つの規制は誰を対象にしているのか(全体像)
物流のサプライチェーンは、大きく分けて、①荷主から元請物流事業者への委託と、②元請から下請物流事業者への再委託の2つの段階があります。
それぞれの規制がどの段階をカバーしているかを押さえるのが、理解の第一歩です。
規制の組み合わせ方:棲み分けと重複
では、これら3つの制度は、どのように組み合わさって物流分野の規制をカバーしているのでしょうか。
役務提供委託と物流特殊指定:棲み分け(従来)
実は、この2つは同時に適用されることはありません。独禁法の物流特殊指定のルールには、取適法の役務提供委託に該当するものは除くと明記されています。
1 この告示において「特定荷主」とは、次の各号のいずれかに該当する事業者をいう(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和三十一年法律第百二十号)第二条第四項に規定する役務提供委託に該当する場合を除く。)。
一~三 (略)
つまり、①「荷主からの直接委託」は物流特殊指定、②「元請から下請への再委託」は取適法の役務提供委託というように、規制のバトンタッチが成立しています。
物流特殊指定と特定運送委託:重複
ここがポイントですが、令和7年法改正(取適法)により新設された特定運送委託は、①「荷主からの直接委託」をターゲットにしています。つまり、独禁法の物流特殊指定の守備範囲に、取適法が重なってくることになりました。
引き続き、物流特殊指定も独禁法に基づく規制として並行して機能しますので、同じ①「荷主からの直接委託」でも、両方のルールがあることを意識しておく必要があります。
ここまでをまとめると、以下のようなイメージになります。

重複する特定運送委託と物流特殊指定は何が違うのか
では、同じような取引を規制するこの2つの制度は、具体的に何が同じで、何が違うのでしょうか。
共通点
どちらも、物流分野における発注者と受託者間の力関係の格差是正を目的とし、適用の効果として禁止事項が課される点は共通しています。
①規制目的の共通性
両制度とも、物流分野における取引の適正化を図ることを目的としています。
特に取引上優越的な地位にある事業者(特定荷主/委託事業者)による、相手方事業者(特定物流事業者/中小受託事業者)の利益を不当に害する行為を規制対象としています。
②規制対象行為(禁止事項)の共通性
物流取引において特に問題となりやすい不公正な行為については、両制度で同様に禁止されています。
禁止事項の多くは共通していますが、若干の違いもあるので簡単にまとめてみます。
特定運送委託と物流特殊指定の禁止事項
| 禁止事項 | 特定運送委託 | 物流特殊指定 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 代金の支払遅延 | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています |
| 代金の減額 | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています |
| 買いたたき | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています |
| 購入・利用強制 | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています |
| 報復措置 | ○ | ○ | 情報提供(違反事実を行政機関に知らせたこと)への報復は両制度で禁止されています。不当な要求拒否への報復は、物流特殊指定にのみ、独立した禁止規定(第1項第8号)が存在します |
| 割引困難な手形の交付 | × | ○ | 物流特殊指定では独立した禁止行為です。取適法では令和7年改正によりさらに厳しくなり、手形を交付すること自体が原則禁止(「支払遅延」の中に含まれる)となりました |
| 不当な経済上の利益の提供要請 | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています(協賛金や無償の労務提供など) |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | ○ | ○ | 両制度で共通して禁止されています |
| 協議に応じない一方的な代金決定 | ○ | × | 取適法にのみ、令和7年改正で新設された規定です |
相違点
重複しているとはいえ、カバーする範囲や条件には明確な違いもあります。
①対象となる業務内容
物流特殊指定では、運送だけでなく、保管(倉庫業など)の委託も対象になります。
これに対して、特定運送委託では、運送のみが対象です。
②運送の目的と届け先
物流特殊指定では、荷物をどこへ運ぶか(自社工場間か、顧客宛てか)の制限はありません。
これに対して、特定運送委託は、「取引の相手方」(顧客など)への運送に限定されます。したがって、自社の工場から別の自社物流センターへ運ぶような拠点間移動などは、原則として特定運送委託の対象外となります。
③継続性の有無
物流特殊指定は、継続的に委託している関係性が対象です(不定期でも反復していれば含む)。
これに対して、特定運送委託は、継続性は問われず、単発の運送委託であっても対象になります(「業として」の要件を満たす場合)。
④保護される受託者の範囲(大企業の子会社の扱い)
物流特殊指定では、受託者である「特定物流事業者」の定義において、大企業の子会社つまり資本金が一定額(3億円等)を超える事業者の子会社は保護対象から除外されています。親会社の資本力があるためです。
▽物流特殊指定 備考第2項
2 この告示において「特定物流事業者」とは、次の各号のいずれかに該当する事業者をいう。
一 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が三億円以下(資本金の額又は出資の総額が三億円を超える事業者の子会社を除く。)の事業者であって、前項第一号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託するもの
