著作権法

著作権法を勉強しよう|実演家の権利ー実演家人格権

著作者:Freepik

今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち実演家人格権について書いてみたいと思います。

氏名表示権同一性保持権の2つがあります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

氏名表示権(90条の2)

権利の内容(1項)

(氏名表示権)
第九十条の二
 実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるもの実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。

権利の内容は、実演家名を表示する権利、または、実演家名を表示しない権利である。

表示してもよいし、しなくてもよい。それを実演家が自ら決めることができる、という人格権である。

また、表示するとしたときに、どういう実演家名にするかも決めることができる。

本名でもよいし、本名でなくてもよい。

条文上は、

✓ 氏名
✓ 芸名
✓ (芸名以外の)氏名に代えて用いられるもの

という定め方になっている。

権利の制限

従来の表示を変えない場合(2項)

氏名表示権の制限の1つ目は、従来の表示を変えない場合である。

 実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示することができる。

実演家名表示の決定権が実演家にあるとなると、実演を利用する側(制作サイド)としては、実演家がどういう意向なのかいちいち確認を要することになる。
(後になって、”表示してくれ”とか、”それじゃなくて、こういう名で表示してくれ”とか、あるいは、”表示しないでくれ”と言われるおそれがある)

しかし、それでは制作品の円滑な利用が難しくなるおそれがあるので、従来の表示に従う分には(実演家の実際の意向を確認することなく)実演家名を表示できる、とされている。

もちろん、実演家からの「こうしてくれ」というオーダー、つまり別段の意思表示があったときは、それに従わなければならない。

結局、著作権法上は、実演を利用する側としては、
✓ 実演家の意向が表明されているときは、それに従う
✓ 実演家の意思が表明されていないときは、(意向の確認を省略して)従来の表示に従うか、または、意向を確認する
ということになるかと思います。

ただ、実務上は、契約書で、クレジット表記についても取り決めがされているのが普通と思います。

実演家の利益を害するおそれのない場合又は公正な慣行に反しない場合(3項)

2つ目は、実演家名の表示を省略してよい場合である。

 実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき又は公正な慣行に反しないと認められるときは、省略することができる。

このように、

  • 実演家がその実演の実演家であることを主張する利益を害するおそれがないとき
  • 公正な慣行に反しないとき

の2つの場合は、実演家名の表示を省略することができる、とされている。

ポイントは、2つの場合が「又は」でつながっていることです。

著作者人格権の場合の同様の規定は、以下のように、2つの場合の両方を満たさないといけない書き方になっています。そのため、実演家人格権の氏名表示権の方が、省略が認められやすくなっているといえます。

▽著作権法19条3項
「3 著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。」

利益を害するおそれがない」かどうかの考慮要素としては、

✓ 実演の利用の目的及び態様

が挙げられている。

情報公開の場合の適用除外(4項)

3つ目は、情報公開のケースで、実演家の氏名表示権の適用除外が定められている。

企業の法務で特に気にする必要はないと思う。

 第一項の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない
 行政機関情報公開法、独立行政法人等情報公開法又は情報公開条例の規定により行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。
 行政機関情報公開法第六条第二項の規定、独立行政法人等情報公開法第六条第二項の規定又は情報公開条例の規定で行政機関情報公開法第六条第二項の規定に相当するものにより行政機関の長、独立行政法人等又は地方公共団体の機関若しくは地方独立行政法人が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演の実演家名の表示を省略することとなるとき。
 公文書管理法第十六条第一項の規定又は公文書管理条例の規定(同項の規定に相当する規定に限る。)により国立公文書館等の長又は地方公文書館等の長が実演を公衆に提供し、又は提示する場合において、当該実演につき既にその実演家が表示しているところに従つて実演家名を表示するとき。

同一性保持権(90条の3)

権利の内容(1項)

(同一性保持権)
第九十条の三
 実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更切除その他の改変を受けないものとする。

