犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人確認書類の種類について書いてみたいと思います。

種類が多くていくら読んでも今ひとつ頭に入ってこない…というところだと思うのですが、個人や法人などで分ける個人の場合は証明力の高さに応じてざっくり3群に分ける、といったグルーピングをすれば、多少わかりやすくなるのではないかと。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

本人確認書類の種類

まず最初に、本人確認書類の種類の全体像を見ておきたい。

本人確認書類というのは、取引時確認の確認事項のうち、本人特定事項(以下の表のとおり)を確認するための書類である。

自然人・法人の別 本人特定事項
自然人 ①氏名 ②住居 ③生年月日
法人 ①名称 ②本店又は主たる事務所の所在地


ひとことでいうと、本人確認書類というのは、これらの本人特定事項を確認できる、公的な身分証明書のことである。

自然人と法人の場合で本人特定事項が違うので、当然、本人確認書類は、自然人と法人の場合で違っている。典型例でいうと、自然人は運転免許証、法人は登記事項証明書である。

確認に使う書類の全体イメージは、こんな感じである(管理人の個人的理解)。

自然人・法人の別 大まかな種類
自然人 本人確認書類・A群(写真付きの1点モノ。運転免許証など)
本人確認書類・B群(写真なしの1点モノ。健康保険証など)
本人確認書類・C群(複数発行されるもの。住民票の写しなど)
補完書類
法人 本人確認書類(登記事項証明書など)
補完書類


それと、全体に共通して、本人確認書類の有効期限については、

有効期限のある公的証明書 → 提示又は送付を受けた日において有効なもの

有効期限のない公的証明書 → (原則として)提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの

という風になっている。

最後に、条文を見てみる。本人確認書類の定義は、規則6条1項1号イの文中に出てくる。

▽規則6条1項1号イ

…当該顧客等の本人確認書類次条に規定する書類をいう。以下同じ。)のうち…

要するに、条文上、本人確認書類とは、規則7条に定める書類のことである。

 

自然人の本人確認書類(規則7条1号)

自然人の本人確認書類は種類が多くて大変なので、ここでも最初に全体像を見ておきたい。

誤解を恐れずにいえば(つまり厳密には違う場合もあるのだが)、自然人の本人確認書類は、証明力の高さに応じて、以下のようにグルーピングされる。

証明力の高さは、①一人につき一つしか発行されないもの(”1点モノ”)かどうか、②顔写真付きかどうか、によって区別される。

グルーピング 大まかなイメージ
本人確認書類・A群(証明力が高い書類群) 1点モノの身分証明書のうち、顔写真付きのもの(運転免許証など)
本人確認書類・B群(証明力が中程度の書類群) 1点モノの身分証明書のうち、顔写真付きでないもの(健康保険証など)
本人確認書類・C群(証明力が低い書類群) 1点モノ以外の身分証明書(戸籍、住民票など)
補完書類 そもそも身分証明書ではない(公共料金の領収書など)が、現在の住所を確認できる


A群~C群のグループのどれによるかによって、採用できる本人特定事項の確認方法が違ってくる
ので、このグルーピングにはそういう意味がある。

なお、補完書類というのは、それ自体は身分証明書ではない(=本人確認書類ではない)のだが、本人確認書類の住所欄が現在の住所と違っているときなどに、現在の住所をこの書類で確認できる、というもので、まさに補完的に利用される書類のことである。

①証明力が高い書類群(A群)ー1号イ・ロ

最も証明力が書類群である。法文上は、「写真付き本人確認書類」と呼ばれている(規則6条1項1号イ)。

  本人確認書類 有効期限 確認方法(対面の場合)
A群 ○運転免許証、運転経歴証明書
○個人番号カード、住民基本台帳カード
○身体障害者手帳、精神障害者保険福祉手帳、療育手帳、戦傷病者手帳
○旅券(パスポート)、乗員手帳
○在留カード、特別永住者証明書
提示又は送付を受けた日において有効なもの 提示のみ法
○官公庁発行書類(顔写真あり) 有効期間又は有効期限がある場合:提示又は送付を受けた日において有効なもの
それ以外の場合:提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの


A群の書類だと、対面の場合の確認方法として、「提示のみ法」によることができる。A群の書類は、1点モノのうちでも顔写真付きのもので、対面の場合は顔写真と本人を見比べれば本人との同一性を確認できるので、信用性が高く、提示のみによる確認もOKとされているわけである。

なお、在留カードと特別永住者証明書があることからもわかるように、本邦に在留する外国人もこの1号のカテゴリである(短期在留者の特例を利用する外国人は3号のカテゴリ、本邦に在留しない外国人は4号のカテゴリである)。なお、在留カードと特別永住者証明書は、昔(=外国人登録制度が廃止されていなかった時代)でいう外国人登録証明書みたいなものである。

