犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|実質的支配者の確認とは

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、実質的支配者の確認とは何か、ということについて書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

実質的支配者の確認とは(法4条1項)

実質的支配者の確認というのは、法4条1項に定められている、取引時確認の4項目のうちのひとつである。

▽取引時確認の4項目

①本人特定事項

②取引を行う目的

③職業(自然人のとき)又は事業の内容(法人のとき)

実質的支配者(法人のとき) ←コレ

条文でいうと、取引時確認を定めた4条1項のうち、4号になる(※上記①~③は、それぞれ1号~3号)。

▽犯罪収益移転防止法4条1項4号

(取引時確認等)
第四条 特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない。
一~三 (略)
 当該顧客等が法人である場合において、その事業経営を実質的に支配することが可能となる関係にあるものとして主務省令で定める者があるときにあっては、その者の本人特定事項

ざっくりいうと、実質的支配者というのは、議決権の保有その他の手段によりその法人を支配する自然人のことで、当該自然人の本人特定事項を確認しなければならないことになっている。

 

実質的支配者とは(規則11条)

条文に「主務省令で定める者」とあったように、実質的支配者の具体的な内容は、施行規則で定められている

それが施行規則11条になるのだが、これがややこしい。そこで、条文を見る前に、ざっと全体像を確認してみる。

まず、資本多数決法人と、資本多数決法人でない法人とで、実質的支配者の判定の仕方が異なる。

資本多数決法人(典型例:株式会社)の実質的支配者というのは、議決権の保有を通じてその法人を実質的に支配している者、ということである。ということで、その法人の25%超の議決権を有していると、実質的支配者とされている。

資本多数決法人でない法人(典型例:一般社団法人)の実質的支配者というのは、その法人の収益総額の25%超の配当を受けていると、実質的支配者とされている。

それぞれについて、①こういった形式基準で判断 → ②該当者がいなければ、実質基準出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有するかどうか)で判断 →③該当者がいなければ、その法人の代表者、という判定順序になっている。

つまり、以下が基本的な判定イメージである。

  資本多数決法人 資本多数決法人でない法人
形式基準 25%超の議決権を有する
↓ 該当なければ
25%超の配当を受ける
↓ 該当なければ
実質基準 出資、融資、取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響力を有するかどうか
↓ 該当なければ
③どちらも該当なし その法人の代表者

補足ポイントがいくつかある。

50%超の議決権を有する(資本多数決法人)、又は、50%超の配当を受ける(資本多数決法人でない法人)という自然人がいた場合は、問答無用でその自然人だけが実質的支配者となる

✔25%超の議決権を有する(資本多数決法人)、又は、25%超の配当を受ける(資本多数決でない法人)という自然人が複数いた場合は、その全てが実質的支配者となる。25%超なので、最大で3人いることになる。

✔実質的支配者というのは、基本的に自然人である。25%超の議決権を有する法人がいた場合でも、その法人が実質的支配者である、ということにはならない。以下で述べる、直接保有と間接保有の合計で、25%超の議決権を有する等の自然人がいないかどうかを見ていくことになる(※その法人が国、自治体、上場会社等の場合のみ、当該法人が実質的支配者となる。施行規則11条4項)。

 

資本多数決法人の場合(2項1号・2号)

資本多数決法人とは

資本多数決法人とは何かというと、株式(=資本)の保有割合の多数決で支配関係が決まる法人だと思えばいい。
(⇔資本多数決法人でない法人というのは、頭数の多数決で支配関係が決まる法人だと思えばいい)

条文を見てみる。施行規則11条である。

まず、定義の部分だけ。括弧書きが長くてまともに読めないので、括弧書きは色を薄くしたり省略したりしている。下線部を読んでみてほしい。

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
2 法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
一 株式会社、投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十二項に規定する投資法人、資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第三項に規定する特定目的会社その他のその法人の議決権(会社法第三百八条第一項その他これに準ずる同法以外の法令(外国の法令を含む。)の規定により行使することができないとされる議決権を含み、同法第四百二十三条第一項に規定する役員等(会計監査人を除く。)の選任及び定款の変更に関する議案(これらの議案に相当するものを含む。)の全部につき株主総会(これに相当するものを含む。)において議決権を行使することができない株式(これに相当するものを含む。以下この号において同じ。)に係る議決権を除く。以下この条において同じ。)が当該議決権に係る株式の保有数又は当該株式の総数に対する当該株式の保有数の割合に応じて与えられる法人(定款の定めにより当該法人に該当することとなる法人を除く。以下この条及び第十四条第三項において「資本多数決法人」という。)のうち、(以下略)
二~四
3~4 (略)

