今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、実質的支配者の確認方法について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
実質的支配者の確認方法
通常の取引の場合(規則11条1項)
顧客法人の実質的支配者の確認方法は、申告による確認とされています(規則11条1項)。
▽法4条1項4号(※「…」は管理人が適宜省略)
(取引時確認等)
第四条 特定事業者…は、顧客等との間で、…特定業務…のうち…特定取引…を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項
▽施行規則11条1項(※【 】は管理人注)
(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 法第四条第一項に規定する主務省令で定める方法のうち同項第四号に掲げる事項【=実質的支配者の本人特定事項】に係るものは、当該顧客等の代表者等から申告を受ける方法とする。
申告を受ける方法とは
「申告を受ける方法」なので、本人確認書類による必要はありません。具体的には、口頭のほか、Eメール、FAX、書面等の方法が含まれ、また、特定事業者において有価証券報告書等の公表書類を確認する方法も認められるとされています。
▽平成24年3月26日パブコメNo.60、61、62|JAFICホームページ(≫掲載ページ)
質問の概要 新法第4条第1項の規定による確認の場合、実質的支配者の本人特定事項の確認は口頭等による方法で足り、本人確認書類等を用いなくてもよいという理解でよいか。
質問に対する考え方 そのとおりです。
質問の概要 「申告を受ける方法」としては、どのような方法が認められるか。
質問に対する考え方 「取引を行う目的」等の確認の方法と同様の方法を考えております(37参照)。
★管理人注:No.37「口頭で聴取する方法のほか、電子メール、FAX等を用いる方法、書面の提出を受ける方法、チェックリストのチェックを受ける方法等が含まれます。」
質問の概要 「申告を受ける方法」として、例えば特定事業者において有価証券報告書等の公表書類を確認する方法も認められるか。
質問に対する考え方 認められます。
ただ、金融分野では、金融庁ガイドラインにより以下のように事実上規制が強化されているため、(結局、実質的支配者の本人確認書類によることも含め)相応の証跡が必要とされます。
▽マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン Ⅱ-2-⑶-ⅱ【対応が求められる事項】③|金融庁HP(≫掲載ページ)
③ 顧客及びその実質的支配者の本人特定事項を含む本人確認事項、取引目的等の調査に当たっては、信頼に足る証跡を求めてこれを行うこと
確認記録の記録事項との関係
確認事項は実質的支配者の本人特定事項ですが、確認記録の記録事項(規則20条1項)としては、①実質的支配者の本人特定事項にプラスして、②実質的支配者と顧客法人との関係、③確認方法(及び書類)も、記録事項となっています(▷こちらの記事を参照)。
▽施行規則20条1項24号
二十四 顧客等(国等を除く。)が法人であるときは、実質的支配者の本人特定事項及び当該実質的支配者と当該顧客等との関係並びにその確認を行った方法(当該確認に書類を用いた場合には、当該書類の名称その他の当該書類を特定するに足りる事項を含む。)
そのため、実質的支配者と顧客法人との関係についても申告を受ける必要が生じます。
実質的支配者と顧客法人との関係とは、規則11条2項に定める内容のいずれに該当したのかということ、つまり以下のような判定の基本イメージのなかで、どの関係に該当するため実質的支配者と判定されたのか、ということです。
【実質的支配者の判定順序】
資本多数決法人 | 資本多数決でない法人 | |
---|---|---|
①形式基準 | 25%超の議決権を有する ↓ 該当なければ | 25%超の配当を受ける ↓ 該当なければ |
②実質基準 | 出資、融資、取引その他の関係を通じて 事業活動に支配的な影響力を有するかどうか ↓ 該当なければ | |
③どちらも該当なし | その法人の代表者 |
要するに、①の形式基準で実質的支配者なのか、②の実質的基準で実質的支配者なのか、どちらも該当がないから③で実質的支配者なのか、といったことです。ただ、議決権の保有割合まで記録する必要はありません。
▽平成24年3月26日パブコメNo.110|JAFICホームページ(≫掲載ページ)
質問の概要 実質的支配者が議決権の総数の何パーセントを有しているかについては、記録する義務がないものと考えてよいか。
質問に対する考え方 そのとおりです。
▽参考:施行規則11条2項(※「…」は管理人が適宜省略、【 】は管理人注)
2 法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
【形式基準(資本多数決法人)】
一 株式会社、…投資法人、…特定目的会社その他のその法人の議決権…が当該議決権に係る株式の保有数又は当該株式の総数に対する当該株式の保有数の割合に応じて与えられる法人(…以下…「資本多数決法人」という。)のうち、その議決権の総数の四分の一を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人(当該資本多数決法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合又は他の自然人が当該資本多数決法人の議決権の総数の二分の一を超える議決権を直接若しくは間接に有している場合を除く。)があるもの 当該自然人
【実質基準(資本多数決法人)】
二 資本多数決法人(前号に掲げるものを除く。)のうち、出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人があるもの 当該自然人
三 資本多数決法人以外の法人のうち、次のイ又はロに該当する自然人があるもの 当該自然人
【形式基準(資本多数決法人以外の法人)】
イ 当該法人の事業から生ずる収益又は当該事業に係る財産の総額の四分の一を超える収益の配当又は財産の分配を受ける権利を有していると認められる自然人(当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合又は当該法人の事業から生ずる収益若しくは当該事業に係る財産の総額の二分の一を超える収益の配当若しくは財産の分配を受ける権利を有している他の自然人がある場合を除く。)
【実質基準(資本多数決法人以外の法人)】
ロ 出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人
四 前三号に定める者がない法人 当該法人を代表し、その業務を執行する自然人
ハイリスク取引の場合(規則14条3項)
ハイリスク取引の場合の実質的支配者の確認方法は、通常の取引のときと異なっています(より厳格な方法になっている)。
