今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利の全体像について書いてみたいと思います。
実演家というのは、ざっくりいうと、映画や番組制作の現場でいうタレント(俳優、声優、芸人etc)や、音楽業界でいうアーティストなどのことですね。ダンサーも実演家です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
実演家の権利(全体像)
まず先に全体像を表にして見ておくと、以下のように、Ⅰ~Ⅳの4分類にグルーピングできる。
(※特定実演家に関する記述は本記事では割愛)
【実演家の権利】
分類 |
権利 |
条文 |
Ⅰ 著作隣接権 |
①録音権、録画権 |
91条1項 |
②放送権、有線放送権 |
92条1項 |
|
③送信可能化権 |
92条の2第1項 |
|
④譲渡権 |
95条の2第1項 |
|
⑤貸与権 |
95条の3第1項 |
|
Ⅱ 報酬及び二次使用料請求権 |
①商業用レコードの利用について放送・有線放送事業者から二次使用料を受ける権利 |
95条1項 |
②私的録音録画補償金請求権 |
102条1項→30条2項 |
|
③期間経過商業用レコードの貸与に対する報酬請求権 |
95条の3第3項 |
|
④放送権が制限される場合の放送に対する報酬請求権 |
94条2項 |
|
⑤有線放送による放送の同時再送信に対する報酬請求権 |
94条の2 |
|
Ⅲ 実演家人格権 |
①氏名表示権 |
90条の2第1項 |
②同一性保持権 |
90条の3第1項 |
|
Ⅳ パブリシティ権(判例上の権利) |
氏名や肖像に関する顧客吸引力を排他的に利用する権利 |
明文なし |
以下、順に見てみる。
著作隣接権
著作隣接権には、以下の5つがある。
- 録音権・録画権(91条1項)
- 放送権・有線放送権(92条1項)
- 送信可能化権(92条の2第1項)
- 譲渡権(95条の2第1項)
- 貸与権(95条の3第1項)
権利の内容だけ抜き出すと、条文は以下のとおり。
(録音権及び録画権)
第九十一条 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
(放送権及び有線放送権)
第九十二条 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する。
(送信可能化権)
第九十二条の二 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。
(譲渡権)
第九十五条の二 実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
(貸与権等)
第九十五条の三 実演家は、その実演をそれが録音されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有する。
このように、条文はどれも、
「実演家は、その実演を○○する権利を専有する。」
という書きぶりになっている。
そこで、共通する「実演」と「実演家」の意味について確認してみる。
「実演」とは
「実演」については、著作権法2条1項で定義されている。
▽著作権法2条1項3号
三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
「朗詠」がイメージしにくいですが、”声高らかにうたう”ということです。
「実演家」とは
「実演家」についても、著作権法2条1項で定義されている。
▽著作権法2条1項4号
四 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
さらっと書かれているが、
- 実演を行う者
- 実演を指揮する者
- 実演を演出する者
の3者が規定されており、
俳優やアーティストなど(実演を行う者)だけではなく、オーケストラの指揮者(実演を指揮する者)や演出家(実演を演出する者)なども、実演家にあたる。
「専有する」
例えば、「実演を録画する権利を専有する」というのは、「私以外の者は勝手に私の実演を録画するな」といえるということである。
「専有する」は、専ら(自分のみが)有する、というニュアンスです。(管理人的な理解)
専有しているのだから、他人の勝手な使用は排除できるわけです。
つまり、他人が勝手に自分の実演を録画していたときは、それに対して「やめろ」といえるわけである(=差止請求権)。
▽著作権法112条1項
(差止請求権)
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
報酬及び二次使用料請求権
著作隣接権が制限ないし適用除外されている場合(つまり許諾なしに実演が利用される場合)、その代わりに、実演家は金銭的請求権を取得するケースがある。
条文順にいうと、以下の5つがある。(※特定実演家に関する記述は本記事では割愛)
- リピート放送等に対する報酬請求権(93条の2第2項)
- 放送の同時有線再放送に対する報酬請求権(94条の2)
- 商業用レコードが放送・有線放送された場合の二次使用料請求権(95条1項)
- 貸与権消滅後の商業用レコードの貸与に対する報酬請求権(95条の3第3項)
- 私的録音録画補償金請求権(102条1項→30条3項)
著作隣接権の制限や適用除外とセットで見ないと、何の代わりに金銭的請求権を取得しているのかわからないので、けっこうややこしい。
