内部通報

公益通報者保護法を勉強しよう|事業者における内部通報制度の整備・運用

2020年11月9日

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今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、事業者における内部通報制度の整備・運用について書いてみたいと思います。

なお、内容は現行法(令和2年改正前の内容)をベースにしつつ、適宜、改正の内容に言及する、というスタンスにしています。

▽(参考記事)令和2年改正の内容についてはこちら

改正公益通報者保護法|令和2年改正

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ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

内部通報制度の設計ー事業者向けガイドラインの内容

何でもそうだが、社内の制度は、仕組みの設計→規程化がキホンなので、当ブログでは、以下、そのスタンスで書いてみたいと思う。

ということでまず、内部通報制度の設計方法は、民間事業者向けガイドラインに書かれている。

ガイドラインの柱は、①内部通報制度の整備(=通報窓口の設置など)、②内部通報制度の運用(=通報の受付以降のフロー)、③通報者等の保護、④継続的な評価・改善という、4本柱かなと思う(概ね、ガイドラインの大目次のとおり)。

ガイドラインは全12頁で、分量はそんなにないのだが、そこそこ読みにくかったりする気もするので(私見)、以下は、管理人の感覚でかみ砕いて書いてみたいと思う。正確には原文を参照してほしい。

内部通報制度の整備

責任者と担当部署

何でもそうだが、社内の制度をつくるときに枠としてまず決めるべきは、責任者担当部署(業務分掌上の所管部署)である。

その点、内部通報体制について、ガイドラインでは、責任者は経営幹部とすること部署横断的に通報を取り扱うことのできる仕組みとするよう求めている。
(担当部署としては、まあ通常は、コンプラ部門か監査部門がやるor独自の部署をつくる、会社の規模が大きくなければ総務がやる、という感じかなと思う)。

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)

Q14 通報対応の仕組みの責任者は、なぜ、経営幹部なのでしょうか。また、担当部署は、なぜ、部署間横断的に通報を取り扱うことが可能な部署にする必要があるのでしょうか。

A 事業者に対して従業員から通報が寄せられ、法令違反が明らかになった場合、事業者は、是正措置及び再発防止策を講じる必要があります。是正措置及び再発防止策を適切に講じ、経営に反映させるためには、通報対応の責任者を経営幹部とすることが必要であり、その役割を内部規程等において明文化することが適当であると考えられます。
 また、通報の内容は多岐に渡る可能性があり、調査や再発防止策が特定の部署にとどまらないこともあり得ることから、部署間横断的に通報を取り扱うことが可能な仕組みを整備することが必要と考えられます。

Q15 どのようなところに通報窓口を設置すればよいのでしょうか。

A 窓口を設置するに当たっては、総務部門やコンプライアンス部門など、部署間横断的に対応することが可能な部署が望ましいと考えられます。社長直轄の窓口としても差し支えありません。
 もっとも、窓口は人事評定部門との間で明確に事務の分掌・配置等を分けることが望ましいと考えられます。(以下略)

中立性、独立性の確保

内部通報制度の仕組みをつくるときの重要な視点が、2つある。

ひとつは、中立性の確保、つまり、利益相反関係の排除である。

受付担当者や調査担当者、その他通報対応に従事する者及び被通報者は、自らが関係する通報事案の調査や是正措置に関与できないルールにしなければならない。

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)

Q28 民間事業者向けガイドラインにおいて、「自らが関係する通報事案の調査・是正措置等に関与してはならない。」とされていますが、「関係する」とは具体的にどのような場合のことでしょうか。

A 具体的には、例えば、通報受付担当者、調査担当者その他の通報対応に従事する者が、
➢法令違反行為を行った当事者である
➢法令違反行為の意思決定に関与した
➢以前法令違反行為が行われた部署に勤務していた
➢法令違反行為を行った者の親族である
場合などが想定されます。

もうひとつは、経営幹部からの独立性である。

責任者は経営幹部で、と書かれているが、通常の通報対応の仕組みのほか、例えば、社外取締役や監査役等への通報ルート等、経営幹部からも独立性を有する通報受付・調査是正の仕組みを整備することが適当とされている。

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)

Q15 どのようなところに通報窓口を設置すればよいのでしょうか。

A (略)近時、経営トップの意向によって不適切な業務処理が行われ、内部通報制度が機能しなかった事案がみられたことなどを踏まえると、経営幹部からも独立性を有する通報ルート(例えば、社外取締役や監査役等への通報ルート等)を整備することも適当と考えられます。
 さらに、相談者・通報者にとって、社内に比べて社外の方が心理的に相談・通報しやすい場合もあることなどから、事業者が指定した外部の弁護士事務所に通報窓口を設置することなども考えられます。

