犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|ハイリスク取引時の確認方法

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、ハイリスク取引時の確認方法について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

ハイリスク取引時の確認事項

ハイリスク取引のときは、厳格な顧客管理が必要とされ、具体的には、

✓ 取引時確認のうち「本人特定事項」と「実質的支配者」の確認をより厳格な方法で行う

✓ その取引が200万円を超える財産の移転を伴うものである場合には「資産及び収入の状況」の確認を行う

ということになっている。

なお、ハイリスク取引時の確認事項が何かについて、詳しくはこちらの記事に書いているので、本記事では割愛する。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|ハイリスク取引時の確認事項

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ハイリスク取引時の確認方法の全体像(施行規則14条)

「本人特定事項」と「実質的支配者」の確認をより厳格な方法で行う、という部分が本記事の中心テーマなのだが、結論から言ってしまうと、

✓ 本人特定事項の確認は、通常の取引時の確認方法に加え、追加の本人確認書類等を確認する

✓ 実質的支配者の確認は、書類で行う

ということである。

追加の本人確認書類等を確認する、というのはつまり、本人特定事項の確認を二重で行う、ということである(ダブルでチェック!)。

通常の取引時の確認方法と変わらない部分も含めて、全体像を表にすると以下のとおりである。赤字の部分が、通常の取引時の確認方法と違うところである。

条文としては、ハイリスク取引時の確認方法は施行規則14条に定められている。

  確認事項 通常の確認方法 ハイリスク取引時の確認方法
(規則14条)
顧客等に関するもの(A) ①顧客等の本人特定事項 書類 書類、ただし追加の確認要
(1項)
②取引を行う目的 申告 申告
(2項)
③職業(自然人)又は事業の内容(法人) 申告←職業
書類←事業の内容
申告←職業
書類←事業の内容
(いずれも2項)
④実質的支配者 申告 書類
(3項)
⑤資産及び収入の状況 書類
(4項)
代表者等に関するもの(B) ①代表者等の本人特定事項 書類 書類、ただし追加の確認要
(1項)
②代表者等が取引の任に当たっていること 書類、電話、認識等
(規則12条5項)
書類、電話、認識等
(規則12条5項)

 

ハイリスク取引時の「本人特定事項」の確認方法(1項)

本人特定事項(表のA①とB①)の確認方法は、通常の取引のときと違っている(より厳格な方法になっている)。

施行規則14条1項に定められているのだが、非常に読みにくいので先に説明すると、

✓ 通常の確認方法(1号)

による確認に加え、

✓ その確認で用いていない本人確認書類又は補完書類で、顧客の住居の記載があるもの提示送付を受ける方法(2号)

による確認を行う

ということであり、要するに、先ほど書いたように、追加の本人確認書類等を確認する(本人特定事項の確認を二重で行う)ということである。

条文を見てみる。「法第四条第二項」というのがハイリスク取引時の確認のことである。

▽施行規則14条1項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引に際して行う確認の方法)
第十四条 法第四条第二項(同条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)又は第四項(同条第二項に係る部分に限る。)の規定による顧客等又は代表者等本人特定事項の確認の方法は、次の各号に掲げる方法とする。この場合において、同条第二項第一号に掲げる取引に際して当該確認(第一号に掲げる方法が第二号ロに掲げる方法によるもの(関連取引時確認が、同項に規定する取引に際して行われたものであって、第一号に掲げる方法が第二号ロに掲げる方法によるものである場合におけるものを除く。)を除く。)を行うときは、関連取引時確認において用いた本人確認書類(その写しを用いたものを含む。)及び補完書類(その写しを用いたものを含む。)以外の本人確認書類若しくは補完書類又はその写しの少なくとも一を用いるものとする。
一 第六条(第一項第一号ヌを除く。)又は第十二条(第二項を除く。)に規定する方法
二 次のイ又はロに掲げる前号に掲げる方法の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める方法
 イ 第六条第一項第一号イからリまで及びル(これらの規定を第十二条第一項において準用する場合を含む。)、第二号並びに第三号イ及びニに掲げる方法 当該顧客等又は当該代表者等から、当該顧客等若しくは当該代表者等の住居若しくは本店若しくは主たる事務所の所在地の記載がある当該顧客等若しくは当該代表者等の本人確認書類(当該方法において用いたもの(その写しを用いたものを含む。)を除く。)若しくは補完書類(当該方法において用いたもの(その写しを用いたものを含む。)を除く。)提示を受け、又は当該本人確認書類若しくはその写し若しくは当該補完書類若しくはその写しの送付を受ける方法
 ロ 第六条第一項第一号ヲからカまで(これらの規定を第十二条第一項において準用する場合を含む。)並びに第三号ロ、ハ及びホに掲げる方法 当該顧客等又は当該代表者等から、当該顧客等若しくは当該代表者等の本人確認書類の提示を受け、又は当該本人確認書類若しくはその写しの送付を受ける方法(当該本人確認書類又はその写しに当該顧客等又は当該代表者等の現在の住居又は本店若しくは主たる事務所の所在地の記載がないときは、当該方法に加え、当該顧客等又は当該代表者等から、当該記載がある当該顧客等若しくは当該代表者等の補完書類の提示を受け、又は当該補完書類若しくはその写しの送付を受ける方法)
2~4 (略)


