犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認等を的確に行うための措置

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認等を的確に行うための措置について書いてみたいと思います。

 

特定事業者の5つの義務のうち、5つめになります。

 

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

 

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

 

取引時確認等を的確に行うための措置(法11条)

特定事業者は、

〇取引時確認(法4条1項、2項)

〇取引記録等の保存(法7条)

〇疑わしい取引の届出(法8条)

の措置を的確に行うための措置を講ずるべし、とされている。

 

一般的な言葉でいえば、要するに体制整備のことである。条文の小見出しでは、「取引時確認等を的確に行うための措置」と表現されている。

 

この「取引時確認等を的確に行うための措置」をとるために、「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」「1号~4号に掲げる措置」の大きく2つが挙げられている。

 

(取引時確認等を的確に行うための措置)
第十一条 特定事業者は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下この条において「取引時確認等の措置」という。)を的確に行うため当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置講ずるものとするほか、次に掲げる措置講ずるように努めなければならない。
一 使用人に対する教育訓練の実施
二 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成
三 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任
四 その他第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して講ずべきものとして主務省令で定める措置

 

柱書の「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」は「講ずる」とされているように法的義務だが、1号~4号に定める措置は「講ずるように努める」とされているように、努力義務となっている。
(ただ、すべて努力義務と解する見解もあるみたいである。「詳説 犯罪収益移転防止法・外為法」(中崎隆、小堀靖弘)193頁の各説の紹介参照)

 

先にざっと内容を整理しておくと、

  法11条 規則32条1項  
取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置(柱書)   法的義務
使用人に対する教育訓練の実施(1号)   努力義務
取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成(2号)  
統括管理者の選任(3号)  
主務省令で定める措置(4号) 自らが行う取引についてのリスク評価(1号)
必要な情報収集・分析(2号)
保存している確認記録・取引記録等の継続的精査(3号)
リスクの高い取引を行う際の統括管理者の承認(4号)
リスクの高い取引について行った情報収集・分析の書面化・保存(5号)
必要な能力を有する職員の採用(6号)
取引時確認等に係る監査の実施(7号)

という感じである。

 

以下、順に見てみる。

 

①取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置(柱書)

(取引時確認等を的確に行うための措置)
第十一条 特定事業者は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下この条において「取引時確認等の措置」という。)を的確に行うため、当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるものとするほか、(以下略)

 

取引時確認事項に係る情報をアップデートするための措置を講ぜよ、ということはわかるが、これだけだと内容がよくわからない。

 

そこでパブコメを見てみると、本人特定事項等に変更があった場合に顧客等が特定事業者にこれを届け出る旨を約款に盛り込むこと等が、想定として挙げられている。

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.21(別紙1の3の(1))|掲載ページはこちら

意見の概要 「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」について、その内容を明らかにすべきである。

意見に対する考え方 具体的には、取引時確認において確認している本人特定事項等に変更があった場合に顧客等が特定事業者にこれを届け出る旨を約款に盛り込むこと等の措置を講ずることを想定しております。

 

もう少し詳しく見てみる。

 

最新の内容に保つための措置として、事業者側から調査を行うことまでは求められていないとされている。

 

また、最新の内容に保つための措置の頻度について一律の基準が決められているわけではない。方法についても、特段の限定はないとされている。

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.128、130、132、133(別紙2の3の(2))|掲載ページはこちら

質問の概要 「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」としては、最新の内容を把握するために調査を行うことまでを求められているものではないという理解でよいか。

質問に対する考え方 そのとおりです。

質問の概要 「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」として、具体的に求められる情報更新の頻度が示される予定はあるか。

質問に対する考え方 特定事業者や取引により異なるものであるため、御質問の事項についてお示しする予定はありません。

質問の概要 新規則第12条第1項第1号又は第2号に規定する方法により取引時確認を行った場合には、銀行等やクレジットカード会社等の他の特定事業者から最新の情報の提供を受ける仕組みを、特定事業者において最新の情報を把握するための措置として講ずる必要があるのか。

質問に対する考え方 「最新の内容に保つための措置」については、その方法に特段の限定はないため、 特定事業者の実情に応じ、銀行等やクレジ ットカード会社等の他の特定事業者から最新の情報の提供を受ける方法と、自ら顧客等から報告を受ける方法のいずれをとっていただいても構いません。
 なお、他の特定事業者から情報の提供を受ける場合であっても、「最新の内容に保つための措置」を講じなければならないのは特定事業者自身であることに御留意ください。