つまり、資本多数決法人というのは、株式会社など、その法人の議決権が当該議決権に係る株式の保有数又は当該株式の総数に対する当該株式の保有数の割合に応じて与えられる法人、である。

形式基準(1号)と実質基準(2号)

最初の方の全体像を見るところで触れたが、実質基準と形式基準についても、条文を見てみる。

括弧書きは色を薄くしたり省略したりしている。下線部を読んでみてほしい。

▽施行規則11条2項1号(形式基準)・2号(実質基準)

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
2 法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
一 株式会社、投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十二項に規定する投資法人、資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第三項に規定する特定目的会社その他のその法人の議決権(略)が当該議決権に係る株式の保有数又は当該株式の総数に対する当該株式の保有数の割合に応じて与えられる法人(定款の定めにより当該法人に該当することとなる法人を除く。以下この条及び第十四条第三項において「資本多数決法人」という。)のうち、その議決権の総数の四分の一を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人(当該資本多数決法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合又は他の自然人が当該資本多数決法人の議決権の総数の二分の一を超える議決権を直接若しくは間接に有している場合を除く。)があるもの 当該自然人
二 資本多数決法人(前号に掲げるものを除く。)のうち、出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人があるもの 当該自然人
三~四
3~4 (略)

形式基準は1号、実質基準は2号に書かれている。

ちなみに、補足ポイントで書いた、50%超の議決権を有する自然人がいた場合は問答無用でその自然人だけが実質的支配者となる、という話は、1号の括弧書きに書かれている。

さて、重要なのは、25%超や50%超を判定するにあたって、「~を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人」とされており、直接保有と間接保有というキーワードが出てくる点である。

直接保有と間接保有の判定方法

資本多数決法人について、直接保有と間接保有の判定方法が3項に書いているのだが、これが地獄のように読みにくい。

▽施行規則11条3項

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
2 (略)
3 前項第一号の場合において、当該自然人が当該資本多数決法人の議決権の総数の四分の一又は二分の一を超える議決権を直接又は間接に有するかどうかの判定は、次の各号に掲げる割合を合計した割合により行うものとする。
一 当該自然人が有する当該資本多数決法人の議決権が当該資本多数決法人の議決権の総数に占める割合
二 当該自然人の支配法人当該自然人がその議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する法人をいう。この場合において、当該自然人及びその一若しくは二以上の支配法人又は当該自然人の一若しくは二以上の支配法人が議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する他の法人は、当該自然人の支配法人とみなす。)が有する当該資本多数決法人の議決権が当該資本多数決法人の議決権の総数に占める割合
4 (略)

1号はこういうことである。つまり直接保有である。

 【自然人】

   ↓ ●●%保有

 【資本多数決法人】


2号はこういうことである。つまり間接保有である。

 【自然人】

   ↓ 50%超保有

 【支配法人】

   ↓ ●●%保有

 【資本多数決法人】


間接保有を理解するときのキーポイントになる概念は支配法人」で、当該自然人がその議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する法人、と2号の括弧書きで定義されている。

括弧書きの「この場合において…」以降は支配法人」の考え方を説明しているのだが、分節すると、

この場合において、

当該自然人及びその一若しくは二以上の支配法人
又は
当該自然人の一若しくは二以上の支配法人

議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する他の法人

は、

当該自然人の支配法人とみなす。

となり、

これは図にすると、以下のようなことである。

<「当該自然人及びその一若しくは二以上の支配法人が議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する他の法人」>

   【自然人】

   ↓     ↓

   ↓   【支配法人】

   ↓     ↓  ☜ココが合計50%超

 【他 の 法 人 】☜コイツも支配法人とみなす

<「当該自然人の一若しくは二以上の支配法人が議決権の総数の二分の一を超える議決権を有する他の法人」>

    【自然人】

    ↓     ↓

【支配法人】  【支配法人】

    ↓     ↓  ☜ココが合計50%超

  【他 の 法 人 】☜コイツも支配法人とみなす


長くなったが、これが直接保有と間接保有である。

25%超とか、50%超とかは、これらの合わせ技(=直接保有と間接保有の合計)で判定される。

 

資本多数決法人以外の法人の場合(2項3号)

資本多数決法人以外の法人とは

資本多数決法人以外の法人というのは、要するに、株式(=資本)の保有割合の多数決ではなく、頭数の多数決で支配関係が決まる法人だと思えばいい

これについては、条文を見ても単に「資本多数決法人以外の法人」としか書いてなく、定義はない(というか、控除的な定義になっている)。

形式基準(3号イ)と実質基準(3号ロ)