「この場合において…」以降の部分は、ハイリスク取引のうち「なりすまし取引」と「偽り取引」については、関連取引時に用いた本人確認書類と異なる書類を少なくとも1点は利用しなければならない、という意味なのであるが、ここでは詳しくは割愛する。

 

ハイリスク取引時の「取引の目的」「職業or事業の内容」の確認方法(2項)

取引の目的(表のA②)、職業or事業の内容(表のA③)の確認方法は、通常の取引のときと同じである。

一応、条文も見てみる。

▽施行規則14条2項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引に際して行う確認の方法)
第十四条 (略)
2 法第四条第二項(同条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定による同条第一項第二号及び第三号に掲げる事項の確認の方法は、第九条及び第十条に規定する方法とする。
3~4 (略)

第九条及び第十条に規定する方法」というのは、通常の取引のときの確認方法のことである。「取引を行う目的」については申告を受ける方法(9条)、「職業」については申告を受ける方法、「事業の内容」については書類を確認する方法(10条)、となっている。

▽施行規則9条、10条

取引を行う目的の確認方法)
第九条 法第四条第一項(同条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定する主務省令で定める方法のうち同条第一項第二号に掲げる事項に係るものは、当該顧客等又はその代表者等から申告を受ける方法とする。

職業及び事業の内容の確認方法)
第十条 法第四条第一項(同条第五項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)に規定する主務省令で定める方法のうち同条第一項第三号に掲げる事項に係るものは、次の各号に掲げる顧客等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める方法とする。
一 自然人又は人格のない社団若しくは財団である顧客等 当該顧客等又はその代表者等から申告を受ける方法
二 法人である顧客等(次号に掲げる者を除く。) 当該法人の次に掲げる書類(ハに掲げる書類及び有効期間又は有効期限のないニに掲げる書類にあっては特定事業者が確認する日前六月以内に作成されたものに、有効期間又は有効期限のあるニに掲げる書類にあっては特定事業者が確認する日において有効なものに限る。)のいずれか又はその写しを確認する方法
 イ 定款(これに相当するものを含む。次条第二項第一号において同じ。)
 ロ イに掲げるもののほか、法令の規定により当該法人が作成することとされている書類で、当該法人の事業の内容の記載があるもの
 ハ 当該法人の設立の登記に係る登記事項証明書(当該法人が設立の登記をしていないときは、当該法人を所轄する行政機関の長の当該法人の事業の内容を証する書類)
 ニ ハに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該法人の事業の内容の記載があるもの
三 外国に本店又は主たる事務所を有する法人である顧客等 前号に定めるもののほか、次に掲げる書類のいずれか又はその写しを確認する方法
 イ 外国の法令により当該法人が作成することとされている書類で、当該法人の事業の内容の記載があるもの
 ロ 日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、当該法人の事業の内容の記載があるもの(有効期間又は有効期限のあるものにあっては特定事業者が確認する日において有効なものに、その他のものにあっては特定事業者が確認する日前六月以内に作成されたものに限る。)

 

ハイリスク取引時の「実質的支配者」の確認方法(3項)

実質的支配者(表のA④)の確認方法は、通常の取引のときと違っている(より厳格な方法になっている)。

実質的支配者については、通常の取引のときは、申告により確認することとなっているが、ハイリスク取引のときは、書類による確認+申告による確認、となっている。

確認書類は、

資本多数決法人のとき → 株主名簿、有価証券報告書その他これらに類する法人の議決権の保有状況を示す書類

資本多数決法人以外の法人のとき → 登記事項証明書、官公庁発行書類等で、法人の代表者を証するもの。外国政府・国際機関発行書類等で、法人の代表者を証するもの。

である。

条文を見てみる。

▽施行規則14条3項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引に際して行う確認の方法)
第十四条 (略)
2 (略)
3 法第四条第二項の規定による同条第一項第四号に掲げる事項の確認の方法は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める書類又はその写しを確認し、かつ、当該顧客等の代表者等から申告を受ける方法とする。
一 資本多数決法人 株主名簿、金融商品取引法第二十四条第一項に規定する有価証券報告書その他これらに類する当該法人の議決権の保有状況を示す書類
二 資本多数決法人以外の法人 次に掲げる書類(有効期間又は有効期限のあるものにあっては特定事業者が確認する日において有効なものに、その他のものにあっては特定事業者が確認する日前六月以内に作成されたものに限る。)のいずれか
 イ 当該法人の設立の登記に係る登記事項証明書(当該法人が設立の登記をしていないときは、当該法人を所轄する行政機関の長の当該法人を代表する権限を有している者を証する書類)
 ロ イに掲げるもののほか、官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに類するもので、当該法人を代表する権限を有している者を証するもの
 ハ 外国に本店又は主たる事務所を有する法人にあっては、イ及びロに掲げるもののほか、日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、当該法人を代表する権限を有している者を証するもの
4 (略)