質問の概要 「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」として、住居等の最新の情報を把握するための措置は、 新規則第5条に規定する方法でなくともよいか。

質問に対する考え方 特段の限定はありませんが、新規則第5条に規定する方法に準じた方法等、より確実な方法により最新の情報を把握していただきたいと考えております。

 

また、最新の内容に保つための措置は、本人特定事項等に変更があった場合にこれを把握する趣旨であるから、確認記録ごとに講じる必要がある。

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.131(別紙2の3の(2))|掲載ページはこちら

質問の概要 「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」とは、特定取引ごとに講じる必要があるのか。

質問に対する考え方 21のとおり、「最新の内容に保つための措置」は、本人特定事項等の変更があった場合に顧客等が特定事業者にこれを届け出る旨を約款を盛り込むこと等を想定しております。
 取引に際して顧客等について取引時確認を行った場合には、新法第6条の規定により確認記録を作成する必要がありますが、 御指摘の措置は確認記録ごとに講じる必要があります。
 なお、新法第4条第3項に該当する場合については、129を参照してください。

 

既に取引時確認が済んでいる顧客等との取引については、同一性を確かめる措置をとれば改めて取引時確認を行う必要はないとされているが(法4条3項、規則16条)、その際に、最新の情報に保つための措置として取引時確認事項の再度の確認を行う必要はない

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.129(別紙2の3の(2))|掲載ページはこちら

質問の概要 新法第4条第3項の規定により既に取引時確認を行っていることを確認する際には、「取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つため」に取引時確認に係る事項の再度の確認を行うことを求められるものではないという理解でよいか。

質問に対する考え方 そのとおりです。

 

また、1回的取引については、顧客との間で継続的な関係が想定されていないため、最新の情報に保つための措置を講ずる必要はないとされている。たとえば、宅地建物の売買などは基本的に1回的取引なので、該当しない。

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.135(別紙2の3の(2))|掲載ページはこちら

質問の概要 1回的取引についても、取引時確認をした内容について最新の情報に保つ必要があるのか。

質問に対する考え方 1回的取引については、継続的な関係が想定されず、確認した内容を更新する機会がないことから、基本的には、最新の情報に保つための措置を講ずる必要はないと考えております。

 

②使用人に対する教育訓練の実施(1号)

一 使用人に対する教育訓練の実施

 

典型的には社内での研修などが想定されるが、パブコメでは、「教育訓練」は体制の整備の一例であり、社内通達・通知等により周知する方法によることも含まれるとされている。

 

平成24年3月26日パブリックコメントNo.136(別紙2の3の(2))|掲載ページはこちら

質問の概要 「教育訓練」とは、体制の整備の一例に過ぎず、特定事業者の判断において、例えば社内通達・通知等により周知する方法によることとしてもよいか。

質問に対する考え方 そのとおりです。

 

③取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成 (2号)

二 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成

 

特定事業者は、取引時確認等の措置の実施手順や対応要領等を定めた規程を作成すべしとされる。
(「犯罪収益移転防止法の概要(令和2年10月1日時点)」(JAFIC)53頁)

 

体制整備のときは規程をつくりましょうというのは、犯罪収益移転防止法に限らず、一般的にコンプラ体制づくりとしていつも言われることである。
(たとえば、公益通報者保護法などもそう。▷参考記事はこちら

 

社内規程をつくりましょう、社内マニュアル等をつくりましょう、会社として「正」の手順はちゃんと言語化しておきましょう、標準ルールは目に見えるようにしておきましょう、誰がやってもおおむね同水準になるように平準化しておきましょう、ということである。
(←管理人の肌感覚による説明ですので、そういうものとしてご理解ください)

 

④統括管理者の選任(3号)

三 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任

 

統括管理者の選任である(法11条3号)。

 

統括管理者というのは何をする人かというと、「リスクの高い取引」に関連して、確認と承認の2箇所で出てくる。

 

まとめて整理すると、

条文 項目 内容  
法11条3号 統括管理者の選任 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者を選任する 努力義務
規則27条3号 「リスクの高い取引」についての確認
(=疑わしい取引の届出の要否の確認)
統括管理者又はこれに相当する者が、当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する 法的義務
規則32条1項4号 「リスクの高い取引」についての承認
(=当該取引を行う際の承認)
当該取引を行うに際して、当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて統括管理者の承認を受けさせる 努力義務

という感じである。

 

