今回は、インハウスローヤー転職と非弁の論点ということで、その後編について書いてみたいと思います(▷前編の記事はこちら)。
インハウスローヤー転職といっても、本記事の話題は業務委託型(法務受託、法務アウトソーシングとでも呼ぶべきもの)に関するものになります。いわゆるグレーゾーン解消制度において照会と回答がなされている例です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
業務委託型を含む弁護士人材紹介サービス
照会対象サービスの内容は、事業者が提供するウェブサイト上で、パートタイム勤務も含めて、求人企業と弁護士の間に立って雇用契約又は業務委託契約(ただし実質的な支配従属関係がある場合に限る)の成立をあっせんする、というものです(以下本件サービス)。
▽令和3年2月12日付け回答 3-②、⑥
照会事業者と求人企業との間では、登録の際に、照会事業者が求人企業と求職弁護士との間に立って雇用契約又は業務委託契約(ただし、求職弁護士が求人企業の実質的な支配従属関係の下にある使用人となる場合に限られるものとし、当該契約においては、稼働時間及び稼働場所があらかじめ特定されていること、稼働時間に応じた報酬体系であること、求人企業において求職弁護士を監督する者が明記されていることを必要とする。以下「本件業務委託契約」という。)の成立をあっせんし、いずれかの契約が成立した場合には求人企業から対価として業務委託料を受領することを内容する業務委託契約を締結する。
求人企業において求職弁護士が担当する業務内容は、いわゆるインハウスロイヤーが一般に取り扱うことが想定されている業務であり、具体的には(i) 通常の業務に伴う契約についての法的問題点の調査、検討、契約締結に向けた相談、契約書のレビュー、(ii) 求人企業の業務を規制する法令についての調査、検討、(iii) 社内規則・規程等の作成、レビュー、(iv) 株主総会関係事務、(v) 株式、新株予約権、社債の発行等その他会社法に関する書面の作成、相談等の求人企業の日常的な業務に伴い生ずる法的問題への対応業務、(vi) 裁判、調停、審判、仲裁、ADRその他第三者機関を利用した紛争における代理人業務を想定している。なお、事業者は、求人企業が、実質的にみて、特定の法律事件の代理を行うことのみを目的として求人している場合には、求人企業及び求職弁護士の間の契約の成立をあっせんしない。
雇用契約とセットの照会になっていますが、普通そこに特に問題はないはずなので、おそらく業務委託契約のパターンの方に照会の重点があると思われ、以下ではその部分のみ取り上げます。
【照会対象サービス】
- 求人企業と弁護士間の業務委託契約は、求職弁護士が求人企業の実質的な支配従属関係の下にある使用人となる場合に限られる
- その契約に以下の内容を必要とする
- 稼働時間及び稼働場所があらかじめ特定されていること
- 稼働時間に応じた報酬体系であること
- 求人企業において求職弁護士を監督する者が明記されていること
- 求人企業が実質的にみて特定の法律事件の代理を行うことのみを目的として求人している場合には、求人企業と弁護士間の契約の成立をあっせんしない
要点は上記のとおりで、それはもう概念的には雇用契約であり業務委託契約ではない気がしますが、稼働時間に応じた業務委託型法務サービスが念頭に置かれているのだろうと思います。
弁護士の担当業務のうち回答3-⑥-(vi)の部分は社内における訴訟管理ではなく代理人弁護士として紛争処理業務にあたるということのようですので、それを求人企業の実質的な支配従属関係の下において行うという点は一種のねじれが生じているように思いますが、非弁該当性の観点からは特に問題とされていないようです。
個人的には、単純に事件処理しにくい場面が生じ得るように思いますが、訟務検事(国を当事者とする民事訴訟や行政訴訟を担当する検事。裁判官も従事する)も似たような立ち位置であるようには思いますし、実際のところどうなんでしょうね。
くわしい内容はリンク先の原文を見てもらえればと思います。
▽参考リンク
令和3年2月12日付け回答|法務省HP(≫掲載ページ)
周旋による非弁行為に該当するかどうかの検討
非弁行為の禁止(弁護士法72条)という話自体は、知っている人は知っているという感じですが、意外と見落とされがちなのは、非弁護士による法律事務の取扱いだけでなく、法律事務の取扱いを周旋することも非弁とされていることです。
非弁行為の要件は以下のとおりですが、本件サービスについて問題となるのは、
- 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
- 報酬を得る目的【目的】
- 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】
or
法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】←この部分 - 業としてなされること【態様】
の部分になります。
結論的には、周旋にはあたる(としても)、法律事件の他人性を満たさないので、周旋による非弁行為には該当しないとされています。
周旋にあたるか
この点は特に論点として検討されていませんが、普通に考えて「周旋」にはあたると思われます。
参考までに、回答の結論部分は以下のようになっており、周旋にあたることは前提になっているように読めます。
