今回は、著作権法を勉強しようということで、レコード製作者の権利のうち著作隣接権の例外について書いてみたいと思います。
レコード製作者というのは、
①実演家
②レコード製作者
③放送事業者
④有線放送事業者
という、著作隣接権者である4者のうちのひとつです。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
レコード製作者の著作隣接権の例外
レコード製作者の著作隣接権は、実演家の著作隣接権と違って、ワンチャンス主義による例外はない。
なので、それほど難しい話はなく、さらっと見ておけば足りると思う。
放送の同時再送信についてのみ、内容がわかりにくいため多めに書いているが、他に比べて重要度が高いという意味ではない。
複製権の例外
私的使用目的での複製(102条1項→30条1項)
私的使用目的の複製については、著作権の場合と同様、権利が制限されている。
(著作権の場合の規定が準用されており、許諾なしで複製できる)
▽著作権法102条1項→30条1項
(著作隣接権の制限)
第百二条 第三十条第一項(第四号を除く。第九項第一号において同じ。)、…(略)…の規定は、著作隣接権の目的となつている実演、レコード、放送又は有線放送の利用について準用し、…(略)…
↓ 準用
(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
(以下略)
ワンチャンス主義による例外はなし
実演家の著作隣接権(録音権・録画権)と違って、ワンチャンス主義による例外はない。
つまり、例えば、レコードが録画物や映画の著作物に収録されている場合、その後の複製に対しても権利が及ぶ。
例えば、映画を上映して、その後、二次利用としてDVD化するときには、DVD化についてレコード製作者の別途の許諾が要るということです。
タイミングは事前であればいつでもいいので、最初の契約時に許諾をとっていてもよいし(当初から計画されていた場合)、DVD化することになったときに改めて許諾をとってもよいです。
送信可能化権の例外
放送の同時再送信(102条7項→同条5項・6項)
放送と同時にIP放送をする場合、レコード製作者の許諾なく同時再送信することができる。
専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として、送信可能化する場合である。
(=「地域限定特定入力型自動公衆送信」のための送信可能化)
▽著作権法102条7項→同条5項・6項(※【 】は管理人注)
5 著作隣接権の目的となつている実演であつて放送されるものは、地域限定特定入力型自動公衆送信【※定義は34条1項参照】を行うことができる。ただし、当該放送に係る第九十九条の二第一項に規定する権利を有する者の権利を害することとなる場合は、この限りでない。
6 前項の規定により実演の送信可能化を行う者は、第一項において準用する第三十八条第二項の規定の適用がある場合を除き、当該実演に係る第九十二条の二第一項に規定する権利を有する者に相当な額の補償金を支払わなければならない。
7 前二項の規定は、著作隣接権の目的となつているレコードの利用について準用する。この場合において、前項中「第九十二条の二第一項」とあるのは、「第九十六条の二」と読み替えるものとする。
放送の同時再送信は平成18年著作権法改正によるものだが、改正法Q&Aの解説がわかりやすい。
▽改正法Q&A ⑴放送の同時再送信の円滑化 問1|文化庁HP
問1 放送の同時再送信関係の見直しの趣旨及び内容について教えてください。
答
○見直しの趣旨
地上波放送は2011年(平成23年)までに全面的にデジタル放送へ移行することとされていますが,デジタル放送への移行に伴い,いわゆる難視聴地域が発生することも考えられます。そこで,難視聴地域を解消し,また,デジタル放送への全面移行を円滑に実施するために,放送の受信のための重要な補完路として,IPマルチキャスト放送による放送の同時再送信の役割が期待されています。
IPマルチキャスト放送は,放送や有線放送と異なり,送信される番組が各家庭の受信機まで絶えず届いているものではなく,受信者がリクエストした番組が,受信者の元に個別に送信されるという仕組みです。このことから,IPマルチキャスト放送は,著作権法上は「(有線)放送」ではなく、「自動公衆送信」に該当し,一般のインターネット送信と同様に,原則として権利者の許諾を必要とします。
(以下略)
○見直しの内容
以上を踏まえ,放送の同時再送信を円滑に実現するための制度面の整備の一環として,一定の範囲において実演家等の権利を制限するなど,放送の同時再送信に関する著作権法上の権利関係の見直しを行うことが,本改正の内容になっています。
具体的には,「自動公衆送信」による放送の同時再送信について,実演家及びレコード製作者の権利を制限し,許諾を要しないこととするとともに,実演家及びレコード製作者への補償金の支払いを義務付けることとし,…(略)…。
ただ、著作権法上は「IPマルチキャスト放送」という文言は使われていません。
これは、技術は日々進歩していることから、著作権法では、特定の技術に着目するのではなく、利用態様に着目した規定ぶりとしたため、と解説されています。
▷改正法Q&A ⑴放送の同時再送信の円滑化 問2(文化庁HP)
ワンチャンス主義による例外はなし
実演家の著作隣接権(送信可能化権)と違って、ワンチャンス主義による例外はない。
つまり、例えば、レコードが録画物や映画の著作物に収録されている場合、その後の送信可能化に対しても権利が及ぶ。
例えば、映画を上映して、その後、二次利用として配信サービスで配信するときには、そのアップロードについてレコード製作者の別途の許諾が要るということです。
(※ちなみに、配信の際にアップロードすると、普通はサーバーにデータをコピーするため(生配信でない限り)、複製権も重畳的に及んでいます)
タイミングは事前であればいつでもいいので、最初の契約時に許諾をとっていてもよいし(当初から計画されていた場合)、配信するときに改めて許諾をとってもよいです。
譲渡権の例外
消尽(97条の2第2項)
レコードの複製物がいったん適法に譲渡された場合には、その後の再譲渡に対して譲渡権は及ばない(消尽)。
▽97条の2第2項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定【※レコード製作者の譲渡権の規定】は、レコードの複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。
一 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡されたレコードの複製物
二 第百三条において準用する第六十七条第一項の規定による裁定を受けて公衆に譲渡されたレコードの複製物
三 第百三条において準用する第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡されたレコードの複製物
四 前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡されたレコードの複製物
五 国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡されたレコードの複製物
ワンチャンス主義による例外はなし
実演家の著作隣接権(譲渡権)と違って、ワンチャンス主義による例外はない。
貸与権の例外
権利行使期間(97条の3第2項)
貸与権は、実演家の貸与権と同様、発売日から1年間が権利行使期間となっている。
権利行使期間を過ぎたレコードは「期間経過商業用レコード」と定義されていて、これについて貸与権は及ばない。
▽97条の3第2項(※【 】は管理人注)
2 前項の規定【※レコード製作者の貸与権の規定】は、期間経過商業用レコードの貸与による場合には、適用しない。
「期間経過商業用レコード」の定義は、実演家の貸与権のところに書かれている。
▽著作権法95条の3第2項、同施行令57条の2
2 …(略)…、最初に販売された日から起算して一月以上十二月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過した商業用レコード(複製されているレコードのすべてが当該商業用レコードと同一であるものを含む。以下「期間経過商業用レコード」という。)…(略)…
↓ 政令
(貸与権の適用に係る期間)
第五十七条の二 法第九十五条の三第二項の政令で定める期間は、十二月とする。
結び
今回は、著作権法を勉強しようということで、レコード製作者の権利のうち著作隣接権の例外について書いてみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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