犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類(外国人・外国法人の場合)

2021年4月25日

Photo by Nik MacMillan on Unsplash

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人確認書類の種類のうち、外国人と外国法人の場合について見てみたいと思います。

最初に確認しておくと、外国人というのは、日本の国籍を有しない自然人のことで、外国法人というのは、外国に本店又は主たる事務所を有する法人のことです(規則7条4号参照)。

ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

本人確認書類の種類(外国人・外国法人の場合)

外国人の場の本人確認書類は、

  • 本邦に在留する外国人(規則7条1号
  • 短期在留者の特例を利用する外国人(規則7条3号
  • 本邦に在留していない外国人(規則7条4号

の3つの場合に分けて定められています。

といっても、上記の「本邦に在留する外国人」は文言でそう書かれているわけではなく、単に日本人と同じ「自然人」のカテゴリ(規則7条1号)で一緒に規定されているだけです(外国人も自然人なので当然といえば当然)。

ここでいう在留とは、物理的に日本の領域内に所在することなので(後出・逐条解説107頁参照)、短期的な滞在者なども全部入ってしまいそうですが、そういう場合は②の方にいくので、結局、住居をもっているような中長期の在留者が①に当たる、という感じになります(ざっくりしたイメージでいえば)。

外国人日本に在留しているか期間
①本邦に在留する外国人在留している中長期
②短期在留者の特例を利用する外国人在留している短期
③本邦に在留していない外国人在留していない

正確にいうならば、基本的には①と③しかないのですが(本邦に在留するorしない)、①のうち特例の適用が受けられるものだけ②にいく、という建付けになっています。

外国法人の場合の本人確認書類は、「本邦に在留していない外国人」と同じ4号に規定されており、規定ぶりもだいたい同じような感じになっています(後述)。

以下、順に見てみます。

本邦に在留する外国人(規則7条1号)

本邦に在留する外国人は、先ほど見たように、日本人と同じように自然人のカテゴリで一緒に規定されています(規則7条1号)。

自然人の本人確認書類については、以下の関連記事にくわしく書いています。

▽関連記事

犯罪収益移転防止法を勉強しよう|本人確認書類の種類

続きを見る

在留カードや特別永住者証明書が規定されているので(1号イ)、中長期在留者や永住者が入っていることがわかります。

短期在留者の特例を利用する外国人(規則7条3号)

短期在留者の特例を利用する外国人というのは、本邦内に住居を有しない短期在留者(観光者等)であって、旅券等の記載によって当該外国人の属する国における住居を確認することができない者との間で、

  • 現金等の受払取引
  • 外貨両替
  • 貴金属等の売買(引渡しと同時にその代金の全額を受領する場合におけるものに限る)

の対面取引をするケースのことです。ここでいう短期在留は、90日以内とされています(後述・規則8条2項)。

特例の取引にはカジノ事業者の特定取引の一部も含まれていますが、割愛します(以下同じ)

これらのケースでは、本人特定事項に関して、「国籍」と「旅券等の番号」を確認することで住居の確認に代替させることが認められるという、例外的な扱いがなされています(マネロンのリスクが高くないと考えられるため)。

そのため、氏名、生年月日の記載がある旅券、乗員手帳などが本人確認書類となります。

以下、条文でも確認してみますが、短期在留者の特例に関しては本人特定事項から通常と異なっているので、そちらから見てみます。

本人特定事項

本人特定事項を定めるのは法4条1項1号で、短期在留者に関してもこれが出発点となります。

自然人の本人特定事項である氏名・住居・生年月日のうち「住居・・」について、括弧書きで例外っぽいことが書かれており、「本邦内に住居を有しない・・・・・・・外国人で政令で定めるもの」については、「主務省令で定める事項」を確認する、となっています。

▽法4条1項1号

一 本人特定事項(自然人にあっては氏名、住居本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるものにあっては、主務省令で定める事項及び生年月日をいい、法人にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。以下同じ。)

短期在留者の範囲(施行令10条)

そこで、政令をみていくと、

本邦内に住居を有しない外国人で政令で定めるもの」(法4条1項1号)
  ↓ 政令
本邦に在留する外国人であって、その所持する旅券…又は乗員手帳…の記載によって当該外国人のその属する国における住居を確認することができないもの」(施行令10条)

となっています。

要するに、日本に在留しているけれども日本国内に住居はなく(=ゆえに住民基本台帳への記載もない)、かつ、旅券等で外国の住居を確認できない外国人、です。

ここで「本邦に在留する外国人」という文言が入っているのは、これが無いと、日本に短期滞在している者のほか、外国にとどまったまま郵便やインターネットを通じて国内の特定事業者と取引を行おうとする者も含まれ得るが、このような外国人については外国における住居を確認すべきであるから、とされています。また、旅券等に住居の記載がある者については、それによって原則どおり住居が確認できるから、例外扱いをする必要がない、とされています。
(参考:「逐条解説 犯罪収益移転防止法」(犯罪収益移転防止制度研究会 編著)106頁)

短期在留者の本人特定事項(規則8条)

続いて、「主務省令で定める事項」を見てみます。

▽施行規則8条1項

(本邦内に住居を有しない外国人の住居に代わる本人特定事項等)
第八条
 法第四条第一項第一号に規定する主務省令で定める事項は、次の各号に掲げる特定取引等の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める事項とする。
 令第七条第一項第一号ケ若しくはキ若しくは同項第四号ハからヘまでに掲げる取引又は同項第六号に定める取引(当該貴金属等の引渡しと同時にその代金の全額を受領する場合におけるものに限る。)  国籍及び第六条第一項第二号に規定する旅券等の番号
 前号に掲げる取引以外の取引  住居

