公益通報者保護法

公益通報者保護法を勉強しよう|規制の仕組み【全体像】

今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について書いてみたいと思います。

なお、内容は記事作成日現在の現行法(令和2年改正前の内容)をベースにしつつ、適宜、改正の内容に言及する、というスタンスにしています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

法の目的・内容

「公益通報者保護法」(平成16年法律第122号)は、これが正式名称である。

初めての改正となる令和2年改正があり(令和2年法律第51号)、施行日は、「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から」となっている。

▽(参考記事)令和2年改正の内容についてはこちら

改正公益通報者保護法|令和2年改正

続きを見る

現行法の分量としては、実は11条までしかなく、もし全部を読んでもそれ程の文字数はない(ほかの法律に比べれば、という意味)。

法の目的は、以下のとおり。

(目的)
第一条 この法律は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。

分節すると、

【手段】
〇公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等
〇公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置
を定めることにより、
【目的】
〇公益通報者の保護
〇国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守
を図り、
【究極目的】
〇国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資する

という感じである。

仕組みもシンプルで、基本的な仕組みは、通報が公益通報の要件を満たす場合、その法的効果として公益通報者は保護される、というものである。

公益通報の要件4つであり、保護の主な内容(法的効果)は2つである。

▽公益通報の要件

①通報者の要件:労働者
②通報の内容の要件:一定の法令違反行為
③通報の目的の要件:不正の目的でないこと
④通報先の要件:ⅰ事業者内部、ⅱ権限のある行政機関、ⅲその他の事業者外部のいずれか

▽公益通報の法的効果

①解雇の無効
②解雇以外の不利益な取扱いの禁止
(降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与条上の差別、退職の強要、専ら雑事に従事させること、退職金の減額・没収etc)

 

主な法令等

公益通報者保護法に関する主な法令等をざっと見ておくと、以下の表のとおり。

 

法律

政令

解釈・運用

解説

公益通報

公益通報者保護法

通報の対象法律を定める政令
(「公益通報者保護法別表第8号の法律を定める政令」)

民間事業者向けガイドライン
(「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」)

➢国の行政機関向けガイドライン
➢地方公共団体向けガイドライン
Q&A集

➢公益通報ハンドブック

どれも消費者庁HPに掲載されている。

▽公益通報者保護法と制度の概要|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/

▽Q&A集|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/faq/

✓法律・制度の概要Q&A(2017年8月版)
✓通報者・相談者向けQ&A(2017年8月版)
✓民間事業者向けQ&A(2017年2月版)
✓行政機関向けQ&A(全般)(2017年7月版)
✓行政機関向け内部の職員等からの通報Q&A(2017年7月版)
✓行政機関向け外部の労働者等からの通報Q&A(2017年7月版)
✓内部通報制度認証に関するQ&A(指定登録機関のウェブサイト)

 

公益通報の要件(4要件)

公益通報の要件は、前述の4つなのだが、もう少しだけ補足してみる。

① 通報者の要件
労働者であること(2条1項)

② 通報の内容の要件
一定の法令違反行為(通報対象事実という)を通報すること
ただし、通報対象事実は、公益通報者保護法またはその政令で掲げる法律において犯罪とされている事実のみ(2条3項)

③ 通報の目的の要件
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でないこと(2条1項)

④ 通報先の要件
通報先が、(ⅰ)事業者内部、(ⅱ)権限のある行政機関、(ⅲ)その他の事業者外部のどれかであること(2条1項)、
かつ
(ⅰ)~(ⅲ)の類型ごとに決まっている保護要件を満たすこと(3条)

ポイントは、

✓通報の内容は、不正っぽいものなら何でもいいわけではなく、本法律または政令で指定された法律犯罪事実に限られる、

ということや、

通報先は3類型あって、どれに通報してもよいのだが、それぞれの類型ごとに保護されるための要件(保護要件)があってこれを満たさなくてはならない、

といったあたりかなと思う。

基本的な仕組みはシンプルなはずなのだが、詳細に見ていくと、要件はけっこう複雑である。

公益通報の要件は、定義を定める2条に書かれているのだが、これがめちゃくちゃ読みにくいので、あらかじめ分節しておくと、

「公益通報」とは、
労働者が、
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく
各号に掲げる労務提供先について、
 ┗直接雇用されている場合→勤務先(1号)
 ┗派遣の場合→派遣先(2号)
 ┗雇用元と取引先との請負契約に基づいて取引先で働いている場合→取引先(3号)
通報対象事実が生じ、又は生じようとしている旨を、
〇3つの通報先のどれか
 ┗当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者
 ┗当該通報対象事実について処分若しくは勧告等をする権限を有する行政機関
 ┗その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者
に通報すること

という感じである。

条文は、以下のとおり。

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、労働者(略)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(略)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(略)若しくは勧告等(略)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(略)に通報することをいう。
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 当該労働者が派遣労働者(略)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(略)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

「通報対象事実」とは、以下のとおり(2条3項)。要するに、犯罪行為の事実か(1号)、行政指導や行政処分の理由となる事実である(2号)。

(定義)
第二条
 この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
一 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪犯罪行為の事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

「別表に掲げるもの」は、以下のとおり。

別表(第二条関係)
一 刑法(明治四十年法律第四十五号)
二 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
三 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
四 日本農林規格等に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
五 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
六 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
七 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
八 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として政令で定めるもの

 

公益通報の効果(公益通報者の保護)

①解雇の無効

公益通報の効果の1つ目は、公益通報したことを理由とした解雇の無効である(3条、4条)。

また、上記で見たように、公益通報の要件として④通報先の要件があるのだが、通報先ごとに異なる保護要件が、この3条の各号に規定されている

(解雇の無効)
第三条 公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ニ 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ホ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(労働者派遣契約の解除の無効)
第四条 第二条第一項第二号に掲げる事業者の指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として同項第二号に掲げる事業者が行った労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約をいう。)の解除は、無効とする。


通報先の要件
がとにかくわかりにくいので、表だけ載せておきたい。詳しくはまた別記事にて。

保護要件の構造としては、表で見ると視覚的にわかるように、1号通報から3号通報にいくにつれて、保護要件が厳しくなっている【〇が必要部分】。

通報先ごとの保護要件↓

内部通報

外部通報

1号通報
(事業者内部)

2号通報
(権限のある行政機関)

3号通報
(その他の事業者外部)

通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると思料すること

   

上記のように信じるに足りる相当の理由真実相当性) ※つまり相応の根拠が必要

 

個人の生命又は身体への危害のおそれなどの特定事由(3条3号イ~ホのいずれかの事由)

   

 

②公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止

公益通報の効果の2つ目は、公益通報を理由とした、解雇以外の不利益取扱いも禁止することである。

(不利益取扱いの禁止)
第五条 第三条に規定するもののほか、第二条第一項第一号に掲げる事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、降格、減給その他不利益な取扱いをしてはならない
2 前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に掲げる事業者は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない

しかし、ある意味驚くべきことに、①②の違反に関して、事業者側にペナルティ(罰則など)はない

実際に解雇や不利益取扱いがなされた場合、公益通報者側に(裁判あるいは労務提供先との交渉を通じて)①②のような保護がもたらされるに限られる。
(また、裁判になった場合、公益通報を理由としたものであることの立証責任は、公益通報者側にある)

そのため実効性の確保について疑義や議論が従来からあるのだが、令和2年改正でも、議論となったものの見送られた。

法律・制度の概要Q&A(2017年8月版)|消費者庁HP

Q2 本法の規定に違反し、公益通報者に対して解雇等の不利益な取扱いを行った場合、刑罰が科されたり、行政処分が課されたりするのでしょうか。

A 本法は民事ルールを定めたものであり、本法違反を理由に刑罰が科されたり、行政処分が課されたりすることはありません
しかし、それとは別に、通報対象となる法令違反行為については、関係法令に基づき刑罰が科されたり、行政処分が課されたりすることがあります。

 

事業者の整備すべき内部通報体制

事業者における内部通報体制の整備については、実は公益通報者保護法に条文はない。つまり、法的義務ではない

では何なのか?というと、民間事業者向けガイドラインに記載があるのだが、いわば行政指導による推奨みたいなもので(事業者の自主的取り組みを期待するもの)、強制ではないのである。

ただし、上場会社の場合は、上場規則において整備義務があるので、いわゆるソフトローによる事実上の強制があるといえる。

また、令和2年改正によって、従業員数が300人を超える事業者については、内部通報体制の整備等が義務づけられた(法的義務となった。改正後・11条)。

 

結び

公益通報者保護法に関する、規制の仕組み(全体像)については以上になります。

消費者庁HPに、公益通報者保護法の概要をまとめた以下のペーパーがありますので、これを見るとより全体像がわかりやすいかなと思います。
「公益通報者保護法の概要」|消費者庁HP

また、全体像の説明としては、以下の解説が最もわかりやすいと思います(管理人の私見)。
通報者の方へ|消費者庁HP

▽次の記事

公益通報者保護法を勉強しよう|公益通報の要件ー通報の主体、内容、目的

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

-公益通報者保護法