犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認ー本人特定事項の確認とは

著作者:ijeab/出典:Freepik

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人特定事項の確認について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

本人特定事項の確認とは

まず最初に、本人特定事項というのは何なのか?ということを確認しておきたいと思う。

本人特定事項というのは、

顧客等 本人特定事項
自然人の場合 氏名 住居 生年月日
法人の場合 名称 本店又は主たる事務所の所在地

のことである。

「どこの誰ですか?」というのを確認すれば本人特定できるのであり(法人もそう)、自然人の場合は生年月日もよく聞かれるところで、特に違和感のないところだと思う。

次に、誰の本人特定事項を確認する必要があるのか?という話なのだが、もちろん取引の相手方である。

犯罪収益移転防止法では、

「顧客等」

という。

これだけだとそんなに難しくないのだが、代理を介した取引になる場合、

代理人(会社など法人の場合なら、代表権限を有する者など

について本人特定事項の確認が必要となっていて、そこが若干ややこしい。

つまり、顧客等である本人と代理人の双方の本人確認が必要なのである。

さらに、代理を介した取引になる場合、顧客等との関係についても確認が必要となっていて、そこも若干ややこしい。

顧客等との関係というのは、「あなたは取引の本人とどういうご関係の人なの?」ということ、要するに、その取引の権限をきちんと持っているのか?ということであり、

✓ 顧客等の代理人なの?
✓ あるいは、法定代理人(ex.親権者など)なの?
✓ 顧客等が会社であれば、そこの代表取締役社長なの?
✓ あるいは、取引権限のある本部長や支店長なの?

といったことである。

ここまでの話をまとめると、以下のような感じになる。

<本人特定事項の確認>

顧客等 確認の対象者  
自然人の場合 顧客等(自然人) 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
代理人(※いる場合) 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
顧客等との関係
法人の場合 顧客等(法人) 本人特定事項(「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」)
代表権限を有する者など(※必ずいる) 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
顧客等との関係


以下、それぞれをもう少し詳しく見てみる。

 

顧客等についての本人確認

「本人特定事項」の確認

顧客等についての「本人特定事項」の確認は、シンプルである。

先ほど書いたように、顧客等が自然人なら、

「氏名」「住居」「生年月日」

の確認だし、

会社などの法人なら、

「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」

の確認である。

なお、どんな書類で確認するのかについては、以下の関連記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類

続きを見る

 

代表的なものでいえば、自然人の場合は運転免許証など、法人の場合は登記事項証明書などである。

「顧客等」とは

ちなみに、「顧客等」の「等」というのが何なのか引っかかるかもしれないが、ここで「等」といっているのは信託の受益者のことなので(施行令5条)、あまり気にしなくてよい。

要するに、取引の相手方そのもの(自然人なら自然人、法人なら法人)のことと思っておいてよいと思う。

条文上の言い方でいうと、「顧客等」=「顧客」+「顧客に準ずる者」、なのだが(法2条3項)、顧客に準ずる者というのは信託の受益者だけである(規則5条)。

▽法2条3項

(定義)
第二条
3 この法律において「顧客等」とは、顧客(前項第三十九号に掲げる特定事業者にあっては、利用者たる顧客)又はこれに準ずる者として政令で定める者をいう。

▽施行令5条

(顧客に準ずる者)
第五条 法第二条第三項に規定する顧客に準ずる者として政令で定める者は、信託の受益者(※管理人注:括弧内が長いので略)とする。

詳しい解説は、以下のとおり。ただ、それほど気にしなくてよいと思う。

「犯罪収益移転防止法の概要(令和2年10月1日時点)」17頁|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

 「顧客」とは、特定事業者が特定業務において行う特定取引等の相手方をいい、これに当たるか否かについては、取引を行うに際して取引上の意思決定を行っているのは誰かということと、取引の利益(計算)が実際には誰に帰属するのかということを総合判断して決定されます。
 そのため、例えば、Aの名義において宅地建物取引業者と宅地建物の売買契約を締結しようとする場合であっても、実際には B がお金を出して宅地建物を購入して使用するつもりであり、Aは B の単なる手足として契約の締結をしようとしている場合には、「顧客」は B であり、A は現に取引の任に当たっている自然人(代表者等)にすぎないと考えられます。

 

代表者等についての本人確認

代表者等についても「本人特定事項」の確認が必要

冒頭でも書いたように、代理を介した取引になる場合、代理人(会社の場合なら、代表権限を有する者など)についても本人特定事項の確認が必要となっている。

具体的には、

✓顧客等が自然人なら代理人

✓顧客等が法人なら
 代表者(※会社の代表者も代理の一種なので)
 又は
 取引権限のある取引担当者

の本人特定事項の確認である。

顧客等が自然人の場合は、代理を介さなくても取引できるので、代理人は、いる場合もいない場合もある。

ここでいう代理人には、代理権を与えられた代理人=任意代理人だけではなく、法定代理人(法律上代理権がある者。親権者や成年後見人など)も含まれる。

これに対し、顧客等が法人の場合は、必ず代理を介した取引になる。

法人は肉体を持たないので、取引は必ず代理で行われる(※社長など会社代表者による代表も、この代理の一種)からである。なので、代表権限を有する者などに関する本人確認が必ず発生する。

条文を見てみる。

代理人などについても本人特定事項の確認が必要と言っているのは、法4条4項である。

現に特定取引等の任に当たっている自然人が顧客等と異なる場合…という部分が、自然人の代理人が取引の任に当たっている場合や、顧客等が法人である場合のことを指している。

会社の代表者が会社のために特定取引等を行うとき…というのは、その例示である。

▽法4条4項

(取引時確認等)
第四条 
4 特定事業者は、顧客等について第一項又は第二項の規定による確認を行う場合において、会社の代表者当該会社のために当該特定事業者との間で第一項又は第二項前段に規定する取引(以下「特定取引等」という。)を行うときその他の当該特定事業者との間で現に特定取引等の任に当たっている自然人が当該顧客等と異なるとき(次項に規定する場合を除く。)は、当該顧客等の当該確認に加え、当該特定取引等の任に当たっている自然人についても、主務省令で定めるところにより、その者の本人特定事項の確認を行わなければならない。

「顧客等との関係」についても確認が必要

また、代理人などの本人特定事項を確認する前提として、顧客等との関係(=つまり取引権限をきちんと持っていること)の確認も必要となっている。

顧客等との関係というのは、ざっくりいうと、

顧客等が自然人の場合の「代理人」だったら
⇒ 代理権(法定代理権を含む)を持っているということ

だし、

顧客等が法人の場合の「代表者等」だったら
⇒ 代表者であって、代表権を持っているということ
  または、
⇒ 代表者以外の取引担当者であれば、取引権限を持っているということ

である。

条文を見てみる。規則12条5項である。

顧客等のために特定取引等の任に当たっていると認められることが必要…というのが、顧客等との関係の確認のことである。

▽規則12条5項

(代表者等の本人特定事項の確認方法)
第十二条
5 第一項の代表者等は、次の各号に掲げる場合においては、それぞれ当該各号に該当することにより当該顧客等のために特定取引等の任に当たっていると認められる代表者等をいうものとする。
一~二 (略) 

なお、厳密にいうと、顧客等との関係の確認というのは、民法上の代理権の有無の確認とは異なるとされている。が、管理人的にはかえって理解しにくいと思うので、当ブログでは指摘だけにしておきたいと思う。

逐条解説(「逐条解説 犯罪収益移転防止法(犯罪収益移転防止制度研究会)」77頁)や、以下のパブコメにその旨の記載がある。

平成24年3月26日パブリックコメントNo.75|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 第11条第4項の規定は、代表者等が代理権を有していることの確認を義務付けるものであるのか。