細かい話は別記事にて。
実演家人格権
演じるという創作的行為があるため、実演家には、著作権法上の人格権が認められている(実演家人格権)。
著作隣接権者は、①実演家、②レコード製作者、③放送事業者、④有線放送事業者の4者ですが、そのうち、著作権法上の人格権が認められているのは実演家のみです。
実演家人格権には、以下の2つがある。
- 氏名表示権(90条の2第1項)
:実演家が、実演家名を表示するかしないか、表示するとしたらどのように表示するかを、決定できる権利 - 同一性保持権(90条の3第1項)
:実演家が、自己の名誉又は声望を害するような形で実演の改変を受けない権利
権利の内容だけ抜き出すと、条文は以下のとおり。
(氏名表示権)
第九十条の二 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。
(同一性保持権)
第九十条の三 実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする。
細かい話は別記事にて。
パブリシティ権
パブリシティ権とは、氏名や肖像に関する顧客吸引力を排他的に利用する権利のことである。
著作権法を含め、法律上明文はない。
解釈により判例上認められている権利である。人格権に由来する。
▽最判平成24年2月2日(ピンクレディー事件最高裁判決)|裁判所HP(裁判例検索)
「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき、最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、肖像につき、最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」
「顧客吸引力」という見慣れない言葉があるのでイメージしづらいかもしれませんが、感覚的にいえば、”他人が築き上げたネームバリューにタダ乗り(フリーライド)する”というのが、パブリシティ権侵害のイメージといってよいと思います。(管理人的な理解)
補足
以上で見てきた実演家の権利(パブリシティ権を除く)は、実は、法89条1項にまとめて記載されている。
法89条は、「第4章 著作隣接権」の最初の条文です。
なので、ここを読めば実演家の権利の全体がわかるのだが、個々の内容を見てからでないと死ぬほど読みにくいので、むしろ最後に見た方がよいと思う。
▽著作権法89条1項
(著作隣接権)
第八十九条 実演家は、第九十条の二第一項及び第九十条の三第一項に規定する権利(以下「実演家人格権」という。)並びに第九十一条第一項、第九十二条第一項、第九十二条の二第一項、第九十五条の二第一項及び第九十五条の三第一項に規定する権利並びに第九十四条の二及び第九十五条の三第三項に規定する報酬並びに第九十五条第一項に規定する二次使用料を受ける権利を享有する。
ということで、とてもまともに読める文章ではない。
そこで、条文に沿って、箇条書きにして改めて読むと、
- 第九十条の二第一項及び第九十条の三第一項に規定する権利(以下「実演家人格権」という。)
┗氏名表示権(90条の2第1項)
┗同一性保持権(90条の3第1項) - 第九十一条第一項、第九十二条第一項、第九十二条の二第一項、第九十五条の二第一項及び第九十五条の三第一項に規定する権利
┗録音権・録画権(91条1項)
┗放送権・有線放送権(92条1項)
┗送信可能化権(92条の2第1項)
┗譲渡権(95条の2第1項)
┗貸与権(95条の3第1項) - 第九十四条の二及び第九十五条の三第三項に規定する報酬並びに第九十五条第一項に規定する二次使用料を受ける権利
┗放送の同時有線再放送に対する報酬請求権(94条の2)
┗貸与権消滅後の商業用レコードの貸与に対する報酬請求権(95条の3第3項)
┗商業用レコードが放送・有線放送された場合の二次使用料請求権(95条1項)
と書かれているわけである。
また、このうち、「著作隣接権」と呼ぶのは上記の2だけとされている。6項に明文がある。
▽著作権法89条6項
6 第一項から第四項までの権利(実演家人格権並びに第一項及び第二項の報酬及び二次使用料を受ける権利を除く。)は、著作隣接権という。
このように、括弧書きで、実演家人格権と、報酬・二次使用料請求権は、著作隣接権と呼ぶ権利からは除外されている。
これはなぜかというと、先ほど見たように、著作隣接権は「専有する」権利、つまり差止請求できる権利として規定しており、概念的には、お金を請求する権利である報酬・二次使用料請求権とは別物という風に整理したからである。
また、実演家人格権が除外されているのはなぜかというと、実演家人格権はその名のとおり財産権ではなく人格権なので、そもそも性質が違うためです(概念として別物なのは当然)。
著作隣接権(=財産権の一種) ⇔ 実演家人格権(=人格権の一種)、です。
結び
今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利の全体像について書いてみました。
次の記事からは、本記事で見た実演家の権利の分類ごとに詳しく見ていきたいと思います。
まずは著作隣接権からです。
▽次の記事
-
著作権法を勉強しよう|実演家の権利ー著作隣接権
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています