今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、法人の本人確認方法のうち対面の場合について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
法人の本人確認方法とは
法人の本人特定事項は、
- 「名称」
- 「本店又は主たる事務所の所在地」
となっています。
確認方法というのは、法人の本人確認書類(ex.登記事項証明書など)をどう使って、これらを確認するのか?ということであり、大きく、対面の場合と非対面の場合に分けることができます。
以下、本記事では、対面の場合について見てみます。
法人の本人確認書類については、以下の関連記事にくわしく書いています。
▽関連記事
-
犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類
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法人の本人確認方法(対面の場合)-規則6条1項3号
法人の本人特定方法(対面の場合)は、以下のようになっています。
【対面の場合】
①提示のみ法 | 規則6条1項3号イ | |
②申告+確認法 | 登記情報(登記情報提供サービスから)の確認 | 同号ロ |
公表事項(国税庁法人番号公表サイトから)の確認 | 同号ハ |
条文は、規則6条1項3号イ・ロ・ハになります。
▽施行規則6条1項3号(※【 】は管理人注)
(顧客等の本人特定事項の確認方法)
第六条 法第四条第一項に規定する主務省令で定める方法【=取引時確認事項の確認方法】のうち同項第一号に掲げる事項【=本人特定事項】に係るものは、次の各号に掲げる顧客等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。
三 法人である顧客等 次に掲げる方法のいずれか
イ~ホ (略)
以下、順に見てみます。
提示のみ法(3号イ)
これは、法人の代表者等から、対面で本人確認書類の提示を受ける方法です。
▽規則6条1項3号イ
イ 当該法人の代表者等から本人確認書類のうち次条第二号又は第四号に定めるものの提示を受ける方法
法人に肉体はないので、当然のことながら「顧客等から」というのはありません。常に法人の代表者等から提示を受けることになります。
「代表者等」とは、現に取引の任に当たっている自然人のことです(▷こちらの記事を参照)
写しが認められていないことは、自然人の場合の「提示」と同様です。
なお、特定事業者が自ら登記事項証明書を取得しても、それだけでは「提示」にあたらないとされています。また、外国の政府機関が運営するサイトからDL又は印字した情報を閲覧することも、「提示」にあたらないとされています。
▽平成27年9月18日パブコメNo.68|JAFICホームページ(≫掲載ページ)
質問の概要 法人の本人特定事項の確認方法として、特定事業者が自ら外国の政府機関が運営するインターネットサイトにアクセスし、登記情報等の本人特定事項を取得する方法を認めてほしい。FATFは”reliable, independent source documents, data or information ”を用いて確認することとしているが、 外国の政府機関が運営するインターネ ットサイトから得る登記情報は、十分に信頼に足るものとして海外では広く 受け入れられており、それゆえ、わざわざ証明書を発行しない国もある。特定業者が自ら取得する限りにおいては偽造のおそれもないと考える。
履歴事項証明書等については、顧客自身が公に開示しているものであるので、特定事業者が法務局で取得する場合、提示を受けたものと取り扱っても差し支えないか。また、海外の金融機関の場合、外国の金融監督機関によりインターネットを利用して公衆の閲覧に供されている場合、その本人確認情報を確認することで足りることとしていただきたい。
質問に対する考え方 本人確認書類については、少なくとも顧客等が自らその真正性を確認した上で特定事業者に対して提示又は送付することが必要であると考え ます。したがって、「提示」に該当するというためには、特定事業者が顧客等に代わって登記事項証明書を取得した場合であっても、当該証明書を代表者等と対面で直接確認することが必要であると考えます。
また、基本的な考え方としては、 書類の真正性を厳格に確保するなどの観点から、提示や送付の対象となる書類は、官公庁等が正当な権限に基づき発行した公的証明書に限られることとしています。したがって、 単にウェブサイトからダウンロード又は印字した情報の閲覧を本人確認方法として認めることは難しいと考えます。
申告+確認法
これは、法人の代表者等から、対面で本人特定事項の申告を受け、かつ、
- 一般財団法人民事法務協会が運営している登記情報提供サービスから登記情報の送信を受ける(3号ロ)、または、
- 国税庁法人番号公表サイトで公表されている情報を確認する(3号ハ)
という方法です。
本記事では、事業者側が自ら法人の登記情報又は公表事項を確認するという意味で、「確認」と略称しています。
3号ロ・ハは、平成30年改正により追加されたもので、対面で申告を受けた場合、所定の登記情報や公表事項を確認すれば、本人確認書類の送付を受けなくてよい、ということです。
別の見方をすれば、規則7条に定められる「本人確認書類」そのものは介在しない確認方法、ということになります。
▽平成30年11月30日パブコメNo.103、104|JAFICホームページ(≫掲載ページ)
質問の概要 この確認方法は、特定事業者が自ら一般財団法人民事法務協会の登記情報提供サービス又は国税庁の法人番号公表サイトを利用して顧客等である法人の情報を取得(オンライン上に限定されず、窓口又は郵送を含む。)するのであれば、本人確認書類の送付を受けることを要しない、というものか(ロ及びハ関係)。
質問に対する考え方 そのとおりです。
質問の概要 平成27年9月18日公示のパブリックコメントNo.68において、法人の本人特定事項の確認について、「本人確認書類については、少なくとも顧客等が自らその真正性を確認した上で特定事業者に対して提示又は送付することが必要である」との理由から、「ウェブサイトからダウンロード又は印字した情報の閲覧を本人確認方法として認めることは難しい」旨示されている。当該解釈について、今回の改正により「ウェブサイトからダウンロード又は印字した情報の閲覧」が本人特定事項の確認方法として認められるようになったと推察されるが、既存のパブリックコメントへの回答との整合性について確認したい(ロ及びハ関係)。