制度の拡充

応用問題として、制度の拡充についても触れられている。

ひとつは、通報窓口の拡充である。

社内に一つ通報窓口を設けるというのがスタンダードなやり方とすると、応用的な方法として、

①事業者の外部に通報窓口を設置する(法律事務所や民間の専門機関等に委託する)
②労働組合を通報窓口として指定する
③グループ企業共通の一元的な窓口を設置する
④事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の窓口を設置する

といった方法が提案されている。外部窓口の設置あるいは併設(①)、グループ窓口(③)あたりは、実際よくみかけるものと思う。

外部窓口が推奨されてはいるが、内部窓口のみでもよく、外部窓口のみでもよい(併設でもよい)。

ただ、外部窓口の場合は、利益相反関係などのない外部にしなければならない。要するに、普段の顧問弁護士の事務所などとは別にした方がいい、ということ(←管理人の認識)。

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)|消費者庁HP

Q19 通報窓口をこれから設置しようと思っていますが、小さい会社ですので、外部に設置するのは難しいと思われます。外部に通報窓口を設置することが必要でしょうか。また、通報窓口と相談窓口を別々に設置するのは難しいと考えていますが、両方設置しなければいけないのでしょうか。

A 民間事業者向けガイドラインでは、通報者の匿名性を確保するとともに、経営上のリスクに係る情報を把握する機会を拡充するため、可能な限り事業者の外部にも通報窓口を整備することが適当であるとしていますが、各事業者の規模や業種・業態等の実情に応じた適切な取組を妨げるものではありませんので、事業者の実情に応じた通報窓口を整備してください。
 また、設置部署や配置する人員の問題もありますので、事業者の実情に応じて、通報窓口と相談窓口を一元化して設置することも可能です。

Q20 通報窓口を整備中です。社内に通報窓口を設けず、法律事務所のみを通報窓口としてもよいのでしょうか。

A 差し支えありません。法律事務所に通報窓口を設けることは、通報者の匿名性を確保できることから、職場内で通報するより心理的負担が少なくなり、通報しやすくなる場合もあります。
 ただし、中立性・公正性に疑いが生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所民間の専門機関等の起用は避けることが必要であると考えられます。

もうひとつは、利用者や通報対象事項の範囲の拡充である。

利用者としては、法律上の公益通報者の主体にあわせて、従業員(契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員等を含む)とするのがスタンダードなやり方とすると、

✓ 従業員のほか、役員子会社・取引先の従業員退職者

まで拡充したり、

通報対象事項としては、法律上の通報対象事実(=指定された法律で犯罪行為にあたる事実等)にあわせるのがスタンダードなやり方とすると、

✓ 法令違反のほか、内部規程違反

まで含めるとしたり(つまり社内ルールの違反まで含める)、

といった方法が提案されている。

内部規程化

これも何でもそうだが、仕組みを作ったら、内部規程化すべきである。

もちろん、ガイドラインで、規程化が義務とされているわけではない(前の記事で見たように、そもそもガイドラインは法定の対応事項を除けば法的義務ではない)。

ただ、文字化してオープンにしないとルールとしての意味をなさないし、普通に必要なことだと思う。

マニュアルといった位置付けでも文字になるといえばなるが、違反の場合の効果など就業規則との関係も不明確だし、現実的な選択肢ではないなと。もちろん、企業の規模にもよるけれど。

社内への周知

また、これも何でもそうだが、仕組みを作ったら、当然、社内への周知が必要である(普通は、規程化のあと)。

ガイドラインでは、公益通報者保護法も含めた、内部通報体制の全体的な通報対応の仕組みを、社内通達社内報電子メール社内電子掲示板携帯用カード等での広報の実施定期的な研修の実施説明会の開催等により、経営幹部及び全ての従業員に対し十分な周知をするよう求めている。

 

内部通報制度の運用

さて次は、枠ではなく制度の中身である。

内部通報制度の運用ルール、つまり、通報の受付以降のフローの検討である。

大まかな流れは、通報の受付→調査の要否の検討→調査→是正措置→是正措置の結果まとめ、という感じである。

この流れに、通報者への対応状況の通知というのが、適宜、並んで走っている感じである。
(※適宜ではあるが、「調査をしない旨の通知」と、「是正措置の通知」は、法律で定められた努力義務である。法9条)

通報の受付

書面や電子メールなど、通報者が通報の到達を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに通報者に対し、通報を受領した旨を通知することが望ましい、とされている(ただし、通報者が望まない場合や、匿名であるなどの理由で困難な場合は除く)。

通報を受け付けたら、調査の要否を検討し、今後の対応について、通報者に通報するよう努めることが必要とされている。

調査・是正措置

調査の結果、法令違反等が明らかになった場合には、速やかに是正措置及び再発防止策を講じるとともに、必要に応じ関係者の社内処分を行う等、適切に対応することが必要とされている。

また、必要に応じて、関係行政機関への報告等を行うことが必要とされている。

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)

Q50 法令違反が著しいものであっても、事業者内部に通報が寄せられ、適切に通報を取り扱った(是正措置及び再発防止策をとった)場合には、行政機関へ報告しなくてもよいでしょうか。

