今回は、独占禁止法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
法律の目的
まず法律の目的から見ていくと、目的を定める法1条は以下のように長い文章になっていますが、ひと言でいうと、「公正かつ自由な競争を促進」して「一般消費者の利益を確保」することになります。
▽独占禁止法1条
第一条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。
目的規定の定め方というのは、一般的には、
AすることによりBし、もってCすることを目的とする。
※Aは手段(規制の内容)
※Bは直接の目的
※Cは究極的な目的
というふうになっていますが、これになぞらえて読むと、
- 【手段】
私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、 - 【直接の目的】
公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、 - 【究極的な目的】
以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする
となっています。
感覚的にいうと、自由な競争を促進するが、同時に(自由でありさえすればよいわけではなく)公正な競争でなければならない、というニュアンスかなと思います(管理人の個人的理解の仕方)。
▽公正取引委員会のXアカウント
【#2024ひとこと講座 5 独禁法は何のためにある?】
— 公正取引委員会 (@jftc) April 11, 2024
独禁法は「公正かつ自由な競争の促進」を目的としています。
公正かつ自由な競争が行われることで、企業は、より安く、より良い商品を開発して成長します。
これにより、消費者も様々なメリットを受けられます。https://t.co/SoosxeXpra pic.twitter.com/4rdPnMWWqU
規制の仕組み
規制の内容は、大きく「行為規制」と「構造規制」の2つに分かれます。
行為規制
「行為規制」は、自由な競争を制限する行為と、公正な競争を阻害する行為を規制するもので、以下のような3本柱になっています。
【行為規制】(①~③を規制)
- 私的独占
市場支配力のある事業者が、他の事業者を不当に支配して市場において競争が行われないようにすること - 不当な取引制限(カルテル)
競争事業者間で、相互に事業活動を拘束し競争制限する協定・合意をすること - 不公正な取引方法
公正な競争を阻害するおそれがある取引方法
厳密に1対1で対応しているわけではないですが、法律の目的との対応関係でいうと、
- 自由な競争を促進
=自由な競争を制限またはおそれのある行為を規制
→①私的独占、②不当な取引制限、への規制 - 同時に、公正な競争でなければならない
=公正な競争を阻害する行為を規制
→③不公正な取引方法、への規制
という感じになるかと思います。
③の不公正な取引方法には、法定類型(2条9項2号~5号)と、公正な競争を阻害するおそれがある取引として公正取引委員会が指定するもの(指定類型。2条9項6号)とがあります。そして、指定類型には、全ての業種に適用される「一般指定」と、特定業種に適用される「特殊指定」があります。
【不公正な取引方法】
- 法定類型(5類型)
- 告示類型
┗ 一般指定(15類型)
┗ 特殊指定(3類型)
一般指定は、大まかにいうと、①自由な競争を制限するおそれがあるような行為、②競争手段そのものが公正とはいえない行為、③大企業が優越的な地位を利用して取引相手に無理な要求を押しつける行為の3つのグループに分けることができます。
以上を表でまとめると、行為規制の全体イメージは以下のような感じになります。
【行為規制の全体イメージ】
法律の目的との関係 | 行為規制の3本柱(1⃣~3⃣) | 備考 | ||
自由な競争を制限する行為 | 1⃣ 私的独占の禁止 | |||
2⃣ 不当な取引制限の禁止 | ||||
公正な競争を阻害する行為(フェアプレーでないもの) | 3⃣ 不公正な取引方法の禁止 | 法定類型+一般指定 | ①自由な競争を制限するおそれがあるような行為 ・取引拒絶 ・差別価格 ・不当廉売 ・再販売価格拘束 |
|
②競争手段そのものが公正とはいえない行為 ・欺瞞的顧客誘引 ・不当利益顧客誘引(過大な景品) ・抱き合わせ販売 |
景品表示法はこの関連 | |||
③大企業が優越的な地位を利用して取引相手に無理な要求を押しつける行為 ・優越的地位の濫用 |
下請法はこの関連 | |||
特殊指定 | ・大規模小売業者が行う不公正な取引方法 ・特定荷主が行う不公正な取引方法(物流特殊指定) ・新聞業 |
また、行為規制に関する主なガイドライン(=行政解釈・運用)には、たとえば以下のようなものがあります。
▷ 排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針
▷ 流通取引慣行に関する独占禁止法上の指針
▷ 不当廉売に関する独占禁止法上の考え方
