犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|自然人の本人確認方法(対面の場合)

著作者:ijeab/出典:Freepik

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、顧客等が自然人の場合の、本人特定事項の確認方法(対面の場合)について書いてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

自然人の本人確認方法(対面の場合)

自然人の本人特定事項の確認方法は、規則6条1項1号に定められている。

対面の場合の確認方法は、1号のうちイ~である。

自然人の本人確認に使う書類は、

①A群の本人確認書類(証明力・高)
:1点モノで顔写真付き ex.運転免許証など

②B群の本人確認書類(証明力・中程度)
:1点モノで顔写真なし ex.健康保険証など

③C群の本人確認書類(証明力・低)
:複数発行されるもの ex.住民票の写しなど

④補完書類

の4グループがあり、確認方法によって使える書類が違っている。

なお、本人確認書類の種類について、詳しくは以下の関連記事に書いている。

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類

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①提示のみ法(1号イ)

これは、顧客から本人確認書類の提示を受ける方法である。

提示というのは特に定義されていないが、対面で見せてもらうこと、と思っておいてよいと思う。

この方法を利用できるのは、本人確認書類のうちA群のもの(1点モノの本人確認書類のうち、顔写真付きのもの)に限られる。

条文を見てみる。規則6条1項1号イである。

「同条第一号又は第四号に定めるもの(同条第一号ハからホまでに掲げるものを除く。以下「写真付き本人確認書類」という。)」というのが、A群の本人確認書類(1号イ・ロ)にあたる。
(←つまり、ハ~ホを除くので、残るのはイ・ロだけになる)

▽規則6条1項1号イ

イ 当該顧客等又はその代表者等から当該顧客等の本人確認書類(次条に規定する書類をいう。以下同じ。)のうち同条第一号又は第四号に定めるもの(同条第一号ハからホまでに掲げるものを除く。以下「写真付き本人確認書類」という。)の提示(同条第一号ロに掲げる書類(一を限り発行又は発給されたものを除く。ロ及びハにおいて同じ。)の代表者等からの提示を除く。)を受ける方法

「提示」というときに、写しの提示は認められていない(以下同じ)。条文を見ても「写し」との文言はないように、必ず原本の提示が必要になる。

非対面取引でもないわけで、公的な身分証の原本を持参することは困難ではないからである(対面なのにあえて写しで確認してくださいというのは、マネロンの疑いがある場合があるという発想)。

また、「顧客等」だけでなく、「代表者等」から提示を受ける方法も認められている(←条文上、「当該顧客等又はその代表者等から…」となっている)。

 

②提示+送付法(1号ロ)

本人確認書類の提示を受け、取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する方法である。

これは、A群以外の本人確認書類=B群又はC群の本人確認書類を利用する場合の方法になっている。

条文を見てみる。規則6条1項1号ロである。

「本人確認書類(次条第一号イに掲げるものを除く。)」というのが、B群又はC群の本人確認書類のことである。

▽規則6条1項1号ロ

ロ 当該顧客等又はその代表者等から当該顧客等の本人確認書類(次条第一号イに掲げるものを除く。)の提示(同号ロに掲げる書類の提示にあっては、当該書類の代表者等からの提示に限る。)を受けるとともに、当該本人確認書類に記載されている当該顧客等の住居に宛てて、預金通帳その他の当該顧客等との取引に係る文書(以下「取引関係文書」という。)を書留郵便若しくはその取扱いにおいて引受け及び配達の記録をする郵便又はこれらに準ずるもの(以下「書留郵便等」という。)により、その取扱いにおいて転送をしない郵便物又はこれに準ずるもの(以下「転送不要郵便物等」という。)として送付する方法

読みにくいので簡略化しつつ分節すると、

⑴顧客等又は代表者等から
 本人確認書類(B群又はC群)の提示を受ける

とともに

⑵取引関係文書を
 書留郵便等により
 転送不要郵便物等として
 送付する方法

という感じである。

郵便物が届かなかった場合は、取引時確認が完了していないこととなるため、引き続き適切な措置をとることが必要になる。

平成27年9月18日パブリックコメントNo.61|掲載ページはこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 新規則第6条第1項第1号ロでは、取引関係文書は書留郵便等により転送不要郵便物として送付する旨規定されているが、顧客が旅行等で不在等の理由により返送された場合、再度同じ方法で郵送すべきなのか。この場合、証跡等を残すか否かは各金融機関の判断との理解でよいか。

質問に対する考え方 転送不要郵便が返送された場合、取引時確認が完了していないこととなるため、再度同じ方法で郵送するか、顧客等が長期不在の場合等で、この方法により難いときは、異なる方法で改めて取引時確認を行う必要があります。また、確認記録は取引時確認を行った場合に作成するものであり、取引時確認が未了の段階で確認記録を作成する必要はありません。 

 

提示+送付に代えた交付法(6条4項)

