犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|特定業務と特定取引

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、この規制がかかってくる範囲の取引である、「特定業務」と「特定取引」について書いてみたいと思います。

 

特定事業者とか、特定業務とか、特定取引とか、似たような言葉が並んで意味がわからない、というのが最初のわかりにくさなのではないかと思う。

 

特定事業者については前の記事で書いたが、今回は、「特定業務」と「特定取引」について書いてみたいと思う。

 

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

 

メモ

 本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

 

理解のポイント

わかりやすいように最初にざっくりした理解のポイントをいうと、

① 特定取引というのは、本人確認などの取引時確認がかかってくる取引のこと

② 特定業務というのは、取引記録の作成・保存義務がかかってくる取引のこと

③ ①の特定取引の方が②の特定業務よりも範囲が狭い

の3点である。

 

(※)この書き方は、大事なところのイメージを掴むための大ざっぱな言い方なので、調べものには使わないでください(確認記録とか、疑わしい取引の届出のことなど端折っているetc)

 

① 特定取引というのは、本人確認などの取引時確認がかかってくる取引のこと:

 

これについて少し説明を加えると、あえて極めて雑な言い方をすると、「犯罪収益移転防止法といえば何?」と言われたら、「本人確認!!」というのがまず第一声なわけだが、とにかく犯収法のコアな部分をひとつだけ挙げろと言われたら、本人確認である。

 

昔は「本人確認義務」と言われていたのだが、その後、取引時に確認する事項が増えて、本人確認以外の事項も加わったため、本人確認を含む「取引時確認」という言い方に変わったのである。そのため、語感が悪くなっているというか、イメージしにくくなっている気がする(単に「取引時確認」と言われても、何のことかイメージしにくい)。

 

② 特定業務というのは、取引記録の作成・保存義務がかかってくる取引のこと:

 

これは、裏返していうと、「特定業務」以外の取引については、取引記録を作成して保存したりする義務はないということである。ちなみに、特定業務以外の取引については、基本的に犯収法上の規制はかかってこない。

 

取引記録の作成・保存義務というのは、これはそのまんまだが、少額の取引等を除き、取引内容の記録を作成して保存しておく義務である。

 

また、特定業務には、疑わしい取引の届出義務もかかってくる。なにが「疑わしい」かというと、マネー・ロンダリングではないか疑わしい、という意味である。

 

③ ①の特定取引の方が②の特定業務よりも範囲が狭い

 

これについて別の言い方をすると、本人確認などの取引時確認がかかってくる範囲の方が、取引記録の作成・保存義務等がかかってくる範囲よりも狭い、ということである。

 

改めてまとめると、

取引記録の作成・保存義務疑わしい取引の届出義務とは、特定業務を対象としている

本人確認を含む取引時確認は、特定業務のうちの特定取引を対象としている

〇取引時確認が課せられている「特定取引」の範囲の方が、「特定業務」の範囲よりも狭い

ということである。

 

なぜ義務の範囲が違っているのか?ということであるが、本人確認義務直接顧客に負担を課するものだが、取引記録の作成・保存義務疑わしい取引の届出義務は顧客への負担が少ないものであり、取引の迅速性にも配慮した結果、このような差が設けられたようである(「よくわかるマネーロンダリング対策ー犯罪収益移転防止法の実務」(手塚崇史)127頁参照)。

 

管理人的には、要するに対顧客も含めたときの負担感が違うから、という風に理解している。

 

条文で確認してみる

特定業務と特定取引の意味について、条文で確認してみる。法4条1項である。

 

先ほど書いたとおり、特定取引では、本人確認を含む取引時確認がかかってくるのだが、法4条1項は、そのことを定めた条文である。

 

〇法4条1項

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない
一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項
2~6 (略)

 

特定業務というのは、「別表」の「中欄に定める業務」であり、特定取引というのは、「別表」の「下欄に定める取引」である。

 

特定業務のうち…に定める取引、という言い回しからもわかるように、条文の文言上も、特定取引の方が範囲が狭そうなことがわかる。

 

ちなみに、「上欄」「中欄」「下欄」的な書き方になっているのは、正式の法文が縦書きだからである。横書きのときは、「左欄」「中欄」「右欄」みたいに読み替えればいい。

 

別表を見てみよう。

 

 

うん…条文番号を引っ張っているばかりで、読んでもわからない(苦笑)。

 

というわけで、一応これで条文を確認したことにして、これを日本語に訳してくれている(?)のが、「犯罪収益移転防止法の概要(令和2年10月1日版)」(JAFIC)16頁にある表になるので、そちらを参照してほしい。

 

「特定業務」と「特定取引」の関係についてはこれで書いたことにして、以下ではそれぞれを個別にもう少し詳しく見ていきたい。

 

「特定業務」にあたるとどうなるのか

特定業務にあたるとどうなるのかというと、

取引記録等の作成・保存義務(法7条)

疑わしい取引の届出義務(法8条)

がかかってくる。

 

それぞれ、条文を見てみる。

 