▽令和3年2月12日付け回答 5
…照会書の記載を前提とすれば、本件事業は求人企業の法律事件に関する法律事務を取り扱う限りにおいては、その周旋がされたとしても弁護士法第72条に抵触しないと考えられる。
法律事件に関する法律事務の取扱い(の周旋)にあたるか
この点について、弁護士法72条には文言として直接書かれてはいませんが、他人の法律事件であること(「他人性」)は当然の前提と解されています。
自分の法律事件を自分で処理することは、弁護士でない者であっても当然行ってよいはずだからです。
▽令和3年2月12日付け回答 5
弁護士法第72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、業として、法律事件に関する法律事務の取扱いを周旋することを禁止している。もっとも、同条における法律事件には自己の法律事件は含まれないと解される。
本件事業は、求職弁護士が求人企業の使用人(実質的な支配従属関係の下にあることをいう。弁護士法第30条第1項第2号参照)として、求人企業に関する法律事件を扱うものである限り、求職弁護士が求人企業に関する法律事務を取り扱ったとしても自己の法律事件を取り扱うことになるものと解される。
▽(参考)弁護士法30条1項2号
(営利業務の届出等)
第三十条 弁護士は、次の各号に掲げる場合には、あらかじめ、当該各号に定める事項を所属弁護士会に届け出なければならない。
二 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執行する役員(以下この条において「取締役等」という。)又は使用人になろうとするとき その業務を営む者の商号若しくは名称又は氏名、本店若しくは主たる事務所の所在地又は住所及び業務の内容並びに取締役等になろうとするときはその役職名
このように回答によれば、本件サービスは「他人の法律事件に関する法律事務の取扱い」を周旋しているわけではないので、法律事件の他人性を欠くということです。
要は、インハウスローヤーに関する人材紹介(雇用の転職エージェントサービス)と実質は同じシチュエーションだから、ということですね。
ただ、この点に関しても、回答3-⑥-(vi)で訴訟管理ではなく代理人弁護士として紛争処理業務にあたるというふうになっている点は若干気になります。
この部分は他人性を満たす可能性があるように思いますが、求人企業の実質的な支配従属関係の下において行うという点が効いているのか、実質的にみて特定の法律事件の代理を行うことのみを目的として求人している場合はあっせんしないという点が効いているのか、非弁該当性の観点からは特に問題とされていないようです。
雑感
インハウスローヤーの場合、勤務企業の手足(使者)として業務を行うわけなので、勤務企業が非弁行為と思しきことを行う場合は、弁護士登録をしているれっきとした弁護士であっても非弁になる、という謎のパラドクス状態があるわけですが、そのロジックも本件回答で確認することができます(弁護士が求人企業の使用人として活動する場合は、法人が自己の法律事務を取り扱っていることになるとの点)。
そんなシチュエーションそうそうないだろう…という感じもしますが、本件サービス、弁護士マッチングサービス、法律文書の自動作成サービスなどにみられるように、ビジネス領域においても非弁の論点は案外存在します。
また一般的にも、企業グループにおける親会社の子会社に対する法的サービス等(いわゆるバックオフィス業務のHD体制の一環として法務機能もシェアドにしている場合)には非弁の論点が存在しますので、案外ないわけでもありません。
結論
以上より、結論としては、照会書の記載を前提とすれば、本件サービスは求人企業の法律事件に関する法律事務を取り扱う限りにおいては、その周旋がされたとしても弁護士法72条に抵触しないと考えられるとされています。
結び
今回は、インハウスローヤー転職と非弁の論点【後編】ということで、業務委託型の弁護士人材紹介サービスについて書いてみました。
弁護士が業務委託型でインハウスローヤーと同様の活動を行うこと自体は問題ありません(個人事業主としての弁護士のイメージからするとむしろベーシックな業態ともいえる)。自分で求人企業とつながればOKなわけです。
しかし、そこに紹介サービスが入ったときには、その事業者に、有償周旋による非弁の論点(弁護士法72条)があり、それを利用する弁護士の側にも、非弁提携という論点(弁護士法27条と職務基本規程11条等)がある、ということになります。
なので、そういったサービスを行う事業者はこの論点を整理したうえで行う、弁護士が利用する場合はこの回答も参考にしつつ実態がインハウスローヤーと変わらないことなどに留意する(なお、訴訟管理ではなく代理人弁護士として紛争処理業務を行うという部分についてはより慎重になった方がよい気が個人的にはします)、といったことが必要と思います。
全面不可のような反応をした弁護士も採用側から見たことがありますが、この照会・回答例を見ればわかるように一切不可ではないです。まあ、知らなかったのか、個人の考え方だったのか、断りたいだけだったのかはわかりません。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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