独占禁止法

独占禁止法を勉強しよう|違反に対する措置(エンフォースメント)ー刑事罰、民事責任

今回は、独占禁止法を勉強しようということで、違反に対する措置のうち、刑事罰と民事責任について書いてみたいと思う。

 

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

 

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

 

違反に対する措置(エンフォースメント)の全体像

独禁法の違反に対する措置・制裁には、行政刑事民事の3種類全てが存在する。

 

ちなみに、違反に対する措置のことを「エンフォースメント」といったりするが、これは「執行」という意味で、普通の言葉でいうと"実現"という意味である。
(例えば、民事執行というのは、民事上の権利の実現、という意味)

 

エンフォースメントの全体像を表にすると、以下のとおり。

 

 

措置・制裁

私的独占

不当な取引制限
(カルテル)

不公正な取引方法

行政措置

排除措置命令

課徴金納付命令


(告示類型は除く)

刑事罰

違反者個人、違反企業、違反企業代表者

 

民事責任

損害賠償請求

差止請求

   

 

ポイントの1つ目は、刑事罰は、不公正な取引方法については無いという点である(なお、企業結合規制についても無い)。

 

ポイントの2つ目は、民事責任のうち差止請求があるのは、不公正な取引方法のみという点である。

 

 

刑事罰

主な法令等

独禁法の刑事罰に関する主な法令等は以下のとおりである。

 

犯則規則や、刑事告発・犯則方針において、手続面が定められている。

 

 

法律

公取規則

行政解釈

独禁法の刑事罰

独占禁止法

犯則規則
(「公正取引委員会の犯則事件の調査に関する規則」)

刑事告発・犯則方針
(「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」)

 

罰則規定

罰則規定(刑事罰)は、独占禁止法の違反行為に関するものと、手続に関するものがある。

 

違反行為に関するもの

違反行為に関する罰則(89条~91条)は、

〇不当な取引制限(89条1項1号)
〇私的独占(89条1項2号)
〇事業者団体による競争を実質的に制限する行為・国際協定(90条1号)
〇事業者団体による国際的協定(90条2号)
〇確定審決違反(90条3号)
〇銀行・保険会社の議決権保有制限違反(91条)

の違反についてである。(※前述のとおり、不公正な取引方法に関しては刑事罰はない)

 

第八十九条 次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
一 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
二 第八条第一号の規定に違反して一定の取引分野における競争を実質的に制限したもの
2 前項の未遂罪は、罰する。

第九十条 次の各号のいずれかに該当するものは、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 第六条又は第八条第二号の規定に違反して不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をしたもの
二 第八条第三号又は第四号の規定に違反したもの
三 排除措置命令又は競争回復措置命令が確定した後においてこれに従わないもの

第九十一条 第十一条第一項の規定に違反して株式を取得し、若しくは所有し、若しくは同条第二項の規定に違反して株式を所有した者又はこれらの規定による禁止若しくは制限につき第十七条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。

 

手続に関するもの

手続に関する罰則というのは、要するに、公取委の調査に対する懈怠や妨害と見られるものである。

 

▽審査手続(違反被疑事件の調査)におけるもの(94条)

第九十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一 第四十七条第一項第一号又は第二項の規定による事件関係人又は参考人に対する処分に違反して出頭せず、陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、又は報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者
二 第四十七条第一項第二号又は第二項の規定による鑑定人に対する処分に違反して出頭せず、鑑定をせず、又は虚偽の鑑定をした者
三 第四十七条第一項第三号又は第二項の規定による物件の所持者に対する処分に違反して物件を提出しない者
四 第四十七条第一項第四号又は第二項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者

 

▽企業結合審査におけるもの(91条の2)