質問に対する考え方 新規則第11条第4項は、代表者等が顧客等のために特定取引等の任に当たっていることが明らかであることを求めておりますが、これは民法上の代理権を有しているかの確認とは異なるものです。よって、代理権を有していることの確認を義務付けるものではありません。

(※)管理人注:11条4項というのは当時の条数で、現在は上記のとおり12条5項

「代表者等」とは

さらっと書いたが、「代表者等」というのは、「顧客等」と違って実はややこしい。

「代表者等」というと、語感的に社長を思い浮かべるし、間違ってはいないのだが、ここでいう「代表者等」はいわゆる社長などに限られない

先ほど書いたように、「取引の任に当たっていると認められる人」のことであるから、取引権限を与えられた、役員、部長、課長、主任、一般従業員などもこれに該当する。

また、条文上の意味としては、顧客等が自然人の場合の代理人も含んだ概念になっている。

つまり、「顧客等」の「等」(←信託の受益者のみ)とは違って、「代表者等」の「等」の範囲はけっこう広いのである。

具体的には、くり返しになるが、

✓ 顧客等が自然人の場合の、いわゆる代理人も含んだ概念であること

✓ 顧客等が法人の場合でも、いわゆる社長(代表権を有する者)のみならず、取引権限のある取引担当者も含まれること

に注意すべきであり、「代表者等」という語感から感じとれる意味とはずいぶん違っているので、解説や条文を眺めるときには常に念頭に置いておいた方がよいと思う。

条文で見てみる。

「代表者等」の定義は、以下のように法4条6項の文中に出てくる。

(現に取引の任に当たっている自然人が顧客等と異なるときの、)現に取引の任に当たっている自然人、である。

こういう表現だと、顧客等が自然人である場合の代理人や、会社の取引担当者の場合もたしかに入るわけである。

▽法4条6項

(取引時確認等)
第四条
6 顧客等及び代表者等(前二項に規定する現に特定取引等の任に当たっている自然人をいう。以下同じ。)は、…(以下略)…

詳しい解説は、以下のとおり。

「犯罪収益移転防止法の概要(令和2年10月1日時点)」17~18頁|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

 特定取引等の任に当たっている自然人が顧客等と異なる場合(例えば、顧客等が法人である場合や、自然人の顧客等の代理人が取引の任に当たっている場合)には、顧客等についての確認に加え当該取引の任に当たっている自然人(代表者等)について、その本人特定事項の確認を行うこととなります(「代表者等」は、法人を代表する権限を有している者には限られません。)。
 また、代表者等の本人特定事項を確認するに当たっては、その前提として、代表者等が委任状を有していること、電話により代表者等が顧客等のために取引の任に当たっていることが確認できること等の当該代表者等が顧客等のために特定取引等の任に当たっていると認められる事由が必要となります。

※ 犯罪収益移転防止法施行規則の改正により、平成 28 年 10 月1日以後は、社員証を有していること、役員として登記されていること(代表権限を有している場合を除く。)は、代表者等が顧客等のために特定取引等の任に当たっていると認められる事由ではなくなります。

 

まとめ

最後にもう一度これまでの話をまとめると、以下の表のとおりである。

「 」付きの部分は、条文上の文言になっている。

<本人特定事項の確認>

顧客等 確認の対象者  
自然人の場合 「顧客等」(自然人) 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
「代表者等」(※いる場合)任意代理人、法定代理人など 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
顧客等との関係≒任意代理権、法定代理権
法人の場合 「顧客等」(法人) 本人特定事項(「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」)
「代表者等」(※必ずいる)代表者、取引権限のある取引担当者 本人特定事項(「氏名」「住居」「生年月日」)
顧客等との関係≒代表権、取引権限

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人特定事項の確認について書いてみました。

なお、犯罪収益移転防止法の記事は、以下のページにまとめています。

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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