独占禁止法

独占禁止法を勉強しよう|不公正な取引方法ー全体像

2020年10月5日

今回は、独占禁止法を勉強しようということで、不公正な取引方法の全体像について書いてみたいと思う。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。

 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

基本的な条文

不公正な取引方法というのは、競争を実質的に制限するとまではいえないが、何らかの形で競争を妨げる行為のこと。競争を阻害するおそれがない場合には、通常の取引行為として適法に行うことができるものを含んでいる。
(※ただ、競争の実質的制限と公正競争阻害性は、実際にはそのボーダーラインが明確ではなく個別的な判断が必要とされる)

基本的な条文は、不公正な取引方法の定義を定める2条9項各号と、その禁止を定める19条である。

第五章 不公正な取引方法

第十九条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

こういう禁止規定があって、では、「不公正な取引方法」とは何か?という定義が、2条9項各号に書かれている、という構造になっている。

以下長いが、最初なので、2条9項の条文をざっと見の意味で引用してきたい(とりあえずは流し読みで。なお、【 】は管理人による小見出しの挿入)。

第二条

9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

【共同の取引拒絶】
 正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること。
 イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限すること。
 ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限させること。

【差別対価】
 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品又は役務を継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

【不当廉売】
 正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであつて、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの

【再販売価格の拘束】
 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
 イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
 ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。

【優越的地位の濫用】
 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
 イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
 ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
 ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

【公正取引委員会による指定】
 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
 イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。
 ロ 不当な対価をもつて取引すること。
 ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。
 ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。
 ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。
 ヘ 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。

そして、上記6号の「公正取引委員会が指定するもの」は、以下のリンクのとおり。

不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)|公正取引委員会HP
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/fukousei.html

不公正な取引方法の全体像

全体の俯瞰

不公正な取引方法は、行為類型がいっぱいあって、とにかく全体像が見えにくい。

そこでまず全体を徐々に俯瞰していきたいと思う。

不公正な取引方法には、法定類型と、告示類型がある。

法定類型は、法2条9項の1号~5号に定められている。で、同6号で公正取引委員会が指定するもの、となっていて、これを受けて告示類型が展開されている。

さらに、告示類型には、全ての事業者に適用される一般指定と、特定の事業分野における特定の取引方法に適用される特殊指定がある。

つまり、こういう感じ。

法定類型(5類型)

告示類型

 ┗一般指定(15類型) 

 ┗特殊指定(3類型)

法定類型と告示類型の実益的な違いは何かというと、法定類型には課徴金が課され、告示類型には課徴金が課されない、ということである。

表で眺めてみる

次に、とりあえず全体を表で眺めてみたい。以下の表のポイントは、次の2点である。

ポイント①

不公正な取引方法の全体像がわかりにくいのは、行為類型によっては、一部が法定類型で、かつ、一部が告示類型になっているものがあることである(つまり、法定類型にも告示類型にもまたがるものがあるということ)。

そこで、以下の表では、法定類型の列と、一般指定の列をつくり、どちらにあたるかがわかるようにしている(条文or告示の、根拠条数・項数をそれぞれ書いている)。

ポイント②

前の記事で、独禁法には行為類型に共通の効果要件があるという話を書いた。

で、不公正な取引方法における「公正競争阻害性」という効果要件に関しては、「正当な理由なく」「不当に」「正常な商慣習に照らして不当に」という3種類の異なる文言があり、以下のように、類型的にちゃんと意味があるものとされている。

「正当な理由なく」という行為類型(1号、3号、4号)

行為自体が類型的に公正競争阻害性を有するもの。

行為要件に該当することが認定されれば、原則として公正競争阻害性が認められる。

「不当に」という行為類型(2号、6号)

行為自体は中立的であり、通常の取引行為として適法に行われることもあるもの 。

行為要件に該当するというだけでは、公正競争阻害性あるとはいえないため、別途公正競争阻害性があることが認定される必要がある。

「正常な商慣習に照らして不当に」という行為類型(5号)

「不当に」と同様、行為自体は中立的とされる。

なお、「正常な商慣習」というのは、独禁法の観点から見たときの許容できる商慣習のことで、普通の意味でいう”商慣習”という意味ではない。

まとめの表

以上の要領でまとめると、以下の表のようになる。

行為類型

細分類

法定類型
(2条9項)