ちなみに、昔は、実質的支配者は直接保有に限られていたので、株主名簿や有価証券報告書によって実質的支配者を確認することができた。

その後、平成27年政省令改正(平成28年10月1日全面施行)によって、間接保有も含めて実質的支配者を判定するようになったため、実は、いま現在、これらの書類だけでは実質的支配者は判明しないことになったのだが(間接保有も含めた実質的支配者は判明しない)、それでもマネロン対策上有用として、これらの書類の確認は引き続き行う、ということになっている。

以下、当該改正の説明資料の該当部分を参考までに抜粋する。

「平成26年改正犯罪収益移転防止法及び下位政省令(平成28年10月1日全面施行)に関する資料」7枚目|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

➢現行規則では、ハイリスク取引の場合に、実質的支配者の支配を証明する書類(株主名簿や登記事項証明書)を確認することとしている。
今般の改正に伴い、間接保有者も実質的支配者となりうることとするため、これらの書類は、支配構造を証明するに足り得ない場合が生じ得る
しかしながら、マネロン対策上、実質的支配者が記載されていない場合であっても、これらの書類の提示を受けることは有効と考えるため、当該規定は存置する

なお、直接保有や間接保有が何かについては、こちらの関連記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|実質的支配者の確認とは

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ハイリスク取引時の「資産及び収入の状況」の確認方法(4項)

どこまで確認するのか?

資産及び収入の状況の確認は、ハイリスク取引のうちでも、200万円を超える財産移転の場合に限って必要となる。

「資産及び収入って、そんなの全部確認できるのか?」という絶望感を一瞬感じてしまうと思うのだが、確認を行うべき資産の範囲や収入の期間については、疑わしい取引の届出の要否の判断に必要な限度で行えばよいとされているので(法4条2項)、顧客等の全ての資産・収入を確認する必要はない。

▽法4条2項

(取引時確認等)
第四条 (略)
2 特定事業者は、顧客等との間で、特定業務のうち次の各号のいずれかに該当する取引を行うに際しては、主務省令で定めるところにより、当該顧客等について、前項各号に掲げる事項並びに当該取引がその価額が政令で定める額を超える財産の移転を伴う場合にあっては、資産及び収入の状況(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、前項第一号に掲げる事項)の確認を行わなければならない。この場合において、第一号イ又はロに掲げる取引に際して行う同項第一号に掲げる事項の確認は、第一号イ又はロに規定する関連取引時確認を行った際に採った当該事項の確認の方法とは異なる方法により行うものとし、資産及び収入の状況の確認は、第八条第一項の規定による届出を行うべき場合に該当するかどうかの判断に必要な限度において行うものとする。
一~三 (略) 
3~6 (略)

また、以下のパブコメのように、必ずしも資産と収入の両方を確認する必要もないとされている。

平成24年3月26日パブリックコメントNo.97|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 必ずしも資産及び収入の両方の状況を確認する必要があるわけではないという理解でよいか。

質問に対する考え方 そのとおりです



確認書類は?

確認書類は、

<自然人の場合>
①源泉徴収票(所得税法226条1項に規定するもの)
②確定申告書
③預貯金通帳
④これらに類する書類
⑤顧客等の配偶者(内縁の配偶者を含む)のこれらの書類

<法人の場合>
①貸借対照表
②損益計算書
③これらに類する書類

である。

条文を見てみる。

▽施行規則14条4項

(厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引に際して行う確認の方法)
第十四条 (略)
2~3 (略)
4 法第四条第二項の規定による資産及び収入の状況の確認の方法は、次の各号に掲げる顧客等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める書類又はその写しの一又は二以上を確認する方法とする。
一 自然人である顧客等 次に掲げる書類
 イ 源泉徴収票(所得税法第二百二十六条第一項に規定する源泉徴収票をいう。)
 ロ 確定申告書
 ハ 預貯金通帳
 ニ イからハまでに掲げるもののほか、これらに類する当該顧客等の資産及び収入の状況を示す書類
 ホ 当該顧客等の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)に係るイからニまでに掲げるもの
二 法人である顧客等 次に掲げる書類
 イ 貸借対照表
 ロ 損益計算書
 ハ イ及びロに掲げるもののほか、これらに類する当該法人の資産及び収入の状況を示す書類

確認書類の作成時期・範囲については、以下のパブコメのように、基本的には確認対象取引の時点又は直近のものとはされつつも、最終的には事業者側での判断となっている。

前出・平成24年パブリックコメントNo.99|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 確認に際して求められる書類としては、 どの時点・範囲のものが求められるのか。

質問に対する考え方 基本的には確認の対象となる取引の時点又はその直近のものが想定されますが、疑わしい取引の届出を行うかどうかの判断は個別の取引に応じて行われるものであることから、確認に用いることができる書類の作成時期等を一律に定めることとはしておりません
そのため、顧客等の資産及び収入の状況が取引を行うに相当なものであるかを判断するという観点から、特定事業者において確認に用いる書類の範囲について御判断いただくこととなります。

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、ハイリスク取引時の確認事項ごとの確認方法について書いてみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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