条文を見てみる。

▽規則7条1号イ・ロ

イ 運転免許証等(道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第九十二条第一項に規定する運転免許証及び同法第百四条の四第五項(同法第百五条第二項において準用する場合を含む。)に規定する運転経歴証明書をいう。)、出入国管理及び難民認定法第十九条の三に規定する在留カード、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号)第七条第一項に規定する特別永住者証明書、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第二条第七項に規定する個人番号カード若しくは旅券等又は身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳若しくは戦傷病者手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)
ロ イに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があり、かつ、当該官公庁が当該自然人の写真を貼り付けたもの



②証明力が中程度の書類群(B群)ー1号ハ

次は、証明力が中程度の書類群である。

  確認書類 有効期限 確認方法
改正前 改正後
B群 ○健康保険等の被保険者証
○健康保険日雇特例被保険者手帳
○共済組合の組合員証、加入者証
○国民年金手帳
○児童扶養手当証書、母子健康手帳
提示又は送付を受けた日において有効なもの 提示のみ法 提示+追加的措置法
  ○取引に使用した印鑑に係る印鑑登録証明書 提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの


ここは、平成27年政省令改正で扱いが変わったところで、以前は提示のみ法でよかったのが、提示+追加的措置法に変わったところである。提示+追加的措置法というのは、

✓ 提示+送付
✓ 提示+他の本人確認書類又は補完書類の提示
✓ 提示+他の本人確認書類又は補完書類の受理

ということである。

条文を見てみる。

▽規則7条1号ハ

ハ 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合組合員証、私立学校教職員共済制度加入者証、国民年金法第十三条第一項に規定する国民年金手帳児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)又は特定取引等を行うための申込み若しくは承諾に係る書類に顧客等が押印した印鑑に係る印鑑登録証明書



③証明力が低い書類群(C群)ー1号ニ・ホ

最後の3つ目、証明力が低い書類群である。

  本人確認書類 有効期限 確認方法
C群 ○住民票の写し又は記載事項証明書
○戸籍謄本又は抄本
提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの 提示+送付法
○官公庁発行書類(顔写真なし) 有効期間又は有効期限がある場合:提示又は送付を受けた日において有効なもの
それ以外の場合:提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの


C群は証明力が低いので、確認方法は、提示+送付法になっている。

条文を見てみる。「印鑑登録証明書(ハに掲げるものを除く。)」というのは、取引に使用した印鑑でない印鑑の印鑑登録証明書ということである。

▽規則7条1号ニ・ホ

ニ 印鑑登録証明書(ハに掲げるものを除く。)、戸籍の謄本若しくは抄本(戸籍の附票の写しが添付されているものに限る。)、住民票の写し又は住民票の記載事項証明書(地方公共団体の長の住民基本台帳の氏名、住所その他の事項を証する書類をいう。)
ホ イからニまでに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるもの(国家公安委員会、金融庁長官、総務大臣、法務大臣、財務大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣が指定するものを除く。)



補完書類

補完書類というのは、ざっくりいうと、それ自体は身分証明書ではない(=本人確認書類ではない)のだが、本人確認書類の住所欄が現在の住所と違っているときなどに、現在の住所をこの書類で確認できる、というものである。

  補完書類 有効期限
補完書類(※法人にも共通) ○国税又は地方税の領収証書又は納税証明書
○社会保険料の領収証書
○公共料金(電気、ガス、水道、固定電話、NHK等)の領収証書
○官公庁発行書類で、上記3点に準ずるもの(※顧客等が自然人である場合に限る)
○外国政府・国際機関発行書類で、1号又は2号の本人確認書類に準ずるもの
提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの


