犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認ー確認事項と確認方法

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認の確認事項と確認方法について、全体的に書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

取引時確認の確認事項(法4条1項)

まず、取引時確認の確認事項の全体像を見てみたい。

通常の特定取引の場合、確認事項は以下の4つである。

① 本人特定事項
② 取引の目的
③ 職業(自然人の場合)又は事業の内容(法人の場合)
④ 実質的支配者(法人の場合)

内容と確認方法をざっくり加えて全体を表にすると、以下のような感じである。(※注:ハイリスク取引の場合は別)

確認事項 顧客等 内容 確認方法
本人特定事項 自然人の場合 顧客等の「氏名」「住所」「生年月日」 書類
代理人の「氏名」「住所」「生年月日」(※代理がいる場合のみ)
代理人と顧客等との関係(※代理人がいる場合のみ)
法人の場合 顧客等の「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」
代表者等の「氏名」「住所」「生年月日」
代表者等と顧客等との関係
取引の目的     申告
職業又は事業の内容 自然人の場合 職業 申告
法人の場合 事業の内容 書類
実質的支配者 法人の場合のみ 実質的支配者の本人特定事項 申告

 

もともとは、本人特定事項だけだったので「本人確認」と言われていたのだが、その後、改正で確認事項が増えたため「取引時確認」と呼ばれるようになった。つまり、確認事項はいろいろあるが、最も重要な中心は「本人特定事項」である。

この点については、JAFICの「犯罪収益移転防止法の概要」(令和2年10月1日時点)の以下の解説がわかりやすい。

「犯罪収益移転防止法の概要」(令和2年10月1日時点)3頁|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

【犯罪収益移転防止法の一部改正】
≪平成 23 年改正犯罪収益移転防止法の概要(平成 25 年4月1日全面施行)≫
取引時の確認事項の追加(士業者を除く。)
一定の取引を行う際の確認事項に、本人特定事項に加え、次のものが追加されました。
取引を行う目的
職業(自然人)又は事業の内容(法人・人格のない社団又は財団)
実質的支配者(法人)
・ 資産及び収入の状況(ハイリスク取引の一部)

※ これらの確認事項は、特定事業者が疑わしい取引の届出を行うべき場合に該当するか否かの判断をより的確に行うために追加されたものであり、特定事業者は、顧客等が行う取引の態様が、その取引を行う目的や職業・事業内容等の属性情報等に照らし合わせて不自然でないかどうかを吟味することにより、当該取引が疑わしい取引の届出を行うべき場合に該当するかどうかを判断する必要があります。
 なお、確認事項が追加されることに伴い、取引に際して行う確認を「取引時確認」と、確認をした際に作成する記録を「確認記録」ということとしています。

〇(以下略)


下線部に趣旨もさらっと書かれているように、②~④の「取引を行う目的」「職業又は事業の内容」「実質的支配者」は、疑わしい取引の届出を行うかどうかの判断に資するために加えられたものである。

つまり、①と②~④とで確認の趣旨が違っていることも理解のポイントかと思う。

なお、①の趣旨は、従来どおりで、顧客等の実在性と同一性の確認、つまり、仮名取引やなりすましによる取引の防止である(前掲「犯罪収益移転防止法の概要」19頁)。

条文も見てみる。法4条1項である。

顧客等との間で、特定取引を行うに際しては、次の各号(1~4号)に掲げる事項の確認を行わなければならない、と書かれている。

▽法4条1項

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一 本人特定事項自然人にあっては氏名住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項
2~6 (略)

 

取引時確認の確認方法

取引時確認の確認事項は上記のようなものだとして、次に、それをどうやって確認するのか?が2つ目の問題である。

それが取引時確認の確認方法で、大きく分けると、書類申告がある。

書類は、確認事項ごとに、いろいろ細かい書類がある。

申告は、顧客等や代表者等から申告を受けることであり、口頭で確認することや、チェックリストへのチェック等が例示されている(前掲「犯罪収益移転防止法の概要」25頁)。

確認方法については、法律ではなく、施行規則で細かいところが定められている。

確認事項 顧客等   確認方法 書類の種類 方法の種類
①本人特定事項 自然人の場合 顧客等(自然人)の本人特定事項 書類 ・本人確認書類(A群)運転免許証など
・本人確認書類(B群)健康保険証など
・本人確認書類(C群)住民票の写しなど
・補完書類
(規則7条1号)(※)
対面の場合
非対面(eKYC)の場合
非対面(郵便等)の場合
☆使用できる本人確認書類は方法ごとに異なる
代理人の本人特定事項 書類 (※)の場合と同様  
代理人と顧客等との関係 書類等 ・同居の親族又は法定代理人
・委任状その他の書面
・電話その他の方法
・認識その他の理由
のいずれか
(規則12条5項1号)
 
法人の場合 顧客等(法人)の本人特定事項 書類 ・登記事項証明書、印鑑登録証明書
・官公庁発行書類
・補完書類
(規則7条2号)
対面の場合
非対面の場合
代表者等の本人特定事項 書類 (※)の場合と同様  
代表者等と顧客等との関係 書類等 ・委任状その他の書面
・代表役員としての登記
・電話その他の方法
・認識その他の理由
のいずれか
(規則12条5項2号)
 
②取引の目的     申告(規則9条)    
③職業又は事業の内容 自然人の場合 職業 申告(規則10条1号)    
  法人の場合 事業の内容 書類 ・定款
・法令に基づく作成書類
・登記事項証明書
・官公庁発行書類
のいずれか
(規則10条2号)
左記の書類(写しを含む)を確認
④実質的支配者 法人の場合のみ 実質的支配者の本人特定事項 申告(規則11条1項)    


①~④の確認事項のうち、内容的に量が多くて難しいのは、①の本人特定事項と、④の実質的支配者である。②と③はそんなにややこしい話ではないと思う。

実質的支配者が何かについて、詳しくは以下の関連記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|実質的支配者の確認とは

続きを見る

 

顧客等が国や上場会社等の場合(法4条5項)

なお、顧客等が国や上場会社等の場合は、取引時確認の確認事項が大幅に省略されている(法4条5項)。

ひとことでいうと、顧客等が法人のうち国、自治体、上場会社等である場合は、取引に任の当たっている自然人(代表者等)の本人特定事項の確認のみでよいことになっている。

詳しくはこちらの関連記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認ー顧客等が国や上場会社等の場合

続きを見る

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認に関して、確認事項と確認方法の全体像について書いてみました。

なお、犯罪収益移転防止法の記事は、以下のページにまとめています。

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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