質問に対する考え方 御指摘のパブリックコメントにおける見解は、外国の政府機関が運営するインターネットサイトの利用に関する御意見に対するものでした。
新規則第6条第1項第3号ロ及びハは、一般財団法人民事法務協会による登記情報提供サービス及び国税庁の法人番号公表サイトを利用するものであるところ、未来投資戦略2017(平成29年6月9日閣議決定)において「法人設立に関し、利用者が全手続をオンライン・ワンストップで処理できるようにする」こととされたことを踏まえ検討を行った結果、今回、本人特定事項の確認方法として新たに認めることとしたものです。
登記情報の確認(3号ロ)
法律系のお仕事をしているとお馴染みですが、インターネット登記情報提供サービスを使って登記情報を確認する方法です。
なお犯収法と直接関係ない余談になりますが、登記情報提供サービスの登記情報は、登記事項証明書と違って証明書としての機能は持たないとされています(▷参考リンク:そのQ&Aはこちら)。あくまでもインターネットで登記情報を閲覧しているだけ、という建付けの制度です。
▽登記情報提供サービスについてはこちら
-
登記情報提供サービス
www1.touki.or.jp
条文を確認してみます。
対面の場合(申告+確認法)は、本文に書かれています。括弧書きの中は非対面の場合(申告+確認+送付法)のことなので、本記事ではグレーアウトしています。
細かいことをいうと、非対面の場合の一部は、本文による処理ができるようになっています。つまり、非対面の場合の中でも、代表者(法人の代表者として登記されている者)から申告を受けるケースだけは、本文に含まれ、非対面での申告+確認法が可能となっています(▷こちらの記事を参照)
▽施行規則6条1項3号ロ
ロ 当該法人の代表者等から当該顧客等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の申告を受け、かつ、電気通信回線による登記情報の提供に関する法律(平成十一年法律第二百二十六号)第三条第二項に規定する指定法人から登記情報(同法第二条第一項に規定する登記情報をいう。以下同じ。)の送信を受ける方法(当該法人の代表者等(当該顧客等を代表する権限を有する役員として登記されていない法人の代表者等に限る。)と対面しないで当該申告を受けるときは、当該方法に加え、当該顧客等の本店等に宛てて、取引関係文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法)
なお、誤解されそうですが、登記情報提供サービスの登記情報が本人確認書類とされるようになったわけではありません(規則7条に定める「本人確認書類」ではない)。
また、あくまでも事業者が「送信を受ける」方法とされているので、事業者が自ら登記情報提供サービスのサイトにアクセスして登記情報を取得する必要があります。登記情報提供サービスの登記情報をプリントアウトした紙を顧客からもらってもダメ、とされています。
改めて事業者側でアクセスして確認するならOK、とされていますが、そうすると紙でもらうことにほぼ意味はないように思います。
▽平成30年11月30日パブコメNo.105|JAFICホームページ(≫掲載ページ)
質問の概要 顧客等が民事法務協会から入手した登記情報を印字し、特定事業者に宛てて郵送した場合、本人確認書類として認められるか。
また、顧客等から紙で送付された場合、特定事業者において民事法務協会にアクセスして記載内容の一致を確認すれば、本人確認書類として認められるのか(ロ関係)。
質問に対する考え方 顧客等が登記情報を紙に出力したものは本人確認書類とは認められません。特定事業者が指定法人から登記情報の送信を受けることが必要です。
なお、顧客等から登記情報を紙に出力したものの送付を受け、特定事業者が当該内容を確認することは、 本人確認方法として認められます。
また、登記情報提供サービスの利用料を顧客等から徴収しても問題ありません(そのせいで該当性が否定されたりはしない)。
▽上記パブリックコメントNo.112
質問の概要 特定事業者が登記情報提供サービスを利用する際の利用料は、事業者負担なのか。利用料を顧客に請求しても問題ないか(ロ関係)。
質問に対する考え方 利用料の負担については、犯罪収益移転防止法上は問題としておりません。
公表事項の確認(3号ハ)
こちらもお馴染みという感じですが、国税庁の法人番号サイトを利用する方法です。
▽国税庁法人番号公表サイトについてはこちら
-
国税庁法人番号公表サイト
www.houjin-bangou.nta.go.jp
条文を確認してみます。
対面の場合(申告+確認法)は、本文に書かれています。括弧書きの中は非対面の場合(申告+確認+送付法)のことなので、本記事ではグレーアウトしています。
▽施行規則6条1項3号ハ
ハ 当該法人の代表者等から当該顧客等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の申告を受けるとともに、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第三十九条第四項の規定により公表されている当該顧客等の名称及び本店又は主たる事務所の所在地(以下「公表事項」という。)を確認する方法(当該法人の代表者等と対面しないで当該申告を受けるときは、当該方法に加え、当該顧客等の本店等に宛てて、取引関係文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法)
結び
今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、顧客等が法人である場合の本人確認方法のうち、対面の場合について見てみました。
犯罪収益移転防止法に関する記事については、以下のページにまとめています。
▽犯罪収益移転防止法
-
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 犯罪収益移転防止法(「犯罪による収益の移転防止に関する法律」)
- 犯罪収益移転防止法施行令(「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令」)
- 犯罪収益移転防止法施行規則(「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」)
- 改正事項に関する資料(JAFIC)
- 過去に実施したパブリックコメントの結果(JAFIC)
業界別資料
参考文献
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