第九十一条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、二百万円以下の罰金に処する。
一 第九条第四項の規定に違反して報告書を提出せず、又は虚偽の記載をした報告書を提出した者
二 第九条第七項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
三 第十条第二項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
四 第十条第八項の規定に違反して株式の取得をした者
五 第十五条第二項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
六 第十五条第三項において読み替えて準用する第十条第八項の規定に違反して合併による設立又は変更の登記をした者
七 第十五条の二第二項及び第三項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
八 第十五条の二第四項において読み替えて準用する第十条第八項の規定に違反して共同新設分割による設立の登記又は吸収分割による変更の登記をした者
九 第十五条の三第二項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
十 第十五条の三第三項において読み替えて準用する第十条第八項の規定に違反して共同株式移転による設立の登記をした者
十一 第十六条第二項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者
十二 第十六条第三項において読み替えて準用する第十条第八項の規定に違反して第十六条第一項第一号又は第二号に該当する行為をした者
十三 第二十三条第六項の規定に違反して届出をせず、又は虚偽の記載をした届出書を提出した者

 

公正取引委員会の専属告発

上記で見た、89条~91条の刑事罰(違反行為に関する罰則)については、公取委の告発がなければ起訴できないことになっており、これを公正取引委員会の専属告発という。

 

第九十六条 第八十九条から第九十一条までの罪は、公正取引委員会の告発を待つて、これを論ずる。

 

告発の方針は刑事告発・犯則方針において示されていて、以下の2つは、積極的に告発を行う方針である事案とされている。

 

▽刑事告発・犯則方針(1の(1))

1 告発に関する方針
(1) 公正取引委員会は、
ア 一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案
イ 違反を反復して行っている事業者・業界排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案
について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針である。

 

両罰規定・三罰規定

刑事罰は、行為者つまり自然人に対して科されるのが原則であり(刑事法の基本的な考え方)、上記で見た罰則は、いずれも行為者(たとえば役員、従業員等の個人)について定められたものである。

 

が、結局、法人などの事業活動に関して独禁法違反の行為が行われるのであるから、法人が刑事責任を負わなくて済むのは社会的に許容されるものではないし、法的にいっても法益侵害に関与しているといえる。

 

そのため、事業者たる法人に対しても刑事罰を科す仕組みになっており、これを両罰規定という。なお、法人は肉体がないので必然的に自由刑はない(罰金刑のみ)。

 

さらに、事業者たる法人の代表者についても一定の要件を満たせば刑事罰が科されるようになっており、これを三罰規定という。

 

▽両罰規定の例

第九十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。
一 第八十九条 五億円以下の罰金刑
二 第九十条第三号(第七条第一項又は第八条の二第一項若しくは第三項の規定による命令(第三条又は第八条第一号の規定に違反する行為の差止めを命ずる部分に限る。)に違反した場合を除く。) 三億円以下の罰金刑
三 第九十四条 二億円以下の罰金刑
四 第九十条第一号、第二号若しくは第三号(第七条第一項又は第八条の二第一項若しくは第三項の規定による命令(第三条又は第八条第一号の規定に違反する行為の差止めを命ずる部分に限る。)に違反した場合に限る。)、第九十一条、第九十一条の二又は第九十四条の二 各本条の罰金刑

 

▽三罰規定の例

第九十五条の二 第八十九条第一項第一号、第九十条第一号若しくは第三号又は第九十一条の違反があつた場合においては、その違反の計画を知り、その防止に必要な措置を講ぜず、又はその違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた当該法人(第九十条第一号又は第三号の違反があつた場合における当該法人で事業者団体に該当するものを除く。)の代表者に対しても、各本条の罰金刑を科する。

 

犯則調査

行政調査に名を借りて犯則事件の調査を行うこと(あるいは事後的に流用すること)は、憲法上の適正手続の観点から許されていない。

 

独禁法にも以下の規定がある(47条4項)。

 

第四十七条 公正取引委員会は、事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。
一 事件関係人又は参考人に出頭を命じて審尋し、又はこれらの者から意見若しくは報告を徴すること。
二 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。
三 帳簿書類その他の物件の所持者に対し、当該物件の提出を命じ、又は提出物件を留めて置くこと。
四 事件関係人の営業所その他必要な場所に立ち入り、業務及び財産の状況、帳簿書類その他の物件を検査すること。
2~3(略) 
4 第一項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない

 

そこで、そういった疑義を招かぬよう、犯則調査と行政調査は分離されている。

 

▽刑事告発・犯則方針(2項)

2 犯則事件の調査
 公正取引委員会は、前記1(1)ア又はイに該当すると疑うに足りる相当の理由のある独占禁止法違反被疑事件について、犯則事件の調査を行う職員として指定した職員をして調査に当たらせることとし、当該調査の結果、前記1(1)ア又はイに該当する犯則の心証を得た場合に、告発する。

 

 

民事責任

民事責任(被害者からすれば、民事上の請求)については、①損害賠償請求が基本であるが、②不公正な取引方法に関しては差止請求も認められている(24条~26条)。

 

損害賠償請求(25条、26条)

第二十五条 第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第八条の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2 事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない

第二十六条 前条の規定による損害賠償の請求権は、第四十九条に規定する排除措置命令(排除措置命令がされなかつた場合にあつては、第六十二条第一項に規定する納付命令(第八条第一号又は第二号の規定に違反する行為をした事業者団体の構成事業者に対するものを除く。))が確定した後でなければ、裁判上主張することができない。
2 前項の請求権は、同項の排除措置命令又は納付命令が確定した日から三年を経過したときは、時効によつて消滅する。

 

要件

要件として、排除措置命令確定後でなければらないのが特徴的である(26条1項)。

 

他方、違反行為者(事業者又は事業者団体)の故意・過失は不要とされている(無過失責任)。

 

時効は、命令の確定日から3年経過時である。

 

効果(損害額の算定)

効果は、通常の民法上の損害賠償請求と考え方は同じである。

 

つまり、損害の填補、言い換えれば、実損(=違反行為があった場合となかった場合との差額)の填補、である。

 

ただ、実際問題として算定は難しく、①前後理論、②物差理論、③市場占拠率理論、④回帰分析の手法などの手法を用いて算定される。通常は前後理論によることが多い。

 

差止請求(24条)

第二十四条 第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

 

なお、差止請求は、不公正な取引方法についてのみである(冒頭の表を参照)。

 

差止請求のアウトラインについては、公正取引委員会HPに解説がある。

 

▽差止請求制度のアウトライン|公正取引委員会HP
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/minjikyusai/siso05.html

 

要件

①不公正な取引方法の行為要件を満たすこと、②利益を侵害されるか、されるおそれ、③著しい損害を生じ、または生ずるおそれ、が要件である。

 

②と③の違いがわかりにくいが、③は違法性が高い場合をいう(つまり、差止請求が相当といえる程のものであること)とされている。

 

差止請求Q&A(「独占禁止法違反行為に対する差止請求制度についてのQ&A」)にも、該当項目があるが、はっきり書かれてはいない。

 

▽独占禁止法違反行為に対する差止請求制度についてのQ&A|公正取引委員会HP
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/minjikyusai/siso07.html

Q どのような場合に「著しい損害」があったと認められるのですか。
A 実際にどのような場合に「著しい損害」と認められるかは,個別のケースに応じて,裁判所が個々に判断することになります。

 

効果

効果は、違反行為の差止め、つまり、侵害の停止または予防である。

 

▽差止請求Q&A

Q 差止めの内容として,どのようなことが命じられるのですか。
A 侵害(違反)行為の取りやめが基本となりますが,例えば,再販売価格維持行為の場合,単に再販売価格維持行為の取りやめが命じられるだけでなく,指示した価格で販売していないという理由で販売店への出荷を停止することの取りやめが命じられることも考えられます。

 

 

結び

エンフォースメントのうち、刑事罰と民事責任については以上になります。

 

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独占禁止法を勉強しよう|違反に対する措置(エンフォースメント)-行政措置

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。初心者(=過去の自分)がなるだけ早く新しい環境に適応できるようにとの気持ちで書いております(ゆえに、ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれておりませんので、あしからずご了承ください)。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご留意ください。

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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