A 本法には、事業者内部で発生した法令違反行為について行政機関に報告しなければならないという規定はありませんが、民間事業者向けガイドラインでは、必要であれば、関係行政機関への報告等を行うことが必要であるとしています。
 なお、個別の法律に報告義務があるものや監督行政機関から報告を求められている事案については、関係行政機関に報告する必要があります。

通報者への対応状況の通知

対応状況の通知については、調査に係る通知是正措置に係る通知に言及されている。

調査に係る通知
➢調査の進捗状況について、適宜、
➢調査結果について、速やかに取りまとめた後、

是正措置に係る通知
➢是正結果について、是正措置の完了後、

それぞれ、通知するよう努めることが必要とされている。通報者への通知対応については詳しくは以下の記事にて。

▽(参考記事)事業者や行政機関の通報対応

公益通報者保護法を勉強しよう|事業者や行政機関の通報対応

続きを見る

 

通報者等の保護

通報に係る秘密保持、個人情報の保護

通報者が誰であるかとかどの部署の者かといったことが職場内に漏れることは、それ自体が通報者に対する不利益になる。また、内部通報への信頼そのものを損なう事態となる。

そのため、

✓ 情報共有が許される範囲を必要最小限に限定する、

✓ 通報者の特定につながり得る情報は、通報者の書面やメールなどによる明示の同意がない限り、情報共有が許される範囲外には開示しない、

といった、秘密保持の徹底を図ることが重要とされている。

匿名の通報についても、通報対応の実行性を確保する観点からも、受け付けることが必要とされている。

Q29 匿名の通報にはどのように対応すればよいのでしょうか。

A 本法は対象となる通報を実名の通報に限定しておらず、匿名の通報であっても、本法に定める要件を満たせば「公益通報」に該当します。また、匿名の通報であっても法令遵守のために有益な通報が寄せられると考えられること、また、通報者が特定されることを恐れて通報しないことにより、重大なリスク情報の把握が遅れることを避ける必要があることなどから、民間事業者向けガイドラインにおいても、匿名の通報も受け付けることが必要であるとしています。
 他方、匿名の通報については、通報者に連絡がつかないために十分な調査ができないなど、実名に基づく通報と同様の対応を行うことが難しい場合も考えられます。このため、民間事業者向けガイドラインにおいては、匿名の通報であっても、通報者と通報窓口担当者が双方向で情報伝達を行い得る仕組み(例えば、メールやウェブフォーム等を通報者の氏名等を特定しない形で運用することや、通報の受付は第三者による外部窓口で行い、事業者内の通報窓口担当者は通報者に関する個人情報を受け取らないこととすることなどが考えられます。)を導入することが望ましいとしています。
 なお、民間事業者向けガイドラインは、実名での通報を前提に、通報者に対しての是正結果等の通知やフォローアップを行うことを原則としていますが、匿名の通報については、通報者がフィードバックを望まない場合やそれを行うことが困難な場合もあることから、実名での通報とは異なる取扱いとすることも考えられます。
 また、匿名の通報に対応することとした場合、匿名であっても、調査等の際の対応によって通報者が特定されてしまうおそれがあることから、調査の実施に当たっては、当該調査が通報をきっかけとしたものであることを秘匿する等、十分に配慮をすることが必要です。

不利益取扱いの禁止

解雇その他不利益取扱いの禁止や、②違反関与者が自主的に通報した場合の処分の減免(いわゆるリニエンシー)の検討などについて言及されている。

 

制度の継続的な評価・改善

通報者や是正措置に係るフォローアップの必要性や、②内部通報制度自体の継続的な評価・改善について言及されている。

 

内部通報制度の規程化

仕組みを設計したら、次は、規程化である。

モデル規程

内部通報規程のモデル規程として、消費者庁HPに以下のものが掲載されている。上記で見たような検討事項が形になっているので、読むとわかりやすいと思う。
≪内部通報制度に関するモデル内部規程≫

なお、モデル案の検討段階のものや、検討内容などについては以下のとおり。

公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会|消費者庁HP

内部通報規程集

また、内部通報規程集として、消費者庁HPに以下の2つが掲載されている。

民間事業者向け説明会|説明会・研修会|消費者庁HP

【2019年度開催】
内部規程例〔本文〕

公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会|消費者庁HP

 

参考サイト

内部通報制度の運用に関して、BUSINESS LAWYERSのサイトに実務的な記事が載っているので、参考まで紹介しておきます。

▷(参考サイト)【連載】実効性のある内部通報制度の運用に向けて|BUSINESS LAWYERS

 

結び

事業者における内部通報制度の整備・運用については以上になります。

公益通報者保護法の勉強記事は、本記事で終わりです。

▽前の記事

公益通報者保護法を勉強しよう|事業者における内部通報制度の法的位置付け

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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