条文を見てみる。

▽規則6条2項

(顧客等の本人特定事項の確認方法)
第六条 (略)
 特定事業者は、前項第一号イからチまで若しくはヌ又は第三号イ若しくはニに掲げる方法(同項第一号ハに掲げる方法にあっては当該顧客等の現在の住居が記載された次の各号に掲げる書類のいずれか本人確認書類を除き、領収日付の押印又は発行年月日の記載があるもので、その日が特定事業者が提示又は送付を受ける日前六月以内のものに限る。以下「補完書類」という。)の提示を受ける場合を、同号ニに掲げる方法にあっては当該顧客等の現在の住居が記載された補完書類又はその写しの送付を受ける場合を除く。)により本人特定事項の確認を行う場合において、当該本人確認書類若しくはその写しに当該顧客等の現在の住居若しくは本店若しくは主たる事務所の所在地の記載がないとき又は当該本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に当該顧客等の現在の住居の情報の記録がないときは、当該顧客等又はその代表者等から、当該記載がある当該顧客等の本人確認書類若しくは補完書類の提示を受け、又は当該本人確認書類若しくはその写し若しくは当該補完書類若しくはその写しの送付を受けることにより、当該顧客等の現在の住居又は本店若しくは主たる事務所の所在地を確認することができる。この場合においては、前項の規定にかかわらず、同項第一号ロ、チ若しくはヌ又は第三号ニに規定する取引関係文書は、当該本人確認書類若しくは当該補完書類又はその写しに記載されている当該顧客等の住居又は本店等に宛てて送付するものとする。
 国税又は地方税領収証書又は納税証明書
 所得税法第七十四条第二項に規定する社会保険料領収証書
 公共料金(日本国内において供給される電気、ガス及び水道水その他これらに準ずるものに係る料金をいう。)の領収証書
 当該顧客等が自然人である場合にあっては、前各号に掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該顧客等の氏名及び住居の記載があるもの(国家公安委員会、金融庁長官、総務大臣、法務大臣、財務大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣が指定するものを除く。)
 日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、本人確認書類のうち次条第一号又は第二号に定めるものに準ずるもの(当該顧客等が自然人の場合にあってはその氏名及び住居、法人の場合にあってはその名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)
3~4 (略)


3号の公共料金の領収証書に関し、平成27年パブコメにいくつか参考になる記載があるので、以下引用する。たとえば、請求書や口座振替のお知らせはダメとされている。

平成27年9月18日パブリックコメントNo.77、78、80|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 健康保険証等を補完する書類として、新規則第6条第5項第1号ないし第3号に税金の領収証書又は納税証明書、社会保険料の領収証書、公共料金の領収証書が定められているが、「公共料金の請求書や口座振替のお知らせ」を顧客から提示を受ける可能性が高いため、追加を御検討いただきたい。

質問に対する考え方 補完書類については、従前より居住実態が確実に裏付けられる領収証書等を認めており、公共料金の請求書や口座振替のお知らせを認めることは予定しておりません

質問の概要 規則第6条第5項第3号では「公共料金(日本国内において供給される電気、ガス及び水道その他これに準ずるものに係る料金)」と定められているが、「その他これに準ずるもの」の具体例をお示しいただきたい。例えば、「固定電話料金」「携帯電話料金」「NHK受信料」も「その他これに準ずるもの」と取り扱うことは可能か。

質問に対する考え方 固定電話料金NHK受信料については、「その他これに準ずるもの」として取り扱うことは可能ですが、携帯電話料金の領収証書については、必ずしも居住実態に即して発行されるものとはいえないことから、「その他これに準ずるもの」として取り扱うことはできません

質問の概要 「公共料金の領収証書」について、 以下の解釈でよいか。
電気料金は一般電気事業者のほか、今後控えている電力自由化による、新たな類型の事業者が発行した領収証書も含まれる。
ガス料金は都市ガスのほかにプロ パンガスの領収証書も含まれる。また、ガス自由化についても現在検討されている経緯を踏まえ、今後、新たな類型のガス事業者が認められた場合は、当該事業者が発行する領収証書も含まれる。
水道料金は水道局のほか、水道局より回収を委託された事業者が発行した領収証書も含まれる。

質問に対する考え方 いずれもそのとおりです

 

法人(規則7条2号)

法人の本人特定事項(「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」)の確認書類は、以下のとおりである。

  本人確認書類 有効期限 確認方法(対面の場合)
法人の本人確認書類 ○登記事項証明書
○印鑑登録証明書
提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの 提示のみ法
○官公庁発行書類 有効期間又は有効期限がある場合:提示又は送付を受けた日において有効なもの
それ以外の場合:提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの
法人の補完書類 自然人の場合と同様 提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの  


一応、条文も見てみる。

(本人確認書類)
第七条 前条第一項に規定する方法において、特定事業者が提示又は送付を受ける書類は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める書類のいずれかとする。(以下略)
一 (略)
二 法人(第四号に掲げる者を除く。) 次に掲げる書類のいずれか
 イ 当該法人の設立の登記に係る登記事項証明書(当該法人が設立の登記をしていないときは、当該法人を所轄する行政機関の長の当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地を証する書類)又は印鑑登録証明書(当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)
 ロ イに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるもの

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人確認書類の種類について書いてみました。

なお、本人確認書類の種類のうち、外国人・外国法人の場合(規則7条3号・4号等)については、以下の関連記事に書いています。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類(外国人・外国法人の場合)

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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-犯罪収益移転防止法