犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認ー顧客等が国や上場会社等の場合

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認のうち、顧客が国や上場会社等の場合について書いてみたいと思う。

犯収法の4条5項になるのだが、条文が非常に読みにくくて読み飛ばしてしまいがちなところだと思うので、本記事で見てみたい。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

顧客が国や上場会社等の場合(法4条5項)

結論だけ先に言ってしまうと、顧客が国や自治体や上場会社の場合は、法人に関する取引時確認が不要とされている。

つまり、普通は、法人に関する取引時確認として、

①法人の本人特定事項(「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」)

②取引を行う目的

③事業の内容

④実質的支配者の確認(実質的支配者に該当する自然人について本人特定事項の確認)

の確認が必要なのだが(法4条1項)、これらがいずれも不要とされている。

(※)法人のために特定取引の任に当たっている自然人(←法人の代表者や取引担当者のこと)の本人特定事項、取引権限の確認は必要。

なぜ不要とされているかというと、国等の場合は、実在性が明白であるし、マネー・ロンダリングを行うおそれが少ないからである。上場会社の場合も、上場審査の際に厳しい審査を受けているので、国等と同じような扱いをされている。

ちなみに、だいぶ前の解説書になるが、逐条解説では、国や自治体の場合は、実在の明白性と、公的書類による確認が実際には困難なこと、人格のない社団又は財団の場合は、実在証明手続の困難性(会社登記のように公的にその実在性を証明する書類が存在しない場合が少なくない)、という切り口で説明されている(参考:「逐条解説 犯罪収益移転防止法」(編著 犯罪収益移転防止制度研究会)77~78頁)。

条文を見てみる。

▽法4条5項

(取引時確認等)
第四条 (略)
2〜4  (略)
5  特定事業者との間で現に特定取引等の任に当たっている自然人が顧客等と異なる場合であって、当該顧客等が国、地方公共団体人格のない社団又は財団その他政令で定めるもの(以下この項において「国等」という。)であるときには、第一項又は第二項の規定の適用については、次の表の第一欄に掲げる顧客等の区分に応じ、同表の第二欄に掲げる規定中同表の第三欄に掲げる字句は、それぞれ同表の第四欄に掲げる字句とする。
6  (略)

何が言いたいのか読んでもわからないが、要するに、顧客が国や自治体or人格のない社団又は財団のときは、4条1項と2項の適用については、表に従って読み替えてくださいということである。

表は以下である。

 

…フム。結局、読めない(笑)。

第2項はハイリスク取引のときのことなのでいったん置いておいて、通常の取引時確認を規定している第1項を、表の指示に従って読み替えてみる(赤字が読み替え)。

▽顧客が国等(人格のない社団又は財団を除く。)の場合

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)第一号に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一 本人特定事項当該特定事業者との間で現に特定取引等の任に当たっている自然人の本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項


これで読みやすくなった(と思う)。「第一号に掲げる事項の確認を行わなければならない。」と読み替えられているので、第2号~第4号、つまり、取引を行う目的、事業の内容、実質的支配者の確認はどれも要らないということである。

さらに、第1号も読み替えられているので、顧客が国等のときは、当該法人の本人特定事項(「名称」「本店又は主たる事務所の所在地」)の確認も不要になっていて、特定取引等の任に当たっている自然人(←法人の代表者や取引担当者のこと)の本人特定事項の確認でいいということである。「氏名」「住所」「生年月日」である。あと、取引権限の確認も必要であるが。

ちなみに、人格のない社団又は財団の場合は、以下のように読み替えられている。

▽顧客が人格のない社団又は財団の場合

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号第一号から第三号まで(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一 本人特定事項当該特定事業者との間で現に特定取引等の任に当たっている自然人の本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項)及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)
二 取引を行う目的
三 当該顧客等が自然人である場合にあっては職業、当該顧客等が法人である場合にあっては事業の内容事業の内容
四 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

つまり、

①当該人格のない社団・財団のために現に特定取引の任に当たっている自然人の本人特定事項

②取引を行う目的

③事業の内容

を確認するということになる。実質的支配者の確認が不要なのは、人格のない社団・財団は法人ではないからである。

 

「国等」とは

「国等」は、法4条5項の文中に定義があったわけだが、これについても中身を見てみる。

実際問題としては、国とか自治体とか独立行政法人とかの場合より、上場会社の方が顧客になる場合が多いのではなかろうかと思うので、その条文上の位置も確認してみたい。

▽法4条5項(該当部分)

国、地方公共団体、人格のない社団又は財団その他政令で定めるもの(以下この項において「国等」という。)

これを受けて、施行令14条に定義がある。

先述の逐条解説では、「本条は、顧客等とその取引担当者が別個に存在しながら、取引担当者を顧客等とみなして取引担当者のみの本人確認で足りることとされている場合の顧客等の属性を定めるものである。」と説明されている(前掲・逐条解説203頁参照)。

現在の法律・施行規則の書き方は、逐条解説が書かれたときとは違っているのだが(いまは”取引担当者を顧客等とみなす”といった書き方にはなっていない)、だいたいのイメージは一緒で、要するに、取引担当者のみの本人確認で足りるとされている場合の顧客等の属性を定めるもの、だと思えばいいと思う。

▽施行令14条

(法第四条第五項に規定する政令で定めるもの)
第十四条 法第四条第五項に規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人
二 国又は地方公共団体が資本金、基本金その他これらに準ずるものの二分の一以上を出資している法人(前号、次号及び第五号に掲げるものを除く。)
三 外国政府、外国の政府機関、外国の地方公共団体、外国の中央銀行又は我が国が加盟している国際機関
四 勤労者財産形成貯蓄契約等を締結する勤労者
五 金融商品取引法施行令(昭和四十年政令第三百二十一号)第二十七条の二各号に掲げる有価証券(金融商品取引法第二条第一項第十一号に掲げる有価証券及び当該有価証券に係るもの並びに同法第六十七条の十八第四号に規定する取扱有価証券に該当するものを除く。)の発行者 ←コレが上場会社等
六 前各号に掲げるものに準ずるものとして主務省令で定めるもの

5号がいわゆる「上場会社等」である。

6号でさらに委任されているのでこれも一応見てみると、施行規則18条で、以下のようになっている。

▽施行規則18条

(国等に準ずる者)
第十八条 令第十四条第六号に規定する主務省令で定めるものは、次の各号に掲げるものとする。
一 勤労者財産形成基金
二 存続厚生年金基金
三 国民年金基金
四 国民年金基金連合会
五 企業年金基金
六 令第七条第一項第一号イ又はロに規定する契約のうち、被用者の給与等から控除される金銭を預金若しくは貯金又は同号ロに規定する定期積金等とするものを締結する被用者
七 第三条第四号に掲げる信託契約を締結する被用者
八 団体扱い保険又はこれに相当する共済に係る契約を締結する被用者
九 令第七条第一項第一号リに規定する契約のうち、被用者の給与等から控除される金銭を当該行為の対価とするものを締結する被用者
十 令第七条第一項第一号カに規定する契約のうち、被用者の給与等から控除される金銭により返済がされるものを締結する被用者
十一 有価証券の売買を行う外国(国家公安委員会及び金融庁長官が指定する国又は地域に限る。)の市場に上場又は登録している会社

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、取引時確認のうち、顧客が国や上場会社等の場合について書いてみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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