業法/資格者法 法律コラム

ビジネスと弁護士法(総論)|遵法性調査の要点

今回は、ビジネスと弁護士法ということで、弁護士法に関連したビジネスの遵法性検討について書いてみたいと思います。

弁護士法といっても主に非弁行為の禁止の部分のことですが、業務独占はあたかも業法の参入規制のように機能しますし(要するに入口の問題という点で共通)、また非弁のパターンには「周旋」の禁止というのもあるので、ビジネスの遵法性検討の際には案外よく出てきます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

非弁行為の禁止(法72条)

非弁行為の禁止とは、ざっくりいうと、弁護士以外の者が事業として他人の法律事務を処理することを禁じるものです。

弁護士法72条に規定されています。

▽弁護士法72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることできない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

内容をまとめると、非弁行為の要件は

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

のようになっています。

なので、これらの要件のどれかが外れれば、非弁行為にはあたらないということになります。

非弁行為の要件については、以下の関連記事にくわしく書いています。

論点整理-非弁にあたらないというロジック

非弁の論点がある分野について、非弁にあたらないというロジックには、おそらく以下のような種類があるだろうと思います(管理人の理解)。

ここで”非弁の論点がある分野”といっているのは、非弁行為がある領域とか多発している領域という意味ではないです。非弁の論点が存在する領域という意味で、具体的な結論は個々の事例によります。

事件性必要説をとるというロジック

まずかなり広い領域で非弁にあたらないロジックとして、事件性必要説をとった上で、事件性がない内容を取り扱う、というものがあります。

要件としては、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】←この部分
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

に該当しない、という整理の仕方になります。

事件性必要説というのは、「法律事件」という文言に”事件性”(訴訟事件、非訟事件、行政不服申立事件という例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いや疑義を有するものであること)という要素を読み込んで、事件性がないものは「法律事件」に該当しない、と解釈するものです。

反対に、そういった不明確な限定はしない、というのが事件性不要説です。

しかし、この点について明確な最高裁判例はないので、どこまでいっても確定はできないことになります(リスクは残る)。

ビジネスやスキームが検討される際には基本的には事件性がない場面が念頭に置かれているケースが多いかと思いますが、紛争性がある場面では事件性必要説に立っても非弁に抵触する(両説で違いは出ない)ことになりますので、その点にも注意が必要と思います。

また、事件性とか紛争性とかいったものを考えるときは、紛争の前段階といえる場面(何らかの条件交渉がある場面)も同じように考えて扱う、というコンサバな考え方の方が多いのではないかと思います(管理人の感覚)。

一般的な知見を提供しているだけであるというロジック

一般的な知見を提供しているだけである、というロジックもあります。

要件としては、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】←この部分
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

に該当しない、という整理の仕方になります。

例えば、身近な例でいうと、別に弁護士でなくても法律実務や契約書の書籍の出版はたくさんありますし、業界団体(「〇〇協会」とかそういうもの)では会員に対して契約書も含め様々な書式を提供している場合もよくあります。

これらは、多少、分野プロパーの幅が狭いもの・特化したものがあったとしても、あくまでも一般論を提供しているだけなので、法律事件に関する法律事務を取り扱っていることにはならない、というイメージです。

当然といえば当然の話ですが、契約書の作成はれっきとした法律事務と考えられているのに、契約書の書式に関する書籍等を販売したり、会費をとっている会員に頒布しているのがなぜOKなのか、という話です。

また、例えば、”親子会社間の法律事務の取扱いと非弁行為の禁止”という論点に関する法務省見解では、親会社の子会社に対する法的サービスについて、完全子会社の場合でなくても「一般的な法的意見を述べること」は弁護士法72条に違反しない場合が多いと考えられる、という書きぶりになっています。

もちろんこのロジックも、一般的な知見を提供しているだけですと言い張ればよいというものではなく、その内実によって判断されると思います。

使者としてやっているだけであるというロジック

使者としてやっているだけである、というロジックもあります。

どの要件かというと、これも、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】←この部分
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

に該当しない、という整理の仕方になります。

「法律事務」の取扱いの例示として、「鑑定」「代理」「仲裁」「和解」が挙げられており、使者は「代理」にあたらないので該当しない、というイメージです。

ただ、実質的に代理が行われたのと同じと認められるような場合は、使者も「その他の法律事務」に該当するというのが基本的な考え方と思われますので(日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法」等参照)、あくまでもその内実が重要です。

結局グラデーションの問題にはなりますが、典型的な使者(ただのメッセンジャーなど)であるときには、法律事務の取扱行為には該当しないと考えられます。

例えば、退職代行サービスや、社会通念上相当な態様で行われる不動産会社による立退き交渉などは、このタイプだろうと思われます。ただし、結局は個々の案件の内容によります。

無償であるというロジック

これは、非弁行為は「報酬を得る目的」が要件とされていますので、無償の場合は、

  • 弁護士又は弁護士法人でない者【主体】
  • 報酬を得る目的【目的】 ←この部分
  • 法律事件に関する法律事務の取扱い【行為①】
    or
    法律事件に関する法律事務の取扱いの周旋【行為②】
  • 業としてなされること【態様】

に該当しない、という整理の仕方になります。

例えば、大学生の無料法律相談などはこの例になります。

ただ、報酬の対価性については、直接的な対価を受け取る場合だけではなく、間接的な対価関係がある場合も肯定されますので(日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法」等参照)、その点に留意が必要と思われます。

ビジネスが検討される際には、サービスの設計全体として間接的な対価関係があると解されるケースでは、非弁行為に該当する可能性は否定できないことになります(離婚協議書の自動作成サービスの例など)。

その他-正当業務行為による違法性阻却というロジック

その他には、非弁行為の禁止は刑罰法規であるため、正当業務行為(刑法35条)として違法性が阻却される、というロジックもあります。

▽刑法35条

(正当行為)
第三十五条
 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

ただ、ビジネスやスキームが検討される際には、このロジックですっきり整理できたというふうに落ち着けるのは難しい面もあるように思います。

結び

今回は、ビジネスと弁護士法ということで、弁護士法に関連して、ビジネスの遵法性を検討するときの話について書いてみました。

非弁行為の禁止というと、いわゆる事件屋とか、名義貸しとか、比較的一般民事的なイメージがありますが、非弁の論点は、コーポレートとかビジネスローみたいな領域にも実はけっこう存在しますので、そのイメージを総論的にしてみました。

なお、本記事でのロジックの分類は、きっちり分けきれるというものでもないので(例えば、一般的な知見を提供しているだけというのは大方において紛争性がない場面ともいえる)、検討の際の”視点”を管理人の肌感覚的理解でまとめたものという感じです。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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