犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|特定業務とは

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、特定業務について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

特定業務とは(法4条1項→別表中欄)

特定業務とは、特定事業者の行う業務のうち、規制の対象となる業務のことである。

つまり、規制を受ける事業者(=特定事業者)であるからといって、全ての業務が規制を受けるとは限らず、そのうち規制を受ける部分を「特定業務」と呼んでいる、という感じである(管理人的な理解の仕方)。

特定業務に該当するとどうなるかというと、たとえば、疑わしい取引の届出義務や、(少額の取引等を除き)取引記録の作成・保存義務を負うことになる。

特定業務をざっくり整理すると、以下のようになる。
「犯罪収益移転防止法の概要」(JAFIC)など参照)

法2条2項 類型 特定事業者 特定業務
1号~37号 金融機関等 金融業務
38号 ファイナンスリース事業者 ファイナンスリース業務
39号 クレジットカード事業者 クレジットカード業務
40号 宅地建物取引業者 宅地建物売買又はその代理若しくは媒介業務
41号 宝石・貴金属等取扱事業者 貴金属又はこれらの製品の販売業務
42号 郵便物受取サービス業者 郵便物受取サービス業務
電話受付代行業者 電話受付代行業務
電話転送サービス事業者 電話転送サービス業務
43号~47号 士業者 特定受任行為の代理等

 

条文も確認してみる。特定業務が定義されているのは法4条1項の中である(下線部分参照)。

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一~四 (略)

というわけで、結局は、特定事業者ごとに別表の中欄(以下の表の真ん中の列)に記載がある、という定め方になっている。

別表(第四条関係)

 

以下、特定事業者のグループごとにもう少し詳しく見てみる。

 

①金融機関等(1号~37号)の特定業務

別表の中欄を見ると、特定業者のうち、金融機関等(法2条2項の1号~37号)は、

  • 金融に関する業務その他の政令で定める業務

が特定業務となっていて、令6条に定められている。

令6条は以下のとおり。小見出しも、「金融機関等の特定業務」となっている。

(金融機関等の特定業務)
第六条 法別表第二条第二項第一号から第三十七号までに掲げる者の項に規定する政令で定める業務は、次の各号に掲げる特定事業者の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める業務とする。
一~十八 (略)

令6条では、1号で金融機関等の多くがまとめて定められているので、本記事では1号とそれ以外で分けてざっくり眺めてみたいと思う。

令6条のうち1号に定められた特定業務は、「当該特定事業者が行う業務」となっていて、これは要するにその特定事業者が行う全ての業務が特定業務となるということである。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法別表→令6条)
1号 銀行 全ての業務 当該特定事業者が行う業務【令6条1号】
2号 信用金庫
3号 信用金庫連合会
4号 労働金庫
5号 労働金庫連合会
6号 信用協同組合
7号 信用協同組合連合会
14号 農林中央金庫
15号 株式会社商工組合中央金庫
16号 株式会社日本政策投資銀行
17号 保険会社
18号 外国保険会社等
19号 少額短期保険業者
20号 共済水産業協同組合連合会
22号 証券金融会社
24号 信託会社
27号 無尽会社
33号 振替機関
35号 電子債権記録機関

 

令6条のうち残りの特定業務を整理すると、以下のようになる。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法別表→令6条)
8号 農業協同組合 信用事業及び共済事業 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第二号に掲げる事業(当該特定事業者が同項第三号に掲げる事業を併せ行う場合に限る。)、同項第三号に掲げる事業(これらの事業に附帯する事業を含む。)若しくは同項第十号に掲げる事業(当該事業に附帯する事業を含む。)又は同条第六項若しくは第七項に規定する事業に係る業務【令6条2号】
9号 農業協同組合連合会
10号 漁業協同組合 信用事業及び共済事業 水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第三号に掲げる事業(当該特定事業者が同項第四号に掲げる事業を併せ行う場合に限る。)、同項第四号に掲げる事業(これらの事業に附帯する事業を含む。)若しくは同項第十二号に掲げる事業(当該事業に附帯する事業を含む。)又は同条第三項から第五項までに規定する事業に係る業務【令6条3号】
11号 漁業協同組合連合会 信用事業 水産業協同組合法第八十七条第一項第三号に掲げる事業(当該特定事業者が同項第四号に掲げる事業を併せ行う場合に限る。)若しくは同項第四号に掲げる事業(これらの事業に附帯する事業を含む。)又は同条第四項から第六項までに規定する事業に係る業務【令6条4号】
12号 水産加工業協同組合 水産業協同組合法第九十三条第一項第一号に掲げる事業(当該特定事業者が同項第二号に掲げる事業を併せ行う場合に限る。)、同項第二号に掲げる事業(これらの事業に附帯する事業を含む。)若しくは同項第六号の二に掲げる事業(当該事業に附帯する事業を含む。)又は同条第二項から第四項までに規定する事業に係る業務【令6条5号】
13号 水産加工業協同組合連合会 水産業協同組合法第九十七条第一項第一号に掲げる事業(当該特定事業者が同項第二号に掲げる事業を併せ行う場合に限る。)若しくは同項第二号に掲げる事業(これらの事業に附帯する事業を含む。)又は同条第三項から第五項までに規定する事業に係る業務【令6条6号】
21号 金融商品取引業者 第2種金融商品取引業投資助言・代理業に係る業務 金融商品取引法第二十八条第二項に規定する第二種金融商品取引業又は同条第三項に規定する投資助言・代理業に係る業務【令6条7号】
23号 適格機関投資家等特例業者 適格機関投資家等特例業務 金融商品取引法第六十三条第二項に規定する適格機関投資家等特例業務【令6条8号】
25号 登録自己信託会社 自己信託に係る事務に関する業務 信託法(平成十八年法律第百八号)第三条第三号に掲げる方法によってする信託に係る事務に関する業務【令6条9号】
26号 不動産特定共同事業者 不動産特定共同事業に係る業務 不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号)第二条第四項に規定する不動産特定共同事業に係る業務【令6条10号】
28号 貸金業者 貸金業に係る業務 貸金業法(昭和五十八年法律第三十二号)第二条第一項に規定する貸金業に係る業務【令6条11号】
29号 金融庁長官の指定する短資業者 短資業に係る業務 貸金業法第二条第一項本文に規定する貸付けの業務【令6条12号】
30号 資金移動業者 資金移動業に係る業務 資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第二項に規定する資金移動業に係る業務【令6条13号】
31号 暗号資産交換業者 暗号資産交換業に係る業務 資金決済に関する法律第二条第七項に規定する暗号資産交換業(次条第一項第一号レ及び第三項第二号において単に「暗号資産交換業」という。)に係る業務【令6条14号】
32号 商品先物取引業者 商品先物取引業に係る業務 商品先物取引法(昭和二十五年法律第二百三十九号)第二条第二十二項に規定する商品先物取引業に係る業務【令6条15号】
34号 口座管理機関 振替業に係る業務 社債、株式等の振替に関する法律第四十五条第一項に規定する振替業【令6条16号】
36号 独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構 郵便貯金業務簡易生命保険業務郵便為替業務郵便振替業務 独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構法(平成十七年法律第百一号)第十三条第一項第一号若しくは第二号に掲げる業務(これらに附帯する業務を含む。)又は同法附則第二条第一項各号に掲げる業務【令6条17号】
37号 外貨両替業者、トラベラーズチェック取引業者 外貨両替トラベラーズチェックの売買に関する業務 同号に規定する両替業務【令6条18号】

 

②ファイナンスリース事業者(38号)の特定業務

ファイナンスリース事業者の特定業務は、そのまんまだが、ファイナンスリース業務である。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法別表)
38号 ファイナンスリース事業者 ファイナンスリース業務
※途中解約できないもの等であって、賃借人が賃貸物品の使用にともなう利益を享受し、かつ、費用を負担するものをいう
同号に規定する業務

 

なお、「同号に規定する業務」の定義は、

「顧客に対し、その指定する機械類その他の物品を購入してその賃貸(政令で定めるものに限る。)をする業務」

とされている(法2条2項38号)。

 

③クレジットカード事業者(39号)の特定業務

クレジットカード事業者の特定業務は、クレジットカードの発行業務である。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法の別表)
39号 クレジットカード事業者 クレジットカード業務 同号に規定する業務

 

なお、「同号に規定する業務」の定義は、

「それを提示し又は通知して、特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者(役務の提供の事業を営む者をいう。以下この号において同じ。)から有償で役務の提供を受けることができるカードその他の物又は番号、記号その他の符号(以下「クレジットカード等」という。)をこれにより商品若しくは権利を購入しようとする者又は役務の提供を受けようとする者(以下「利用者たる顧客」という。)に交付し又は付与し、」
「当該利用者たる顧客が当該クレジットカード等を提示し又は通知して特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者から有償で役務の提供を受けたときは、」
「当該販売業者又は役務提供事業者に当該商品若しくは権利の代金又は当該役務の対価相当する額の金銭を直接に又は第三者を経由して交付するとともに、」
「当該利用者たる顧客から、あらかじめ定められた時期までに当該代金若しくは当該対価の合計額の金銭を受領し、又はあらかじめ定められた時期ごとに当該合計額を基礎としてあらかじめ定められた方法により算定して得た額の金銭を受領する業務を行う者」

とされている(法2条2項39号参照)。

 

④宅地建物取引業者(40号)の特定業務

宅地建物取引業者の特定業務は、宅地建物の売買に関する業務である。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法の別表)
40号 宅地建物取引業者 宅地建物売買又はその代理若しくは媒介業務 宅地建物取引業のうち、宅地(宅地建物取引業法第二条第一号に規定する宅地をいう。以下この表において同じ。)若しくは建物(建物の一部を含む。以下この表において同じ。)の売買又はその代理若しくは媒介に係るもの

 

売買に関する業務のほか、日常でも住居の賃貸などで不動産業者のお世話になるように、賃貸の媒介業務なども宅地建物取引業(以下「宅建業」)にはなるのだが、犯収法上の特定業務には含まれていない(=宅建業法の適用はあるが、犯収法上の義務は課されない)。

つまり、宅建業(宅建業法2条2号)とは何かというと、以下の表のようになり、

宅建業の定義 自ら 代理若しくは媒介
売買
交換
賃貸 ×

〇が宅建業にあたる部分なのだが、このうちオレンジ色にしている部分のみが、犯収法上の特定業務にあたるということである。

このあたりについては、「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック【第3版 改訂版】(令和元年11月発行)」6頁がわかりやすいので、必要であれば参照をおすすめする。

 

⑤貴金属等取扱業者(41号)の特定業務

貴金属等取扱業者の特定業務は、貴金属等の売買である。

貴金属等の売買というと、古物商(古物営業法)が思い浮かぶが、中古品かどうかは関係ない。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法別表)
41号 貴金属等取扱業者 貴金属等の売買の業務 貴金属等の売買の業務

 

「貴金属等」とは、金、白金その他の政令で定める貴金属若しくはダイヤモンドその他の政令で定める宝石又はこれらの製品のことである(法2条2項41号)。

 

⑥郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者(42号)の特定業務

これらの事業者の特定業務は、そのまんまだが、それぞれ、郵便物受取サービス業務、電話受付サービス業務、電話転送サービス業務である。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法の別表)
42号 郵便物受取サービス業者 郵便物受取サービス業務 同号に規定する業務

 

電話受付代行業者 電話受付サービス業務
電話転送サービス事業者 電話転送サービス業務

 

なお、「同号に規定する業務」の定義は、

「顧客に対し、自己の居所若しくは事務所の所在地を当該顧客が郵便物(民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物並びに大きさ及び重量が郵便物に類似する貨物を含む。以下同じ。)を受け取る場所として用い、又は自己の電話番号を当該顧客が連絡先の電話番号として用いることを許諾し、」
当該自己の居所若しくは事務所において当該顧客宛ての郵便物を受け取ってこれを当該顧客に引き渡し、又は当該顧客宛ての当該電話番号に係る電話(ファクシミリ装置による通信を含む。以下同じ。)を受けてその内容を当該顧客に連絡し、若しくは当該顧客宛ての若しくは当該顧客からの当該電話番号に係る電話を当該顧客が指定する電話番号に自動的に転送する役務を提供する業務を行う者」

オレンジ色の部分が郵便物受取サービス業者、緑色の部分が電話受付代行業者と電話転送サービス事業者

とされている(法2条2項42号参照)。

 

⑦士業者(43号~47号)の特定業務

士業者の特定業務は、特定受任行為の代理等である。

法2条2項 特定事業者 特定業務 条文の文言(法別表)
43号 弁護士等 (※管理人注:弁護士等については、取引時確認等の義務について、司法書士等の例に準じて日本弁護士連合会の会則で定めるところによる(法12条)とされているため、特定業務についての規定はない)
44号 司法書士等 特定受任行為の代理等 司法書士法(昭和二十五年法律第百九十七号)第三条若しくは第二十九条に定める業務又はこれらに付随し、若しくは関連する業務のうち、顧客のためにする次に掲げる行為又は手続(政令で定めるものを除く。)についての代理又は代行(以下この表において「特定受任行為の代理等」という。)に係るもの
一 宅地又は建物の売買に関する行為又は手続
二 会社の設立又は合併に関する行為又は手続その他の政令で定める会社の組織、運営又は管理に関する行為又は手続(会社以外の法人、組合又は信託であって政令で定めるものに係るこれらに相当するものとして政令で定める行為又は手続を含む。)
三 現金、預金、有価証券その他の財産の管理又は処分(前二号に該当するものを除く。)
45号 行政書士等 行政書士法(昭和二十六年法律第四号)第一条の二、第一条の三若しくは第十三条の六に定める業務又はこれらに付随し、若しくは関連する業務のうち、特定受任行為の代理等に係るもの
46号 公認会計士等 公認会計士法第二条第二項若しくは第三十四条の五第一号に定める業務又はこれらに付随し、若しくは関連する業務のうち、特定受任行為の代理等に係るもの
47号 税理士等 税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)第二条若しくは第四十八条の五に定める業務又はこれらに付随し、若しくは関連する業務のうち、特定受任行為の代理等に係るもの

 

法務にはあまり関係がないと思われるので、本記事では詳細は割愛する。

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、特定業務について書いてみました。

なお、当ブログの犯罪収益移転防止法の記事については、以下のページにまとめています。

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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-犯罪収益移転防止法