今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち、ワンチャンス主義等による著作隣接権の例外について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
ワンチャンス主義等による著作隣接権の例外(適用除外)
ワンチャンス主義というのは、著作隣接権を行使できるのは最初の1回(ex.映画への出演時)だけで、その後の二次利用(ex.映画のDVD化)については権利が及ばないとされているケースのことです。
何がワンチャンスかというと、実演家の側から見たときに、交渉の機会がワンチャンスということです。
その後の二次利用について法的な独占権がないということは、最初の実演契約時に、二次利用の対価についても同時に何らか取り決めておかないと、取りっぱぐれになります。
(=法的権利がないので、後日、制作側に対価を請求しても、応じてもらえない)
もし独占権があれば、実演家側としては、
✓「最初にまとめて決めましょう」も、
✓「二次利用については後日決めましょう」も、
どちらも選択できることになります。
(=法的権利があるので、制作側も勝手に二次利用することはできず、後日にも交渉の機会がある)
が、実演してもらう側(映画の製作が典型)としては、それだと、円滑な流通を図ることができなくなるということです。
実演家の著作隣接権は、ワンチャンス主義による例外が多く認められています。
以下、その他の例外も含みつつ、順に見てみます。
録音権・録画権の例外
ワンチャンス主義ー映画の実演(91条2項)
実演家が映画の実演について録音・録画を許諾した場合、その後の録音・録画には権利が及びません(ワンチャンス主義)。
映画は、その後にDVD化するなど二次利用することが多いですが、多額の投資を必要とする映画ではこれらの流通は当初から想定して製作しているので、いちいちの許諾を不要としたものです(映画の円滑な流通を図ったもの)。
要するに、”映画を映画として増製する行為”に対しては、もう録音・録画権は及ばない(ワンチャンス主義)ということです。
ただ、映画の円滑な流通を図るものなので、映画の流通と関係ない形、例えばサントラに録音する場合にはワンチャンス主義は働かないようになっています(「録音物…に録音する場合を除き」との文言)。
▽著作権法91条2項
2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。
ここでいう”映画”は、シネマで見る劇場用映画のことだけではなくて、著作権法上の「映画の著作物」に該当するもののことなので、例えばテレビ番組やインターネット配信用コンテンツなども(要件を満たせば)該当し、ワンチャンス主義の適用があります。
「放送の実演」は?
ひとつ注意点は、放送の実演について許諾しても、ワンチャンス主義は適用されないということです。
放送の許諾は、録音・録画の許諾を含まないとされているので(103条→63条4項)、放送番組に出演することを許諾したとしても、映画の実演について録音・録画を許諾したとはいえないためです。
▽著作権法103条→63条4項(※【 】は管理人注)
(著作隣接権の譲渡、行使等)
第百三条 …(略)…第六十三条及び第六十三条の二の規定は実演、レコード、放送又は有線放送の利用の許諾について、…(略)…それぞれ準用する。
↓ 準用
4 著作物の放送又は有線放送についての第一項【「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。」】の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。
放送のための固定(93条1項)
実演家が放送を許諾した場合、その実演を放送するための録音・録画については権利が及びません。
これは、放送するときは事前に録音・録画してから放送するのが通常なので(VTR)、放送のための実演の録音・録画についてはいちいちの許諾を不要としたものです。
「放送のための固定」というのは93条の小見出しになっていますが、要するに、放送のためのVTRへの録音・録画のことと思えばよいです。
ここに限らず、「固定」という文言を見たら、頭の中で「録音・録画」に置き換えるとよいと思います。
(録音や録画の定義が、”物への固定又はその増製”とされているためで、「固定」は録音・録画を指す言葉として頻繁に出てきます)
なので、契約で別段の定めをしている場合や、異なる内容の放送番組に使用する場合は、除かれています(つまり許諾が必要。但書参照)。
▽著作権法93条1項(※【 】は管理人注)
(放送等のための固定)
第九十三条 実演の放送について第九十二条第一項に規定する権利【=放送権・有線放送権】を有する者の許諾を得た放送事業者は、その実演を放送及び放送同時配信等のために録音し、又は録画することができる。ただし、契約に別段の定めがある場合及び当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音し、又は録画する場合は、この限りでない。
放送のための固定が認められているのは、「放送事業者」だけであり、「有線放送事業者」は入っていません。
もし違反して目的外使用等をした場合は、録音権・録画権の侵害とみなされます(93条2項)。