最初の方の全体像を見るところで触れたが、形式基準と実質基準についても、条文を見てみる。

▽施行規則11条2項3号イ(形式基準)・ロ(実質基準)

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
 法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
一~二 (略)
 資本多数決法人以外の法人のうち、次のイ又はロに該当する自然人があるもの 当該自然人
イ 当該法人の事業から生ずる収益又は当該事業に係る財産の総額の四分の一を超える収益の配当又は財産の分配を受ける権利を有していると認められる自然人(当該法人の事業経営を実質的に支配する意思又は能力を有していないことが明らかな場合又は当該法人の事業から生ずる収益若しくは当該事業に係る財産の総額の二分の一を超える収益の配当若しくは財産の分配を受ける権利を有している他の自然人がある場合を除く。)
ロ 出資、融資、取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人
四 (略)
3~4 (略)

イが形式基準、ロが実質基準である。

補足ポイントで書いた、50%超の配当を受ける自然人がいた場合は問答無用でその自然人だけが実質的支配者となる、という話は、イの括弧書きに書かれている。

 

形式基準でも実質基準でも該当者がいない場合(2項4号)

形式基準でも実質基準でも該当者がいない場合、実質的支配者はシンプルにその法人の代表者となる。典型的には、株式会社であれば代表取締役である。

条文では、4号である。

▽施行規則11条2項4号

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
 (略)法第四条第一項第四号及び令第十二条第三項第三号に規定する主務省令で定める者(以下「実質的支配者」という。)は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者とする。
一~三 (略)
 前三号に定める者がない法人 当該法人を代表し、その業務を執行する自然人
3~4 (略)

 

法人が実質的支配者となる場合(4項)

これまで見てきたように、実質的支配者というのは基本的に自然人なのだが、唯一、法人が実質的支配者になる場合が、国等の場合である。

▽施行規則11条4項

(実質的支配者の確認方法等)
第十一条 (略)
2~3 (略)
 国等(令第十四条第四号に掲げるもの及び第十八条第六号から第十号までに掲げるものを除く。)及びその子会社(会社法第二条第三号に規定する子会社をいう。)は、第二項の規定の適用については、自然人とみなす。

「自然人とみなす。」となっているので、もう、その法人よりも上に遡らなくていいわけである。

国等というのは何かというと、要するに、国、自治体、独立行政法人、上場会社等のことだと思えばいい。

これは、国や自治体などの場合は、実在性が明確であるし、マネー・ロンダリングを行うおそれは少ないことから、上場会社の場合は、上場審査の際に厳しい審査を受けていることから、それ以上の自然人まで遡らなくていいでしょうということである。

いったん国とか自治体の場合は置いておいて、上場会社のときでイメージしてみる。

たとえば、25%超(あるいは50%超)をもつ法人が上場会社であった場合である。その場合、2項の適用において=つまり実質的支配者の該当性については、「自然人とみなす。」のだから、その上場会社が実質的支配者になるのである。

            【上場会社】☜自然人とみなす

               ↓  25%超

【特定事業者】ーー取引ーー【法人】


最初に書いたように、実質的支配者というのは基本的に自然人なのだが、唯一、法人が実質的支配者になる場合が、このケースである。その上場会社からさらに遡って実質的支配者がいるかどうか確認しなくていい、ということである。

上記の【法人】の実質的支配者として、【上場会社】の本人特定事項の確認をすることになる。つまり、「名称」と「本店又は主たる事務所の所在地」の確認である。

なお、顧客自身が上場会社であった場合(つまり以下の場合)も、この「自然人とみなす。」の話になりそうだが、実は違う。このケースについては、法4条5項(=顧客が国等の場合)に定められていて、「取引の目的」や「事業の内容」や「実質的支配者」の確認が不要とされている。

【特定事業者】ーー取引ーー【上場会社】☜自然人とみなす」、のではない

ちなみに、「国等」が何かについては、こちらの記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|取引時確認ー顧客等が国や上場会社等の場合

続きを見る

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、実質的支配者の確認とは何か、ということについて書いてみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

リンクをクリックすると、Amazonのページ又はJAFIC HPの掲載ページに遷移します(※ リンクはアフィリエイト広告を含んでおり、リンク先で商品を購入された場合、売上の一部が当サイトに還元されます)

主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システム又はJAFIC HPの掲載ページに遷移します

-犯罪収益移転防止法