権利の内容は、”改変を受けない権利”だが、「自己の名誉又は声望を害する」改変に限定されている。

ポイントは、著作者人格権の同一性保持権の場合よりも、権利の範囲が限定されていることです。

著作者人格権の場合は、以下のように、意に反する改変一般とされており、名誉・声望を害されること、つまり社会的評価の低下は必要ありません。

▽著作権法20条1項
「第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」

権利の制限(2項)

 前項の規定は、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変については、適用しない

このように、

  • やむを得ないとき
  • 公正な慣行に反しないとき

の2つの場合は、同一性保持権の適用除外とされている。

ポイントは、「やむを得ない」ときに加えて、「公正な慣行に反しない」ときも、適用除外となっている点です。

著作者人格権の場合の同様の規定では、以下のように前者しかありません。そのため、同一性保持権も、実演家の方が、制限が認められやすくなっているといえます。

▽著作権法20条2項4号
「2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
 四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」

やむを得ない」かどうかの考慮要素としては、

✓ 実演の性質
✓ 実演の利用の目的及び態様

が挙げられている。

実演家人格権に共通のトピック

以下、氏名表示権でも、同一性保持権でも、「実演家人格権」として共通のトピックについてまとめて見てみる。

実演家人格権の効果

著作者人格権と同じように、差止請求権がある。「やめろ」といえるわけである。

▽著作権法102条1項

(差止請求権)
第百十二条
 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる

もちろん、民法の規定に従って、精神的苦痛などによる損害賠償請求もなし得る。

名誉回復措置も請求できる。著作者人格権の場合と同様である。

▽著作権法115条

(名誉回復等の措置)
第百十五条
 著作者又は実演家は、故意又は過失によりその著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者に対し、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者若しくは実演家の名誉若しくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる。

刑事罰もある。つまり犯罪である。著作者人格権の場合と同様である。

▽著作権法119条2項1号

2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者(第百十三条第八項の規定により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

以上をまとめると、実演家人格権の効果は、その侵害に対して、

  • 差止請求
  • 損害賠償請求
  • 名誉回復措置請求
  • 刑事罰

ということになる。

実演家人格権の一身専属性(101条の2)

人格権なので、著作者人格権の場合と同様、一身専属権であり、譲渡できないとされている。

(実演家人格権の一身専属性)
第百一条の二
 実演家人格権は、実演家の一身に専属し、譲渡することができない。

著作者人格権の場合の同様の規定と、書きぶりは全く同じです。

▽著作権法59条
「第五十九条 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」

また、一身専属権なので、実演家の死とともに、実演家人格権自体は消滅する。

ただ、次で見るように、死後の人格的利益という別の形で保護されている。

実演家の死後の人格権(101条の3)

著作者人格権の場合と同様、死後の人格的利益も保護されている。

(実演家の死後における人格的利益の保護)
第百一条の三
 実演を公衆に提供し、又は提示する者は、その実演の実演家の死後においても、実演家が生存しているとしたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該実演家の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

これも、著作者人格権の場合の同様の規定と、書きぶりはほぼ同じです。

ただ、著作者人格権の場合は、法人が権利を持つケースがあるため(職務著作など)、「著作者が存しなくなった」という、法人の場合も含める書き方になっています。
(死は自然人のみの概念なので、「死後」という表現を使っていない)

▽著作権法60条
「第六十条 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた・・・・・・・・・・後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」

実際に行使するのは、遺族となる。

▽著作権法116条1項(【 】は管理人注)

(著作者又は実演家の死後における人格的利益の保護のための措置)
第百十六条
 著作者又は実演家死後においては、その遺族(死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいう。以下この条において同じ。)は、当該著作者又は実演家について第六十条又は第百一条の三の規定に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し第百十二条の請求【=差止請求】を、故意又は過失により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為又は第六十条若しくは第百一条の三の規定に違反する行為をした者に対し前条の請求【=名誉回復措置請求】をすることができる。

結び

今回は、著作権法を勉強しようということで、実演家の権利のうち実演家人格権について書いてみました。

▽次の記事

著作権法を勉強しよう|実演家の権利ーパブリシティ権

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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