一瞬、当たり前のことのように思いますが、やっていることは、録音・録画した後の目的外使用(許諾した放送番組と異なる内容の放送番組への使用etc)なので、それ自体は録音・録画ではありません。
しかし、例外的に許容されるはずだった録音・録画の範囲を後から逸脱したわけなので、録音権・録画権の侵害とみなす、という規定を設けているということです。
私的使用目的での複製(102条1項→30条1項)
私的使用目的の録音・録画については、著作権の場合と同様、権利が制限されています。
(著作権の場合の規定が準用されており、許諾なしで複製できる)
▽著作権法102条1項→30条1項
(著作隣接権の制限)
第百二条 第三十条第一項(第四号を除く。第九項第一号において同じ。)、…(略)…の規定は、著作隣接権の目的となつている実演、レコード、放送又は有線放送の利用について準用し、…(略)…
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(以下略)
放送権・有線放送権の例外
放送の同時有線再放送(92条2項1号)
放送と同時に有線再放送する場合、その有線放送については権利が及びません(1号)。
この場合の有線放送の便宜を図ったものです。
▽著作権法92条2項1号
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 放送される実演を有線放送する場合
「放送された実演」ではなく「放送される実演」という文言になっているのは、放送と同時に有線放送する場合だけを指す意味とされています。(「著作権法〔第3版〕」(中山信弘)670頁参照)
ワンチャンス主義(92条2項2号)
また、許諾を得て録音・録画されている実演と、映画の実演については、その後の放送・有線放送には権利が及びません(ワンチャンス主義)(2号)。
▽著作権法92条2項2号(※【 】は管理人注)
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 (略)
二 次に掲げる実演を放送し、又は有線放送する場合
イ 前条第一項に規定する権利【=録音権・録画権】を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演
ロ 前条第二項の実演【=映画の実演】で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
放送のための固定物等による放送(93条の2第1項)
再放送や同系列の放送局での放送など、放送事業者が同一番組の放送を行う場合の便宜を考慮して、放送権の例外が規定されています。
以下の3つがあり、
- リピート放送(同じ放送事業者が再度行う放送)【1号】
- テープ・ネット放送(キー局が、同系列で同一番組を提供するために、地方の放送局に番組テープを物理的に提供して行う放送)【2号】
- マイクロ・ネット放送(キー局が、同系列で同一番組を提供するために、地方の放送局にマイクロウェーブや有線で提供して行う放送)【3号】
これらの場合には、実演家の放送権は及びません。
▽著作権法93条の2第1項(※【 】は管理人注)
(放送のための固定物等による放送)
第九十三条の二 第九十二条第一項に規定する権利【=放送権・有線放送権】を有する者がその実演の放送を許諾したときは、契約に別段の定めがない限り、当該実演は、当該許諾に係る放送のほか、次に掲げる放送において放送することができる。
一 当該許諾を得た放送事業者が前条第一項【=放送のための固定】の規定により作成した録音物又は録画物を用いてする放送
二 当該許諾を得た放送事業者からその者が前条第一項【=放送のための固定】の規定により作成した録音物又は録画物の提供を受けてする放送
三 当該許諾を得た放送事業者から当該許諾に係る放送番組の供給を受けてする放送(前号の放送を除く。)
全体のつながり
「放送のための固定物」というのは、先ほど録音権・録画権の例外のところで見た、VTRのことと思えばよいです(1号・2号)。3号でマイクロ・ネット放送もあるので「等」になっていますが。
つまり、全体の流れとしては、
- 放送の許諾があれば
↓ - その放送のためのVTRへの録音・録画は(録音・録画の許諾がなくても)OK
(録音権・録画権の例外:放送のための固定)
↓ - そのVTRを使ったリピート放送やテープ・ネット放送は(放送の許諾がなくても)OK
(放送権・有線放送権の例外:放送のための固定物等による放送)
いうふうにつながっています。
送信可能化権の例外
ワンチャンス主義(92条の2第2項)
送信可能化権についても、ワンチャンス主義による例外があります。
許諾を得て録画されている実演と、映画の実演については、その後の送信可能化には権利が及びません。
後者は要するに、映画をインターネット配信(二次利用)するような場合に、別途の許諾をとる必要はないということです(映画の円滑な流通を図る)。
▽著作権法92条の2第2項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
一 第九十一条第一項に規定する権利【=録音権・録画権】を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演【=映画の実演】で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