▷ 優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方
構造規制
「構造規制」というと何かイメージしにくいですが、いわゆる企業結合規制のことで、競争を制限することとなるような企業の組織変更を規制するものです。
独占禁止法が規制する企業結合の類型は、7類型(①株式保有、②役員の兼任、③合併、④会社分割、⑤共同株式移転、⑥事業の譲受け、⑦事業の賃借等)になっています。
構造規制に関する主なガイドラインには、たとえば以下のようなものがあります。
▷ 企業結合審査に関する独占禁止法上の運用指針
▷ 企業結合審査の手続に関する対応方針
違反に対する措置・制裁
違反に対する措置・制裁としては、行政・刑事・民事の3種類全てが存在します。
行政措置については、審査手続→(不服がある場合)審判請求→行政措置、という流れを踏みます。独占禁止法に違反する競争制限的な行為や状態を将来に向けて排除するための「排除措置命令」と、課徴金を国庫に納付するよう命じる「課徴金納付命令」とがあります。
刑事罰については、公正取引委員会には訴追権はなく、公正取引委員会が告発することにより検察が刑事訴追します。
民事責任については、独禁法違反の被害者は、民法709条に基づき損害賠償請求できるのは当然として、公正取引委員会の排除措置命令が確定した場合に、無過失の損害賠償請求ができるようになっています(法25条、26条)。また、不公正な取引方法については、差止請求ができるようになっています(法24条)。
表にすると、違反に対する措置・制裁の全体像は以下のような感じになります。
【違反に対する措置・制裁】
措置・制裁 | 私的独占 | 不当な取引制限(カルテル) | 不公正な取引方法 | |
行政措置 | 排除措置命令 | ○ | ○ | ○ |
課徴金納付命令 | ○ | ○ | ○ | |
刑事罰 | 違反者個人、違反企業、違反企業代表者 | ○ | ○ | |
民事責任 | 損害賠償請求 | ○ | ○ | ○ |
差止請求 | ○ |
ガイドライン
上記にいくつか抜粋しましたが、独占禁止法に関するガイドラインの一覧は、以下の公正取引委員会HPで見ることができます。
▽法令・ガイドライン等(独占禁止法)|公正取引委員会HP
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/index.html
独占禁止法の勉強
最後に余談ですが、独占禁止法を勉強することになるときというのは、大体、以下2つのシチュエーションなのではないかなと思います(管理人のインハウス経験から考える個人的見解)。
- 真正面から問題になるような企業の場合は、真正面から必要
- そうでない場合でも、独占禁止法に連なる下請法と景品表示法は、企業一般に問題になるケースが多く(というかほとんど)、また、優越的地位の濫用についてはちょくちょく気になるケースに遭遇することがある
②というのはつまり、こういうイメージです。
独占禁止法 ←優越的地位の濫用は一般条項的である故に微妙に遭遇する
┗下請法 ←これは一般的に問題になる(資本金によってはならないこともある)
┗景表法 ←これも一般的に問題になる
なので、独占禁止法を隅から隅まで見る必要があるというシチュエーションでなくても、下請法や景品表示法を見るときにその土台になっている素地としてとか、優越的地位の濫用などは見ておいた方がいいような気がします。
全体をざっと見ていくときは、たとえば以下のようなイメージで進めていくのがいいのではないかと思います(管理人の個人的イメージ)。
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まず、独禁法の全体の仕組みとして、規制の仕組みと、基本概念をみる。そうすると、行為規制、構造規制、エンフォースメント(違反に対する措置)、という感じに分かれている。
行為規制には、①私的独占、②不当な取引制限、③不公正な取引方法の規制の3つがあり、これが行為規制の3本柱になっている。行為類型ごとに個別の「行為要件」(縦断的な要件)と、行為類型に共通する「効果要件」(横断的な要件)がある。
構造規制というのは、企業結合規制のことで、規制の内容と審査の仕組みをみる。
エンフォースメント(実現のための措置の意)としては、行政措置・刑事罰・民事責任の3種すべてがある。
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結び
今回は、独占禁止法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について見てみました。
ちなみに、独占禁止法には有名なブログがありますので、参考までご紹介しておきます。
▽弁護士植村幸也公式ブログ:みんなの独禁法。
http://kyu-go-go.cocolog-nifty.com/blog/
次の記事は、基本概念についてです。
▽次の記事
-
独占禁止法を勉強しよう|基本概念
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。