このように、1号のケース、つまり、

  • 現金等の受払取引

    現金等の受払取引であってその取引の金額が200万円を超える取引 / 現金等の受払取引のうち為替取引又は自己宛小切手の振出しを伴うものであって10万円を超える取引【施行令7条1項1号ケ】
  • 外貨両替

    200万円を超える外貨両替 / 200万円を超える旅行小切手(トラベラーズチェック)の売買【施行令7条1項1号キ】
  • 貴金属等の売買(引渡しと同時にその代金の全額を受領する場合におけるものに限る)

    貴金属等の売買=代金額が200万円を超える貴金属等の売買契約の締結【施行令7条1項6号】

においては、「国籍」と「旅券等の番号」を確認することで住居の確認に代替させることが認められるという、例外的な扱いがなされています(マネロンのリスクが高くないと考えられるため)。

また、短期在留は90日以内とする旨が、2項に定められています。

▽施行規則8条2項

 前項第一号に掲げる取引を行う場合において、出入国管理及び難民認定法の規定により認められた在留又は上陸に係る旅券又は許可書に記載された期間(第二十条第一項第三十号において「在留期間等」という。)が九十日を超えないと認められるときは、法第四条第一項第一号の本邦内に住居を有しないことに該当するものとする。

確認方法と本人確認書類

「国籍」と「旅券等の番号」を確認することで住居の確認に代替させることが認められるため、氏名、生年月日の記載がある旅券、乗員手帳などが本人確認書類となっています(規則7条3項)。確認方法は、提示です(規則6条1項2号)。

条文も確認してみます(※黄色ハイライト部分は対応していて同一内容を指しています)。

▽施行規則6条1項2号:短期在留者の本人特定事項の確認方法

二 法第四条第一項第一号に規定する外国人である顧客等(第八条第一項第一号に掲げる特定取引等に係る者に限る。)  当該顧客等から旅券等出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第二条第五号に掲げる旅券又は同条第六号に掲げる乗員手帳をいい、当該顧客等の氏名及び生年月日の記載があるものに限る。であって、第八条第一項第一号に定める事項の記載があるもの又は同法第十四条の二第四項に規定する船舶観光上陸許可書その交付に際して当該交付を受ける者の同法第二条第五号に掲げる旅券の写しが貼り付けられたものに限る。次条第一号イ及び第三号において単に「船舶観光上陸許可書」という。提示を受ける方法

▽施行規則7条3号:短期在留者の本人特定事項の確認書類

(本人確認書類)
第七条
 前条第一項(第十二条第一項において準用する場合を含む。)に規定する方法において、特定事業者が提示又は送付を受ける書類は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める書類のいずれかとする。ただし、…(略)…。
 前条第一項第二号に掲げる者  同号に規定する旅券等又は船舶観光上陸許可書

本邦に在留していない外国人、外国に本店又は主たる事務所を有する法人(規則7条4号)

本邦に在留していない外国人と、外国に本店又は主たる事務所を有する法人の本人確認書類については、以下のようになっています。

確認書類有効期限
本邦に在留していない外国人の本人確認書類〇第1号に定めるもの(=自然人の本人確認書類)
〇外国政府・国際機関発行書類で、第1号に定めるものに準じるもの
有効期間又は有効期限がある場合:提示又は送付を受けた日において有効なもの
それ以外の場合:提示又は送付を受けた日において発行後6か月以内のもの
外国に本店又は主たる事務所を有する法人の本人確認書類〇第2号に定めるもの(=法人の本人確認書類)
〇外国政府・国際機関発行書類で、第2号に定めるものに準じるもの

これはつまり、第1号と第2号に定める本人確認書類のほか、外国政府等の発行書類で住居や本店所在地が確認できるもの、というのを追加しているわけですが、これは、日本に在留しない・・・外国人や外国法人が日本の特定事業者と取引をしようとする際に、在留カードや旅券等を要求するのは現実的ではなく、取引の円滑を害するからとされています(前掲・逐条解説105頁)。

条文も確認してみます。

▽施行規則7条4号

 外国人日本の国籍を有しない自然人をいい、本邦に在留しているもの(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第九条第一項又は日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定第三条第一項の規定により本邦に入国し在留しているものを除く。)を除く。及び外国に本店又は主たる事務所を有する法人  第一号又は第二号に定めるもの(この場合において、第一号中「当該自然人」とあるのは「当該外国人」と、第二号中「当該法人」とあるのは「当該外国に本店又は主たる事務所を有する法人」とする。)のほか日本国政府の承認した外国政府又は権限ある国際機関の発行した書類その他これに類するもので、第一号又は第二号に定めるものに準ずるもの(自然人の場合にあってはその氏名、住居及び生年月日の記載があるものに、法人の場合にあってはその名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるものに限る。)

結び

今回は、犯罪収益移転防止法を勉強しようということで、本人確認書類の種類のうち、外国人と外国法人の場合について見てみました。

犯罪収益移転防止法に関する記事については、以下のページにまとめています。

▽犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ
犯罪収益移転防止法 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

リンクをクリックすると、法令データ提供システム又はJAFIC HPの掲載ページに遷移します

-犯罪収益移転防止法