送信可能化権の場合、1号のワンチャンス主義では、「録音」されている実演は含まれていません。
譲渡権の例外
ワンチャンス主義(95条の2第2項)
譲渡権についても、ワンチャンス主義による例外があります。
許諾を得て録画されている実演と、映画の実演については、その後の譲渡には権利が及びません。
▽著作権法95条の2第2項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
一 第九十一条第一項に規定する権利【=録音権・録画権】を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演【=映画の実演】で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
消尽(95条の2第3項)
実演の録音物・録画物がいったん適法に譲渡された場合には、その後の再譲渡に対して譲渡権は及びません(消尽)。
▽著作権法95条の2第3項(※【 】は管理人注)
3 第一項の規定は、実演(前項各号に掲げるものを除く。以下この条において同じ。)の録音物又は録画物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一 第一項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
二 第百三条において準用する第六十七条第一項の規定による裁定を受けて公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
三 第百三条において準用する第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された実演の録音物又は録画物
四 第一項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された実演の録音物又は録画物
五 国外において、第一項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された実演の録音物又は録画物
貸与権の例外
権利行使期間
貸与権は、発売日から1年間が権利行使期間となっています。
▽著作権法95条の3第2項、同施行令57条の2
2 前項の規定は、最初に販売された日から起算して一月以上十二月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード(複製されているレコードのすべてが当該商業用レコードと同一であるものを含む。以下「期間経過商業用レコード」という。)の貸与による場合には、適用しない。
(貸与権の適用に係る期間)
第五十七条の二 法第九十五条の三第二項の政令で定める期間は、十二月とする。
1年間の権利行使期間を経過した商業用レコードは、「期間経過商業用レコード」と定義づけされています。
まとめ
表でざっとまとめてみると、以下のとおりです。(★はワンチャンス主義)
著作隣接権 | 著作隣接権の例外 |
|
録音権・録画権 | 映画の実演(91条2項)★ | |
放送のための固定(93条1項) | ||
私的使用目的での複製(102条1項→30条1項) | ||
放送権・有線放送権 | 放送の同時有線再放送(92条2項1号) | |
許諾を得て録音・録画されている実演(同項2号イ)★ | ||
映画の実演(同項2号ロ)★ | ||
放送のための固定物等による放送(92条の2第1項) | リピート放送(1号) | |
テープ・ネット放送(2号) | ||
マイクロ・ネット放送(3号) | ||
送信可能化権 | 許諾を得て録画されている実演(92条の2第2項1号)★ | |
映画の実演(同項2号)★ | ||
譲渡権 | 許諾を得て録画されている実演(95条の2第2項1号)★ | |
映画の実演(同項2号)★ | ||
消尽(95条の2第3項) | ||
貸与権 | 権利行使期間(95条の3第2項) |
条文の書きぶり
①条文の文末をよく読むと、概ね、「(前項の規定は…)適用しない」はワンチャンス主義等による例外、「〜することができる」は事業者の便宜による例外、というふうになっています。
前者は、適用を除外するということであり、後者は、適用を除外するわけではないものの、結局その部分については独占権が働かなくなるということなので、結果的には同じになります(=実演家が独占できる範囲が縮減している)。
また、②ワンチャンス主義の書きぶりについては、よく読むと、「実演家の許諾を得て」ではなく「○○に規定する権利を有する者の許諾を得て」と表現されています。
これは、著作隣接権も譲渡が可能なので、譲渡後は、譲受人である権利者の許諾が必要となるという意味です(そのケースも含ませるための表現)。
結び
今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち、ワンチャンス主義等による著作隣接権の例外について見てみました。
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