今回は、著作権法を勉強しようということで、レコード製作者の権利のうち著作隣接権について書いてみたいと思います。
レコード製作者というのは、
①実演家
②レコード製作者
③放送事業者
④有線放送事業者
という、著作隣接権者のうちのひとつです。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
レコード製作者の著作隣接権
著作隣接権は、無断でレコードを利用している者がいたら、それを排除できることができるという禁止権である(著作権と同様に排他的独占権)。
▽著作権法112条1項
(差止請求権)
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
レコード製作者の有する著作隣接権は、
- 複製権
- 送信可能化権
- 譲渡権
- 貸与権
の4つである。以下、順に見てみる。
複製権
(複製権)
第九十六条 レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する。
「複製」は、有形的な再製一般のことで、条文は著作権の場合と同じである。
▽著作権法2条1項15号
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、…(略)…
送信可能化権
(送信可能化権)
第九十六条の二 レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。
送信可能化というのは、要するにアップロードのことである(厳密にいうと、それより少し広い概念)。
①インターネットに接続しているサーバーに→データをアップロード(以下のイ)、②データが記録・入力されているサーバーを→インターネットに接続(以下のロ)、の両方が「送信可能化」とされている。(「著作権法」〔第3版〕(中山信弘)318頁参照)
▽著作権法2条1項9の5
九の五 送信可能化 次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。
ロ その公衆送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について、公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと。
譲渡権
(譲渡権)
第九十七条の二 レコード製作者は、そのレコードをその複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。
「公衆に提供する」なので、特定の人に譲渡するだけのケースはそもそも譲渡権に含まれない。
もちろん無償の場合も含まれるが、実際問題としては要するに、”販売権”(複製物の販売)のことだと思った方が、イメージしやすいと思う。
貸与権
(貸与権等)
第九十七条の三 レコード製作者は、そのレコードをそれが複製されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有する。
貸与は、身近な言葉でいうと、レンタルのことである。
貸与権も「公衆に提供する」なので、特定の人に貸与するだけのケースはそもそも貸与権に含まれない。
「商業用レコード」とは、市販の目的で量産されるレコードのことで、定義は以下のとおり。
▽著作権法2条1項7号(含む5号)
七 商業用レコード 市販の目的をもつて製作されるレコードの複製物をいう。
↓ レコードとは?
五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
実演家の著作隣接権との比較
ここまでの話だけであれば、さらっと見て終わりになるが、押さえておくべきは、実演家の有する著作隣接権との比較である。
つまり、何を有しているかだけではなく、何を有していないのかも、併せて把握しておくべきと思う。
【実演家の著作隣接権との比較】
著作隣接権 | 実演家の権利 | レコード製作者の権利 |
録音権・録画権 | ○ | × |
複製権 | (○) (「録音」「録画」の概念に複製も含まれる) |
○ |
放送権・有線放送権 | ○ | × |
送信可能化権 | ○ | ○ |
譲渡権 | ○ | ○ |
貸与権 | ○ | ○ |
ポイントは、以下の2点である(管理人的な整理)。
一つ目は、レコード製作者には、「放送権・有線放送権」がないという点である。
二つ目は、実演家の「録音権・録画権」とレコード製作者の「複製権」との対比である。
権利の名称だけみると、実演家には「複製権」がなく、レコード製作者には「録音権・録画権」がないので、すごく違いがあるように見える。しかし、録音・録画は最初の固定のほかその後の複製も含む概念なので(著作権法2条1項13号・14号参照)、複製も当然カバーされている。
つまり、「録音権・録画権」と「複製権」の実質的な差分は、最初の固定についてのみである。
(※そもそも録画はレコード製作者の権利と関係ない、という点もあるが、それは当然ということで)
結び
今回は、著作権法を勉強しようということで、レコード製作者の権利のうち著作隣接権について書いてみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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