「提示+送付法」の変形バージョンとして、「提示+送付に代えた交付法」というものもある。

文字どおり、送付の部分の代わりに、訪問して交付するということである。

▽規則6条4項

(顧客等の本人特定事項の確認方法)
第六条
4 特定事業者は、第一項第一号ロ若しくはチからヌまで又は第三号ロからニまでに掲げる方法(ロ及びハに掲げる場合にあっては、括弧書に規定する方法に限る。)により本人特定事項の確認を行う場合においては、取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物等として送付することに代えて、次の各号に掲げる方法のいずれかによることができる。
一 当該特定事業者の役職員が、当該本人確認書類若しくはその写しに記載され、当該登記情報に記録され、又は行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第三十九条第四項の規定により公表されている当該顧客等の住居又は本店等に赴いて当該顧客等(法人である場合にあっては、その代表者等)に取引関係文書を交付する方法(次号に規定する場合を除く。)
二 当該特定事業者の役職員が、当該顧客等の本人確認書類若しくは補完書類又はその写しに記載されている当該顧客等の住居又は本店等に赴いて当該顧客等(法人である場合にあっては、その代表者等)に取引関係文書を交付する方法(当該本人確認書類若しくは補完書類又はその写しを用いて第二項の規定により当該顧客等の現在の住居又は本店若しくは主たる事務所の所在地を確認した場合に限る。)
三 当該特定事業者の役職員が、当該顧客等の本人確認書類若しくは補完書類又はその写しに記載されている当該顧客等の営業所であると認められる場所に赴いて当該顧客等の代表者等に取引関係文書を交付する方法(当該顧客等の代表者等から、当該本人確認書類若しくは補完書類の提示を受け、又は当該本人確認書類若しくはその写し若しくは当該補完書類若しくはその写しの送付を受ける場合に限る。)

 

③提示+提示法(1号ハ)

B群の本人確認書類と、

① 異なる種類のB群の本人確認書類

② C群の本人確認書類

③ 補完書類

のいずれかの書類との、両方の提示を受ける方法である。つまり2点確認ということである。

▽規則6条1項1号ハ

ハ 当該顧客等若しくはその代表者等から当該顧客等の本人確認書類のうち次条第一号ハに掲げるもののいずれか二の書類提示を受ける方法又は同号ハに掲げる書類及び同号ロ、ニ若しくはホに掲げる書類若しくは当該顧客等の現在の住居の記載がある補完書類(次項に規定する補完書類をいう。ニ及びリにおいて同じ。)の提示(同号ロに掲げる書類の提示にあっては、当該書類の代表者等からの提示に限る。)を受ける方法

読みにくいので簡略化しつつ分節すると、

顧客等若しくは代表者等から

⑴本人確認書類のうちB群のものいずれか2つの書類
 の提示を受ける方法

又は

⑵本人確認書類のうちB群のもの
 及び
 本人確認書類のうちC群のもの若しくは補完書類
 の提示を受ける方法

という感じである。

 

④提示+受理法(1号ニ)

B群の本人確認書類の提示を受け、かつ、

①提示を受けた本人確認書類以外の本人確認書類(A群・B群・C群)の原本or写し

又は

②補完書類の原本or写し

送付を受ける方法である。(送付を受ける、の部分が「受理」)

▽規則6条1項1号二

ニ 当該顧客等又はその代表者等から当該顧客等の本人確認書類のうち次条第一号ハに掲げるもの提示を受け、かつ、当該本人確認書類以外の本人確認書類若しくは当該顧客等の現在の住居の記載がある補完書類又はその写し送付を受ける方法

受理した本人確認書類は、確認記録への添付も必要である。

確認記録へ添付する写しは、事業者が作成したものでも構わない(条文上、誰が写しをとるかの限定はない)。実際には、原本を送付されても(それ自体あまり考え難いが)、確認記録に原本を添付するわけにはいかないだろう。

▽規則19条1項2号イ

(確認記録の作成方法)
第十九条 
二 次のイからカまでに掲げる場合に応じ、それぞれ当該イからカまでに定めるもの(以下「添付資料」という。)を文書、電磁的記録又はマイクロフィルム(チに掲げる場合にあっては、電磁的記録に限る。)を用いて確認記録に添付する方法
イ 第六条第一項第一号ニ(第十二条第一項において準用する場合を含む。)に掲げる方法により本人特定事項の確認を行ったとき 当該送付を受けた本人確認書類若しくは補完書類又はその写し

 

まとめ

以上をまとめていうと、

✓A群の本人確認書類は、証明力が高いので「提示」のみでいいことになっているが(=「提示のみ法」)

✓B群・C群の本人確認書類については、「提示」に加えて追加的措置が必要とされている
(=B群については「提示」+「送付」or「交付」or「提示」or「受理」
(=C群については「提示」+「送付」

ということである。

B群とC群で確認方法に差異がある理由は、以下のパブコメに端的に表現されていて、参考になる。

平成27年9月18日パブリックコメントNo.60|掲載頁はこちら(JAFICホームページ)

質問の概要 健康保険証又は年金手帳等を、また、 住民票の写し又は戸籍謄本等を本人確認書類とする場合に確認方法に差異がある背景を御教示頂きたい。

質問に対する考え方 健康保険証又は年金手帳は一を限って発行されるのに対し、住民票の写し、戸籍謄本等は一を限って発行されるとは限らないため、確認方法に差異を設けています。

 

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、顧客等が自然人の場合の、本人特定事項の確認方法(対面の場合)について書いてみました。

なお、犯罪収益移転防止法の記事については、以下のページにまとめています。

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献

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主要法令等

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