▽取引記録等の作成・保存義務(法7条)

(取引記録等の作成義務等)
第七条 特定事業者(次項に規定する特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引を行った場合には、少額の取引その他の政令で定める取引を除き、直ちに、主務省令で定める方法により、顧客等の確認記録を検索するための事項、当該取引の期日及び内容その他の主務省令で定める事項に関する記録を作成しなければならない
2 (略)
3 特定事業者は、前二項に規定する記録(以下「取引記録等」という。)を、当該取引又は特定受任行為の代理等の行われた日から七年間保存しなければならない

 

▽疑わしい取引の届出義務(法8条)

(疑わしい取引の届出等)
第八条 特定事業者(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者を除く。)は、特定業務に係る取引について当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか、又は顧客等が当該取引に関し組織的犯罪処罰法第十条の罪若しくは麻薬特例法第六条の罪に当たる行為を行っている疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない
2~5 (略) 

 

特定業務に係る取引」という言葉からもわかるように、特定業務についてかかってくる義務であることがわかる。

 

それぞれの義務の具体的な内容は別記事に譲るとして、ここでは条文に下線を引っ張っておくにとどめておきたいと思う。それでも大体のイメージはできるかなと思う。

 

「特定取引」にあたるとどうなるのか

特定取引にあたるとどうなるのかというと、

本人確認を含む取引時確認を行う義務(法4条1項)

取引時確認の作成・保存義務(法6条)

という2つの義務がかかってくる。

 

条文を見てみる。

 

▽取引時確認を行う義務(法4条1項)

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項確認を行わなければならない
一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項
2~6 (略)

 

▽取引時確認の作成・保存義務(法6条)

(確認記録の作成義務等)
第六条 特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、主務省令で定める方法により、当該取引時確認に係る事項、当該取引時確認のためにとった措置その他の主務省令で定める事項に関する記録(以下「確認記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定事業者は、確認記録を、特定取引等に係る契約が終了した日その他の主務省令で定める日から、七年間保存しなければならない。

 

特定取引に関する補足と、表でのまとめ

「特定取引」周りは、詳細に見ていくとけっこうややこしいのだが、補足ポイントとして書いてみる。

 

補足ポイントその1:ハイリスク取引

①②の義務がかかってくるのは、特定取引のほかにもハイリスク取引もあるのだが(法4条2項)、本記事では特定業務と特定取引に焦点をあてているので、別記事に譲る(ちなみに、特定取引とハイリスク取引をまとめて呼ぶときには、「特定取引」という言い方になっている)。

 

ちなみに、ハイリスク取引というのは、マネー・ロンダリングに利用されるおそれが特に高い取引のことで、

〇なりすましの疑いがある取引又は本人特定事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引

〇特定国等に居住・所在している顧客等との取引

〇外国PEPs(Politically Exposed Personsの略。重要な公的地位にある者、の意)との取引

である。

 

補足ポイントその2:特別の注意を要する取引

また、特定取引には、「特別の注意を要する取引」というのも含まれる。平成27年の政省令改正により加わったものである。

 

この結果、特定取引には、

①通常の特定取引(令7条で、「対象取引」と呼ばれている)

②特別の注意を要する取引

という2つの類型があることになった。これもわかりにくいが…。

 

気をとりなおして書くと、特別の注意を要する取引というのは、

〇マネー・ロンダリングの疑いがあると認められる取引

〇同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引

である。

 

条文を見てみる。

 

▽特別の注意を要する取引(規則5条)

(顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引)
第五条 令第七条第一項及び第九条第一項に規定する顧客管理を行う上で特別の注意を要するものとして主務省令で定めるものは、次の各号に掲げる取引とする。
一 令第七条第一項に規定する疑わしい取引(第十三条第一項及び第十七条において「疑わしい取引」という。)
二 同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引

 

表でまとめてみると

用語と、それらにかかってくる義務を、表でまとめてみる。

 

用語 条文 かかってくる義務
特定業務 法4条1項・法別表の中欄 取引記録等の作成・保存義務
疑わしい取引の届出義務
特定取引 通常の特定取引(「対象取引」という) 法4条1項・法別表の下欄
 ↓
令7条1項(金融機関等の特定取引)
令9条1項(司法書士等の特定取引)
取引時確認の義務
確認記録の作成・保存義務
 ↓
※ハイリスク取引の場合はさらに、
〇取引時確認のうち本人特定事項と実質的支配者の確認をより厳格な方法で行う
〇その取引が200万円を超える財産の移転を伴うものである場合には資産及び収入の状況の確認
特別の注意を要する取引 令7条1項(金融機関等の特定取引)
令9条1項(司法書士等の特定取引)
 ↓
規則5条
ハイリスク取引 法4条2項

(※)「特定取引」と「ハイリスク取引」を合わせて呼ぶときは、「特定取引等」といわれる

(※)上記の表も基本的なイメージで、厳密には正確でありません

 

結び

犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、この法律の規制がかかってくる取引の範囲を画する概念である、「特定業務」と「特定取引」などについて書いてみました。

 

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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