実質的支配者については、通常の取引のときは、申告により確認することとなっていますが、ハイリスク取引のときは、書類による確認+申告による確認、となっています。
確認書類は、以下のようになっています。
- 資本多数決法人のとき
・株主名簿
・有価証券報告書
・その他これらに類する法人の議決権の保有状況を示す書類 - 資本多数決法人以外の法人のとき
・登記事項証明書
・官公庁発行書類等で、法人の代表者を証するもの
・外国政府・国際機関発行書類等で、法人の代表者を証するもの
条文を確認してみます。
▽施行規則14条3項
3 法第四条第二項の規定による同条第一項第四号に掲げる事項の確認の方法は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める書類又はその写しを確認し、かつ、当該顧客等の代表者等から申告を受ける方法とする。
一 資本多数決法人 株主名簿、金融商品取引法第二十四条第一項に規定する有価証券報告書その他これらに類する当該法人の議決権の保有状況を示す書類
二 資本多数決法人以外の法人 次に掲げる書類(有効期間又は有効期限のあるものにあっては特定事業者が確認する日において有効なものに、その他のものにあっては特定事業者が確認する日前六月以内に作成されたものに限る。)のいずれか
イ 当該法人の設立の登記に係る登記事項証明書(当該法人が設立の登記をしていないときは、当該法人を所轄する行政機関の長の当該法人を代表する権限を有している者を証する書類)
ロ イに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該法人を代表する権限を有している者を証するもの
ハ 外国に本店又は主たる事務所を有する法人にあっては、イ及びロに掲げるもののほか、日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、当該法人を代表する権限を有している者を証するもの
ちなみに、昔は、実質的支配者は直接保有に限られていたので、株主名簿や有価証券報告書によって実質的支配者を確認することができました。
その後、平成27年政省令改正(平成28年10月1日全面施行)によって、間接保有も含めて実質的支配者を判定するようになったため、実は、これらの書類だけでは実質的支配者は判明しないことになりましたが(間接保有も含めた実質的支配者は判明しない)、それでもマネロン対策上有用として、これらの書類の確認は引き続き行う、ということになっています。
以下、当該改正の説明資料の該当部分を参考までに抜粋します。
▽「平成26年改正犯罪収益移転防止法及び下位政省令(平成28年10月1日全面施行)に関する資料」7枚目|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)
➢現行規則では、ハイリスク取引の場合に、実質的支配者の支配を証明する書類(株主名簿や登記事項証明書)を確認することとしている。
今般の改正に伴い、間接保有者も実質的支配者となりうることとするため、これらの書類は、支配構造を証明するに足り得ない場合が生じ得る。
しかしながら、マネロン対策上、実質的支配者が記載されていない場合であっても、これらの書類の提示を受けることは有効と考えるため、当該規定は存置する。
実質的支配者リスト制度
確認書類として、実質的支配者リストの証明書を利用することもできます。
実質的支配者リストとは、実質的支配者(Beneficial Owner:BO)について議決権の保有に関する情報を記載した書面のことです。株式会社が作成した実質的支配者リストについて、商業登記所が所定の添付書面により内容を確認・保管し、登記官の認証文付きの写しを発行するという制度になります(「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」(以下実質的支配者リスト規則)による)。
▽参考リンク
・実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)|法務省HP
・実質的支配者リスト制度Q&A|法務省HP
制度の対象となる法人は、資本多数決法人のなかでも株式会社のみであり、対象となる実質的支配者は、1号実質的支配者(つまり形式基準での実質的支配者)のみとなっています。
▽実質的支配者リスト規則2条1号・2号(※「…」は管理人が適宜省略)
(実質的支配者情報一覧の保管等の申出)
第二条 株式会社は、その本店の所在地を管轄する登記所(…以下「商業登記所」という。)の登記官に対し、当該株式会社に係る次に掲げる情報を記載した書面(以下「実質的支配者情報一覧」という。)の保管及び実質的支配者情報一覧の写しの交付の申出をすることができる。
一 申出に係る株式会社(以下「申出会社」という。)の商号、本店の所在場所及び会社法人等番号(商業登記法第七条に規定する会社法人等番号をいう。以下同じ。)
二 過去の一定の日(本条の申出をする日前一月以内のものに限る。)における申出会社の実質的支配者(犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則…第十一条第二項第一号の自然人(同条第四項の規定により自然人とみなされるものを含む。)に該当する者をいう。以下同じ。)の氏名、住居、国籍等…及び生年月日
ただ、実質的支配者リストに記載された内容が事実であることを証明するものではない点には留意が必要かと思います(以下の通達部分参照)。
▽通達 第2-2-⑷-イ-(ウ)
(ウ) 実質的支配者情報一覧の写しには、次の注意事項を付記するものとする。
「これは、会社において作成した実質的支配者情報一覧について、登記官が各添付書面欄記載の書面と整合することを確認して保管を行ったものの写しであり、記載されている内容が事実であることを証明するものではない。」
結び
今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、実質的支配者の確認方法について見てみました。
犯罪収益移転防止法に関する記事は、以下のページにまとめています。
▽犯罪収益移転防止法
-
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
houritsushoku.com
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 犯罪収益移転防止法(「犯罪による収益の移転防止に関する法律」)
- 犯罪収益移転防止法施行令(「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令」)
- 犯罪収益移転防止法施行規則(「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」)
- 改正事項に関する資料(JAFIC)
- 過去に実施したパブリックコメントの結果(JAFIC)
業界別資料
参考文献
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