二 個人又は資本金の額若しくは出資の総額が千万円以下(資本金の額又は出資の総額が千万円を超える事業者の子会社を除く。)の事業者であって、前項第二号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託するもの
三 前二号に掲げるもののほか、前項第三号に規定する特定荷主から継続的に物品の運送又は保管を受託する事業者であって、当該特定荷主に対し取引上の地位が劣っているもの
これに対して、特定運送委託では、このような除外規定はありません。受託事業者が大企業子会社であっても、規模に係る要件(資本金基準または従業員基準)を満たせば中小受託事業者として保護の対象になります。
なお、少し紛らわしいですが、荷主と受託事業者の間に親子会社関係(物流子会社など)や兄弟会社関係がある場合などは、実質的に同一会社内での取引とみることができるため、取適法は運用上問題とされません。取適法にも、こういった運用上の除外ケースはあります。
▽取適法テキスト 1-⑶【Q3】
親子会社間や兄弟会社の取引にも、本法が適用されるか。
親子会社間等の取引であっても本法の適用が除外されるものではないが、親会社と当該親会社が総株主の議決権の50%超を所有する子会社との取引や、同一の親会社がいずれも総株主の議決権の50%超を所有している子会社間の取引など、実質的に同一会社内での取引とみられる場合は、従前から、運用上問題としていない。
⑤義務規定の有無
物流特殊指定では、適用の効果として定められているのは禁止事項のみです。
これに対して、特定運送委託(取適法)では、禁止事項(全11項目)だけでなく、発注内容等を記載した書面(またはデータ)を直ちに交付する義務(4条明示義務)や、受領日から起算して60日以内の支払期日を定める義務など、委託事業者の義務(全4項目)が課せられます。
まとめ
ここまでの相違点をまとめます。
特定運送委託と物流特殊指定の相違点
| 項目 | 取適法「特定運送委託」 | 独禁法「物流特殊指定」 |
|---|---|---|
| ①対象取引の範囲 | 物品の運送のみを対象とする。倉庫保管は含まれない | 物品の運送又は保管の委託を対象とする |
| ②運送の目的と届け先 | 特定の物品(販売、製造、修理、情報成果物作成の目的物)の、「取引の相手方」(顧客)に対する運送に限定される。発注者自身の拠点間の運送や、修理のための引き取り運送は通常対象外 | 物品の運送または保管全般を対象とし、届け先にも限定はない |
| ③規制対象事業者 | 規模要件(資本金または従業員数)を満たす委託事業者と中小受託事業者の間の取引に適用される | 特定荷主(資本金基準または取引上の優越的地位を有する者)と特定物流事業者の間の取引に適用される |
| ④受託者の保護範囲(大企業子会社の除外) | 受託事業者が規模要件を満たせば、資本金の額が一定額を超える事業者の子会社であっても保護対象(中小受託事業者)となり得る | 特定物流事業者の定義において、資本金の額が一定額を超える事業者の子会社は保護対象から除かれる規定がある |
| ⑤義務規定 | 書面または電磁的方法による明示義務(発注内容、代金など)や支払期日(受領後60日以内)に関する義務が課される | 優越的地位の濫用を規制するものであり、明示義務や支払期日に関する具体的な義務規定(60日ルール等)は含まれていない(ただし、代金支払遅延は禁止行為) |
補足:フリーランス法における役務提供委託としての捉え方
なお、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)でも、運送委託を役務提供委託として広く捉えることが可能です。以下ポイントをまとめます。
取引類型に該当
フリーランス法においても、運送サービスは役務の提供に該当します。したがって、運送の委託は、フリーランス法上の役務提供委託として規制対象となり得ます。
保護対象者の限定
フリーランス法が適用されるのは、業務の受託者が、従業員を使用しない個人、または役員が一人で従業員を使用しない法人(特定受託事業者)である場合に限られます。
適用範囲の広さ
フリーランス法上の役務提供委託は、事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)とされており、委託事業者が自ら用いる役務(自家利用役務)も含まれます(再委託に限られない)。
そのため、①荷主から元請物流事業者への直接委託(自家利用にあたる部分)と②元請から下請物流事業者への再委託のどちらについても適用があります。
①への規制につき、例えば取適法の特定運送委託が「取引の相手方」(顧客)への運送に限定されるのに対し、フリーランス法の役務提供委託では、そのような限定はありません。したがって、特定運送委託に当たらない運送(例えば、個人事業主のフリーランスに自社拠点間の運送を委託する場合など)であっても、他の要件を満たせばフリーランス法の適用対象となります。
つまり、運送の委託が、受託者が特定受託事業者に該当する個人事業主等に対して行われた場合、その取引にはフリーランス法の遵守事項(義務と禁止事項)が適用されます。
フリーランス法もあわせた守備範囲イメージは、以下のようになります。

結び
物流分野の主な規制である3つの規制は、概ね以下のように整理できます。
令和7年法改正(取適法)により、荷主による発注時の4条明示や60日以内の支払が義務化される特定運送委託が新設されたことで、物流業界の適正化がより推進されることになります。自社の取引がどの枠組みに該当するのか、荷主も物流事業者も正確に把握しておくことが必要です。
特定運送委託の具体的内容については、以下の記事でくわしく解説しています。
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取適法解説|物流分野にインパクト「特定運送委託」の定義と4つの類型
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
- 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
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