「リスクの高い取引」というのは、規則27条3号で出てくるのだが、

・ハイリスク取引(法第4条第2項前段)

・特別の注意を要する取引(規則5条)

・高リスク国(犯罪による収益の移転防止に関する制度の整備の状況から注意を要するとされた国若しくは地域)に居住・所在する顧客等との取引

・その他犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してマネーロンダリングに悪用されるリスクが高いと認められる取引

のことである。

 

「リスクの高い取引」という言い方は一般的な略称であり、法文には出てこないことに注意。また、ややこしいが、「ハイリスク取引」(法4条2項)のことではなく、これを含みつつ、もう少し広い概念である。

 

パブコメによると、統括管理者は、「監査その他の業務を統括管理する者」とあるが、内部監査を行う者でなくてもよい(別々でもよいし、一緒でもよい)。また、どういった者が適格なのかについて一律の基準はなく、職位等に関する制限もない。

 

とはいえ抽象的な基準はあり、例示として、「取引時確認等の措置について一定の経験や知識を有しつつ、一方で実際に取引に従事する者よりも上位の地位にあり、かつ、一定程度、独立した立場で業務を統括管理できる者」が挙げられている。

 

また、統括管理者の選任は、 必ずしも一人に限るものではなく、例えば、各支店・事業所ごとに統括管理者を選任することもあり得る。

 

平成27年9月18日パブリックコメントNo.188、191、192|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

意見・質問の概要 新法第11条第3号の趣旨は取引時確認等の様々な場面において特定事業者が特定の人物に権限と責任を明確にすることを求めているものと理解するところ、同号の「必要な監査その他の業務を統括管理する者」とは、監査と業務の統括の両方の責任を同時に有する者を統括管理者として任命することになるという理解でよいか。内部監査機能は他の監査対象業務から独立であるべきとの考え方に基づき、監査担当部署が他の業務部門とは独立して社長等の経営陣に直接レポートする組織体制となっている場合には、当該監査担当部署と業務担当部署の両方の責任を有する社長等が統括管理者になるということが想定されているのか。

意見・質問に対する考え方 新法第11条第3号の規定により選任される統括管理者は、取引時確認等の措置(取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置)の的確な実施のために必要な業務を統括管理する者であり、必ずしも内部監査を行う者を選任する必要はありません。
 このため、取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な業務を統括管理する者を統括管理者として選任した場合に、専ら内部監査のみを行う者を改めて別途、統括管理者として選任する必要はないと考えられます。

意見・質問の概要 ➀ 統括管理者は、複数名を選任とすることは可能であるとの認識でよいか。(以下略)
② 統括管理者の職位等に関する制限はあるのか。

意見・質問に対する考え方 統括管理者とは、取引時確認等の措置(取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置) の的確な実施のために必要な業務を統括管理する者のことですが、具体的にこれに該当する者については、 特定事業者の規模や内部の組織構成により様々な者が想定されるとともに、その選任は、必ずしも一の特定事業者に一に限るものではなく、例えば、各支店・事業所ごとに統括管理者を選任することも有り得ると考えています。
 (以下略)

意見・質問の概要 統括管理者について、「法第11条第3号の規定により選任した者」と規定されるにとどまり、どのような者を想定しているのか、その詳細が明らかでない。例えば、日本証券業協会規則により設置が要請される「内部管理責任者」も統括管理責任者となることができるという理解でよいか。

意見・質問に対する考え方 統括管理者とは、取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な業務を統括管理する者のことですが、 具体的にこれに該当する者については、特定事業者の規模や内部の組織構成により様々な者が想定されます。
 統括管理者について、一律に基準があるものではありませんが、例えば、取引時確認等の措置について一定の経験や知識を有しつつ、一方で実際に取引に従事する者よりも上位の地位にあり、かつ、一定程度、独立した立場で業務を統括管理できる者が想定されます。

 

⑤主務省令で定める措置(4号)

主務省令で定める措置(4号)は、規則32条に定められているが、全部いっぺんに見ると長いので、いったんここで切り上げたいと思う。

 

4号について、詳しくは以下の続きの記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認等を的確に行うための措置ー主務省令で定める措置
犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認等を的確に行うための措置ー主務省令で定める措置

houritsushoku.com

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認等を的確に行うための措置のうち、法律で定める措置について書いてみました。

 

なお、当ブログの犯罪収益移転防止法の記事については、以下のページにまとめています。

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

 

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

 

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