一般指定
(H21告示第15号)

「正当な理由なく」
「不当に」
「正常な商慣習に
照らして不当に」の別

【差別的取扱い】のグループ(6号イ参照)

〇共同の取引拒絶

供給することの拒絶(直接拒絶)

1号イ

 

正当な理由なく

供給することの拒絶(間接拒絶)

1号ロ

 

正当な理由なく

供給を受けることの拒絶(直接拒絶)

 

1項

正当な理由なく

供給を受けることの拒絶(間接拒絶)

 

1項

正当な理由なく

〇その他の取引拒絶

単独の取引拒絶

 

2項

不当に

競争者でない者による共同の取引拒絶 

 

2項

不当に

〇差別対価

継続的に供給する場合

2号

 

不当に

供給する場合のうち継続的でない場合、
供給を受ける場合

 

3項

不当に

〇差別的取扱い

対価を除く取引条件の差別的取扱い

 

4項

不当に

〇事業者団体における差別取扱い等

   

5項

不当に

【不当対価】のグループ(6号ロ参照)

〇不当廉売

継続して、供給に要する費用を
著しく下回る価格で

3号

 

正当な理由なく

上記以外

 

6項

不当に

〇不当高価購入

   

7項

不当に

【不当な顧客誘引・取引強制】のグループ(6号ハ参照)

〇欺瞞的顧客誘因

   

8項

不当に

〇不当利益顧客誘因

   

9項

正常な商慣習に照らして不当に

〇抱き合わせ販売

抱き合わせ販売

 

10項前段

不当に

抱き合わせ販売以外の強制

 

10項後段

不当に

【不当拘束】のグループ(6号ニ参照)

〇再販売価格拘束

直接の再販売価格維持行為

4号イ

   

直接の再販売価格維持行為

4号ロ

   

〇排他的条件付取引

   

11項

不当に

〇拘束条件付取引

   

12項

不当に

【地位の不当利用】のグループ(6号ホ参照)

〇優越的地位の濫用

取引に関係ない商品・役務の
購入(
購入要請

5号イ

 

正常な商慣習に照らして不当に

金銭役務・経済上の
利益提供(
利益提供要請

5号ロ

 

正常な商慣習に照らして不当に

取引条件の不利益変更

5号ハ

 

正常な商慣習に照らして不当に

取引の相手方に対する
不当干渉(
不当干渉

 

13項

正常な商慣習に照らして不当に

【取引妨害・内部干渉】のグループ(6号ヘ参照)

〇取引妨害

   

14項

不当に

〇内部干渉

   

15項

不当に

 

公正競争阻害性

最後に、それだけ聞くと抽象的で無味乾燥なので最後にもってきたが、理論的な部分の説明も少しだけ。

公正な競争とは? →能率競争

そもそも「公正な競争」というのは、どういう競争のことをいっているのかというと、「能率競争」のことであるといわれる。

能率競争というのは、良質な商品を廉価で提供することを唯一の手段として顧客を獲得しようとすることである。つまり、わかりやすくいうと、品質と価格で勝負すること、という意味。

とりあえずは、”フェアな競争というのは、品質と価格で勝負することだ”というのを基本に据えているのだな、と思っておけばよいと思う。

公正競争阻害性とは? →公正な競争のための3つの条件が侵害されるもの

公正競争阻害性の概念については、「独占禁止法研究会報告書」(昭和57年7月8日)が3種類に整理した考え方を提示している。

これによると、公正な競争とは、①自由な競争の確保、②競争手段の公正さの確保、③自由競争基盤の確保、によってもたらされる状態のことで、公正競争阻害性は、これら3つの条件が侵害されることを意味する、とされる。

① 競争の減殺

 自由な競争が侵害されるおそれがある場合。再販売価格拘束、取引拒絶、差別的取り扱い、不当廉売、排他条件付取引など

② 競争手段の不公正さ

 競争秩序に悪影響を及ぼすような取引方法を用いる場合。欺瞞的取引、不当な利益供与による顧客誘引、抱き合わせ販売、取引強制、取引妨害・内部干渉など

③ 競争基盤の侵害

 自由で主体的な判断により取引を行うことができない状態。優越的地位の濫用 

 

結び

不公正な取引方法の全体像については以上になります。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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